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今回は背景の説明回その一です。


説明的セリフが続いてしまいました。

 「真面目もめんどーね。」


 ブラフ・K・シューペリア SS-W650が遠ざかるのを見送りながら、ビヴさんがため息をついた。ぼくも隠れていた場所から出てきて、ビヴさんの肩を叩いた。


 「もう少しすると職員が車を回収しに来てくれるそうです。それと今日は家には帰らず、セーフハウスの方にゆくことになります。」


 「どこになりますか?」


 「私もわかりません。あっ、明日以降の勤務はお休みになりますので、安心してください。」


 「なんか、各方面に申し訳ないなぁ。」


 「関係ない人が怪我しないだけよかったですよ。」


 「それはそうなんだけど、今、どうなっているんだろう?」


 「あっ、君、ケータイの電源切ってね。私たちは安全仕様だけど、君のハードは普通のだからね。ちょっと前にチェチェンでケータイの電波で誘導されるミサイルがあったからね。」


 ぼくは慌ててスマートフォンを取り出して電源を切った。息を抜き、空を見上げると満天の星空だった。


 「珍しいですね。西イギリスはいっつも曇天模様なんですけどね。」


 「綺麗ですけど、さすがに冷えますね。」


 「トレーラーが来たよ。」


 「ああ、よかったです。」


 トレーラーがぼくのタートス グリーンバード SSSを乗せた。一緒に来たエンジニアの人がこれはもう無理と話しているのが聞こえ、ぼくはさらに落ち込んだ。そして、後部座席の抱き枕を素敵な笑顔でぼくに渡して来たところで立ち直れなくなった。


 エルシーさんとビヴさん、そしてぼくは一緒に来たレイルランド ハイエールに便乗した。こちらのハイエールは軍用車両のように横向きのベンチがあり、おのおの腰に巻くタイプのシートベルトを締めて、座った。抱き枕はビヴさんの隣に座ることにきまった。


 「次はどんな車がいいかな?」


 ハイエールに乗って来た初老の男性が英語でぼくに声をかけた。


 「どんなと言われましても、いまのタートスだって一度しか運転していないんですよ。色々とあって選択する余地もすくないでしょうし……まあ、安全でスピードが出て、後部座席が広いのがいいですね。あと、目立ったりしない方が嬉しいです。」


 「なかなか難しい注文を言うな。本田モトダ=MJ 2000はすぐに出せるが、二人乗りだな。プリンスはどうだ?」


 「彼がそれを所有するクラースにないから嫌って言われたわ。」


 珍しくビヴさんが英語で会話をはじめた。


 「ふむ、そうか。みすゞ ベレッタは軽快だがエンジンが弱い。保安設備を積むとちょっと厳しいしな。」 


 「しばらく動くことがないので、後ほどでいいと思いますよ。」


 「そうか。補給のこともあるので、すまんがこちらで選ばせてもらいたい。楽しみにしているんだな。」


 「ええ、お任せ致します。」



 ハイエールがついたところはぼくもよくわからない小さな村のはずれにある別荘だった。どうやらこの地方の貴族のものらしい。ぐったりとしながらも、入浴を済ませ、エルシーさんやビヴさんとは顔を合わせずに軽食を取り、広い客間で眠ってしまった。


 目覚めると日もだいぶ登っていた。真新しい着替えがあり、ありがたく使わせてもらった。


 「おはようございます。」


 「ハイ。」


 「おはようございます。」


 ぼくらは食堂で顔を合わせ、伝統的なブリティッシュ・ブレックファーストをゆっくりと堪能した。執事やメイドさんはいらっしゃらないようで、給仕はなぜか濃灰色のロングワンピースに白いエプロン姿のビヴさんがしてくれた。


 「いつ頃戻れるんでしょうね。」


 「今日中には手配していますよ。」


 「自分のベッドが一番。」


 「まあ、そうですよね。」


 ブレックファーストと言ったものの時間的には昼食を食べたのち、ぼくらはいつの間にか、運んでくれていたエルシーさんのトレイランフ レヴァンに乗り、自宅に戻ることができた。


 ビヴさんはリビングルームの大きなパソコンでメールをチェックして、エルシーさんはソファに横になっていた。ぼくは休日の贅沢と昨日のささくれ立った神経を落ち着かせるためという言い訳のもと、シェリー酒を小さなグラスに注いでなめていた。


 「エリー?」


 「なんです?」


 「あいつら、華北だってさ。」


 「そうですか。華南や関東共和国の偽装の可能性はありませんか?」


 「名簿にあったみたい。ナンシーのサードとフォースだって。」


 「知り合いなんですか?」


 「お会いしたことはありませんよ。コードネームみたいなものです。」


 「そうでしたか。でもなんで華北なんですか?」


 「そこは私もわかりませんよ。ただ、あそこは歴史的ににほんへの関与が多い国ですからね。そういえば、狙われる理由の説明をしてほしいとのことでしたね。」


 「ええ、まあ。」


 別に今でもなくていいと思ったが、エルシーさんはソファーから起き上がり、自分用にグラスとおつまみとしてナッツとドライフルーツ、そしてチーズを少し持ってきた。


 「まずは極東の情勢のおさらいからなんですが、20世紀まで大陸がガチガチのコミュニストの楽園(シャングリ=ラ)だったのは覚えていますか?」


 「学校で習いましたよ。」


 レーテ連邦はもちろん、コミンテルンが結びついて共産主義に偏向した人民党軍が起こした華南社会主義共和国とナロードニキ党の華北人民共和国、そして大日本帝国陸軍の一部が1941年の春にクーデターに失敗して、満州へと逃走したけど、結果的にはレーテ連邦に併合されてしまった関東共和国とアジア大陸はほぼ真っ赤だった。


 それをグレートブリテンおよび日本連合帝国がユーラシア大陸の東西で蓋をするように閉じ込め、同盟国であるアメリコ合衆国がレーテと対峙していた、そうである。ぼくが小学校に上がる頃には冷戦は終結されていたから、近年のこととはいえ、もう歴史のお話だ。


 「そうですか。まずは関東共和国ですが、レーテ連邦の崩壊から始まった冷戦の終結はゆっくりとアジア大陸まで伸びてきて、関東共和国はロシアから独立して民主主義へと変化したはずですが、共産テロはいまだ収まりませんし、不凍港を求めて南下の意志を隠していません。」


 「あそこは人口の半分くらいが日系ですよね。と言っても、もう会話も通じなさそうですけどね。」


 「そうでしょうね。考え方や価値観がもう違いますよね。では続いて華北は飛ばして華南ですが、コミンテルンが人民党に入り込んで、結果的には社会主義国となってしまった華南社会主義人民共和国ですが、国の形が落ち着いた60年代から積極的にカンボジアや旧ビルマなどの正常不安定な東南アジアに関与してきました。で冷戦後は国家体制をそのままに沿岸部の経済活動を拡大して、北の資源を狙っています。」


 「なんとなく、見えてきましたよ。南北に挟まれた華北は焦っているんですね。」


 「そうです。ナロードニキ党の一党独裁の華北人民共和国はレーテ連邦とは対立関係にあって、何度か紛争をしています。華南とは国境線の問題で常ににらみ合っていますし、不凍港を欲しがっている関東共和国が朝鮮半島を狙っています。」


 「元々、関東共和国は朝鮮半島は旧大日本帝国の植民地だから、自分たちに占有権があると主張していますもんね。」


 「どーでもいい話だね〜。どっちにしろ太平洋に出れないんだから。」


 いつのまにか、パソコンデスクから離れていたビヴさんは自分用にピムスNo. 1でカクテルを作って、ぼくの一人がけのソファの肘掛けに腰を下ろした。彼女の柔らかい腕がぼくの肩に回された。 


 「そうですね。関東共和国はサハリンをロシアに、千島列島を私たちに抑えられてオホーツク海から出ることができませんし、華北人民共和国は日本海から出ることができません。華南社会主義人民共和国は東シナ海、南シナ海を私たちとフィリピン駐留のアメリコ海軍に抑えられています。つまり、彼らはアジア大陸沿岸地域の浅瀬で水遊びするしかないのです。」


 「随分と押さえ込んだようですね。」


 「ええ。近年、東南アジアは発展が著しいので、以前のように力を誇示しながら譲歩を引き出すこともできません。現在、この3カ国はとてもストレスが溜まっています。抑圧された力がどこに向くかというと、身内に行ってしまっているのが現状です。」


 「コドクだね。」


 「孤独? ロンリー?」


 「壺の中でさ、虫同士を争わせるの。だから蠱毒。」


 「ビヴさんは本当に変なことも知っているんですね。さしずめ呪いの行き先はうちの国ですかね?」


 「どーだろねー。その前にお腹が空いて、みんないなくなっちゃうかも?」


 ケラケラと怖いことを言って笑う彼女に背筋を凍らせながら、エルシーさんの話の続きを聞いた。


 「軍事的には、関東共和国はロシアから軍事技術の提供とともに共同開発もしています。中央アジアや黒海周辺の紛争もロシアとともに共同介入しているので、実戦経験も十分で侮ることができない相手です。

 華南社会主義人民共和国は70年代の東南アジアの赤化紛争で非正規戦闘経験がありますが、最近は実戦経験がありません。ですが、裕福になってきた分を湯水のごとく使っていますので、軍事輸入大国と言われています。

 華北人民共和国はこの二つに挟まれて、まるでハリネズミのように国土防衛に力を入れています。軍の人員はこの3カ国の中で一番ですが、装備に関しては正直、先進国の中では二線級のものしかありませんし、運用も含めて実戦経験は乏しいですね。」


 「そんな国がどうしてぼくなんかを狙ってくるんですか?」


 「この3カ国の中で人口が最も多いからですよ。」


 「人口が?」


 「ええ、第二次大戦の時にレーテでは兵隊は畑で採れるという言葉がありましたが、それと同じことです。どれだけ部隊を戦闘不能にしても、兵士が雲霞のごとく湧いて出てくるんですよ。これほど怖いことはありません。迂闊に捕虜も取れません。捕虜を養うだけでこちらの補給がパンクしてしまいます。」


 「そうかもしれませんが…」


 「先ほども解説しましたが装備はB級です。でも、兵士たちが強化された身体を持っているとなると話は別です。予想もしない速度で駆け寄り、小銃程度では倒れず、素手で敵を引きちぎることができるような身体を持っているのならば、装備の劣勢は覆すことも可能だと考えたのでしょう。」


 「そんなことはできないですよ。」


 「人は畑で採れる特産品なんですよ。いくらでも実験してもいいのですよ。」


 「とんでも無いことを考えているんですね。」


 「いまのはなし、ほぼほぼエリーの妄想ね。確証ないから。」


 「えぇ!?」


 「おおむね間違っていないと思いますよ。」


 さらりと答えて、エルシーさんはグラスのシェリーを口に含んだ。


 「自国の若者を戦地に送って非難を浴びない先進国の指導者なんてほとんどいません。

 ですから米軍では人間は安全な場所にいてドローンや無人機、もしくは超高高度での爆撃を主な介入手段としています。

 でも状況によっては、どうしても陸地の取り合いをしなくてはいけないことが出てきます。その場合、PMSCsと呼ばれる民間軍事会社に依頼する場合がありますが、人員の量や質の面で問題となることがあります。時には国際法を無視するやからもいますしね。

 国家の威信をかけて軍を送ることが決まって、人的被害を軽減させたいという欲張りにとって、パワードスーツやロボットは魅力的なんですよ。」


 「こっちは安全な状況で相手を殺せばオッケーってわけ。」


 「…命の値段に差があるというわけですね。」


 「そうです。うっかりすると一人の兵士の死が、その時の内閣の首が飛ぶ事態に発展しかねません。その後、派兵の中止、撤退となり、国の権益が損なった場合、その兵士の死はとんでもなく高額となってしまいます。それはもう、信じられない額と時間の損失です。」


 エルシーさんの生真面目な表情を見つめていると肩に回されたビヴさんの腕に力が入った。そして彼女は英語で話しはじめた。


 「特別な一人の兵士の死がそれまでの戦死した戦友の死より重いことになる。そんな馬鹿な話なんてない。死は誰にとっても等価値じゃないといけないんだ。そう信じないと私たちは戦地へ赴けない。そうじゃないと仲間を助けることができない。」


 「ビヴさん……」


 「もちろん、状況によっては犬死を命令しなくてはいけませんけどね。」


 「それは仕方がない。必要なことなら、私たちは許す。でも、政争の道具とするために私たちに差をつけることは許せない。許されないんだ。」


 ビヴさんはぼくの頭にほおを乗せて静かに語った。エルシーさんは黙ってシェリー酒をぼくと自分のグラスに注いだ。


 ぼくは頭の上の重みと彼女の体温を感じながら、黙っていた。二人も黙して、語らない。


 ややしばらくして、ぎゅっと抱きしめられた。


 「重くなっちゃたね。ディナーはなに食べたい?」


 「ビヴさんのカレーが食べたいかな。」


 「えぇ? もっといいものでもダイジョーブだよ。」


 「カレーは胃腸から分泌されるセロトニンの量を増やしてくれるんですよ。」


 「セロトニン?」


 「食べるとセロトニンが分泌されて、幸せな気分になるんですよ。」


 「そんな薬知ってるよ。試したことないけどね。カレーの方がよっぽど体にいいね。」


 ビヴさんは笑ってぼくの頭から離れて、数度手のひらで頭を叩かれた。鼻歌を歌ってキッチンに向かう彼女をぼくたちは見送った。


 「気を遣わせてしまいましたね。」


 「いえ。聞いてはいけないことの一つですね。」


 「そうですね。必要になれば、ビヴから話してくれると思います。」


 ビヴさんのシンプルなカレーはちょっと辛味が増量されていた。きっと汗と一緒にセロトニンも分泌されるだろう。


シンプルに背景を見せるのはやはり映像作品の方が上手だと思うんですよね。


小説ですとト書きの部分を長くしてしまうと野暮ったいしリズムを台無しにしてしまいがちです。


セリフですと説明くさいですし。



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