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山茶花1

 落葉が帰った翌週の金曜日、俺は町の南部にある商店街のとある店に訪れていた。


 「すいませ~ん。玄じいさんは生きてますかー?」


 木造の格子にガラスが嵌め込まれた引き戸を開けて、ある意味、きまり文句のような挨拶で玄関を仕切る襖の奥に呼びかけた。


 「ワシは生きとるぞ!誰じゃ!?」


 木の襖が開くとちゃんちゃんこを羽織った玄じいさんが勢いよく現れる。


 「元気で何よりだよ」


 玄じいさんは詩織と歩を含めた俺たちを幼いときから面倒を見てくれていた。例えるなら、暖かい目で見守ってくれている近所の優しいおじいさんのような存在だ。


 「なんじゃ、想真か……。今日はなにようじゃ? また、なにか必要なものでもできたのか?」

 「いや、今日は違うんだ。ちょっと聞きたいことがあって……」

 「どんなことじゃ?」

 「えーと……聞く前にひとつ確認しておきたいんだけど、玄じいさんは俺のじいさんと友達だったんだよな?」

 「まぁ、互いに競い合って高め合う関係ではあったな」


 やっぱり、そうだったか。なら、知っててもおかしくはないはずだ。


 「俺のじいさんがどうやって力を使っていたのかを教えてほしいんだ」


 「ふむ?」と玄じいさんは小首をかしげすこし思案すると、手招きして俺を家に招き入れた。昔ながらの畳の居間に通されると、玄じいさんはお茶を出してくれた。


 「ま、お茶でも飲んで、もう少し詳しく話せ」


 頷いて、今までの経緯を話す。

 主には落葉が置き土産にと置いていった真実についてだ。


 「ふむ、だとすると吹雪がこの町に来るのか……」

 「落葉が言うにはだけど……」


 真実を語る落葉が言うのだから、その真実に間違いはない。

 それを知ってか、真剣な表情で聞いていた玄じいさんはお茶を啜り、こう切り出した。


 「いいぞ、教えてやる」

 「よしっ」

 「と、言いたいところじゃが、私ができるのは見たことや聞いたことを伝えることぐらいじゃ、それでも大丈夫か?」

 「ああ、なんでもいい。少しでも、力のヒントがほしいんだ」

 「うむ。では、ちょっと長話になるが話をしようかのう。四季龍真が使っていた力について」


~*****~


 「それでどうだったの?」

 「え?」


 ふと、リュアナになにかを尋ねられた気がして、俺は考え事から現実に意識を切り替える。


 「ごめん、聞いていなかった」


 リュアナは呆れたようにふてくされながら、質問を繰り返してくれた。


 「今日の放課後、玄おじいさんのところに行ってきたんでしょ? どうだったのって聞いてるんだけど」

 「ああ、いくつかこの力の使い方について知ることができたよ」

 「えーと、『植物に力を与える力』だっけ?」

 「そうそう」


 母から受け継がれた『心と心を繋ぐ力』とは別に父親から受け継がれてきた四季の家に伝わる力。

 最近になって、その存在に気づかされたのだが、あまりにも漠然としていてその使い方がわからなかったのだ。

 そこで実際に使っていた俺のじいさんを知る玄じぃさんに聞きに行ったというのが今日の放課後のことだった。


 「それで具体的には想真くんのおじいちゃんはどんなことをしていたの?」

 「聞いた話だと、一番しっくりくるのは四季の木かな。1年に1回、この地域に住む誰かの願いを叶える力」

 「やっぱり、あれはおとぎ話じゃなかったんだね」

 「まあな」


 なにかを考え込むような難しそうな顔を浮かべるリュアナを見て、例えを間違えたかもしれないと思う。

 実際に見たことがある俺は納得できたが、うわさ程度に伝わっているリュアナにとってはいい例ではなかったのかもしれない。


 「でも、あれってどうやって力を発現してるんだろう。自分の思った通りのタイミングに発現しないと意味がないでしょ?」

 「えっ? まあ、そうだな」


 他の例を考えていたが、なんか大丈夫そうか?


 「死んだ親父とじいさんの話から考えると、トリガーを設定して、ちょうどいいタイミングで力を発現させるって言うのが定石みたいだから、そこから考えると、悲しい出来事が起こった後に願われた願いが四季の木のトリガーになってると思う」

 「なるほどね……」


 リュアナが納得するように頷くと、一通りの話を終えたことで気が緩んだのか俺のお腹がぐぅーと鳴った。


 「悪い。お腹が減ったみたいだ」

 「うんん、こっちこそごめんね、いま持ってくるからね」


 慌てたリュアナがキッチンへ向かおうと立ち上がった。


 「あ、俺もいくから」

 「ごめんね。ありがとう」


 とにもかくにも、今は腹ごしらえ。ちゃんと栄養を取らないと頭も回らない。

 リュアナの料理を運ぶため、俺もまたキッチンへと向かった。

 食卓にならんだのはグラタンとスープそして、サラダだった。


 「グラタン……久しぶりだな。初めてリュアナの家にいったとき以来じゃないか?」

 「そうかもしれないね。それに、想真くんにこうして料理を作ること自体少なかったから」

 「確かに」


 うんうん、と頷きながら、毎日リュアナの手料理を食べれる今の幸せを噛み締める。


 「それじゃあ冷えても申し訳ないし、いただきます」

 「はい、どうぞ」


 スプーンで一口頂く。心がほっと温もるようなまろやかな味に心から美味しいと思った。


 「やっぱり、リュアナのグラタンは美味しいなぁ~」

 「お褒めに預かりとても光栄です。王さま」

 「うむ。して、前はカボチャなんて入ってたか?」

 「入ってはおりませんでした。はっ、もしかして苦手だった?」


 リュアナが素に戻り、聞いてきた。


 「苦手じゃない。ホクホクで美味しいよ。ただ、ちょっと思い付いたことがあって」

 「思い付いたことって?」

 「リュアナ、このカボチャの種まだあるか?」

 「種? 種ならまだゴミ箱に……」


 俺は少し急いでキッチンのゴミ箱を覗き込む。

 ああ、あったあった。

 くりぬかれて、捨てられた種の集団から三粒のカボチャの種をとってティッシュにくるむ。

 食卓に戻るとリュアナが不思議そうな表情で見てきた。


 「それ、どうするの? 家庭菜園?」

 「ん、今日の実験かな。リュアナ、この後、ちょっといいか?」

 「それはデートのお誘い?」 

 「半分はそうで、半分は違うかな」


 「それじゃあ、楽しみにしてるね」そういうとリュアナは食事に戻り、スピードを上げて食べ始めた。この速度が彼女の期待度。それに俺は答えられるだろうか? 少し不安になりながらも、慌てて食べるリュアナを注意した。


 「こら、そんなに慌てて食べるとむせるぞ」


 案の定、この後リュアナはむせた。


~*****~


 「それで、白雲公園になにをしに行くの?」


 葉も芽もない桜が並ぶ桜坂を登りながら、リュアナは尋ねた。


 「えーと、ひとつは実験……ふたつ目は確認ってところだな」

 「確認って?」

 「着いてからのお楽しみ」


 日本有数の坂を登り終え、やっと白雲公園にたどり着く。


 「はぁー、やっと着いた~」

 「ああ、やっと着いたな」


 白雲公園はいつも通り静けさを保ち、木々の枝を通り抜けていく風はとても冷たかった。

 入り口ですこし休憩して、木々に包まれた一本道を進む。


 「想真くん、それで確認って何の確認なの?」

 「ん? ああ……。吹雪がこの町に来ているかの確認だよ」

 「そっか……、もしも吹雪ちゃんが来ているなら、四季の木には別の花が咲いているはずだもんね」

 「そういうこと……」


 ここを通るとき、それは少なからず、前向きな気持ちだった。けれど、今日の足取りはかなり重かった。


 「きっと大丈夫だよ」


 リュアナは放り出していた俺の手を握る。

 冷たい風を切っていた手から感じる人肌の温もりに後押しされて、重いその足を前へと動かした。


 「ああ、行こう」


 白雲公園の中心部。町を展望できる広場には山から降りてきた木々に包まれるように四季の木が存在する。

 日高の町を高々とそして雄々しく見守る四季の木は赤い花を付けていた。


 「咲いてる……」

 「ああ、咲いてるな」


 見た目は椿にも見えるが、花びらが堕ちているところを見ると山茶花だ。けれど、いま重要なのは花が咲いているということ。


 「落葉の言う通りになりそうだな」

 「だ、大丈夫、私が必ず守るからっ!」


 手を包み込み、安心してっと意気込むリュアナだが、その表情からは不安が滲み出ていた。

 ぺしっ、と音がなりそうなチョップをリュアナのおでこに当てる。


 「痛っ?」

 「それはこっちの台詞だ。今度こそ、必ず守って見せるから」

 「うん」


 少し安堵したリュアナの表情に俺は誓う。

 次はない。例えどんなことが起きようが俺は必ず守って見せる。

 それがあの過去を乗り越えたという証明になると信じているから。


 「そのためにも頑張らないとな。具体的にはこれを使うんだけど」


 ズボンのポケットからカボチャの種が入ったティッシュを取り出す。


 「カボチャの種?」

 「まあ、見てて見てて」


 3つのうち1つに願いを込めて、放り投げる。

 ぽとっと地面に着々した種は、まるで成長を倍速で見ているような感じで、凄まじい速度でツルを伸ばし、花が咲いたと思ったら枯れて実をつけた。

 成長が止まると、一瞬、時間が止まったような感覚に襲われた。


 「い、いまのなにっ!?」


 植物がうねうねと動くその姿が気味ち悪かったのかリュアナはかなり引いていた。


 「衝撃を与えると実を付ける力を持たせたんだけど、なるほどこうなるのか……」


 ゆっくり動く植物がこうも急成長しだすとなんというか触手のようで気持ち悪い。


 「こ、これ、もう動かないよね?」


 恐る恐ると言ったようにリュアナは大きくなった実をつつく。

 実がことことことこと……と震え始めた。

 

 「もしかして……」


 リュアナはなにか勘づいたように俺の後ろに隠れるように下がった。

 ああ、俺もわかったぞ。

 力は子へと受け継がれる。それはカボチャも同じで、力はカボチャの実に詰まった種子へと受け継がれ、そして、リュアナがつついたことで発動した。

 パンパンに腫れ上がるカボチャの実は弾けるように亀裂が入り、中から出よう出ようとする蔓によってバラバラになる。

 我先にと穴が開いた場所から無数の緑の蔓がぞろぞろと地面へと這い出て、公園のグラウンドにはクモの巣のようなものが描かれていた。

 蔦が俺たちをつたってくるかと怯えていたが、間一髪。俺の靴に巻き付くぐらいで成長は止まってくれた。


 「これは一種の生物兵器だね……」


 顔を青白くするリュアナに俺は頷いた。


 「力には回数を決めておいた方がいいな。カボチャが世界を侵略しかねない」

 「うん……」

 「とりあえず、力を書き換えるよ。これは危険すぎる」

 「そうかしら? とても面白いものだと、私は思うのだけど」


 ふふっと愉快げに笑う女の声。そして、コツと何かを蹴るような軽い音を耳にする。

 音で分かる。どこの誰とも知らぬ女が力を持ったカボチャを小突いたのだ。


 「やばっ」


 すこしでも遠くへと咄嗟にリュアナに向かって土を蹴る。一瞬のことで呆気に取られるリュアナを守るように抱き締め、そのまま押し倒す。

 俺たちの体が地に落ちた瞬間、それは起きた。

 女が蹴った実から弾けるように溢れだしたカボチャの蔓は複数実っていた実を刺激し、連鎖反応を起こしていく。

 いつしか俺たちの上にも蔦は幾度と蔓延り、リュアナの上に乗る俺は頭も上げれない状況になっていた。


 「使い方を間違えるとこうなるのね……。まあ、いいわ。ねぇ、想真くんだったわよね?」

 「そうですが、なにか?」


 苛立ちを込めながら重く返答する。


 「このままだと町中に蔓延してしまうわ。早くなんとかしたら? これはあなたの責任でしょ?」


 お前もその原因なんだよ。という言葉は一旦飲み込み、丁寧に返答する。


 「ええ、そうですね。なんとかしましょう。リュアナ、すこし体重をかけるぞ」

 「う、うん、大丈夫……」


 体を支えていた手を外し体をリュアナに預ける。自由になった手はすぐさま蔓を握り、願う。


 ──俺の声の通りに動け、と。


 「止まれ」


 その声に反応して、成長のすべてを止める。


 「実は枯らし、蔦は俺から2番目に近い女を捕らえよ」


 「あら?」と言う女の声としゅるしゅると蔦が絡み付く音が聞こえた。


 「ああ、それと俺の上に乗っている蔓を退けてくれ」


 蔦は言うことを聞いて、背中に蔓延った蔦が外れる。


 「大丈夫か?」

 「まあまあ」


 苦笑いを浮かべるリュアナを立ち上がらせながら、捕まえた女の方を見た。

 暗いワインレッドのような赤い髪、そして、その目。それはまさしく、四季の木に咲く山茶花のよう。

 四肢を縛られて身動きのとれない女は何度と見てきたあの子達に類似する笑顔を浮かべて、こう言った。


 「こんばんは、想真くん。落葉から聞いているでしょ? 私が吹雪よ」

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