1-3 希望的観測
気付いたら朝で、部屋の掃除なんかしていないなかった。
18歳で家を出て行けと言われたけれど、僕の行動も意識も変わらなかった。脅しだろうと自己解釈していた。
姉の皐月は朝になって帰ってきた。
別に何の理由もないのに会話をするような仲ではない。寧ろ姉ちゃんは、人と会うことすら嫌というような雰囲気を出していた。そんな僕らは視線は合っても言葉を交わすことはない。合コンはうまくいかなかったようだ。合コンかどうかは知らないが。
朝になるまでオンラインゲームをしていた俺は結局いつもの日常に戻る。
人は変わろうと思っても早々簡単に変われるものではない。
僕の家族は相当なものの積み重ねで変わってしまったのだろう。
「……ねむっ」
朝は嫌いだ。家族が目を覚まし、忙しそうに通勤、通学の準備をする。扉の向こうから聞こえるそれらの音は、お前は逃げたんだと僕を罵っているようだった。
PCの電源を落とす。キーボードにはいくつか焦げた様子が見て取れる。
ベッドにその身を託す。シーツのところどころが燃えて穴が開いている。
なんもかんもこの能力のせいだ。
爪から火を出すだけで、使えない能力。
アニメの世界でこういう特殊能力を持つ者は大抵主人公で、ヒーローだ。
でも、現実は残酷で、神様は愚かだ。
僕は選ばれたというのに、その能力に悩まされ、私生活に支障をきたし、落ちぶれた。
全部、この能力のせいなんだ。
こんなものいらない。
僕は一般人であれば、まともであれただろう。
戯言だと言われようとも、僕は本気で信じている。本気で思っている。
瞼が重くなる。
起きたら昼になっているだろう。
そしたら、冷蔵庫にある母さんが用意してくれたご飯を食べて、ゲームして寝る。
目が覚めたら、この特殊能力なんてなくなってしまえばいいのに。そして、僕は朝起きて毎日学校に通う生徒になってくれていたらいいな。
おやすみ。