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金木犀16

 文化祭当日。

 一日目の今日は映画制作や舞台制作などの発表会が全校生徒にだけ行われる。

 なぜ、初日に一般人の客を入れないかと言うと、体育祭が終わったばかりで屋台などの準備が追い付いていないのが理由である。

 例のごとく、俺達も準備に追われていた。午前中に行われた発表が思い出せないぐらいにだ。


 「歩、そっちは立てれたか?」

 「ああ、ちゃんと立ったぞ。これでこっちは大体キリがついたな」

 「そうだな。隣はどうなってる?」

 「それなら、親方と小宵ちゃんがまとめてくれているから、もうすぐ終わりそうだよ」


 そういいながら、ダンボールの迷路から顔を出すさっちゃん。持っているダンボールを見る限り、どうやら余った飾り道具を置きに来たようだ。

 小宵達の方ももうすぐ終わりか。


 「歩、こっちも終わろう。みんなを隣の部屋に集めてくれ、ここじゃ狭すぎる」

 「ああ、そうだな」


 みんなを呼びに行く歩を見送り、暗くなり始めた窓の外を見る。

 思っていたよりも、だいぶ時間を掛けてしまった。でも、その分、みんなが納得できるいいものが出来たとも思っている。


 「これで明日頑張れば、きっといい思い出になる」


 うんうんと明日へのモチベーションを高める。


 「おーい想真、みんな集まったぞ~」

 「わかった。すぐそっちに行くよ」


 歩に呼ばれみんなが待つ、隣の部屋へと向かう。明日の文化祭に想い馳せながら。

 しかし、この時、まさか落葉の口からあんな真実を告げられるとは、夢にも思っていなかった。


~*****~


 待ちに待った文化祭二日目。

 開幕と同時に日高高校には多くの人が訪れた。

 呼び込みの仕事の合間に、楽しそうに談笑する人々の声に耳を傾ければ、この学校の学生はもちろんのこと、卒業生や他校生徒、元この学校の先生なんて人もいた。

 いろんな人が来ているんだな……と整列させていると、星真さんに出会った。


 「え?」

 「こんにちは、想真くん」


 美羽ちゃんを失った星真さんが文化祭に顔を出したことに驚きを隠すことができず、慌てて挨拶を返した。

 どうして来たのかを尋ねると、このにぎやかな雰囲気が好きなんだと笑って答えてくれた。

 そのどこか懐かしむような笑顔に、星真さんの学生時代もこんなに楽しかったのだろうかと勝手に想像してしまう。


 「おーい、想真ー! 列を正してくれ~」


 歩の声にふと我にかえると迷路喫茶の客足は伸びていき、気が付くと乱れるほど列になっていた。

 俺はすいませんと断りをいれてから、星真さんに「楽しんでいってくださいね」と頭を下げてその場から立ち去った。

 「ああ、今日はいっぱい楽しませてもらうよ」と星真さんの深く刻まれた皺が緩むのを俺は見逃さなかった。


~*****~


 「大方、人がさばけてきたし、想真、リュアナ休憩行ってきていいわよ」

 「え?」


 調理場でサンドイッチを作っていた俺たちは、フロアから帰ってきた小宵にそう言われ驚きの声を上げた。


 「でも、忙しんじゃないのか……?」

 「なに言ってるの? ここでイチャイチャしながら料理をされると迷惑なのよ。だから、イチャイチャすることが飽きるほど外でイチャついてきなさいよね」


 温かい微笑みを浮かべてくれる小宵。


 「ありがとな」

 「ありがとう、小宵ちゃん」

 「さっ、後は任せて早く行きなさい邪魔よ」


 小宵は相変わらずのツンデレをかましてくれる。でも、そんな心遣いにとても感謝している。


 「ほら、小宵たちに迷惑なんだと、さっさと外にいってイチャイチャを見せつけに行こうぜ」

 「あ、ちょっと待って想真くん。私、着替えないと」


 リュアナが着ていたのは白と黒のまるでドレスのようなメイド服。制服でもかわいいが海外のお姫様のように似合っている。


 「いや、着替えなくてもいいよ。な、小宵?」

 「ええ、ジャンジャン宣伝してきて頂戴」

 「え~、恥ずかしいよ~」

 「大丈夫、似合ってるから。いこっ」


 恥ずかしそうに「そうかな~」と言うリュアナを強くその手を引いて外に連れ出した。


~*****~


 やはりと言うべきか、ルックスと服装が相極まったリュアナは誰かとすれ違うたびに振り向かれた。

 彼氏としては誇らしい限りではあるが、


 「やっ、やっぱり恥ずかしいよぉ~」


 リュアナにはその視線が羞恥に感じるようだ。


 「着替えてくるね」そう言って今にも駆け出していきそうなリュアナを手を取って引き留めた。


 「クラスの宣伝のためだ。我慢しなさい」

 「想真くんって、ときどきいけずになるよね」

 「そうでもないさ。リュアナの気持ちもよくわかる、だからあそこにいかないか? あそこなら絶対、人が少ないと思うんだけど」

 「え、どこ……って、あそこって……」


 店を見てリュアナの顔がどんどん青ざめていく。

 俺がリュアナに誘ったのはお化け屋敷だった。

 外見から見るに学生が作ったものなのでクオリティーはそこまで、お化けが無理なリュアナでも行けると思ったんだけど。


 「無理無理無理無理無理無理無理、絶対嫌だから! 絶対行かないから!」


 廊下で屈みこみ高校生とは思えないほど駄々をこねるリュアナ。今度は違う意味で目を引いている。


 「ねぇ、あのお姉ちゃんどうしてしゃがみ込んでるの?」

 「どうしてだろうね? あの、大丈夫ですか? 気分が悪くなったとか」

 「あ、そういうのじゃないので大丈夫です! ご心配かけてすいません」


 それならと心配そうにリュアナを見ながら去っていく親子。このままじゃ、さらに被害が拡散してしまう。


 「リュアナ、もうあそこには行かないから、だから起き上がってくれ」

 「ホント?」


 警戒心を解かないまま見上げてくるリュアナ。


 「ああ、絶対だ。今度はリュアナの行きたいところに行こう。案内してくれよ」

 「うん]


 そう言って連れていかれた場所は、


 「なんだ、ここは……」


 お化け屋敷に似た……いや、それ以上にオカルトじみた部屋だった。


 「ここはね、よく当たるって噂の占いの店なの」

 「それにしても怪しすぎる。大体なんで体育館の倉庫でやってるんだ?」

 「なんでも、ここにはちからが眠っているとかなんとか」

 

 倉庫で眠っている力? なんか、占いとは関係のない力のように思えるが。


 「ま、いいや。リュアナはこういうの苦手そうなのにここは行けるのか?」

 「怖いよりも興味の方が強いからね」


 ほほう、怖さよりも好奇心の方が勝ったのか。


 「そっかそれなら、お化け屋敷も──」

 「無理だからね!」


 シャー! と毛を立たせる猫のように警戒するリュアナ。

 わかってるわかってるとポンポンと頭をなでながら落ち着かせた。

 占いの店に入ると想像以上にダークだった。

 不気味なマットに、骸骨、首飾り、星新一の悪魔の椅子のようなものまである。

 作りが凝っているなぁ~と感心していると誰かに腕を掴まれた。

 もちろん、骸骨やゾンビのようなモンスターではなく、リュアナだ。


 「なんだ? 怖くなったのか?」


 こくりと頷くリュアナ。

 しかし、自分から言い出したことだ。少々荒療治になるが馴れてもらおう。


 「リュアナ、少しだけ我慢な」


 その言葉にリュアナは再び頷いた。


 「どうぞこちらへお座り下さい」


 部屋の奥には顔を布で隠した女子学生が座っていた。

 どうやら彼女が占ってくれるようだ。


 「えーと、ここでいいのかな」

 「はい」


 俺達は物珍しい椅子に腰かける。

 本物の占い師を見たことはないが、この落ち着き具合といい本物の占い師のようだ。


 「それで占ってほしいことはなんでしょうか?」

 「あ」


 そういえば何を聞くのか決めてなかった。


 「どうする、リュアナ?」

 「えーと、私達二人の今後について、お願いします」


 おお、なかなかいい質問だ。


 「わかりました。お二人の名前と生年月日をお願いします」

 「はい」


 言われた通りに渡された紙に名前と生年月日を書いて手渡す。

 

 「ありがとうございます」


 彼女はそう言って紙に目を通した。


 「四季さん、あなたは恵まれていますね。こんなにも献身的な彼女がいて」


 神秘的な雰囲気を持っていたはずの占い師が笑みを浮かべていた。


 「え、まあ、確かに」

 「えへへ」


 誉められたリュアナはとても嬉しそうだ。


 「実はあなたにもうすぐ試練が迫ってきているのですが」

 「え?」

 「あなたの彼女である朝霧さんが助けてくれます。他にも試練があるのですがきっと大丈夫でしょう」

 「そ、そうですか」


 俺の試練ってどれだけあるんだ。


 「なので、朝霧さんに逃げられないように気を付けてくださいね」


 そう占い師に微笑まれたのだった。


~*****~


 「さて、次はどうする?」

 「いっぱい食べよう。想真くんが奢ってくれるんだよね?」

 「うっ」


 そんな前のこと覚えていたのか……。


 「私って以外と記憶力はいい方なんだよね~」


 それはリュアナのテストの回答用紙を見れば明らからだ。しかし、そうか。俺は渋々了承した。


 「よろしいよろしい。それじゃあレッツゴー!」


 さっきまで恥ずかしがっていたリュアナはどこへやら、元気よく歩くリュアナに俺は後を追った。

 まず、最初に買ったのは焼きそば。匂いに惹かれたのが原因だろう。そこから、たこ焼き、お好み焼きと粉ものが続き、焼きトウモロコシ、焼きおにぎり、そして最後のデザートとしてクレープを買い込んだ。


 「さすがに買いすぎじゃないか?」

 「そんなことないよぉ~。あ、あれも……」


 今にも買ってきそうなリュアナを手を掴み止める。


 「まってくれ、これ以上は財布とお腹がもたない」

 「あはは、それもそうだね。どこで食べる? いつもの食堂とか?」


 うーんと考えて、ひとついい場所を思い付いた。


 「いいところがあるんだ。ちょっと着いてきて」

 「う、うん……。いいけど、どこ?」

 「着いたらわかるよ」


~*****~


 リュアナを引き連れて、階段を登っていると、どたばたと複数の足音が迫ってきた。

 なんだろうと廊下を見れば、そこには騒次とセリアさんの姿があった。どうやら、セリアさんが追いかけているようだ。


 「あ! 想真くん、リュアナ! 騒次を止めて!」


 セリアさんに言われて、俺達は驚きながらも道を塞ぐ。

 しかし、


 「じゃあね。想真くん、リュアナちゃん」


 騒次は手を振ると直前の教室に入っていった。

 慌ててその教室に近づき、その扉を開けようとしたが、鍵がかかって開かない。

 あり得ない。そう思いながら、もうひとつの扉を開けようとするがやはり開かった。


 「どうなってるんだ?」


 教室の扉は、片方の扉だけ中からも鍵を閉めることが出来るのだが、騒次が入っていったのは中から鍵が閉めれない方の扉だった。それなのに両方とも鍵がかかって開かないなんて。


 「してやられたわね……」


 追い付いたセリアさんが荒い息をあげながら言う。


 「でも、どうやって? あの短時間じゃ、鍵を閉め直したり移動したりって動きはできないはず」

 「ごめんなさい。私にもそこまではわかっていないの。なにか、裏技のようなものがあるはずなんだけど」

 「やっぱり騒次くんって一筋縄では捕まらないね」

 「そうね。また、対策を練らないといけないわ……。あ、二人ともせっかくのデートなのに引き留めてごめんなさいね」

 「いえいえ、また何かあれば手伝いますので」

 「ありがとう」


 「それじゃね」とセリアさんは来た道を戻っていった。


 「それじゃ、俺たちもいくか」

 「まだ、上にいくの? あ、もしかして」

 「そ、そういうことだよ」


 最上階の扉を開けると、そこに広がるのは青だった。

 海の青さではなく空の青さだ。

 晴天に恵まれたお陰で雲ひとつない。


 「うわー、綺麗だね。街も一望できるし、空もきれい」

 「ああ、そうだな」


 本当、テラスで見るより四方が見れるため解放感に溢れて、


 「気持ちいいな」

 「そうだね」


 自由になったようだ。


 「そろそろ食べるか、おなかが空いてきた」

 「えへへ、わたしも~」とお腹を擦るリュアナ。

 「んじゃあ、何から食べる?」

 「たこ焼きかな」

 「即答か……ちなみに理由は?」


 無邪気に口を開けるリュアナ。

 食べさせてほしいということだろう。


 「わかったわかった」


 ビニール袋から六個入りのたこ焼きを取りだし、ひとつを串で指した。


 「ほら、いくぞ。あーん」

 「あーん♪」


 たこ焼きを一口で頬張るリュアナ。こうして、食べさせていると鳥に餌付けしているようだ。


 「ほら、もう一個いくぞ。あーんむぐっ!?」


 にこにこしながら俺から貰ったたこ焼きをリュアナは食べた。俺もリュアナに不意打ちで入れられたたこ焼きを頬張る。

 うん、暑さもちょうどよくてなかなかいける。

 もうひとつと、串でたこ焼きを刺して、食べようとするとリュアナに手を取り押さえられて食べられた。


 「リュアナ、それ俺が食べようとしてたんだけど」


 ごくん、と飲み終えたリュアナは「いいでしょ、いっぱいあるんだし」といってもうひとつ口にいれる。

 それからはとったもの勝ちのようになって、お互いいい感じにお腹が膨れたのだった。


~*****~


 ふと、フェンスに張りつき眼下に広がった景色を見ながら俺はひとこと呟いた。


 「なあ、リュアナ。あの占い師が言ってた試練ってなんだろうな」


 占い師に言われた試練。

 春に出会った舞も、夏に会った梅雨も二人は一貫してこの先になにかが起こるといっていた。それが、もし占い師の言っていた試練だとすれば……。


 「なんだって大丈夫だよ。わたしがいるから」


 後ろから抱き締められるリュアナの温もりに俺は心が安らぐ。


 「だめだな、俺は。また依存してしまう」

 「大丈夫だよ。わたしはいなくなったりしないから」

 「ああ、そうだな……」


 向き直り、リュアナを強く抱き締める。


 「ずっと、俺のとなりに居てくれ」

 「もちろんだよ」


 一分ぐらいそうしていて、離れると、タイミングを見計らったように金木犀に似た黄色い髪をなびかせ落葉が現れる。


 「想真くん、君に話したい真実があるんだ。わたしは覚悟したよ。やっぱり、大切な友達に隠し事はできないからね。だから、君も覚悟して聞いてほしい」


 金木犀の香りが風に乗り、秋の終わりをいま伝える。


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