それでも僕は
僕は今日も、普通の制服を着て普通にローファーを履いて、普通に友達と学校への道を歩いている
僕、こと市川幸輝は思う、人の一生は川下りのようだもの、だと。
全てを流れに、周りの一般常識に合わせて、そこからはみ出ないように気を使って、長い長い川をくだっていく
だから僕は今日も悩むのだ。というのも、僕には人に知られればそれだけで常識の流れに逆行をする、そんな秘密があるから。
そう僕は、同性愛者なのだ。
いわゆる性同一性障害とは違う。だから僕には自分が男である自覚はあるし、それに不満もない。けれど僕の恋愛対象は、昔から男だったのだ。
今はもう高校二年生、自分の気持ちに折り合いをつけて、それを人前で話さないことぐらいはできるようになった。
けれど、小学生くらいの頃は大変だったのだ、僕は昔から人の顔色を見るタイプだったから、男の子が好きだ、といえば周りがどう反応するかくらいは想像がついたけど、それを心にしまっておくのにも、いささか苦労したのものだ。
だから僕は、その気持ちを吐き出したのだ、当時僕が恋をしていた男友達に
「僕は君が好きです、だから付き合ってください」と
もしそこでその友達に、しっかりとした拒絶をされれば、今の僕とは違ったかもしれないが、そのとき友達は、泣き出してしまったのだ。
心の未熟な小学生には、友達であるはずの同性からされた告白への戸惑いは、涙という形で溢れたのだろう。
僕は、やはりこうなるのか、とどこか分かりきった問題の答え合わせをするような気持ちでいて、すぐに冗談だよ、とその場をとりなしたのだ。
今も、それなりの友達として、それなりの付き合いがある。
それから僕は自分の気持ちはおろか、同性愛者であることもにひた隠しにして生きてきた。
「おい市川、何ぼーっとしてんのさ?」
一緒に登校していた友達、伊藤和宏の声で僕は現実に引き戻された。
「んーああ、ちょっと考え事してただけ、だよ」
僕は何事もなかったかのように、そう微笑み返す
「それなら良いけどさー、あんまりぼーっとして転んだりするなよなー?」
そう言って無垢に笑う伊藤の笑顔に、僕はそっと目を伏せる
本来、彼の笑顔を見る資格なんて無いのだ、何も知らずに友達でいてくれている伊藤に、好意をー友達してではなく、恋愛感情を持っている僕なんかには
それを全て理解して、それでも彼の笑顔から目を離せない、僕は本当にどうしょうもなく愚か者だ。
この世の中には、一般常識と異なる意見を持つマイノリティにどれだけ冷たいのかなんて知っているのに、それでも今すぐ彼に気持ちを伝えたい、そう僕の心は叫び、暴れる
結果なんてわかっているのに、彼の笑顔は凍りつき、やがて軽蔑に満ちた表情になることくらい、想像に難く無いと言うのに、僕は、自分の心の浅ましさに泣きそうなって、それでも抑えることはできない
「待ってくれ‥!伊藤!俺はお前が好きなんだ‥!友達としてじゃ無い、1人の男として、お前が好きだ‥」
僕は一息に言い切る、そしてもう、とめどなくあふれる言葉を塞き止めなられない
「俺は、いわゆる同性愛者でっ!お前が好きだった、ずっと前から!」
わかっているに、僕は伊藤の反応なんか、見なくてもわかるんだ
色を失うように凍りつき、5秒もあれば侮蔑と、軽蔑に満ちた顔になるのだ
「そ‥お前‥な‥」
僕はもう、この場から逃げ出しい気持ちと葛藤を続ける、それでも、気持ちを吐き出した以上、伊藤の怒りを受け止めるのも俺がすべきことだからー
「市川、俺は‥」
もうあの日から、一か月が過ぎた
今も俺は、伊藤と一緒に登校している
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