式歌、校歌、卒業合唱。
「あお~げ~ば~とお―」
お馴染み、「仰げば尊し」である。
卒業生が教師たちに感謝し、学校生活を振り返る内容―
ヘドが出る。何が教師たちに感謝だ。
今ここには150人程度の卒業生がひしめいている。
一体その何割が教師に心から感謝しているだろうか。
今この場で思っていたとしても。
家に帰ったらキレイさっぱり忘れてしまうのではないだろうか。
どうせその程度のモノだ。
大体、教師という存在がよくない。
自分は教師だなんて9割は敵だと思っている。
優しそうな先生、厳しそうな先生。
どいつもこいつも裏があるように見えて仕方がない。
一年の時の担任は特にクズだった。
あれほど人間がゴミクズに見えるのも久々だった。
そう、忘れもしない合唱コンクール。
俺は伴奏者として選ばれた。
そして10月3日。
音楽の時間に弾いてほしいと言われていた。
だがしかし。
俺は前日に突き指をしていた。
指にはグルグルと包帯が巻かれている。
いつもの1.5倍ぐらい太くなった指。こんな状態で弾けるはずがないのだ。
音楽の先生には事情を話し、許してもらった。
そしてその日の帰りの会。
「匡さんは残ってください。」
皆の前で言われた。
何だコイツ。
そして連れていかれたのは教室から離れた数学科教室。
そして席に座るや否や怒号を食らわされた……
お前は何をしているんだ。
今日は絶対に弾かなければならない日だった。
弾けなかったお前は楽しそうに喋りながらお昼を食べていた。
心底腹が立った。
お前なんかクラスで干されてしまえ。
……いつもなら自分で無意識的に反省し、涙腺がゆるくなっていくのだが。
コイツの話は俺の心をピクリともさせなかった。
目の前で激怒するソレを、ただ無関心に見つめていた。
この時から俺は、先生の裏を探るようになった。
そして得られた結論。
”教師は90%以上敵である。”
俺は心から感謝できる先生などいない。
高校に受かったのも自分の力だ。
進路指導の教師なんかクソの役にも立たなかった。
こんな俺が仰げば尊しを歌っても何の意味もない。
「卒業生のみなさんは、合唱の準備をしてください。」
卒業合唱だ。曲はなんだったかな。よく覚えていない。
最初は女声パートから入るのだが……ピアノしか聞こえない。
なるほど……女子、撃沈率95%。声など聞こえるはずがない。
……というか男子も同等の撃沈率だ。
しっかり声が出ているのは俺と……あと数人だ。
だが軽く音がずれているのだ。奴らは。
ピアノも確実に練習時間が足りていない。
こんな適当なクオリティで。
こんな悲惨な状況にまでなって。
果たして卒業合唱などする必要がどこにあるのだろうか。
俺には見当たらない。
歌ならもう歌ったではないか。
大体、歌えていない奴が多すぎて歌とは呼びにくいモノになっている。
これがもし卒業生達の自己満足なんだとすれば。
これがもし教師たちの思い出になるだけなんだとすれば。
全くもって迷惑な話である。
自己満足のためなのに自分が歌えてないなんて。
思い出にしたいのに涙で見えないなんて。
これでは本当に無意味ではないか。
一体こんなもの……誰が考えたのだ……
……写真撮るなオカン。