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 名前をつける時って苦労しませんか?


 私はとても苦手です。なのである程度法則性をもたせて、そこから引っ張って来ます。


 ここまで来て、やっと導入が終わった感じです。

 荷物は明後日に届くとのことで、次の日はとりあえず、職場に挨拶にゆくことにした。日本人らしいねとビヴさんに笑われてしまったが、早くはじめることができるのならば、それに越したことはない。


 運転手兼ボディーガードとしてエルシーさんが車で送ってくれた。


 『寄宿舎』には毎回、あの廃屋のような鉱業所から入るとのことだった。疑われそうだなと思っていたが、街の人は何の価値もない鉱業所に興味を持っていないし、環境保護ということから周辺は立入禁止区域になっているとのことだった。


 再び足を踏み入れた研究所では、ワークショップのリーダーに初めてあうことになった。


 ディランというユダヤ系のぼくよりも少し年上くらいの男性だった。彼は気難しそうな表情でデスク越しにぼくを見上げていた。


 「これからお世話になります。」


 「聞いている。子どもたちに体を作るそうだな。そこにいる売春宿の淫売にたらし込まれたようだが、ここでは喫煙者は嫌われるんだ。覚えておけ。」


 ダミ声の早口で聞き取りにくい、いきなりの痛罵だった。


 隣のエルシーさんは表情も変えずに微笑みを浮かべて無言であった。喫煙者は嫌われるんだとは、大口を叩くなといいたいらしい。アメリコからでもやってきたのか、あまり品がよろしくないようだ。


 「……ディランさんが何を不愉快に思われているのか、ぼくは存じ上げませんが、良家の若い女性に向かって品のない言葉を使われるのは、その方がどれだけ有能でも知性があるとは思われないのではないでしょうか?」


 「猿が無理して英語を使うな。あとその糸のような目を開いて隣の女を見ろ。この女のどこが良家だ。」


 「大きな鼻をしていても、ご自身の口臭を自覚されていないようですね。ハンバーガーにピクルスと生の玉ねぎでも入れすぎましたか? それとも腹のなかに毒でも溜めすぎましたか? それにこちらにはママがいなくて寂しいんですか? 」


 「なんだと。ライミーに泥だらけの腹を見せて、生き延びたくせにでかい口を叩くな。国を売った雌犬の子孫め!!」


 「ディラン博士。あなたは西アジアや中央アジアの女子教育要員としてゆきたいのでしょうか? あと、この人は結果が出ないので苛立っているだけです。安い売り言葉に乗らないでください。」


 「すみません。あとディランさん、ぼくは別に仕事を奪いにきたわけではないので、それはご理解ください。」


 苦虫を嚙みつぶしたようなひん曲がった口をして、目だけをギョロギョロと動かしていた彼は手でぼくらを追い払った。


 部屋を出ると見学時に案内をしてくれたムーンさんが歩み寄ってきた。彼はぼくの右手を握りしめて何度も振った。


 「久しぶりです。こんなに早くきていただけるとは思っていませんでした。みんな歓迎していますよ。」


 「…どうやら、そのようですね。ありがとうございます。」


 ぼくは彼に引きずられるようにスタッフルームに連れてゆかれた。


 「今日のシフトで出勤しているものだけですが、紹介します。」


 彼はみなさんにぼくの名前を教え、それからスタッフの紹介をしてくれた。小柄で体格が良いブラウンの髪をしたスプリングスティーンさん、ちょっと神経質な感じのほっそりとした青年がペイジくん、明るい金髪で研究者というよりもチアリーディングの選手といった趣のクロウさん、ムーンさんと同年代の女性でおおらかなマーキュリーさん、あと事務方のホロウェイさんとギレンホールさん。


 みなさんはにこやかに握手やお辞儀をして挨拶をしてくれた。


 ムーンさんはぼくがきのう東京からこちらに到着して、今日職場に顔を出したことに驚いて、さすが日本人は勤勉だと笑った。明日には荷物が届くと話すと来週の月曜日の朝から働いて欲しいと言ってくれた。ふと、後ろに控えていたエルシーさんに確認すると大丈夫ですとのことだった。


 不思議そうな表情のムーンさんに彼女も一緒だと告げた。


 「セクレタリーですか? 聞いていませんでしたが、大丈夫だと思います。」


 「ええ。私とマギーのデスクの隣が空いています。」


 セクレタリーの主任であるホロウェイさんが請け負ってくれた。


 お辞儀をして礼を述べたが、どうやらみなさんは勘違いをしているようだった。


 ぼくとしてもエルシーさんのことをどのように紹介してよいか迷っていたので、彼女がいいならと思い、そのままにしておいた。


 細かいことをホロウェイさんと打ち合わせ、ぼくらは『寄宿舎』を後にした。





 車内ではぼくらは無言だった。


 ぽつりぽつりと雨が降り出した。ワイパーがフロントウィンドの水滴を払っていた。


 「デュランさんはあんな感じなのですか?」


 「ストレスがかかる仕事だとは思いますが、それを引いても、まあ、あんな感じですね。」


 「自分のことだけだったら我慢が効くんですけど。さすがに女性にいう言葉じゃあありません。」


 「私の職場のことも含めてなんでしょうけどね。」


 「そんなに嫌われる職場なのですか?」


 「…私たちは特殊作戦執行部が元になった組織です。元々の執行部は非合法的な手段も厭わない組織で戦後に廃止されましたが、その時に表向きの役所を女子修道院に特殊作戦執行部を売春宿に例えたことをあてこすっているのだと思います。」


 「そうだったんですね。でもエルシーさんとは関係ないですよね。」


 「どの道、私たちは彼らにはあまり好かれていませんよ。こないだお話ししましたが、私たちの手は戦争中に発見した不幸な子どもたちだからといって、無制限に助けるほど大きくありません。」


 「…………」


 「本来は、今日デュラン博士の口から話すはずになっていたのですが、あなたの今回のプロジェクトの予算をつけるにあたり、条件がつけられています。」


 「なんでしょうか。」


 「できうる限り、生物としての人の性能を超えてほしい。これが条件です。」


 「子どもたちを何かの道具にするつもりですか?」


 「私たちは今まで何年も鉄の棺桶に入った子どもたちが体を得たからといって、屈強な兵士やニンジャめいた暗殺者アサシンになるというようなコミックストーリーを信じていません。」


 「では?」


 「彼らは体を欲している。私たちはもしかするとそれを提供することが可能かもしれません。その道筋を現実にできるかもしれない人をスカウトして、多額の予算を計上し、革新的な技術で作り上げることができるのではないか。その過程で何らかの技術やアイデアの転用が可能ではないかと考えています。」


 「子どもたちをあんな姿にした科学者たちと同じような気がしますが?」


 「あなたは子どもたちを救ってくださればいいのです。結果を私たちは掠め取り、そこから先の罪は引き受けます。」


 「ときおり…」


 「はい?」


 「いえ、いつも、エルシーさんは優しいですね。」


 「……いえいえ。」


 脇役さんたちはスタッフは60〜70年代の有名なロッカーさんたち、セクレタリーさんはある映画のヒロインからということで。


 性格は違いますよ。もちろん。

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