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金木犀13

 ダンスや大縄の競技が終わり、体育祭午前の部が終了した。そしてそれは同時に俺たちの罰ゲーム終了を意味していた。


 「もう、いいわよ。ちょっとはこれで反省したでしょ?」


 仁王立ちする小宵を前に俺たちは「はい……」と返事をする。しかし、なにが気に入らないのか小宵はふんっと顔をそむけて他の女子たちと楽しそうに教室に戻っていった。


 「まったく、あいつは偉そうな奴だなぁ~。くぅ~、足がしびれてうまく立てねぇ~!」

 「ああ、まったくだ……」


 歩に同情し、パン食い競争からずっと正座し続けていた足の痺れに耐える。


 「さて、俺たちも戻って食べようぜ」


 先に痺れから解放された歩が立ち上がりながら言う。


 「そうだな。けど、ちょっと待ってくれよ」


 歩は笑い、荒行だ! と俺の手を引き立ち上がらせる。くぅぅ~と情けない声が漏れでてしまうが、お陰で痺れは取れた。

 昼からは激しい競技ばかり、俺が参加する学園思い出政策クラブの作った競技も侮れない。

 ちゃんと食べてエネルギーを補給しないとな。体が持ちそうにない。

 教室に戻り、弁当箱の蓋を開ける。

 さて、今日のご飯は……。

 出てきたのは色とりどりのおかずではなく一枚の紙だった。


 『料理の上手なリュアナちゃんからおいしいものを恵んでもらってね。追伸、この弁当箱には箸も入ってないからあーんしてもらえるチャンスよ! 母より』


 弁当箱を持って固まる俺に歩は横から覗き込み、すべてを悟ったように肩をたたいた。


~*****~


 あと四人……頼む! 残っていてくれ……。

 パンくい競争の一件でリュアナにご飯を分けてほしいと言うことができず、俺は食堂にまでやってきていた。……のだが、残念なことにほとんどの食券が完売になっており、一人、また一人と買うたびに赤い完売の文字が浮かび上がっていた。

 よし、あと一人……。

 そして、やっと俺の順番が回きた。しかし、券売機を見てわかる。


 「まじか、全部売り切れかよ……」


 あまりのショックにひざから崩れ落ちてしまう。

 これからどうしようか?

 途方に暮れた俺は、仕方なくとぼとぼと教室へと戻るのだった。


 「もーう、こんな時間までどこに行ってたの?」


 教室に戻るとドアの前で腕を組んだリュアナに声を掛けられた。その姿と言動は、暗くなるまで遊んでいた子供を待っていた母のようだった。


 「学食に行ってただけだ」


 この時、俺も真実を隠そうとする子供のようにぶっきらぼうに言ってしまっていた。


 「それでちゃんとご飯食べれたの?」


 リュアナの横を通り抜けて教室に入ろうとする俺をリュアナは腕をとって尋ねた。


 「食べれてない」

 「そっかぁ~」


 どうしてなのか、リュアナは少し嬉しそうに微笑んだ。

 眉をひそめ訝しむ俺にリュアナは小さなバスケットを押し付けた。


 「お腹が減っている想真くんにプレゼント」

 「リュアナ、これって?」

 「私が作った、愛妻弁当だよ……」


 頬を赤くして顔を逸らすリュアナに俺まで顔が赤くなる。


 「あ、ありがとう……」

 「う、うん。簡単なものばかりだけど、おいしいって言ってくれたらうれしいな」


 その少し照れたような笑顔は眩しくて、いつしか俺は冷静さを取り戻していた。


 「ごめん、リュアナ。ちょっと意固地になってた」

 「うんん、いいんだよ。それより、はやく食べよ」

 「ああ、それもそうだな」


 残り少ない休み時間だったが、俺はリュアナと密な時間を過ごすことができた。


~*****~


 激戦が予想される体育祭昼の部が静かに始まった。

 お昼第一種目は棒引き。

 一年生は無事怪我人なく終えることができたが、二年生は無事では済まない空気が漂っていた。


 「想真……俺、怖くて死にそうだ」

 「大丈夫、お前は出てない」


 そう歩に言い聞かせるが、俺も悪寒のようなものを感じていた。

 ただ、校庭の真ん中に置かれた棒を自らの陣地に引き込み、引き込んだ数を競うというだけなのだが、この殺気。

 その元凶とも言える美貌をもつ二人の女子学生。

 方や正義を背負う生徒会の破格の運動神経をもつ静華さん。

 方や自由を掲げる学園思い出作成クラブの脅威の運動神経をもつ綾さん。

 どちらが勝ってもおかしくはないが、どちらが勝っても回りは無事ではすまないだろう。

 悲しくも、開戦の合図を告げるホイッスルが鳴る。


 「「うぉおおおおおおおっ!」」


 けたたましい声を叫びながら、男達が一斉に棒を取りに走った。しかし、その中でも、やはり静華さんと綾さんは人よりも抜きに出ていて、両者同じ棒を取った、瞬間だった。


 「おりゃああああっ!」


 綾さんがいとも簡単に静華さんごと棒を振り回した。

 ブンブンと振り回す綾さんに対し、静華さんは身を任せるように振り回されていた。

 そして、問題は起こる。

 ブンブンと綾さんが振り回すうちに隣の棒へ近づき、静華さんが棒を引いていた男達の群れに突っ込んだ。


 「あはっはっは、これで参ったか!」


 満足げに笑う綾さん。しかし、次の瞬間、先程男達が奪い合っていた棒が勢いよく静華さん側に飛んでいった。


 「ふふっ、この程度で勝ったと思ったのか?」


 唇を切ったのか、口の端しから流れる血を拭き取る静華さん。その顔はまさに鬼神だ。


 「そっ、想真くんっ! 歩くんが!」


 リュアナに言われて歩を見ると泡を吹いて倒れていた。


 「耐えられなかったか……小宵、介抱頼む」

 「仕方ないわね~」


 ずるずると小宵に体を引かれながら歩はテントの奥に引きずられていった。


 「ね、ねぇ? 棒引きってあんな競技なの?」


 棒引きをはじめて見る落葉とって、それは棒引きとは言えないような異様な光景だったのだろう。

 俺もそう思う。

 たった二人の女の子が競技中の男達を蹴散らし、手、足、頭、ありとあらゆるものを使ってすべての棒を奪い合う。

 これが棒引きなのかと聞かれれば即答するのはまず不可能だ。


 「あれはただの棒引きじゃないと思う……」


 そして、ついに最後の一本となり、生存者は静華さんと綾さんの二人だけとなった。

 睨み合い、二人は棒を引いた。


 「おおっ! 落葉見ろ! あれが本当の棒引きだ」

 「おおっ! なるほど、これが棒引き……」


 じゃあ、いままでの競技はなんだったのか? 冷静な自分がそう言うが、今、二人が行っているのは間違いなく棒引きだ。

 一進一退を繰り返す二人。白熱する二人に会場も盛り上がる。そして、会場の熱気がピークに達したとき、ついに決着が着いた。


 バキッ、そんな音が棒から聞こえて二人は距離をとった。


 つまりは棒が二つに割れたのだ。

 そこで、終戦のホイッスルが鳴らされた。

 二人は同時に口火を切り、棒を投げ、自分陣地へと帰っていく。

 結果は七本ずつと半分、負傷者両者18人と引き分けでこの競技は終わった。


~*****~


 お昼の第二種目は騎馬戦だった。

 これは語らずとも前の競技でわかると思うが、地獄だった。

 騎馬戦と銘打っておきながら、リュアナとセリアさんが担ぎ上げ、両陣営に分かれて勝負という、かつてない学園アイドル決勝戦が行われたのだ。

 結果はセリア、静華ペアの圧勝。

 防衛役として刈り出された俺達は、瞬殺だった。手なんて出せなかった。いやマジで、本当に。


 「静華さん、メチャメチャ強かったね~」


 絆創膏を貼ってくれるリュアナは言った。


 「本当に化け物だよな。歩が気絶するのもよくわかるよ」


 うんうん、リュアナと頷いた。


 「いい雰囲気のところあいすいませんが、次、二人三脚よ」


 二人並んで座る俺達を見下ろすように小宵が現れる。


 「ああ、そうか」

 「行かないとね」


 もう少しマッタリしていたい気もするが、仕方がない。

 よいしょっと立ち上がり、気がつく。


 「なあ小宵、お前のパートナーはどこに行ったんだ?」

 「わからないから探してるのよ! あーもう、ほんと何処に行ったのよ、詩織は!」


 (はは~ん、この展開、読めたぞ。リュアナ)


 ──私もわかったよ。


 「二人してなにニヤついてるのよ。こんな、一大事なのに……」

 「なにが一大事なんだ?」


 眉を顰めた歩が保健室から戻ってきた。ナイスタイミングだ。


 「あんたには関係ないわよ」

 「次の二人三脚で出るはずの詩織が見当たらないんだってさ。お前知らないか?」


 なんで話すのよっ、と小宵に睨まれるが痛くもかゆくもない。


 「それならさっき、保健室に来たぞ。なんでも調子が悪いとかで……」

 「えっ?」


 親友だからこそ小宵はいちばん驚いたのかもしれない。尚早に駆られたような暗く表情落とした。


 「それともう一つ、心配しなくていいよって言ってたぞ。俺が代わりに出るって言ったからな」

 「え……」


 再び驚く小宵。さっきとは違い、本当に不意を突かれたようだった。

 そんな今宵を見て、俺とリュアナは笑う。


 「パートナーが見つかったんだし、入場門に集まらないとさすがに怒られるだろ」

 「だねっ。さっ、いこっ! 小宵ちゃん」

 「ちょっと待って……」


 いまだ混乱している様子の小宵をリュアナはひきずるようにつれて行く。


 「お前も決めたんだろ? いくぞ」

 「もちろんだ」


 ぱんっ! とピストルから煙が立ち昇り、二人三脚の第一走者が走り出す。

 列へと並んだ俺たちは最終確認を行っていた。


 「リュアナ、右足から出せよ」

 「うん、大丈夫。もう覚えたから」

 「よしそれじゃあ、心配いらないな」


 俺の力、心通わせる力によってリュアナとはだいぶ近い存在になっていた。気を付かはなければいけないのは最初だけ、後は気を使わずとも呼吸は合うはず……。


 「いや、私は想真くんが変なところ触ってこないかが心配だよ」

 「そんなことするわけないだろ?」

 「でも、掴みやすいとか思ったりしてないよね?」


 確かにリュアナのそれはとても大きくて……。


 「思ったでしょ?」


 あきれた目で俺を見るリュアナ。


 「被害妄想だ」

 「想像しておいて人のせいですか」


 頬を膨らませて怒るリュアナ。その頬を人差し指と親指で挟み、空気を吹き出させる。


 「次だから、怒ってる暇もないぞ」

 「わかってるよ」


 紐でリュアナの足と自分の足を固定させながら、後ろにいる小宵たちに話しかける。


 「パートナーは変わったけど、勝負はそのまま続行ということでいいんだよな?」

 「ええ、もちろんよ」

 「えーと、勝負内容は順位で負けたほうが罰ゲームだったよな」

 「そうそう」

 「引き分けたときは、パートナーのどちらかが罰ゲームだ」

 「オッケー、俺も大丈夫だ」


 歩も同意し、ついに順番が回ってくる。


 「よし、いくぞ!」

 「うん!」


 幾度と鳴ったピストルの音が一番大きく、そして鮮明に聞こえ、俺は左足を──。


 「きゃっ……!?」


 出した途端にリュアナが倒れた。


 「………………」

 「……てへ?」

 「てへっ、じゃない! リュアナは右足からって言っただろっ!?」

 「ごめん、考え込んだらわからなくなっちゃった」

 「まったく、だから確認したのに……」


 手を差しのべ、リュアナを引き上げる。


 「今からでも間に合うかな?」

 「間に合わせる」

 「了解」


 そういうと今度はちゃんと右足から出した。

 この競技最大課題をなんとか乗り越え、ようやく軌道に乗る。

 徐々にその速度をあげて、結果は三位だった。


 「まあ、転倒してこの順位ならまずまずといったところか……」

 「……ごめん」


 リュアナは少し落ち込んだようすで謝った。


 「もう過ぎたことは仕方がないし、ドンマイドンマイだ」

 「……うん」

 「ただ、同じ順位だった場合はリュアナが罰ゲームを受けてくれよ」

 「うぅ、はい……」

 「冗談だ。それにこの勝負はたぶん俺たちの勝ちだ」


 それってどういう意味? と言いたげな顔をしたが俺はまあ、見てればわかるよと言っておく。

 小宵たちとした勝負には、最下位にならなければ勝機があると考えていた。というのも……。


 「ちょっ、くっつくんじゃないわよ!」

 「は? じゃあ、どうやって息を合わせろと?」

 「私の足を見て合わせなさい」

 「そんなことをすれば遅れて足を出すことになるだろ」

 「それは歩の努力しだいでなんとかなるわ」

 「なんともならねぇよ!」


 終始、この二人は夫婦漫才を発揮して足を止めていた。そして、やっと二人がゴールしたとき、彼らの順位は最下位だった。


 「だからいっただろ!」

 「あんたがごちゃごちゃ言ってたせいでしょ!」


 退場した後も言い合いは続いているようで、うーっ! とにらみ合い、互いを牽制していた。

 そんな二人に俺達は心を弾ませながら近づいた。


 「なぁ、歩。約束、忘れてないよな?」


 歩は背筋に何かが走ったように驚き、指で小宵を指した。


 「ちがうぞ、想真。こいつが悪いんだ」

 「はぁー? なんですってっ! ちょっと一発──」


 今にも飛びかかろうとする小宵はリュアナが止める。


 「ちがうよ。今回は二人の負け、だから罰ゲームはちゃんと二人に受けてもらうよ」


 ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべるリュアナ。

 罰ゲームを受ける側としては一番イヤな笑顔だろう。

 しかし、その内容が思いの外優しく、温かいものだからこそ、こうしてリュアナが笑っているのだと俺は補足しておきたい。


 「二人は罰ゲームとして今日一日ずっと手を握ってもらいまーす」


 嬉しそうにすごい笑顔になるリュアナに対し、絶望したようなおぞましい顔をする二人。


 「まぁまぁ」


 そう言いなだめながら、俺は歩の手と小宵の手を恋人つなぎに結ばせた。


 「おい……」

 「ね、ねぇ、別に恋人つなぎにしなくても……」


 照れたように二人が顔を赤く染め、俺とリュアナはムフフッと顔を緩ませた。


 「あ、おーい!」


 テントに戻る人混みの中、俺達を呼ぶようにセリアさんが手を振った。歩と小宵は慌てて罰ゲームで繋いだ手を隠そうとしだが、「二人とも仲がいいのね」と簡単にバレてしまい、顔を俯かせた。


 「それで、どうしたんですか?」

 「えーとね、ちょっと想真くん達に手伝ってほしいのよ」

 「それってもしかして……」


 いま行われている競技が終われば、次はあの最終競技だ。だから、そろそろ来てもおかしくはないとは思っていた。


 「ええ、学園思い出作成クラブの確保よ」

 「やっぱりか……」

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