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金木犀14

 二人三脚が終わり、生徒会長であるセリアさんに呼び止められた俺達。その理由は、学園思い出作成クラブの確保に手伝ってほしいというお願いだった。

 そういえば、桜が舞っていた頃、生徒会を手伝う約束したような覚えがある。

 手伝うことに関してはなんの問題はないのだが、ひとつ気がかりなことがあった。


 「セリアさん、あいつらをどうやって捕まえる気ですか?」


 学園思い出作成クラブの部員はなにかと特化した人が多く、まず普通に捕まえることは出来ない。


 「もちろん、実力行使で」


 あっけらかんとそう言うセリアさん。

 ホント、言ってくれる。

 けれど、生徒会にはそう言える実力が確かにあった。

 棒引きでも見せた破格の運動神経を持つ静華さんに、頭脳戦では無敵を誇るセリアさん。それと、あともうひとりいたような気がするが、きっと凄い人だったはずだ。

 そんな中に素人同然の俺達が入って、捕まえることができるだろうか……?


 「心配は無用よ、想真くん」


 まるでリュアナが力を使って心を読むようにいともたやすくセリアさんに心を読まれた。


 「みんなの活躍を見させてもらったけど、みんな、それなりに運動神経が良かったわよ。だから、きっと大丈夫」


 自信をもって頑張りましょうと笑顔を振り撒くセリアさん。そこにリュアナが恐る恐る話しかけた。


 「あのさ、セリア姉。私、そこまで自信が無いんだけど……」

 「大丈夫よ~。だってリュアナはさっきの二人三脚、想真くんと息ぴったりだったでしょ?」

 「それは……」


 俺の心を繋げる力を使ったお陰なのだが、この力を使わなくても息が合うと俺は思っている。


 「だから、挟み撃ちしちゃいましょう。きっと今は準備をしている最中だから、わりと場所は割れてるの」

 「それなら、なんとか」


 リュアナの顔がほんの少し明るくなる。


 「時間もないし、早速行きましょうよ」


 やる気満々といった様子の小宵は、今すぐにでも飛び出していきそうだ。


 「あ、そういえば、セリアさん。詩織は誘わなくていいんですか?」

 「なにを言ってるのよ、想真は。あの子は体調が悪いって保健室で」

 「あ、それなら。もう」

 

 「待てーっ!!!」


 元気な詩織が校舎から飛び出すように現れて、誰かを追跡していた。


 「詩織もなかなかやるじゃないか!」


 どうやら、詩織は静華さんと同等の運動神経を持つ綾さんを追っているようで、綾さんが認めるほどに距離を詰めていた。


 「え、なんでっ!? 詩織、すごいピンピンしてるじゃない」

 「なるほど、そういうことか」


 歩がここにきて詩織が二人三脚を辞退した理由を悟ったようだ。


 「ちょっと、待ちなさい。いま──」

 「小宵ちゃん、ダメだよ~。今日一日、歩くんと手を繋ぐ約束を忘れちゃ」

 「くぅ~」


 歩の手に握り直させるリュアナを歯痒そうに睨む小宵。


 「こればっかりは勝負で決ったことだ。ちゃんと約束は守れよな。学級委員長」


 珍しく出した肩書きに「わかったわよ」と小宵はそっぽを向いて、認めた。


 「歩の方はいいよな」

 「もちろん、勝負だからな」


 あっさりと認める歩。ほんとあっさりだ。


 「それじゃあ、話が落ち着いたところでみんなにはそれぞれここにいってほしいの」


 セリアさんは、所々にしるしのようなものが付いた学校全体の地図を取り出し、俺達に見せた。


 「わかったわ」

 「こっちも大丈夫だね」

 「ああ」

 「それじゃあ、お願いします。私は生徒会室にいるから、捕まえたら生徒会に連れてきてね」


 「了解です!」

 「わかりました!」 


 そして、学園思い出作成クラブ捕獲作戦は始まった。

 

~*****~


 (ターゲットを発見した。リュアナの準備が整い次第、接触、追い込みにはいる)

 ──ラジャ。


 力を使い、リュアナの体勢が整うのを待つ。

 しかし、本当にここにいるとは……。

 さすがは生徒会のブレインと言うべきなのか、セリアさんが指示した場所には狙うべきターゲットがいた。

 まったく、ここまで正確な情報をどこから手に入れているのだろうか?

 学園思い出作成クラブにスパイでも忍び込ませているのではないか? と思考していると、リュアナから準備OKの連絡がきた。


 (それじゃあ、今から接触するぞ)

 ──了解!


 俺はプールサイドでふぅ~と青春のキレイな汗を飛ばす青年、高槻たかつき清也せいやに背後から近づいた。


 「ここに入ってきてから、私と接触するまで大分時間がかかりましたね。誰かと連携をとっていたのでしょうか? ね、想真くん」


 振り返った高槻の顔はイケメンで、憎めない笑顔を向けてくる。


 「一生懸命、プールの掃除をしてるの見てたら邪魔できなくてな」

 「そうなのですか? もし、それが本当だとしたらありがとうございます。でも、君がここに来たのは私を捕まえるためでしょう? 不意討ちを狙った方が懸命だと思うのですが」

 「それは無理な話だろ? ここに俺が入ってきた時点でお前は俺に気づいてたわけだし」

 「それもそうですね」


 確かに確かにと頷く高槻。


 「それじゃあ、想真くんは正々堂々と捕まえにきたのですね」

 「ああ、そう言うことだ──っ!」


 高槻と一気に距離を詰め、手を伸ばし体操服を掴みにかかる、がしかし、


 「その程度じゃ、私は捕まらないですよ」

 「だろうな」


 俺が一歩詰めると、高槻が華麗なステップで一歩分離れる。これではらちが明かないが、今はこれでいい。


 「追い詰めたぞ」


 プールの角に高槻を追いやる。


 「いや、まだまだですよ」


 高槻は俺に背を向けると、跳んだ。

 いともたやすく二、三メートルの壁を乗り越えていく高槻に、手に持っていた靴を履いて、俺は床と壁を蹴った。


 「おりゃぁっ!」

 「さすがだね」

 「まぁ、あいつらと遊んでいたらな。大抵のことはできるようになっている」

 「なるほど」


 高槻は逃走ルートを事前に考えてあったように用意されていたであろうスニーカーを履いていてた。

 さて、ここからは鬼ごっこだ。うまく指示してリュアナに捕まえさせれば俺達の勝利だ。

 高槻は校舎に向かって走り出す。


 (リュアナ、校舎の中に逃げようとしている。いけるな?)

 ──全然、問題ないよ。


 高槻が校舎の中に入り、右に曲がる。

 ここから、外に出れるのは直進した先にある扉のみ。しかし、プールに行く前に鍵を閉めておいたため、高槻は間違いなく上にいく。


 (リュアナ、ターゲットが階段を上がってきた所を捕獲だ)

 ──うん!


 高槻は予想通り、扉をガチャガチャと捻り開かないことを確認してから、二階へと階段を上った。

 (今だ! リュアナ!)

 「きゃっ──!?」


 しかし、聞こえてきたのはリュアナの小さな悲鳴と大きな物音だった。

 ぶっかったのか!?

 正面衝突を危惧して、急いで二階にあがる。


 「おい、リュアナ。どこに行ったんだ……?」


 二階へとあがった俺は言葉を失った。

 高槻の姿どころかリュアナの姿さえ見当たらないのだ。

 もしかして、逃がしてしまって追いかけていったのか? しかし、それだと走る足音が聞こえないのはおかしい。

 最終手段と力を使い、何度も呼び掛けるが答えてはくれず、校舎中を探し回ったが、結局、見つかることはなかった。


~*****~


 生徒会室に戻ってみると、そこにセリアさんの姿はなく、静華さんと歩がいた。


 「お帰り、想真くん。高槻の方は捕まったかい?」

 「すいません、取り逃がしました。それより、リュアナを知りませんか? 高槻を追っていて見失ってしまったみたいなのですが……」


 その言葉に歩と静華さんが驚き、目を合わせて頷いた。


 「実は、セリアと小宵ちゃんも見当たらないんだ」

 「ああ、俺はつい手を離した隙にどこかに行ってしまったんだ。校舎中を探したんだがどうも見つからなくてな」

 「私はセリアとの連絡が途切れたため部屋に戻ってみるとすでにセリアはいなくなっていたんだ」

 「それはお手洗いとかじゃないですよね?」

 「一通りは探してみたがいなかった」


 だとすると、考えられることとすれば、学園思い出作成クラブ──。

 スピーカーから雑音と共に騒次の声が流れてくる。やがて、雑音は消え、騒次の声が鮮明に聞こえてきた。


 『あー、生徒会およびそのお手伝いをされているかたにご連絡します。次の最終競技に出なければ、大切な人が大変なことになりますよ~』


 のほほんとした言い方だが、この状況を鑑みて、俺達は運動場へと急行した。


 「なんだよ、あれ……」


 聳え立つ塔のような透明な筒状の物が四本、運動場の真ん中に堂々と立てられてあった。

 そして、運動場に近づくに連れてそのなかに人が閉じ込められていることがわかる。

 (リュアナっ!?)


 「おい、小宵!」

 「どうして、セリアが……」


 そしてもうひとり、


 「朝宮さんまで……」


 まったく関係のない。朝宮さんまで透明な塔に閉じ込められていた。


 「おいリュアナ、大丈夫か?」


 筒の側に到着した俺達は、塔の側面に拳ほどの穴がいくつか空いていることに気づき、そこから彼女たちに話しかけた。


 「うん、大丈夫だけど、ここからは出られないみたい」


 塔の側面には扉のようなものがあったが鍵で閉じられてあった。


 「おい、これはどういうことだよ?」


 ゆっくりと運動場の中心に歩いてくる学園思い出作成クラブ部長、若竹騒次に問いかける。


 「みんな、その顔は怖いよ~。もっとスマイルスマイル♪」


 明らかに場違いな表情を浮かべる騒次に苛立ちを覚える。


 「どういうことだって想真は聞いたんだ。教えろよ」


 歩を冷静を装っていたが、その言葉から心中では怒っていることが読み取れる。


 「そうだったね。これは最終競技だよ。名付けて、愛する人のためなら、たとえ火の中水の中、障害物リレー!」


 なんだそのふざけた名前の競技は? と思ったが、それをかき消す勢いで外野がおおっ!!

 と外野が歓声をあげた。


 「意味がわからん。さっさとセリア達を解放しろ。さもなくば」


 静華さんは静かに拳を握りしめ、塔に向かい合う。


 「あー、待って待って、それは静華さんじゃ無理だよ。それにルールを聞くぐらい待ってくれてもいいでしょう?」

 「私では無理とはどういうことだ」

 「耐久テストで綾ちゃんに殴ってもらったんだけど、綾ちゃんが負けちゃったんだよ」

 「それがどうした。私とあいつとでは違う。あいつができないからといって、私ができないとは限らないだろ」


 しかし、騒次の言葉を聞いたセリアさんは穴に顔を近づけた。


 「待って、静華。私は大丈夫だから、今はそれをおろして。もしもの時があった場合、こちらが側が不利になるわ」


 セリアさんの説得に、騒次はうんうんと頷き、静華さんは口火をきって拳をおろした。


 「それじゃあ、ルールを説明をするね」


 騒次から説明されたルールは2つだった。

 ひとつは、時間内にリュアナ達を助けるため、鍵を手に入れること。

 ふたつめは、ひとりひとつしか鍵は持ってはいけないこと。

 つまり、校内に仕掛けられた障害物を突破し、鍵を取ってくる。それがこの競技の内容らしい。


 「そして、このゲームのタイムリミットは()()が胸の高さに達したとき」

 「ちょっと待てっ! それって」

 「大丈夫、ちゃんと水は抜けるようになっているから、呼吸が出来なくなることもない」


 大丈夫、大丈夫とるんるん気分で答える騒次。こちらとしては気が気ではない。


 「だとしても濡れることはあるんだろ?」

 「靴と靴下は脱いでもらっているから、まあ、20分ぐらい経てば濡れることになるね」

 「つまり、タイムリミットを越えた場合、彼女たちは下着をさらすことになるんだよな?」


 騒次はそうだよと楽しそうに口角をあげる。


 「ほんと、嫌なやつだな」

 「いやいや、僕はみんなに楽しい思い出を作って欲しいんだよ。それにきっと大丈夫だから」


 たとえ、大丈夫だったとしても、彼女たちにとってはいい思い出にはならないだろう。


 「まあまあ、人それぞれ色々と思うことはあるとは思うけど、始めるよ。よーい、どんっ!」


 騒次がスタートの合図を言い放ち、一斉に駆け出す。場所はそれぞれ騒次に言われてあったため、迷うことはなかったが……。


 「やっぱり、居たか……」


 プールサイドに立っていたのは水着姿の高槻だった。


 「一応、障害物リレーですからね。鍵は、僕に勝てれば差し上げます」


 ポケットから紐のついた鍵を見せる高槻。

 なるほど、学園思い出作成クラブと対決して、鍵を手にいれろということか。


 「他の二人も同じだと思います」


 運動場の方から熱い歓声が聞こえてくる。


 「わかった。それで俺達は何で勝負をするんだ?」


 高槻の姿で大体は想像がつくが詳細を知るために尋ねる。


 「クロール、五十メートル競ですよ。泳げますか?」

 「まあ、人並みには……。それより、俺の水着はどうするんだ? 持ってきてないけど」

 「水着は更衣室にありますよ」

 「わかった。それじゃあ早速着替えさせてもらうよ」

 「ええ」


 時間もないのでさっさと着替えて、高槻の元へと向かう。


 「それではいいですか?」

 「ああ」


 位置につき、高槻の合図で水に滑り込んだ。

 水は冷たかったが、これだけ秋晴れだと大して問題にならない。

 それよりも問題はこの勝負だ。勝つか負けるかを問われれば、間違いなく俺の負けだろう。

 それほどまで、俺の先を泳ぐ高槻という男は泳ぎに長けていた。

 ただ、このまま敗けを認めて、リュアナに恥をかかせるわけにはいかない。なにがなんでも結果だけは勝たせてもらう。

 予想通り、高槻が先にターンを成功させ、俺は高槻が戻ってくるのを見送る。

 ──そこだ。

 ポケットから少し出た鍵の紐を引っ張り、鍵を奪い取る。

 高槻は気づくことなく泳いでいく。


 「──ふはっ、はあはあ……」

 「私の勝ちですね。残念ながら、リュアナさんは諦めてください」


 プールサイドから見下ろす高槻。


 「そうだな。俺の負けだ……」


 プールから上がり、更衣室へと向かう。


 「諦めるのですか?」

 「いや、目的はもう達成したから」


 鍵を見せ、してやられたと高槻の顔を見て、俺は笑った。 

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