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四季の思い出  作者: 川澄 成一
四季のプロローグ
7/82

四季の始まり6

 窓から射し込む太陽の光に照らされて、俺は目を覚ました。

 体を起こし、日の光が射し込んだ窓の外を見ると、今日はいつになく晴天の空だった。

 その景色を見ると、気持ちが落ち着き、その空と同じように晴れやかな気持ちになる。

 昨日も夢を見たが、今日は気分がいい。

 ぐぐぐぅ~と背伸びをして、一階に下りるとキッチンから食欲を誘う匂いが漂ってきた。どうやら、母が朝ごはんを作っているみたいだ。


 「おはよう」


 キッチンに顔を出すと、思った通りに母が朝ごはんを作っていた。


 「おはよう想真、もうちょっとで朝ごはん出来るから」


 母は振り返ることは無かったがなんだか楽しそうだ。


 「今日は仕事がないんだ」

 「そうよー。想真、早く顔を洗ったり、歯磨きを早くしてきなさい」

 「はい、ふぁーい……」


 母の仕事が休みの日はいつも朝ごはんを作ってくれていた。それも、俺がいつも食べてるようなパンではなく、しっかりとした朝ごはんだ。


 「朝ごはん出来たよ」

 「ありがとう。お母さん」


 テーブルに置かれていたのは、味噌汁、ご飯、そしてサンマの塩焼きという、まさに日本人の朝食だった。


 「いただきます」


 サンマを箸でつつき、頬張る。


 「どう? 私の手料理はおいしいでしょう?」


 料理を作り終えてキッチンから出てきた母が、自信あり気に聞いてきた。

 母の手料理はいつもおいしかった。

 もちろん今日も。


 「……とてもおいしいです」

 「それはよかった」


 ご飯を食べ終り、片づけている時だった。

 ピンポーンとインターフォンが鳴った。『どうせ、歩だろう……』とぼんやりしながら玄関の戸を開くとそこには朝霧 リュアナが立っていた。


 「朝霧さん!? でも、なぜ俺の家に?」

 「迎えに来てあげたんだよ。想真くんのためにね」


 クスクスとからかうように笑顔は朝から眩しすぎる。


 「頼むから、からかわないでくれ……」

 「あれ? 私、からかったつもりなんだけどなー」


 朝露さんの顔は笑っていてすぐに嘘だとわかってしまう。


 「あら? 想真、お友達?」


 母が玄関に顔を出した。

 『まずい!』っと内心では焦ったが、どうすることもできず、朝霧さんがぺこりと頭を下げて挨拶をした。すると、母は思っていたように俺の方を見てニヤニヤした顔でからかった。


 「想真~かわいいお友達じゃない」


 やっぱりそうなるよな。


 「もう、お母さん……」

 「はいはいごめんなさいね。でも、女の子を待たせるわけにはいかないわよ。さあ、行った行った」

 「わかってる。朝霧さんちょっと待ってくれる?」

 「うん」


 俺は急いで二階に上がり、かばんを持って急いで下った。


 「はぁはぁ……そ、それじゃ行こっか」


 俺は全力疾走で準備を持ってきたので息があがってしまった。

 このぐらいで息があがるなんて、なにか運動しなきゃいけないな。


 「もう、そんなに急がなくてもいいよー」

 「出来るだけ、待たせたくないし、それに時間もそろそろだろ?」

 「君は紳士だな~、でもそういうところ私は好きだよ」


朝霧さんがニッコリと微笑む。

俺は好きなんて言葉をかけられてドキッとしてしまった。いつ以来だろう、そんな言葉をかけてもらったのは……。


 「さっ行こ! 想真くん」

 「そうだな」


朝霧さんはそう言って俺の手を引っ張って、俺達は家を出た。


~*****~


しばらくして、桜並木の坂に差し掛かろうとしているところで朝霧さんが俯きながら話してきた。


 「あの、昨日はその……ごめんね。想真くんが話し

たくないって言っているのに無理して聞こうとして……」


 ああ、昨日のことか……。リュアナに言われるまで完全に忘れていた。別に事を軽く思っていたからではない。この雰囲気の中で忘れていただけだ。


 「たいして気にしてないから、朝霧さんが謝ることなんてないよ。それよりも気になるのは、なんで俺の家の場所をを知っていたかなんだけど……?」

 「それはね、歩くんに教えてもらったんだよ」


歩が教えたのか、あいつすぐに人の個人情報を提供するからな、あとでちょっと言っとくか。


 「でも、本当ごめんねいきなり家に押しかけてしまって……」

 「ううん、いいよ。というかむしろ嬉しいくらいだよ。朝から朝霧さんみたいな美人な人と一緒に登校出来るんだから」

 「そ、そうなのかな……私って美人なのかな……」


 朝霧さんは少し照れたようで顔を赤くした。その様子も、またかわいい……。


 「あっ、あの、そんなに見ないで……恥ずかしいから」

 「あっ……ごっ、ごめん……」


 あまりのかわいさについ見とれてしまった。こんな呆けた顔を歩にでも見られたらなに言われるかわかったもんじゃないな。


 「ねぇ、想真くん、私のことをリュアナって呼んでくれないかな?」


 まだ恥ずかしさが残っているのか、まだ少し顔が赤い。恥ずかしそうに言う姿に俺はまた目を奪われた。


 「……うん」

 「ありがとう、想真くん」


 嬉しそうに笑顔を弾けさせる朝霧さん。


 「うん……ん?」


 今、俺はなにを……ああそうだ、朝露さんをリュアナって呼ぶことだったな……。うん。っていいのか!? 仮にも朝霧さんは一位二位の学園のアイドル、名前で呼んで大丈夫なのか? でも、本人には許可を貰っていることだし……。いやでも、今、名前で呼ぶと変な誤解を産むことになるんじゃ……あ?

 がしっとなにかに絡み疲れるように腕が絡まれ、ちょうどいい反発力をもった柔らかいものが押し当たる。

 こ、これはもしかして……。期待を持ちつつ、顔を向けてみると、ちょこんとなにかが肩に乗った。

 あ、いい香り……。作られた香水の匂いとかじゃなくて、もっと自然的な……………………。


 「なっ!?」


 な、ななななななななななななな!? なっ!? なにこれどうなってんだ?

 パニックが回りに回って落ち着いちゃったよ……。

 まず、リュアナの頭が肩にある。俺の腕が抱き枕のようにしがみつかれている。

 なんで?


 「あのー、リュアナさん? つかぬことをお聞きしたいのですが、これは一体、何してるんですか?」

 「だから、リュアナでいいよ~。あっ、ごめんね、つい嬉しくなっちゃって、でも、もうちょっとだけこうさせていてね」

 「あははは…………ついってなんだよ!?」


 悪戯っ子のように笑みを浮かべ、離さないようにさらに腕を大きな胸にぎゅっと締め付けた。やばい、このままエスカレートされれば股で腕を挟まれそうだ。

 嬉しい反面もあるが、視線が痛い。とてつもなく痛い。カップルっていつもこんなに見られているのか? いや、確かに見てるけど……。

 今いるのは通学している人なら必ず通る桜並木の坂、それも朝も早すぎず遅すぎずといった時間帯のなので、まあまあ多くの人が通っていた。そんな中で、一番二番の綺麗さを持つと言われてるリュアナに腕をしがみつかれ、さらにどこにも隙間がないほどべったりとくっついてくるのだ。

 そんなのが居れば周りは見ない訳がないか……。

 横を通りすぎていく男子生徒が殺気を放ちながら睨みを利かせてくる。この感じだと俺はリュアナから離れた瞬間、死ぬのではないだろうか。

 学校の正門が近づくにつれて不安が募る中、門の前に見たことのあるような人影が見えた。

 たしかあれは……ああ、そうだ、生徒会会長のセリアさんだ。


 「そこのラブラブカップルちょっと待ってーってリュアナ!?」


 セリアさんは驚いた様子で走ってきた。


 「あ、セリア姉おはよう」


 姉? と言うことはリュアナとセリアさんて姉妹なのか?


 「リュアナ、白木さんと姉妹なの?」

 「ううん、違うよ昔っから遊んでたからその時の名残だよ」


 そういうことかとうんうんと納得していると、驚いて走ってきたセリアさんがリュアナに説明を求めた。


 「リュアナ、これは一体どういうことなの!?」

 「へ? なにが?」

 「なにがって……その人との関係よ!」


 一瞬、俺を鋭い目線で見上げられて、リュアナに責め立てた。


 「ああそういうこと、想真くんとは恋人だよ?」


 クスクスと笑うリュアナ。

 また、誰でも嘘だとわかってしまう笑みを浮かべて……これを信じられたら洒落に……って恋人!?


 「おい、リュアナ!」


 これにはさすがに洒落にならないと声を出す。しかし、リュアナはまあまあと小さな声で落ち着かせようとする。

 落ち着いて考えれば、こんな子供っぽいリュアナがこんなにも嘘をついていますみたいな笑顔で笑っている時点で、確かに嘘かなってわかる気がするが……。

 しゃがみ込むセリアさんはマジで信じてしまっている。


 「恋人……でも、そうよね、リュアナも高校生になったんだもの、恋人の……一人や……二人いたって……」


 コンクリートの地面にはポツポツと染みを作っていた……。

 セリアさんは妹に恋人が出来ると泣くのか!? いやいや、それ以前に、この状況はヤバイんじゃないか? 傍から見れば、俺がセリアさんを泣かしているみたいに見えんじゃ……もし、そう見えていたなら、後で俺は殺られる。


 「セリアさん! セリアさん! これは冗談です。リュアナが言ったことは冗談です。だから、お願いですから泣くことをやめてください」


 しゃがみ込んで俯いていたセリアさんに涙声で語りかけると、『ホントに?』とセリアさんが見上げた。その時の涙目を浮かべた目といったら──なんだこれ可愛すぎるだろ!!!

 もはや感動の域に達するものだった。

 元々、美人なのにこんなか弱い姿を見せられたらも、無敵だ。もう、まともに顔を直視することもできない。

 仕方なくリュアナの方を見と、『ね、かわいいでしょ』というようにニコッと笑った。はい、それもまたかわいいです。


 「……はい、冗談です。今での話はリュアナの作り話なので信じないでください」

 

 俺は落ち着いて向けれる場所がなかったため、目に手を当てて目隠しをしながら答えた。

 冗談だと分かったセリアさんは、立ち上がってリュアナを叱る。


 「よっ、よかったー。なんでこんな嘘をついたの! お姉ちゃん死んじゃうところだったよ」

 「つい、なんとなくかな? ごめんなさい」


 えへへ、と笑う声が聞こえる。たぶんやめないだろうな。


 「本当、もうやめてよね~。次、こんなことやったらお姉ちゃん、心臓止まっちゃいそうだから。わかった?」

 「うん」

 「それから君、巻き込んじゃってごめんなさいね」


 思い出したように向き直ったセリアさん。大分、落ち着いたのでもう目隠しも必要ない。


 「いえいえ、大丈夫です」

 「君の名前は?」

 「四季 想真です」

 「四季さんの家の子だったんだ。それじゃまた、お邪魔することになるね」

 「えっ? それってどういうことですか?」


 セリアさんの言葉が気になって、つい口に出して聞いていたが、


 「ごめんなさい。このことについては秘密なのよ」


 とはぐらかされていた。


 「それなら、まあ仕方ないですけど……」

 「それにしても、ごめんね想真くん、この子感情がすぐに行動に出ちゃうから」

 「はい、それでさっきも急に腕を絡まれてしまいました」

 「ホントにごめんね~迷惑かけちゃって、これからたぶんもっと掛かって来ると思うからなにかあったらどんどん来てね」

 「はい」

 「私、仲間外れにされてる気がする~」


 リュアナが退屈そうに頬を膨らませいた。


 「ごめんごめん、さあ行こうか」

 「うん」


 リュアナに伸ばした俺の手にリュアナの手が乗っかる。

 そしてそのまま、セリアさんと別れ、教室へ向かった。


~*****~


 教室に入ると、俺とリュアナをみんなが顔をこちらに向けてくる。まあ、予測されていたことだ。そして、このあと詩織と小宵が俺を囲いこんで……。

 と予想していると、やはり最初に詩織と小宵が俺とリュアナを囲んだ。


 「どういう事か、説明してくれるよね~想真く~ん」


 久しぶりに見た詩織の恐ろしいまでに凍結された笑顔。

 やっぱりこうなるよな。いや、でも、もしかしたら別件なのかも知れないな。わざわざ自分から危険なところに入る必要はないし。


 「えーと……何のこと?」

 「ごまかさないでよ! そこにいる朝霧さんとどうゆう関係って聞いてるの!」


 小宵が核心をついた質問をしてきた。

 案の定というべき、俺とリュアナの件だった。ここは素直に言っておくべきだな。たとえ、信じて貰えなくても……。


 「リュアナか、ただの友達だよ……?」


みんなの目の鋭さが増した!?

何も悪くないのに、正しく言ったはずなのに、何だよこの空気は。


 「でもさ、名前を下で呼んでるところとか、ただの友達って感じじゃないんだよね~、正直に話してくれないかな~?」

 「それは、詩織や小宵だって下で呼んでるだろ」

 「それはそうだけど~」


 と言い返したところで詩織のことだ、引き下がろうとはしないだろうな。


 「でも、決定的な行動を目撃した人がけっこういるのよ!」


小宵が、俺を問い詰めたとでも宣言するかのように指を指した。


 「決定的な行動ってどんなことだよ」


多分、あれの事だろうと予測はしていた。


 「う、腕に抱きつかれていたそうじゃない」

 「何でお前が恥ずかしそうに言うんだよ!?」

 「そ、それは……」

 「でも、まあした事にはしたな、一方的にだが……」

 「じゃあ、朝霧さんと付き合っているんじゃないの~?」

 「違うな、腕を組んでいたのはリュアナが嬉しくなって掴んできたからだ」

 「ホントなの朝霧さん」


 小宵が今まで黙って聞いていたリュアナに訊ねた。


 「うん、そうだよ……。あの時、つい嬉しくなって気がつくと腕に飛び付いてしまっていたの。もしもみんなに変な誤解を招いてしまったのなら、謝るよ。ごめんなさい」


 その言葉を聞いた周りの人達はなんだ~、とかよかった~などと言って自分の席へと散らばっていく。


 「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 話はそれで終わるのか!?」


 俺はあんなにも説明してもわかってくれなかったのに、リュアナだったら一言でわかってもらえるのか?


 「わかったよ~疑ってごめんね」

 「私も、疑ってわるかったわね」

 「いやいや、ちょっと待って、俺はリュアナより信頼がないのか?」

 「それはそうだよ想真くん。朝露さんは素直で有名だからね〜。ね~小宵ちゃん」

 「ええ、そうよ」

 「そうなのか?」


 リュアナに確認をとる。


 「う~ん、いつの間にかそういうことになってたんだよね~」


 これは最初から、リュアナに助けを求めるべきだった。


 「それより、朝露さん。私と友達にならない?」


 詩織がニコッと笑いながらそう言った。


 「えっ!? でもいいの?」

 「もちろん」

 「ありがとう、私のことはリュアナでいいよ」

 「うん、じゃあ私のことも詩織でいいよ」

 「ちょっと、詩織だけずるいよ。私は小宵って呼んでリュアナ」

 「うん、小宵ちゃん」


 どうやら詩織たちとうまく打ち解けたようだ。


 「な~に、朝から女の子達を眺めてるのかな?」


 背後からいきなりかけられた声にビクッと体が震えた。

 さっと、振り返るとそこには歩が立っていた。


 「いつの間に来たんだ?」

 「最初からいたさ。それよりも朝はどうだった?」

 「あっ、お前。リュアナに俺の家の場所教えたからだろ」

 「仕方ないだろう、朝露さん困ってたんだから。それより、どうだったんだよ、学園のアイドルのお胸を押し付けられた感触は?」

 「それは……ってなんで知ってるんだよ!?」


 正直に言うと、とてつもなく柔らかかった。思い返すだけで顔が赤くなっていくのを自覚する。

 俺の顔を見てニヤニヤし始めた。


 「まあまあ。でもそうか、あの想真ここまで赤くするとは……さすが学園の中でも一位二位を争うおっ─」


 窓ガラスが割れる音と同時にいかがわし単語を言いかけた歩は目の前から消えて、とって代わるように小さくて可愛らしい小宵が立っていた。


 「……あれ? なあ小宵、さっきそこに歩が立っていなかったか?」

 「さあね。でも想真、もしもあなたもおかしいな言動をしたらああなるから、覚悟、しときなさいよ」


 そう言って小宵はすたすたと詩織達のほうへ戻っていく。

 まさか……。

 ガラスが割れた方へと顔を向ける。

 嘘だろ……。

 窓ガラスには人が一人入れるほどの穴が空いていた。

 マジかよ……。

 近いていくと窓の下には人が倒れていた。


 「……あゆむーっ!!!」


 ここは二階。

 かろうじて死んではいないようだが……ああ、ピクピクと痙攣している。まさか、小宵がここまでするなんて……どうやら、歩は大きな地雷を踏んでしまったようだ。

 俺は目を教室に向けると、小宵は詩織達の方でにこやかに笑っていた。

 いくらなんでも、変貌しすぎだろ小宵は、それとも話の内容が面白いのか? 

 詩織達が集まっている近くにより話の内容に耳を立てる。


 「リュアナちゃんは髪、銀色だし生まれってどこなの~?」


 どうやら詩織がリュアナの出身について聞いているようだ。

 そういえば、俺も知らないんだっけ。


 「私の生まれは自体はイギリスなんだー。でも、親は二人ともフィンランド人なんだよ~」

 「北欧の血を引いてるから、髪が銀色なのね」


 小宵はうんうんと納得している。


 「ああ、でも北欧の人だからって皆が銀色じゃないよ。それにこの髪は銀色に見えるけど、一応、金髪の一種なんだよ」


 へ~、と俺もつい気がつくと詩織達と口を揃えて驚いていた。

 「でも、なんでリュアナちゃんは生まれはイギリスなの?」


 首を傾げながら詩織が聞いた。


 「それはね、私の親がある人にイギリスまで会いに行った時にね、生まれたからだよ」

 「そうなんだ。でも、子供をお腹に抱えてでも会いに行くある人って誰なんだろう?」

 「お金持ちのお友達みたいだったよ」


会いに行くだけのために、そこまで無理をする必要があるだろうか? そんなこと考えていると、リュアナがボソッとつぶやいた。


 「そこでね、私は引き取られたんだ……」

 「引き取られた? それって、あ……」


 詩織が踏み込んじゃダメだと途中で気づいた。


 「うんん、いいよ。これはもう踏ん切りがついていることだから」

 「なんか、ごめんね……」


 詩織の謝りにリュアナは首を横に降って笑った。


 「私の両親はね……帰国するときに両方仕事があるからってその友達に一時的に私を預けたの。でもね、帰国する飛行機が事故になって両親が死んじゃったんだ……」


 リュアナは暗い話になってしまったのが悪いと思ったのだろう、必死に笑顔を作っていた。

 だけど、素直が取り柄のリュアナにはそんな芸当は難易が高い。

 笑顔とは見えない悲しい顔だった。

 その顔を見て、そして、心で感じて、俺はついに我慢が出来なかった。


 「無理しなくていいと思う……」

 「えっ?」

 「そんなのリュアナらしくないと思ったんだけど……」

 「想真くん……」


 俺はリュアナに見つめられて、まだ会ってから日が浅いことを思い出した。


 「ごめん、まだ日が浅いのに偉そうな事言って……」


 急に恥ずかしくなり、思わず顔を伏せる。

 なに言ってるんだろう俺は……。  


 「ううん、いいの。ありがとう想真くん」

 「私もごめんなさい、リュアナちゃんにつらいことを言わしてしまって」

 「だから、それは別にいいんだよ。私が話したことだしね。それに、そんなに辛いことばっかりじゃなかったんだよ」


 俺の方を向いて微笑んだ。その微笑みはいつもの素直な笑顔。うん、やっぱりこの笑顔がリュアナらしい。


 「想真くん、私はそこでセリア姉にあったんだよ」

 「えっ!? そうなの。ということは──」

 「ねえ、セリア姉ってあの白木さんのこと?」


 小宵が口を挟んできた。


 「うん、そうだよ」

 「やっぱり白木さんてイギリスの人だったんだ。しかも、リュアナの義理の姉だったなんね~」

 「いいな〜。あんなにもお姉さんがいるなんて、それに優しそうだし」


 本当に羨ましそうに詩織はリュアナを見ている。

 そういえば、詩織は一人子だったけ……。


 「そうでもないよー。セリア姉はいつも私のことを心配して私としては大変なんだよ」

 「でも、いいじゃない。心配してくれるだけいいと思うのだけど」

 「うん、ありがたいのはありがたいんだけどね。限度が超えすぎてる気がするんだよね~」


 リュアナは思い出して疲れたようなため息を吐いた。

 そんなになんだ……世話が好きそうなセリアさんの事だし、想像することも出来る。確かにありえないことじゃないな。


 「例えばどんなことよ?」

 「うーん……とね、私ね学校の寮で住んでいるんだけど、健康が乱れてはいけないとか言って、朝ごはんと弁当を作って置いていってくれるのよ。嬉しいけどね、自分でも作れるよ〜って言ったら片寄るからダメですとか言って聞いてくれないのよ」


 俺の想像を遥かに越えていた。

 朝ごはんと弁当作って行くって、どれだけ妹思いなんだよ……。


 「それはすごいわね……。でも、美人だしその上料理まで出来るなんて。正直、憧れるわ」

 「まさか、小宵の口から憧れるなんて言葉が出るなんておどろきだ!?」

 「なによ、使っちゃいけないの?」


 小宵がまたギロリと睨みをきかせた。


「いや、別にいいけど。お前ちっちゃいから白木さんには頑張ってもなれないと思ったんだけ……」


 しまった。地雷を踏んでしまった。


 「おい今、ちっちゃい言ったな。想真、ちょっとこっちに来なさい!」


 ちょうど小宵が俺を怒ろうとした時だった、チャイムが鳴ったのだ。

 小宵はちっ、と舌打ちをして『覚えておきなさいよ』と捨て台詞を言って自分の席に戻っていった。

 そんなにちっちゃいことが嫌いなのだろうか、一つのチャームポイントだと思うけど……。

 奥野先生がやってきて小宵に号令をかけるように指示をする。

 小宵が号令の合図をして座ると『セーフ』と一人の生徒が手を横に広げながらスライディングして教室へ入ってきた、言うまでもなくこの生徒は歩だ。

 よくもまあ、あそこまでやられてこんな登場が出来るものだ。

 その姿を目の前で見ていた奥野先生は、歩にこう告げた。


 「歩……お前、今、廊下を走ってきただろ。それに、遅刻もしてきた。そして、最後に土を教室へあげてきた」


 歩はえっ!? と自分の足を視線を落とした。

 歩が歩いてきた通りに土は落ちてまるで足跡のようになっていた。


 「せっ、先生、これはちょっと焦ってしまって……だから、その……てへ♪」

 「残念だが、歩。スリーアウトだ。ちょっと一緒に職員室まで来てもらおうか」

 「そんなぁー…………」


 歩は首もとを捕まれ、先生に引きずられながら連れて連行されたのだった。


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