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金木犀15

 「助かったよ~!」


 (くるぶし)がまだ濡れたままのリュアナが飛びついてきて、それを受けとめる。


 「かっこよかったよ」

 「勝負では負けたけどな」

 「それでもいい。私にとっては王子様だよ」


 ちゅっ、と俺の頬にリュアナがキスをした。

 すると、またもや外野が冷やかすような歓声を響かせた。

 ちょっと、恥ずかしいな……これ。


 「それはそうと、他はどうなってるんだ?」

 「それなら、ほらあれ」


 朝礼台に置かれた巨大なモニターに静華さんと歩の姿が写っていた。


 「あれ、誰が持ってきたんだ?」

 「うちのお母さん……」


 申し訳なさそうにリュアナがそう言う。


 「なるほど、あの人もグルなのか……」


 確かに、学園長のあの人が許可しなければこんなことおおやけの場で出来るわけがないか。


 「にしても、歩はなにと戦っているんだ?」

 「雪さんって人が作ったロボットだよ」


 モニターの中では縦横無地に動く等身大の人形のロボットが火を吐きながら、歩を攻撃していた。


 「あそこにいるのが俺じゃなくてよかったよ……」


 ああいうのは、きっと歩にしかかわせないだろう。

 あ、倒した。


 「今のどうやったの!?」

 「歩の力だな」


 歩の力というのは、心身の速度を加速させる力のことではなく、技術的な方の意味だ。

 ある程度、行動パターンを予測し、精密機器に大きな損傷を与えるための一撃を穿つ。

 そんなことができるのは、情報分析が得意な歩にしかできないことだった。


 「静華さんは?」

 「綾さんと均衡してるよ。時間もあまりないんだけどね……」


 焦るリュアナ。透明な筒に閉じ込められたセリアさんは膝のところまで水嵩(みずかさ)が増している。


 「セリアさん、大丈夫ですか?」

 「ええ、私は。それよりも、小宵ちゃんの方は」


 身長差で膝上まで嵩はあるが、


 「もうすぐ来ると思うので大丈夫ですよ」


 そう言っている間にも歩が到着し、小宵の鍵を開けた。


 「静華さんの戦いももうすぐ終わりよ」

 「どういうことだ?」


 足を拭きながら出てきた小宵に聞くと「まあ、見てなさい」と返ってきた。


 モニターの中では、静華さんと綾さんが手や足を果てしなく交わらせていた。確かにこれでは均衡したままだ。

 その時だった。


 『やぁああああっ!』


 空から綾さん目掛け、詩織が降ってきた。


 『なっ!?』


 不意を付かれた綾さんは詩織をかわすことができず押し倒される。


 『静華さんパスです!』

 『ああ……』


 拍子抜けした静華さんが詩織から鍵を受け取る。


 『さて、ここからはお・と・なの時間ですよ~!』

 『ちょっ、やめっ、いやぁあ~!』


 わしゃわしゃと指を細かく動かしながら、もがく綾さんを襲う。

 さすがに襲っている(襲われている)シーンはモニターに写ることはなかった。


~*****~


 「これで、無事全員が……」

 「助かってないよ。朝宮さんを忘れちゃダメだよ」

 「ううっ、すいません(影が薄くて)」


 申し訳なさそうに筒のなかで謝る朝宮さん。とても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 「今のは俺が悪かった、ごめん。だけど、鍵はひとりひとつしか持ってはいけないルールだろ? それに鍵は誰が持っているんだ?」


 学園思い出作成クラブにいたのはあの三人だけだったはずだが……。


 「この一件、私に任せてもらえないでしょうか?」


 そう声を掛けてきたのは、イケメン眼鏡大沢基樹だった。


 「学園新聞部総部長として、部員が辱しめに合うのは心にくるものがありますので」


 そうか、朝宮はこれでも学園新聞部に所属していたんだった。


 「でも、鍵は……」

 「心配無用です」


 普段とは違った真剣な表情でそう言うと、騒次の方に向き直る。


 「学園思い出作成クラブも、また要らぬことをしてくれましたね。インタビューの時間を少し押すはめになってしまいましたよ」

 「そうかな? 友香ちゃんを人質として出すことで君が出てきて、いい記事のネタになると思うんだけど」

 「残念ながら自分をネタにするのは、自分の調査したネタに自信がなかった、あるいは調べていなかったと勘違いされてしまうので、控えさせていただきます」

 「そっかぁー。なかなか、winのwin関係を作るのも難しいんだね~」

 「ええ、本当に。話はここまでです。朝宮を返してもらいますよ」


 大沢が騒次に近づき、そのポケットに手を伸ばす。しかし、

 ──パーンッ!!

 その手は騒次の手によって払われる。


 「そう簡単にこれを渡すと思ってた?」


 騒次がポケットに手を入れ鍵を取り出して見せる。


 「いいえ。でも、簡単に渡してくれた方が私としても楽だったのですが」

 「それじゃあ、楽しくないでしょ?」

 

 さも当然とでも言うような笑顔を大沢に向ける浮かべる。


 「あなたはそうかもしれませんね」


 大沢は一瞬で騒次と距離を詰め、その鍵を奪おうと手を伸ばす。


 「しかし生憎、私たちには時間がないもので」

 「そうみたいだね」


 体を後方に反らし、大沢の手を逃れる。そして、わざとらしくよろけた動きで距離を取った。


 「本当にあなたは道化ですね」

 「まぁーねぇー」


 余裕そうに鍵をくるくると回す騒次に大沢は言う。


 「少し、本気を出します。次で決めますよ」


 その言葉にニヤリと騒次が笑う。

 大沢は騒次に距離を詰めると、さっきとほぼ同じ型で手を伸ばす。

 もちろん、騒次はその手を避けようとした。それもさっきとは違う方向にだ。けれど、


 「鍵はいただきましたよ」


 まるで大沢の手が鍵に吸い寄せるられるように動き、簡単に騒次の手から鍵を奪った。


 「うわっ、さすがは基樹くんだ」


 驚く騒次の発言をきっかけに外野が歓声の声をあげる。


 「ありゃすごいな。あいつ、方向や距離、速さ、すべて予測して本当に当てやがった」

 「予測……未来予知のようなものか?」

 「いや、コンピューターのような感じだ。予測演算して、あらゆる可能性の中から正解を導き出す。未来予知は結果は同じかもしれないが、予測演算は過程がはっきりしている分、修正が効きやすいんだ。けど、ここまで正確にできると本当に人間なのか疑いたくなるな。あるいは力を持っている可能性もあるか……」

 「力ねぇ……」


 突然現れたり、窓から飛び降りたりしている姿を見ているので、おかしいとは感じない。むしろ、ないほうが疑ってしまう。

 俺たちがボーとしている間に、大沢が朝宮さんの鍵をあけて助け、めでたしめでたしという雰囲気の中、体育祭はハッピーエンドで幕を閉じた。


~*****~


 「で結局、なんだったんだ? この茶番は」


 いつものメンバー(詩織、小宵、落葉、リュアナ、歩)で下校しながら、さっきまでのことを思い出して言う。


 「知るわけないでしょ……。なんかいい雰囲気なって、よかったよかったって、もうなんだか……」


 さすがの小宵も混乱しているようだ。


 「確かに、気がついたら終わってたって感じだよね~」

 「そうそう。それに結局、学園思い出作成クラブを捕まえることができなかったしな」


 あの後、セリアさんと静華さんも雰囲気に飲まれて、気がついたら騒次達は姿を消していた。


 「詩織の方は取り押さえていたんじゃないのか?」

 「それが苦し紛れに殴られちゃって……」

 「ちょっと詩織、それ大丈夫なの?」

 「まぁ、ちょっと痛いぐらいかな?」

 「そういことはすぐに手当てしないとあざになっちゃうよ。私の部屋に来て、すぐ近くだから」

 「うん……」


 「それじゃ!」と急ぐようにリュアナは詩織を連れて早足で寮へ帰っていく。


 「私も心配だから行くわね」

 「ああ」


 小宵もリュアナと詩織の後を追うように走っていく。


 「お前はいかなくていいのか?」


 てっきりリュアナ達についていくと思っていた落葉に問いかけた。


 「うーん、行きたいけど……私にできることなんてないし……」


 どうやら、落葉はリュアナ達の仲に気後れしているようだ。リュアナ達の中では、すでに落葉は仲間だと思われていると俺は思うのだが、まったく仕方がないやつだ。


 「お前がいるだけで、あいつらは元気になるんだ。行ってこいよ」

 「でも、邪魔じゃないかな?」

 「絶対、邪魔じゃない。なぁ、歩?」

 「ああ、もちろん。落葉ちゃんがいてくれるときっと小宵たちも喜ぶと思うんだ。だから、行ってあげてくれ」

 「そう、かな」

 「そうだ。ほら、いったいった」


 後ろ向きな気持ちが出てくる前に背中を押して、リュアナ達を追いかけさせる。


 「あ、ちょっと……」

 「リュアナの部屋は213号室だ」

 「リュアナちゃんの部屋って女子寮だよね。なんで、想真くんが……あ、そういうことがあったんだ。リュアナちゃんも……」

 「あー! もういいから行け!」


 恥ずかしいことを知られる前に急かして誤魔化した。


 「あははっ、ありがとうね。想真くん、歩くん。私、頑張ってみるね」

 「おう、頑張れよ」

 「まあ、色々あると思うけど頑張ってね、落葉ちゃん」


 少し晴れたような笑顔を浮かべ落葉はリュアナ達がいった道を駆けていく。


 「さて、俺達は帰りますか」

 「そうだな」


 疲れ果てた男二人で帰る。なんとも寂しい絵だが、まぁ、高校生としてはよく見る絵だ。

 

 「明日は文化祭か……」

 「キツイな……」

 「ああ」


 文化祭は二日行われる。明日の一日目は舞台や映像作品等の鑑賞を中心として行われ、他の出し物は準備に周り、二日目が本番になる。


 「準備はそこそこ終わってるし、たぶん明日は大丈夫だろう」

 「そう思うか……?」

 「どういうことだ?」

 「再び学園思い出作成クラブがなにか仕出かすのではないかと思ってな」


 そういうことかと歩が顔を曇らせた。


 「あいつらなら、きっとやるだろうな」

 「だよな……」


 はぁーと二人で息をつく。

 まったく、この学園にはとてつもない問題児がいたもんだ。

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