1_03_仲間
初めて評価点を頂けて、テンション上がったので早めの投稿です。
こういうのがモチベーションに繋がるってのは真実でした。
「おお~……でっけえ門だなぁ」
念のために走る事20分。
良い汗を掻きながら魔法学校へ辿り着いた俺は、校門の大きさに感嘆していた。
俺の冒険者人生が始まる一歩手前、準備期間を過ごす場所だ。急ぎすぎたためか少し余裕が出来てしまった。
「にしても……なんだ?」
周囲に学生と思しき人達が何人か居るが、俺に視線が集中している。
なに? どしたん?
「ルイス! おま、だははは!! それ、っふ! っはははははは!」
「ぁあん!? ……なんだよラグか!」
首を傾げる俺の後ろから声を……いや、爆笑を掛けてきたのは友人だった。
ラグニーロ、仲間内でラグと呼んでいる。
髪を全て後ろに撫で付けたかのようなオールバックで、少し日焼けした肌と大声が特徴。
同じ町に住んでて、家は遠いがいつも一緒に遊んでいた幼馴染という関係だ。
「いや、だってよ……ぶふぉっ! だはははは!!!」
「なんなんだよ!!」
ラグはよく喋り、よく笑う。
だが今は笑いすぎて話にならない。
少しイライラしてきたところで、ラグの後ろから少年が小走りに近付いてくる。
「ラグ、速すぎま……ルイス?」
「なんで疑問系?」
「いや、だって……そのか」
「おい見ろよソマリ! こいつ……っはは! マジもんだぜ!!」
近付いてきたのはソマリだ。
同じく俺達の友人で、争い事が嫌いな性格だ。
いかにも苛められっ子な見た目なんだが、実際に近所の悪ガキから苛められていた。
それを助けたのが出会いだったりするが4年も前の話だ。
今では俺達と一緒に行動する事が多いから、あまり絡まれなくなっていた。
そんなソマリは何か言いかけたが、ラグが遮るように喋るため聞こえない。
「うるっせえよラグ! ソマリ、俺がどうかしたか?」
「あの〜……その格好は……」
「はん? 格好?」
言いにくそうにするソマリに代わって、ラグが直球で答えてくれた。
「あ〜腹いてぇ。でよ、お前その格好浮いてんぞ?」
「え?」
「お前が今から行くのは何処だ? 冒険者ギルドならあっちだぜ」
そう言って恭しく手を向ける先には、遠目に冒険者ギルドが見える。
周りの建物より高めに建設されているから見つけやすい。方角とか判断するのにも便利だよな。
だが、俺にとっては方角なんかより大事な場所である。
「早く冒険者になりたいなぁ……」
「ダメだこりゃ」
「ルイス、戻ってきてください」
世界を股にかけて冒険する毎日を脳内で再生していると、ソマリに引き戻された。
「あのですね、今から僕達は魔法学校に通うんです」
「うん。で?」
「……だから、魔法学校に冒険者の装備は必要ありません」
「そんな事ねえよ。演習とかあるじゃん」
オリビアさん曰く、この装備では通用しないらしいが。
「だとしても今日は入学式です。普通の格好しないと周囲から浮いてしまいますよ?」
そう言われてみれば、たしかにラグもソマリも私服だ。周りを見渡しても同じく普通の格好である。
「……もしかして俺さ……恥ずかしい?」
「周囲の目とか気にすんなって」
さっき爆笑した奴の台詞じゃねえだろ。
「その入りすぎた気合で乗りき……っふ、はははははははは!!」
こいつ……
「ま、まあ、ルイスらしいですし、いいんじゃな……っく、ぷふっ」
フォローすんのか笑うのかハッキリしろよ!!
・・
・・・
ひとしきり笑われて落ち着いた後、俺は意識してしまって顔から火が噴きそうなのを我慢しつつ、魔法学校の訓練場へと向かっていった。
道中で何人か俺と同じく冒険者そのものな格好をしている奴らを見かけた。
その度に余計恥ずかしい思いをして、向こうも顔を伏せて歩いている。
「いっそ合流しちまえば良いんじゃねえの?」
「余計浮くだろうが!」
「いえ、それもアリですね。注目が個人から集団に移れば少しは気が楽かと思いますよ」
そんな集団心理は要らねえんだよ!
「冒険者パーティ襲来!! って感じに堂々とすれば良いんじゃね?」
「事件じゃねーか!」
とにかく弄ってくる。後で覚えとけよ……
なにはともあれ、訓練場に辿り着くと既に大勢集まっていた。
あと15分ほどで入学式が始まるはずだが、気掛かりがある。
「ハイクって来てんの?」
「さあ?」
「一応、昨日の内に念を押したんですが……」
ハイクは俺達の友人……というより仲間だ。
6年前からの付き合いで、この4人で常日頃から遊んでいた。
そして肝心のハイクだが、面倒臭がりな性格をしている。
なんと言えばいいのか…… 一番勿体無い生き方をしている、というのが近いだろうか。
放っておくと、どこまでも平凡な人生を送りそうなのだ。それこそ超一流の冒険者にだってなれるだろうに。
そんなハイクは俺にとって、ただただ面倒そうに過ごしているようにしか見えない。
けど中には余裕ぶって見下しているようにも見えるらしく、ハイクへ悪感情を抱く者も現れる。
やれば出来るのに、やっても出来ない奴に失礼だ。
懸命に想いを伝えているのに、眉一つ動かさない冷徹な人。
大人に恥を掻かせて内心楽しんでいるんじゃないのか。
こういった中傷が出回る事も少なくない。
時には意中の人を奪われたとか逆恨みされる事もあった。めんどくさ。
そういうのが起きる度に他のメンバーが火消しに回ったり……根も葉もないガセを広められてたら発生源を潰したり……なんだかんだで苦労してるな。
だが決まってハイクはこう言うのだ。
で、次はどこで遊ぶ? ってな。
お前がボーッとしてる間に俺らは動き回ってたんだよ!! と何度文句を言った事か。
なのにさ、じゃあ遊ばないの? とか言われるから、遊ぶし! めっちゃ遊ぶし!! と返すのが通例だ。
確かに助けてくれと言われた覚えはないし、俺らだって恩に着せるつもりもない。仲間が貶められるのは我慢できないから勝手に動いただけだ。
ハイクが唯一頓着しているとしたら、それは俺達と一緒に過ごす事だけ。
たまに数日姿が見えない時もあるけど、それ以外では一緒に行動している。
「あいつ、この日に限って失踪期とかじゃねえよな?」
「流石にねえだろ……たぶん」
「宿まで迎えに行くべきでしょうか?」
「お前まで遅刻するぞ! てか、あんまり甘やかすなよ」
失踪期とは、ハイクが行方を眩ます数日間を指す。
この間はどれだけ探しても見つからない。
初めて失踪期に入ったのは……確か5年前か。大変な騒ぎになったものだ。
一緒に遊んでいる時に失踪したから、壮大な”かくれんぼ”をしていると勘違いした俺は何を考えてか森まで探しに行き、同じく行方不明になった。
そしてラグは、ルイスとハイクが消えた! と泣き叫びながら町中を駆け回る。
結果、捜索隊が編成され、森で見つかった俺は魔物に襲われる寸前だった。
それを颯爽と助けてくれたのが捜索隊に居た冒険者であり、そんな命の恩人と同じ冒険者に憧れるのは、俺にとって当然の帰結というものだ。
ちなみに、ハイクは突然家に帰ってくるらしい。
両親との仲は良くないらしく、一応は失踪した時に関係各所へ連絡はするみたいだ。
けど……それだけ。
ハイクの両親が自らの足で探した事はなく、それに憤る人も多かった。
しかし、そんな事が何回か繰り返されると、誰もハイクを本気で心配しなくなる。
毎回無事に帰ってくるし、彼の両親は一番冷静だし……日常として組み込まれてしまった出来事である。
そういえば、当初は俺達4人で一緒にグランバスを目指そうという話が出ていた。1週間ぐらい早めに到着して、のんびり都を探索しようってプランだ。
だが、俺だけ外せない用事があって断念した。知り合いの冒険者達に別れの挨拶をしておきたかったからだ。
なんせ冒険者ともなれば依頼で町を出ていたりする人も多い。
要らなくなった装備を貰ったり色んな話を聞かせてもらってたから、出来るだけ挨拶をしておきたかった俺はギリギリまで粘っていたのだ。
他の3人を待たせるのも申し訳ないし、都の観光は入学後でも可能。
そういうわけで先に出発してもらい、俺だけ最後の出発となったのである。
……と、今はハイクの所在を突き止めないとな。
「ひとまず声出して呼んでみるか」
「やめとけ。余計目立つぞ」
「う……それは勘弁」
これ以上は目立ちたくねえからな。
「ですが、居ないと困りますよ? ここは恥を忍んでも声を出すべきでは?」
「……仕方ない」
しかし結局は大声で呼んでみることに。
俺だけ離れていいだろうか。
「じゃ、俺が……ハイクーーー!!!!!! どこに居るぅぅーーー!!!!!!」
ラグが大きく息を吸い込み、直後に途轍もない大声で叫ぶ。
俺とソマリは慣れたもので事前に耳を塞いでたが、周りは直撃を受けて悲鳴を上げている。
申し訳ない事したな……ごめん。
迷惑そうに周りから睨まれる中、突如として目の前の人垣が割れた。
そこから現れたのは……
「お〜、今日も元気だな」
現れたのはハイクだった。
黒を基調とした中々にカッコイイ服装に、腰へ差した4本の剣。
気の抜けた表情で台無し感があったが、イケメンなので許容範囲内というべきか。
「君達、新入生かい?」
「え、あ……はい」
と、合流を喜ぶ前に声を掛けてきたのは、いかにも優等生といった風貌の男だ。
先輩か?
「私は4年生のクリストフだ。生徒会長を務めている」
「あ、どうも。新入生のルイスです」
「ラグニーロっす」
「ソマリです。先程は騒ぎ立てて申し訳ありませんでした」
「……」
「おいハイク! 名前!」
「あ〜……ハイクです」
若干スムーズにいかなかったが、お互いが自己紹介を終える。
にしても生徒会長とはな、早速目を付けられてしまったのだろうか。
後で校舎の裏に呼び出されて……それはないか、生徒会長だもんな。
「君達は友人同士のようだが」
「そうです。小さい時からよく遊んでました」
「てか親友っす!」
「ちょっと、声が大きいですよ……」
「あ……すんません」
クリストフ先輩にも苦笑され、慌てて押し黙る。
「仲が良いのは結構だが、もうすぐ入学式が始まる。みだりに騒ぎ立てないように。いいね?」
「はい」
当然の注意を受け、俺達は大人しく入学式を待つ事にした。
あと5分ほどか……
「ねえルイス」
「どうした?」
「学校長の話とかあるのかな?」
「あ〜……あるんじゃね?」
「そっか。めんどくせ」
呟きながらハイクは欠伸している。
こうなると、いつ寝始めてもおかしくねえんだよな。
「ハイク……最初ぐらいは真剣に聞きましょうよ」
「まあ気持ちは分かるぜ。なんか退屈そうなイメージあるよな」
「それそれ。あ〜……寝てていいかな」
「ちょい待て。先輩に怒られるぞ」
このままだとハイクが静聴という名の睡眠学習に突入してしまう。
なんとかして学校長の話を聞くようにしないと……お、そうだ。
「だったらさ、賭けとかどうよ?」
「「「賭け?」」」
俺の提案に疑問を返す3人。
「こういう時に喋る人ってさ、”え〜”とか”あの〜”とか挟んでくるじゃん?」
「あ〜……たしかに」
「その回数を予想するってのはどうだ?」
「いいなそれ、 面白そうだ」
「そうやって何でも遊びにして……」
「じゃあソマリは不参加か?」
「いえ、やります」
やるんかい。
「よし、一番最初に出たワードで勝負だ」
「おっけ。罰ゲームは?」
「たしか食堂あるだろ? 最下位が皆の晩飯を奢るってのはどうだ」
「無難だね」
そんなもんだろ。
即席で暇潰しできるなら良いじゃん。
「最下位は一番遠かった奴でいいのか?」
「おう。そうしよう」
「んじゃ、始まる前に賭けちまおうか」
てことで回数の予想を各々が打ち立てる。
「俺は……17回」
「んじゃ俺は22回」
「そうですね……5回にします」
少なくね?
「意外と早く話し終わるかもしれませんから」
「あ、その線もあったか」
「撤回はナシですよ」
「しゃあねえ。で、ハイクは?」
まだ予想回数を宣言してないハイクに目を向けると、少し意味有りげな表情で答えた。
「100回」
「「多くね!?」」
「しっ! 静かに」
「だってさ、100回って……日が暮れるんじゃねえの?」
「大穴の方が面白いでしょ?」
「実際そうなると面白くはねえな。早く終わってほしい」
たしかに。
するとハイクは両手の指を一本ずつ立てる。
「そもそも、2人の予想が出た時点で俺は勝ち確定だったんだよ?」
「ん? なんで?」
「最小値と最大値が出たんなら、その範囲内にある限り負けないから」
「……あ」
ソマリが理解したようで呆然としている。
遅れてラグと俺も気付いた。
「丁度中間なら最下位が2人になるけどね。それでも範囲内なら負けはない」
「よく気付いたな。にしても、なんで勝ちを手放したんだ?」
「俺だけ気付いても面白くないからね。だから別の楽しみ方ってやつ」
余裕の態度である。
「つまり……52回を越えるかどうかに賭けたって事ですか」
「そ。53回以上なら俺の勝ち。未満なら俺の負け。100回よりは現実的で、良い感じに刺激的でしょ?」
ハイクは微笑を零している。
笑顔が爽やかなイケメンだなオイ!
「……それにしても大穴すぎじゃね?」
「それが良いんだよ」
俺の返しに、一層楽しげにするハイクだった。
スマホとかだと見辛く感じましたが、
あまり1行単位の文字数を減らすとPC側で見辛いような・・・
悩みどころですね。