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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第一章 入学
4/217

1_02_初めての魔具

登場キャラの男女比って気にするべきでしょうか……




翌朝。


窓から差し込んだ朝日が瞼を優しく刺激し、俺は目覚めた。

壁に掛けてある時計を見ると、今日の入学式まで3時間ぐらいだ。



「おぉ……ちゃんと起きれた」


そもそも朝に強い俺だったが、グランバス行き当日に寝坊しかけたから不安だったのだ。

ちゃんと起きれて良かった。


「さて、顔洗って飯食うか。で、食ったら早速都を見て回ろう」


誰に言うでもなく呟きながら、俺は宿の食堂へ朝食を食べに向かったのだった。





・・

・・・





「さすが都、飯も美味いよな……ちょっと朝から重い気はしたけど」


選んだ宿が冒険者向けだったからか、朝食はボリューム満点な内容だった。


ストーンボアの足肉とかアイバルアイのスープとか、珍しいものでモグリヘビの蒲焼なんかも少し出ていたんだが、そこまで料理名を聞いたところで宿の料理人に相手されなくなった。



毒なんか入ってないから黙って食え、なんて言われて厨房に引っ込んでしまったのだ。


そんな疑いは持っていなかったんだが、忙しいだろうし黙っていた。



で、朝食を平らげた後は、早めに起きて確保した時間で都の散策へと向かう。


昨日は武具屋と魔武屋に行ったから、今日は魔具屋だと決めて道を尋ねながら進んでいく。



かなり食べたから、腹ごなしには丁度いいな。



10分ほどして、特に問題なく魔法道具屋……通称、魔具屋に到着。


意気揚々と扉を開けて入っていった。




「お〜。見た目怪しさ抜群だな」


店内は少し暗く、早い時間だからか客は数人しかいない。


だが、なにより目を引くのは黒い布で覆われている棚だ。

そんなのが数箇所に点在している。



布で覆う事なく開放されている棚もあるが、そこには俺でも見た事あるような魔法道具ばかり置かれていた。


都の店だ! って感動するような陳列ではないが。



しかるに、黒い布で覆われた棚が気になってくるわけで……


「駄目よ」

「っお!?」

「客以外は立ち入り禁止」


おそるおそる黒い布へ手を伸ばしていた俺の耳に、不機嫌そうな声が届く。


びっくりした……



「聞こえなかったの? 客以外は立ち入り禁止」


念を押すように声を発するのは、店の奥にあるカウンターへ座っていた美女だ。店主……だろうか?


紫紺の髪は長くてサラサラで、少しキツめな瞳は黄金色だ。


背は女性にしては高いのか? 座高だから分からん。



なんていうか、不思議な雰囲気のする人だな。あれだ、魔性の女ってやつか。



「おいガキ、オリビアさんが機嫌損ねる前に出て行ってくれよ」



近くに居た客の男性に声を掛けられる。


だが、なぜ出て行かなきゃならないのか分からん。



「なんで?」

「聞こえなかったのかよ。ここは客以外」

「そんなん聞こえてるっつの!もう2回聞いたわ!」

「だったら出てけや!!」


何度も繰り返す展開にツッコミを入れると、テンポよく返ってくる。



「だからさあ!なんで出て行かなきゃならんのか教えてくれよ!」

「お前は客じゃねえだろうが!!」



これは心外。


どうやら俺は入店直後に客じゃないと判断されたようだ。



「なんで分かんだよ! あ、この言い方だと自分で認めてるみたいだな」

「……いいから出て行け」

「酷くね? なんでそんな邪険にすんだし」

「オリビアさんの迷惑になるだろうが」

「あの奥に居る人?」

「そうだ。もういいだろ、早く外」

「必死すぎじゃね? 好きなん?」

「っ!?」



図星か。

まあ美人だし、謎めいた雰囲気に惹かれたりすんのかな。


ちょっと顔を赤くした男性の横をすり抜けて、オリビアさんとやらへ近付く。



「……なに?」

「客じゃないって判断した理由を聞かせてくれ」



ここは支配者(店主だろうから)であるオリビアさんに直談判しよう。

他の客は当てにならなそうだし。



「商品を見に来た人全員が客よ」

「だったら」

「ただし、買えるならね」


遮られるように言葉を続けられた。


「俺は買えないと思ったわけか?」

「魔法学校の新入生でしょ?」

「!」


なんで分かった!?


「その装備、この近辺じゃ通用しないから。そんなのも知らない冒険者なんていないし、今日は入学式でしょ? 田舎から出てきて舞い上がってるお子様って感じも出てるし」


「い、田舎じゃねえし! 普通だし!」



淀みなく並び立てられて、ショボい反論しか出来なかった。


なんだよ普通って! 自分で言ってて分かんねえよ!



「田舎じゃないかは別にどうでもいいわ」

「そうかよ! でもさ、新入生だろうが買い物するだろ!」

「ダメよ。新入生は学校が用意した魔具を使うの」

「……そうなん?」

「ええ。初心者用から始めないと危険だから」



そう言ってオリビアさんはカウンターの引き出しから赤い箱を取って、俺の目の前に置いた。



5センチ四方の立方体だが、隙間が無いほど何かしらの模様が刻まれている。


芸術品のようにも見えるな。



「これ、何か分かる?」



小首を傾げて聞いてくるが、その目は”どうせ知らないでしょ?”と嘲笑っているように見える。



「……見た事ない」

「分かるか、って聞いてるの」

「もう少し時間があれば何とかなるかも」

「今答えなさい。分かるの?」

「……分かりません」

「大きな声で」

「分っかりません!!」



なんだよ言わせんなよ恥ずかしいだろ!


でもっ……それより答えを知りたい自分がいる! 悔しい!



「でさ、これ何?」

「系統変換の魔具よ」

「なにそれ?」

「この店に来る客の大半が、これを目当てにしてるわ」

「へえ」


そんな便利なのか。



「あなたの系統は?」

「ん? 火だけど」

「そう。私は水」

「あ、はい」


……え? 何の話?



「じゃあ、これは?」

「っ……!」



いきなり系統の話が始まって意味が分からなかったが、オリビアさんが差し出した掌から火が吹き出た。



「さっきの魔法は何かしら?」

「何って、火だろ? え、でもオリビアさんは水の系統……」


そこまで言って気付いた。



「その魔具で火の系統が使えるのか!?」

「ええ。発現してない系統でも使えるようにする魔具よ」

「すげえ!!」


欲しい!使ってみたい!


いや俺は火使えるけどさ! 他にも種類あるんじゃねえの!?



「お近づきの印に一つどう? どの系統にする?」

「マジか!じゃあ……え~と……風で!」

「風ね。試し撃ちしていく?」

「するする!」

「じゃあ、こっちに来て」



カウンターの一部を開けてくれて、俺は店の更に奥へと案内された。





「準備はできた?」

「おう!」


渡された魔具を片手に握り、俺は空いた手を部屋の後方へ向ける。


そこには大小様々な的があり、これを狙って練習するのだろう。


よくこんな場所を用意してたなと思ったが、それより試し撃ちだ。



「よっしゃ! いくぜ!」


魔力を掌に集めて……あれ?



なん……だ、これ……



「あ……く、あぁっ……は、はやっ……!」



魔力の流れが速すぎる!

今までこんな感覚じゃなかったのに……!


苦心して静止しようとするが、まるで無数の糸が螺旋を描きながら体を巡っているような感覚だ。


一部の流れを止めても、他の部分が引っ張っていったり衝突したり……



「っぐうぅ……”ひ、飛翔し……切り、裂く……風じ……” 」


魔力の流れを止められないのであれば出そう。


そう考えて懸命に制御を続け、なかば無理矢理に、練り上げた魔力の大部分を掌へと収束させる。



「うあっ!?」


しかし、消費すべく詠唱していたが、集めきれなかった残りの魔力が膨張した。



意識の大半を割かれ、収束させた魔力が制御を離れる。

直後に訪れたのは魔法の失敗によるペナルティ……反動だ。


不恰好な形をした風の刃が不規則に散らばる。


床に傷を付け、狙っても無い的へ向かい、俺の首を……



「……?」



柔らかな風が俺の首を優しく撫でて、それだけだった。


たしかに風の刃が首へと向かってきたのに……



「大丈夫?」


その声に振り向くと、オリビアさんが腕を組んで佇んでいる。



「……あ」

「あ?」

「危ねえっ!!!」



死ぬかと思った!!


「これで分かったでしょ?」

「何が!? 実は自殺補助の道具でしたって話!?」

「失礼ね! あなたが未熟なだけよ!」


オリビアさんはご立腹だ。

さすがの俺も少し反省する。



「あ、ごめん……なさい。道具は悪くないよな」

「ええ。あなたが能無しで、考え無しで、判断力も無いから悪いのよ」

「そこまで言う!?」


事実だったからこそ心に突き刺さる。


もう少し柔らかく表現してほしい。



「それで、何が分かったって?」

「危険性よ。身の丈に合わない魔具を使う事のね」

「……よく分かった。死んだかと錯覚するぐらい身に沁みた」

「実際死んでたわよ。私が助けなければ」

「へ?」


助けてくれてたのか?


「ヴェールをあなたに付与してたわ。この魔具でね」


そう言って胸元から出したのは、女神を模した意匠の首飾りだった。



「……どこ見てんのよ、変態」

「不可抗力だけど!?」

「そんなに好きなの? 堂々と宣言して、やっぱり変態ね」

「違う! そっちじゃない!」


胸を見てたんじゃない、胸元から出た首飾りを見てたんだっての。



「冗談よ」

「……思春期の男子に投げていい冗談じゃないと思う」



ともあれ、オリビアさんが軽減の魔法であるヴェールを使ってくれたようだ。

でも詠唱なんて聞こえなかったけどな。店で火を出した時もだし。



「オリビアさんって無詠唱の達人?」

「何言ってるの? 魔具の性能に決まってるじゃない」

「あ、そっか」

「便利でしょう? けど、危険でもあるの」


静かな瞳で射抜かれる。

実体験したわけだから頷くしかない。



「しっかり理解してる人の方が少ないから、あなただけ責めるつもりはないけど」

「いや、ごりごり責めてたけど」

「そういう大事な話は魔法学校で基礎を学べるわ。しっかり勉強しなさい」



スルーですか。



「でもさ、それなら先に言ってくれても良かったんじゃねえの? こうなる、ってさ」

「……魔法学校なら初心者用の魔具で使い方を学べるし、便利さを体験できる。でも、危険性を体験させたりしないわ」



そりゃあ、そうだろう。


わざわざ危険な目に遭わせるなんて頭おかし……あ、殺気を感じる。



「安全を第一に作った道具なら別に問題無いの。でも、若いと無理しちゃう子が多いからね。強力さだけを求めて、危険だって言ってるのに聞かない。それで怪我したり死んだりされると迷惑なのよ。危ない道具を作った方が悪いなんて言われたりもするし」


「それは流石に……ないだろ?」

「あるの。あなたは店が売ってくれなくても入手する方法を持ってる?」

「……持ってない」


いたって普通の超一流なヒヨっ子冒険者である魔法学校の新入生だからな。


闇取引なんかも危なそうだから手を出したくない。



「でも、持ってる人は持ってる。入手されるのは完全に防げないのよ。貴族とかね。与えたのは親なのに、お門違いも甚だしいわ」



実際に経験したのだろうか、たしかに理不尽だな。



「あなたは正規の手段でしか買えなくても、誰かに渡されたら? 近くで誰かが使おうとしたら?」

「……」

「どれだけ危険か知らないと判断を誤ってしまう。だから言っても聞かなそうな人には体験してもらってるわ」



そのための部屋でもあるらしい。



「よく分かったよ」

「なら良かった。それじゃ学校に行きなさい。初日から遅刻するのは勝手だけど、私の責任にされても迷惑だから」



部屋に時計が無いから時間を確認できないが、そんなに経過してもないから余裕がある。



「なあオリビアさん、時間ある?」

「デート?」

「ちが」

「無理。年下は無理……無理よ」

「一回でいいよ!!」

「最初で最後の思い出にって? それこそ無理ね。この根性無し」

「違う! そっちじゃなくて!」


どこまで責める!?


無理は一回言えば伝わるって意味なんだけど!?



「魔具について色々教えてくれたらな、ってさ」

「そうやって遠回しに距離を詰めようとするのね。無理、イライラする」


デートから離れてくれねえかな!?


「純粋に魔具に興味があるんだって!!」

「……私なんかより魔具が大事なのね」


傷付いたと言わんばかりの表情で、オリビアさんが俯いてしまった。


なんか心苦しい。



「あ、いや……そうじゃなくて」

「失礼とか以前に男としてどうかと思うわ。女に恥かかせるなんて最低よ」

「違うんだって! オリビアさんは美人だし、お近付きになれるなら嬉しいよ!?」

「……あなたの気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい。年下は無理なの」

「あれぇ!? 俺振られてる!? いつの間に!?」



この人怖い!!



「冗談よ。それで、時間だったかしら?」

「だからさ、思春期の男子に投げていい冗談じゃないと思うんだ」

「あら、本気にしてたの?」

「そうじゃなくて……もういいや」


続けないほうが良いと判断。



「で、時間ある?」

「デート?む」

「もういいから! それは終わりにしよう!!」

「あら……こんな短期間で破局するなんてね。この甲斐性無し」

「あ〜もう!! 帰る!!」



お話になりません!



「それで良いのよ。あなたに構ってる時間はないから、帰りなさい」

「弄る時間はあったのに!?」

「未練がましいわね。察しなさい」

「知らねえよ! 俺ってそんなに弄りたくなる!?」

「そうじゃない。女も魔具も順序があるの」


いきなり真面目な話に戻された。


ペースが掴めんな……



「私に女を求めても、魔具の知識を求めても、あなたに応えたいと思えない。そんな段階じゃないのよ、あなたは」

「……」


女は求めてねえんだけどな。


まあ、例え話か。




「まずは学校で勉強しなさい。話はそれからよ」

「……分かった。それじゃ」



最初からそう言ってくれれば引き下がったのに……


無い無い祭りで自分に何が残ってるか分からなくなったっつの。



「待ちなさい」

「なに?」



呼び止められて振り返ると、オリビアさんは手を差し出して告げた。



「その魔具、金貨200枚」

「返します」


くれるんじゃなかったの!? とは言わない。



当然の話だ。


身の丈に合ってない道具を渡す人じゃないって事は分かったし、俺も今となっては貰いたいと思えない。



「壊れては……ないわね」


一瞬ビビった。


「……弁償代とか請求されるかと思った」

「失礼ね。そんな詐欺まがいな事しないわよ」



オリビアさんに見送られて魔具屋を出た俺は、もう動き回る気力が尽きてしまったため宿に戻った。





入学式まで大人しくしてよう。


ベッドへ横になってダラダラしてた俺は、結局寝てしまって入学式1時間前に目が覚めたのだった。



「助かった……」



寝過ごしたらと思うと震えが止まらん。


おのれオリビアさん!


この恨みは……晴らせないな。



たぶん2万倍ぐらいになって帰ってくると思う。




ひとまず気分を切り替えて、俺は魔法学校の入学式へと向かうのだった。



もう少しキャラの特徴を設定出来ればな〜、と思う今日この頃なので、もっと頑張ってみます。



ひとまず続きは後日です。

1週間以内を目処に考えています。


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