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金木犀6

 「皆さん、注目して下さーい!」


 木曜日の六時間目、教壇に立ち教卓に身を乗り出した小宵がクラスを束ねようと声をあげた。口々に会話を楽しんでいたクラスメイトたちは小宵が教壇の上に立つ意図を知り、黙る。しかし、教卓の上に身を乗り出せなければこの教室を見渡すことのできない小宵にみんなが思うのだ。

 ああ、かわいそうに……と。


 「ちょっ、みんなしてなによ、その目は! い、今更、身長なんて気にしてないんだから!!」


 こうやって強がって見せる小宵だが、本当は気にしていることをみんなは知っている。


 「小宵ちゃん、今日も可愛いよー!」

 「俺、大きい人よりは小宵ちゃんのようなちっさくて可愛い子が好きだなあ~!」

 「小柄でその容姿……小宵ちゃん、うらやましいよ~」

 「頭下げなくても教室や電車に入れるっていいよな」

 「満員電車に乗ると宙に浮けるらしいぜ」

 「宇宙に行かなくても空に浮けるのか!」


 などなど、小宵を励ます言葉が寄せられる。


 「みんな、ありがと。でもね、そういった心遣いはたまに人を傷つけてしまうことがあるの……私は今、とても惨めよ!」


 小宵の嘆きに言葉を無くしクラスは沈黙した。

 それが何秒続いたかわからなくなった頃、その空気を破るように歩が発言した。


 「茶番はいいから、はやく決めようぜ。時間はあまりないんだろう?」

 「あ、うん……」


 あまりに当たり前すぎる歩の発言に小宵は混乱したように教室の端にいる奥野先生を見た。

 奥野先生は落ち着いたようすで首を縦に降る。

 気を取り戻したように小宵は俺達の方に向き直ると、調子を取り戻したように話し始めた。


 「歩に言われたのがちょっと尺だけど、そうね。時間もないことだし簡単に説明するわね。みんな知ってると思うけど、来月には学園祭ウィークなる体育祭と文化祭があるの。それでどの競技に出るのか、出展は何をするのか、それを今日は決めほしい。詳細はその都度説明していくから、さっそく決めていくわよ!」


 おー! と祭り好きの俺達は声をあげ、祭りの準備に取りかかる。


~*****~


 「まずは種目が決まっている体育祭からよ!」


 椅子に乗り、種目を黒板に写し終わった小宵がチョークを俺達に向けた。

 書かれた種目は……。


 100m走、パン食い競争、二人三脚、綱引き、棒引き、騎馬戦、買い物競争、大縄跳び、学園思い出作成クラブ主催 たとえ火の中水の中障害物リレーの九種目。

 一番最後の種目は……うん、嫌な予感しかしない。


 「あ……」


 何を思い出したのか小宵は黒板に向き直ると、コツコツと学園思い出作成クラブ主催の種目にチョークで何かを付け加えた。


 「おい小宵、それはなんの冗談だ?」


 学園思い出作成クラブ主催障害物リレーの参加枠に俺の名前が書き入れられているのだ。


 「……え? 冗談じゃないわよ? ほらこれ、生徒会から渡されたプリントに想真の名前がプリントアウトされていたのよ。これって想真が出るんでしょ?」

 「マジかよ……」


 小宵から手渡されたプリントを見て落胆した。そして、あの時の騒次の言葉が脳裏をよぎった。


 『うん、わかった。と言っても想真くんは参加決定なんだけどね』


 なるほどそういうことか。しかし、プリントアウトとなると生徒会の目を盗む必要がある……いや、生徒会も荷担していたと考えれば……。


 「それじゃあ、次はパン食い競争」


 知らぬ間に100mのメンバーが埋まり、パン食い競争に入っていた。1人大体2種目なのでせめてひとつは自分で選択したい。


 「はいっ! 私、パン食い競争やりたいです!」


 立ち上がって手をあげる落葉はパン食い競争に猛烈な食い付きを見せていた。そういえば昨日のバイトで、パン食いは体育祭の醍醐味でしょ! なんて言って言い切ってたっけ……。俺はそうは思わないけど。


 「落葉ちゃん、すごいやる気だね」


 後ろの席にいるリュアナがたぶん俺に話しかけてきた。


 「そう……だな。始めてのイベント事だし、楽しみでしかたないんだろう」

 「そうだね。昨日のバイトでもすごく楽しそうに話してたし」

 「その聞き役は結構疲れたけどな」


 俺がわざとらしく肩を回して見せると、「そうなんだ。私には結構、楽しそうに見えたんだけどな~」と小声でリュアナが呟いた。


 「他に誰かいませんか? あと1人です」

 「……わ、わたしやりたいです!」


 必死になって主張する学園新聞部の朝宮さん。影が薄いのを気にしてか落葉のように立ち上がっている。


 「そんなにしなくても大丈夫よ、朝宮さん。さてと、パン食いはよしとして次は二人三脚か……」


 視線が一同に集う。主に俺とリュアナに……。


 「決定ね」


 コクりとクラスの頭が縦に揺れる。


 「おい、ちょっと待て! 本人達の同意もなしに勝手に決定するなよ」

 「私はいいよ」

 「え、いいのか……?」

 「もちろん。想真くんと一緒に競技に出られるなんて恐悦至極の極みだよ」

 「いや、そんなにかしこまらなくても。というか恐悦至極の極みって重複してるし、そもそもそんなに幸せ極まっているものなのか?」

 「そーですけど、想真くんは違うんですか?」

 「ああ、ちが……」


 呆れたような、失望したような、まるでクズを見ているような。色々と混在した目が俺を見下していた。


 「あ、いえ……違わないです」

 「はい、決まったみたいだから次いくわよ」

 「もう一組は?」

 「私と詩織よ」

 「あ、想真くーん。私たちに負けたら罰ゲームがあるから楽しみにしててよね~」

 「あ……ああ」


 ……罰ゲーム? 待て、あの詩織達に勝てるのか? 勝率は? 作戦を考えて……。

 あれこれと考えているうちに種目はすべて埋まり、オーダー表が決められた。


 「よし、終わったわ」

 「以外と早く終わったな」


 この話題が始まってまだ10分しか経っていない。


 「そうね。みんなが協力してくれたおかげよ。ありがとう。さて、次は問題の文化祭よ!」


 文化祭、それは舞台演劇、出展、屋台のどれかを選択して、さらにそこから何をするのかを決めるこの議論は超難題だ。特にこのクラスは個性が強い奴らが集まっている。そう簡単にはひとつにまとまらないはずだ。


 「まずは多数決で分けるわ。いいと思ったやつに手をあげて。まずは……」


 クラス全員が思い思いに手をあげた結果、


 「演劇が10、屋台が12、出展が8……見事に分かれたわね。まあ多数決たがら屋台になるんだけど、ここから何をするかは提案をお願いするわ」

 「はい!」


 小宵が話し終わるのを待っていたようにタイミングよく歩が手をあげた。


 「はい、歩」

 「水着──」

 「却下!」

 「それじゃぁメイドカフェ……」


 秒で切られた案にがっかりしながら代案を呟く。まぁ、それぐらいならと小宵は黒板に書いた。それから、みんなが堰を切ったように案を出していく。お化け屋敷、うどん、焼きそば、ミルクせんべい、焼き鳥、迷路、謎解き、射的などなど、とどまるところを知らなかった。


 「案も出しきったところでそろそろ決めましょうか」


 と小宵は言ったがやはりそう簡単には決まらず……。


 「焼き鳥は間違いなく儲かる!」

 「そういった食べ物関係の出店は、みんなで一緒に作業することが少ないじゃないか!」

 「全体作業だとクラブがあるやつは参加しにくいだろ!」


 討論はどんどんヒートアップしていった。それだけみんなが熱心だからなんだろうが、このままだと決裂して台無しになるだろう。それをわかっているであろう小宵は一旦、話をやめさせ自分に注目させた。


 「はい、みんなありがとうね。結果は……焼鳥にメイドカフェ、それと迷路と謎解き、ミルクせんべいか……これならなんとかなりそうね。どうせこれ以上話がつかないんだから、これらをミックスさせましょ」

 「どういうことだ?」

 「謎解き迷路を出れた者だけにメイドカフェに入れる、みたいなことにするの。それなら、教室をふたつ借りればなんとかなるでしょうし、揉めることもないでしょ?」


 まあ、それならと頭に血が登っていた奴らが鞘を納めた。


 「さて、そうと決まれば、役割を決めていきましょうか」


 そう言うと小宵はチョークを手に取り、必要だと思われる役割を書いていく。


 「大道具に小道具、謎解きと料理、そして材料調達、まあ、こんなものかしら」


 小宵は自分の書いた文字を確かめながら頷き、俺たちに向き直った。


 「誰が何をやるのかはみんなの好きなようにしてくれればいいと思うんだけど、役割の中心になる人物を立てようと思うの。その方が効率よく円滑に回るだろうし、私への連絡も楽だからね」

 「それはどうやって決めるんだ?」

 「私が決めるの」


 くるりと人差し指を回し、小宵は少し意地悪そうな笑顔を俺に向けた。


 「想真、歩、詩織、あなた達はこの町のことよく知ってるでしょ?」

 「まぁ、そうだな」

 「私たちに知らないところなんてないね~」

 「だな」

 「それなら、材料調達をお願いしてもいいかしら?」


 長年住んでいれば多少なりともツテがあると考えたのか。確かに小宵の読み通り俺たちにはそれなりにツテがある。そういう意味では材料調達は向いているかもしれなかった。

 

 「わかった。その案に乗ってやるよ」

 「ありがと」


 小宵は笑顔を浮かべると、次々とリーダーを指名していく。独断で指名する小宵だが、どの役職も誰もが納得する人を指名するもんだから非難する声など一人もいなかった。


 「さて、こんなもんかしら」


 そう小宵が言う頃にはみんなの役割が決まり、同時にチャイムが鳴った。

 すごいカリスマ性だ。この一時間で体育祭、文化祭を決め終えるなんて、ただのちっちゃい凶暴マスコットキャラクターだけじゃないんだ。


 「おい、想真! いま、私を侮辱するようなことを考えたでしょ」

 「いや、俺はお前に対する評価を変えただけだ。主にプラスの方にな」

 

 「本当かしら」と疑いの目を向けて来る小宵を座っていた奥野先生が席に戻れと背中を押した。


 「夜来のお陰で体育祭、文化祭の役割が決まった。このクラス一丸となって成功できるように一人一人責任をもって準備するよう心がけてほしい。また、必要なお金、物があれば私に相談しに来てほしい。手伝えることがあれば手伝おう。それでは今日はこれで終わる。夜来、号令」

 「起立、気をつけ、礼」

 「「ありがとうございました」」

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