溢れる涙と嗚咽の中、答辞は進む。
時は戻って1時間前。
登校し、教室に入る。
黒板には大きく書かれた「祝!卒業」の文字。
いつもと変わらない風にしながらも少し緊張した様子のクラスメート。
無駄に大きなハンカチを持った女子が複数人。
背後の扉が開く。
「よーし、じゃあ移動してー」
担任だ。呼びに来て移動を喚起している……あぁ、今年も始まってしまうのだな卒業式よ。
パッヘルベルのカノンに合わせてゆっくり、ゆっくりと入場する。
写真撮るなオカン。フラッシュが眩しい。
席に着いた。音楽が止まる。
ここから始まる、キュウ○ネコカミじゃぁ……ない。俺の戦い。
卒業証書をもらう。振り向く。写真撮るなオカン。
校長の話。教育委員会長の話。PTA会長の話。
無駄に長いんだよな……これからは1行30文字、3行制限を設けよう。よし。
そして送辞。
現生徒会長、真田君が読む。
多分書いたのはほとんど直されたのであろう文章。
ふと周りを見渡す。全4クラス、総勢約150人。撃沈率、実に45%。
まだ1時間ちょっとしか経ってないぞ……?
「これからの益々のご活躍を祈り、送辞とさせていただきます。」
はい。よくできました。
「答辞。卒業生代表、榊奈々。」
「はいっ」
元生徒副会長、榊奈々(さかき なな)。
身長165㎝程度、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。
運動神経抜群。優秀な頭脳。そしてこのルックス。
榊のことが気になって仕方がない男子、約83,4%。ソースは俺。
だがしかし残念だったな。榊には彼氏がいる。
意外と知られていない事実だ。
と、いらないこと言ってる間に答辞は進んでいた。
現状報告。撃沈率、80%。
なるほど。榊奈々……マジかこの女。
「3年生、最後の合唱コンクールではっ……ぅっ……綺麗な……歌声が体育館に―」
このタイミングで泣かれますか。いやぁすげぇ。怖ぇ。
文章はただ自分たちの中学校生活を振り返った稚拙なモノだ。
それなのに撃沈率はどんどん上昇する。
只今の撃沈率、87%。
まずそもそも。
何故泣く。
そんなに想いがあるのか。
この学校に。この学年に。このクラスメート達に。
我が第一湊中学に受験はない。
学区に住んでいれば自動的に通うことになる学校だ。
そんな学校に思い入れが?いや、ない。
中学なんて設備、構造は学校ごとにそう変わるものではない。
では学年、クラスメートか?それもない。
どんな奴だって嫌いな奴の一人や二人はいるだろう。
そいつと離れられると考えれば気が楽で仕方がない。
でも仲のいい奴とも離れるって?何を言う、笑わせるな。
今やLINEなどという便利で画期的なものがあるではないか。
遊びたければ集まって遊べばいい話だし。
話したければLINEすればいい。
と、いった具合だ。何が名残惜しいのだ。何か足りないと言うのか。
答辞を終え、涙ながらに帰ってくる榊。
撃沈率が90%超える中、俺は思うのだ。
「俺には……分からないッ!」