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いよいよ開発が始まります。


イギリスには「らいすわいん」というお店が本当にあります。



 早朝に目が覚めたようだった。


 時差ボケを起こしそうだなと思いつつ、バスルームのドアをノックし、誰もいないことを確認してから使用した。久しぶりに整髪料を使って髪型を整えたまま横になってしまったので、髪がベタついて変なクセがついていた。


 リビングに向かうとリデル嬢はいなかった。まだ寝ているのかもしれないと思っていたら、玄関の扉が開き、スポーツウェアの彼女が入ってきた。


 「おはようございます。ジョギングですか?」


 「いえ、昨日は随分と移動が多かったので、庭でストレッチをしていました。おはようございます。よく眠ることができましたか?」


 リデル嬢はぼくの睡眠状態に興味があるようで、昨日? おととい? も聴いてきたと思う。


 「ええ。とてもよく眠ることができました。ありがとうございます。」


 「そうですか。朝食の前にシャワーを浴びてきたいのですが、いいですか?」


 「もちろん。できれば、ぼくも浴びたいですね。」


 「一緒はお断りいたします。」


 「誰もそんなことを言ってません。」


 「ではいいですよ。私の後でどうぞ。その間に準備をしておきます。」


 真顔で返事され、慌ててしまった。最後の言葉でうっすらと口だけで笑ったので冗談だとわかったが、心臓に悪い。


 ちょっとドキドキしながら彼女の後にシャワールームに入った。シャンプーの香りなのか、落ち着かない気持ちのままでぬるいお湯を手早く浴びて出た。


 念入りに乾かしても着替えがないので、気持ち悪さをこらえながら昨日着た服をまたまとうとリビングに向かった。


 「さっぱりしましたか?」


 「ええ、まあ。着替えがないのがちょっときついですけど。」


 「今日は午後に会社で契約をしていただきますが、午前中はリージェントストリートあたりにでもゆきましょうか? オススメのショップに連れて行きますよ。お昼は何食べたいですか?」


 「意外とゆっくりですね。」


 「契約担当の上司が午前中には所用がありまして。で、何を食べましょうか? 海鮮? フィッシュ&チップス? ローストビーフ? インドやベトナム料理もオススメですよ。日本料理は日本で食べるのが一番ですけどね。」


 「まずは朝食をいただきたいです。」


 「あまり期待しないでくださいね。」


 彼女はぼくをキッチンへと導いた。テーブルの上にはボウルに入ったシリアルと冷凍したままのベリー、そしてパックのままの牛乳が置かれていた。


 ベーコンも卵料理も豆料理も紅茶もサラダもパンすらなかった。


 「……えぇ、そうですね。ぼくもなんどもこちらに来てわかっていたことなんですけど。」


 「あんなに食べるような人はいませんよ。」


 「まあ、その、あの、いただきます。」


 ぼくらは席に着き、シリアルにミルクをかけて食べはじめた。甘くも酸っぱくもないベリーは芯まで凍っていて歯にしみた。決して虫歯や知覚過敏ではないと信じたい。


 「ローストビーフかなぁ? しっかりしたものが食べたいです。」


 「わかりました。いい店を予約しておきます。」


 「お願いします。」


 



 ロンドンは大気汚染防止のためと渋滞の解消に渋滞課金制度を取り入れている。リデル嬢も途中までは愛車にぼくを乗せて来たが、あるビルの地下駐車場で車を降り、そこからはタクシーに乗り換えた。


 タクシーはロンドンタクシーと呼ばれる昔ながらの黒塗りのアースチンFX4のボディだが、エンジンはディーゼルエンジンから完全に電動モーターに変わっていた。


 白髪に白髭に黒いスーツと帽子を着用した運転手はリデル嬢の告げた住所に頷いた。


 車窓のロンドンは相変わらず観光客も多いが、徐々にアジア系の住人、まあ日系の帝国臣民が増えていた。それ以外にも香港やマカオ、台湾などからの華僑の臣民、インド系、マレーシアやミャンマーといった旧植民地であった東南アジア系、この前のウェイトレスじゃないがヴァージン諸島などのカリブ出身のなど多彩な人たちが歩いていた。


 まあ、それでもまだ地元民の方がずっと多い。


 「大陸の方にはゆかれたことがありますか?」


 「欧州ですか? それなら何度か。アジアはありません。」


 「欧州ですよ。ドーバー海峡の向こうは、いまや移民や難民であふれかえっています。」


 「そのようですね。」


 去年の冬、ケンブリッジ長期出張の時に少しだけ休暇をもらい、パリとベルリンに行って来たことがある。どちらも一泊二日程度だったが、難民キャンプが街中にあった。宗教上の理由で女性は表に出ないのか、それとも男性が元から多かったのか、街中には男たちが集団でたむろしている姿をよく見た。


 EUの各国政府がさらに受け入れる方針を決めたニュースが流れ、不満のつぶやきが静かに広がっていた。


 「この国はEUに入るには大きすぎました。色々と不便なことや経済界からの突き上げがありましたが、いまはそれがよかったとも言えます。」


 「彼らは国を出ざるを得なかった人たちですし。」


 「……」


 リデル嬢の沈黙の意味もわかるが、外野が何かを言っても仕方がないこととも言える。様々な背景を持つ彼らは難民だとみずから名乗り、地中海を渡って来た。そして欧州の国は彼らを認定して受け入れたのだから。


 帝国は移民を過去の植民地出身の技術を有しているものだけに制限している。難民は政治難民だけで、その認定は厳しく他国からも批判を浴びている。


 「この国は帝国です。いくつかの国や民を統治している大きな国です。以前の大英帝国だけでも日の沈まぬ帝国と呼ばれ、大日本帝国も極東に大きな勢力圏を有していました。現在ではほとんどの植民地を独立させましたが、残っている国土だけでもユーラシア大陸を東西で封じ込めることができるほどの領土は維持しています。だからと言って無頓着に人を増やすほど大きくはありません。」


 「人によってはいろいろな考えがあるようですが?」


 「私たちはイデアリズムだけで国を運営することはできないと考えています。」


 「現実的にはそうでしょうね。」


 「すべての人に対して優しくできるほど私たちの手は大きくないんですよ。残念ながら。」


 急に政治の話になってしまったが、リデル嬢の言いたいことが最後の一言にあるのだろう。


 ぼくらをのせたタクシーはリージェントストリートで止まった。リデル嬢のエスコートでぼくはまず東京に本店のあるデパートで下着も含めて、スーツ一式を揃えさせられた。今まで来ていたものはまるまる袋に入れられて、宅配便でどこかに送られた。なぜどこかと言うと、梱包はぼくがしたが、宛名書きはリデル嬢が勝手にしていたからである。


 続いて、デパートを出たぼくたちはリデル嬢のスーツをあつらえるために通りを歩いていた。


 どうやらぼくがダメにした彼女のスーツは、最近成人した西の王室の王女が愛用しているブランドらしい。国家公務員らしき彼女にしてはちょっと物がよすぎるのではないかと思う。

 なかなか斬新なジャケットが多いなか、リデル嬢は保守的なデザインの黒いジャケットとプリント柄のトップス、膝上のスカートを組み合わせた。


 「どうです?」


 「よくお似合いですよ。」


 「もう一声欲しいところですが、まあよいでしょう。これをいただきます。」


 彼女は着てきたワンピースに着替え直し、店員にジャケットを渡した。ぼくはふところから財布を取り出そうとしたところ、先にリデル嬢がカードを渡してしまった。


 「弁償させるのではなかったんですか?」


 「ええ、もちろん。あとで請求書を回します。」


 「一応、レシートを見せてもらえませんか?」


 「はい、どうぞ。」


 手渡されたその薄い紙には約6千ポンドの数字が並んでいた。連合帝国になってから、円とポンドの通貨レートは固定レートで1円が1ペンスで百円で1ポンドだから大体六十万円か……


 「あの、ぼくが汚したものも同じくらいだったんですか?」


 「ええ、そうですね。」


 「夏と冬のボーナスの分割でいいですか?」


 「そこまでしなくても、多分すぐに払い終えますよ。」


 「ぼくも以前まで公務員だったのでわかりますが、それだけもらえませんよ。」


 「一応、特殊業務なので通常の公務員俸給表にはとらわれません。また手当も多いですよ。ちゃんと前とは違って残業手当もすべてつきますからご安心ください。」


 「それにしても……色々と不正とか?」


 「滅多なことを言わないでください!! そんなわけあるはずないじゃないですか。それに見合っただけ大変な仕事だということです!!」


 「でしょうね。命を的にして、釣り合う金額などあるんですかね?」


 「ありますよ。それぞれの人によってその額は変わりますけど。」


 「リデルさんは本当にリアリストですね。」


 リデル嬢はにっこりと微笑みを浮かべて、そうでなければやっていけませんからとささやいた。




 昼食はストリートから少し外れたところにある、まるでジェントルマンズクラブのようなお店だった。とても柔らかで美味しい肉だった。


 食後、ぼくは個室に導かれた。コーヒーの香りが漂うその部屋にはイングランド系の年配の男性がいた。彼は立ち上がり、ぼくに握手を求めてきた。彼の大きな無骨な手を握るとすごい力で握り返してきた。


 「初めまして。カズオ ジョーンズです。協力いただけるとのことで、ありがとうございます。」

 「いえ、こちらこそ。」


 ジョーンズ氏は頷いて、ぼくに椅子を勧めた。


 「それで、今日は契約書にサインをすることになっているとリデル嬢からきいていますが?」


 「ええ。こちらに持ってきています。お願いできますか?」


 彼はぼくに十枚ほどの書類出してきた。


 雇用契約書、身元保証書、秘密保持誓約書、口座振替依頼書と源泉徴収書、各種の保険関連書類と扶養家族の有無の書類など、書類は英文であったが、前の研究所の時と同じ書式だったので楽に理解できた。

 日本語でのサインを書き続け、印鑑を押し続けた。しかし、とある書類で少し困ってしまった。


 「身元保証書なんですけど。後ほどでいいですか?」


 「私が書きますよ。」


 となりに腰を下ろして紅茶を飲んでいたリデル嬢が書類を取り上げてサインを書いた。


 「いいんですか?」


 「もうこうなっては仕方がないですよ。あなたとの仲じゃないですか。」


 「どんな仲だがわかりませんが、いいのですか?」


 「ええ。」


 「あっと、履歴書はないのですが……」


 「履歴書は必要ありません。」


 ジョーンズ氏が微笑んだ。ついでにリデル嬢も微笑んでいた。


 「多分、人事部はあなたのことをあなた自身以上に理解していると思いますよ。」


 「でしょうね。多分。」


 ぼくはリデル嬢の顔を見上げたが、彼女は黙って微笑むだけだった。書類を書き終え、ジョーンズ氏と再度握手したぼくはリデル嬢とともにあのセーフハウスに戻った。


 「これからのことはリデルさんに聞くようにと言われたんですが?」


 「ええ。まず何から聞きたいですか?」


 「仕事はこれからこちらで?」


 「ええ。住む場所などはこちらで用意させていただきます。職場は仕事を始める時に私がお連れします。今までのお住まいに関しては片付けて、引っ越してきてくださいね。」


 「いつまでですか?」


 「きょうこれから戻って、東京には明日の夕方あたりに到着すると思います。明後日にはアパートの契約解除して、荷物をまとめてと考えると、三日後にはこちらの官舎に引っ越して、午後には職場に顔出しができますね。」


 「なにその無茶振り? 無理ですよ。引越しに最低でも半月ぐらいはかかりますよ。」


 「大丈夫ですよ。荷物は空軍の輸送便に紛れ込ませることができますし、荷物をまとめるのは私のチームも手伝いますよ。」


 「チーム?」


 「会ったことがありますよ。ファミレスでウェイトレスをしていましたよ。」


 「ああ、あの強かった彼女ですか。」


 「ええ、そのほかにパートタイマーでママさん達がいます。」


 「じゃあ、あのファミレスにいたのは全員?」


 「ええ。あなたの友人以外、お客もフロアスタッフも奥の調理スタッフも一時的なパートさんでしたが、私のチームですよ。ママさん達は元は陸軍や警察の特殊部隊のOGさんがたですよ。」


 「そんなに簡単に雇うことができるんですか?」


 「ハローワークで募集をかけました。」


 「本当ですか!?」


 リデル嬢はぼくの驚いた表情に満足げな顔をして、からからと笑った。


 「本当に楽しい方ですね。ちゃんと名簿があって、これと思う方に連絡を取ります。我が国は大きいのですから、固定チームだけで動くとまずは現地に浸透するだけで時間がかかりますね。」


 あんまりリデル嬢の事情は聞いてもいいことがないような気がするので、話してくれない方が嬉しいのだがと思う。





 結局、もう少し余裕をもらう代わりに事前準備としての提案を出すように求められた。


 晩御飯はまたナポリタンにしようとリデル嬢は提案してきたが、昨日も食べたため、日系スーパーでおにぎりと漬物、そして日本酒を購入して、かんたんな夕食をすませることにした。


 そのスーパーマーケット、「ごはんとおさけ」という名前だったが、それはきっと「Foods & Liqueur」を単純に日本語にしただけだろう。リデル嬢とのぞいてみると日本食の食材はおおむね揃うが、ほとんどが聞いたことのないメーカーで、どうやら現地生産品らしかった。


 まだ、夕刻を過ぎたばかりの時間だったが、もう外は暗く、ランプの明かりに照らされたリビングでゆっくりと買った日本酒を舐めながら先のことを話していた。

 

 「子ども達の状況がある程度わからないと進めようがないんですが。」


 「そうですね。」


 リデル嬢は大きく深いため息をついて、話しはじめた。


 「四肢はもとよりありませんでした。体動することも叶わないそうです。臓器も子どもたちによって違いますが、一部しか残存していません。それらを補完するように人工臓器に接続されていました。現在、言葉を発することはできませんが、考えた言葉を脳波で拾ってタイプすることで不完全ながらもコミュニケーションすることができます。全員がものを見ることはできませんが、一部はもともと見えていたことを覚えていたそうです。」


 「そうですか。中枢神経系はいかがですか?」


 「大きな問題はないと思われていますが、細かいことはワークショップのリーダーに聴いてください。」


 「あと、答えにくい質問だと思いますが、あと、その、あとどのくらい大丈夫なのですか?」


 リデル嬢はあたたかい微笑みを浮かべて大丈夫ですよと答えた。


 「リーダーは現在は状態が安定していることと人工臓器などの生命維持装置が提供できるので、しばらくは大丈夫だと考えているそうです。ですが、何年もというわけにはいかないと思います。」

 ぼくはグラスに残っていた黒壁蔵の吟醸を飲み干した。すかさず、リデル嬢はお酌をしてくれた。そこまで気を使わなくてものと感じていたが、戻す手で自分にも注いでいた。


 「わかりました。臓器に関してはワークショップのスタッフとの打ち合わせになると思います。子どもたちはどういう希望を持っているか、わかりますか?」


 「外を走ってみたい、海を見てみたいと話す子どももいます。遊んでいた時の夢を見たという子どももいました。」


 そうですかとぼくは言葉を絞り出したが、そこから続けることができなかった。


 言葉なく、二人で酒を飲む。


 どのような姿になろうとも夢は見ることはできる。それがぼくにはうれしく、そして胃の下あたりに重く感じることだった。


 「では、まず生命維持は現状をそのままにします。そして人工の視覚に関して先に進めましょう。こちらは全員に共通で、取り組みやすい方面であると考えます。


 現在、人工視覚に関してはカメラを使用して後頭葉の視覚野に直接電気信号で視覚情報を送るタイプと眼球や網膜の生体部品に視神経を接続して、化学的に神経の伝達を強化するやり方があります。


 これらは状態によって使い分けをされていて、若干後者の方が研究が進んでいると考えています。」


 前者の BMI、ブレイン-マシン・インターフェイスはカメラで捉えた映像を表皮から脳が理解できる形で電気信号に変換して送るために今はまだ情報のロスが出てきてしまう。


 人によっては機械の接続部分にアレルギー反応が生じることがあって、最初期には皮膚がただれて継続的に使用ができなかったことがあったとの論文を読んだことがある。


 そして、体の構造上、眼球がある位置につけるのが最も効率的で安定した映像を得られるためにカメラのついたスキーのゴーグルのようなギアをつけて、そのまま伝達のために頭部をぐるりと抑えることなってしまっている。これがまだちょっと重いのだ。


 後者は生体部品として作るために視神経と接続するために神経組織が残存しているのならば、まだ適応があるし、クリアな映像が得られることになる。


 ピントをあわせるのはBMIよりも苦手だけど、メガネや体を動かすことで調節はできるし、前者を軽量化するならば、電子部品の設計からレンズと自動フォーカスなどすべてが見直しなので、コストや実現性、そして工程にかかる時間も含めて、ちょっと見通しがつかない。


 生体部品に関しては、眼球は再生医療でもけっこう早いうちに成功していたこともあり、手術も含めてノウハウは確立している。


 問題は神経部分の状況とどれだけ実際の物を見た経験があるかだ。


 過去に生まれたての動物にたてじまだけを見せたり、片目に覆いをつけて育てた実験があった。その結果、大脳皮質の視覚野に差が生じたり、よこしまの認識が弱くなったりした。


 脳機能の発達には臨界期と呼ばれる時期があり、それまでにちゃんと経験をしておけば大脳の発達は影響を受けない。一度発達してしまえば、感覚器や中枢神経系の損傷があっても、中枢神経系の広範囲かつ大規模な損傷でなければ、『機能的代償』と呼ばれる周辺組織の機能の肩代わりをしたり、質の悪い感覚情報を切り捨てて生存に有利になるようにフレキシブルに変化する。


 もちろん、そんな実験は人ではできないので、どこまで育てば大丈夫なのか、推定しかできていない為に臨界期には少し幅がある。


 子どもたちがある程度の視覚の認識ができても、きちんとものが見ることができるか、ぼくはそこが不安だった。


 これらのことをリデル嬢になるべく簡単に説明して、生体部品の製作の検討をお願いした。


 「あと、人工の筋肉なんですが、実は当てがありまして。」


 「へぇ。再生するんですか?」


 「いえ、ある繊維のメーカーが偶然作った合成タンパク質のアクチュエータがあるんです。これがちょっとすごくて、抗体反応が出ないし、どのような形にも作れるんです。」


 ぼくも偶然に資料で見かけて驚いたのだが、より高品質で低コストの人口絹を作ろうとして、タンパク質の試行錯誤をしていたところ、通電するとイオンが鍵となり、収縮するという働きを持つものができたとのことだった。


 確かに天然の絹もタンパク質の一種だが、何がどうすれば、天然の筋細胞のようなイオン電動性高たんぱく質型アクチュエータができるのか、聞いてみたい。かなり無理を言って、実物を取り寄せてみたが、繊維同士をコラーゲンで結合させて骨格筋のようなものを作るとかなりな収縮力を発揮した。また柔軟性や引っ張り力への抵抗もあり理想的であった。


 何より、生体に対して過剰な抗原抗体反応が出現しないことだった。これは免疫による体の抵抗力の過剰反応としてのアレルギー反応やアナフィラキシー反応、溶血などを起こさないことだ。神経に繋いだからと言って、神経伝達物質に反応して収縮するわけではないがこれは大きなメリットだった。


 色々とアイディアが広がるかと思っていたが、その前にクビになってしまった。


 ぼくはリデル嬢に会社名と製品名のメモを渡した。そしてリデル嬢とともにこの先に関してのアイディアを話し合いながら、四合瓶をさらに一本開けた。





 次の日、ぼくらは腫れぼったい顔をしながらミルク抜きのシリアルをぽりぽりと食べていた。


 「飲むものがなくなったからと言って朝食用のミルクまで飲んじゃうのはどうかと思いますよ。」


 「胃が荒れなくてよかったと思っています。少しもたれていますけど。」


 「でしょうね。でも天狗華の大吟醸なんてどこにあったんですか?」


 「さあ?」


 「リデルさんの家だと聞いたのですが?」


 「……あぁ、そうでしたね。覚えていますよ。たしか納戸です。それより今日は日本に戻りますので、準備してくださいね。」


 「えぇ!?」


 「朝食が終わったら、ブライズ・ノートンまで行きますよ。そこからまた飛行機に乗ります。」


 「一緒に来てくれるんですか?」


 「それはもちろん。」


 「では冷蔵庫の中の始末、お手伝いしてくださいね。」


 「まかされました。」


 もうあきらめた。


現実世界では三次元での組織培養はまだまだで、しかも器官自体の再生は研究段階だと思います。


人工筋肉は同じようなアクチュエーターで研究されています。


BMIや生体電位の変化を拾うタイプは積水ハウスの脳波で生活支援する家とか歩行支援のロボットスーツHALなどがあります。これは国も力を入れています。


脳機能の代償はおおむねこの通りです。


天狗舞はすごい昔に飲んだ時は「水菓子の香り」と言って梨のような爽やかな果物の香りがしたと思いましたが、最近飲む機会があって、若干酸味が強くなった印象があります。ちょっと意外。

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