表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/82

金木犀4

 「歩、ちょっと待った。お前に聞きたいことがあるんだ」


 落葉にあの事を確認した次の日の放課後、俺は颯爽と教室を去ろうとする歩を引き留めた。


 「ん? どうした? またアイドルのことを聞きたいとかか? まったく、あんなにも美人な彼女がいると言うのにお前というやつは……」


 広角をにやりと上げて『男になったな』と肩を叩く。こいつは俺をどうしてほしいのだろうかと甚だ疑問に思ったが、今は歩の手と同様に空に払った。


 「違う。もう少し真剣な話だ」

 「フム……ま、いいだろう」


 つまらなそうに手を顎に添えて答えた歩は、その辺にあった椅子を持って俺の正面の席に座った。


 「想真、のど乾いた。ホワイトサイダーの大きいほうで」

 「まったく、どうしてお前におごらにゃいかんのだ」

 「のどが……のどが渇いて、答えられない……から」

 「今、答えてるだろ。それで十分だ」


 要はYesかNoか、それが聞ければいい。もっと極端にいえば言わなくてもわかればいいのだ。

 はぁ~と諦めた息をつく歩。まったく、ため息をつきたいのはこっちだ。


 「それで話って?」

 「お前の力についてだ」


 そう簡潔に言うと、歩はどうしてそれを……と驚いた様子で、戦くような焦りを見せた。しかし、それはほんの数秒の間だけ、歩はすぐに冷静さを取り戻していた。


 「それ、どこで知った?」


 普段の歩には似合わない真面目な表情。それだけで確証は得られる。

 夢の中でお前が言った……なんてな。


 「言っても信じられないと思う。俺もそれが信じられないから聞いたんだけど……どうやら、そうらしいな」

 「誘導尋問か……」


 結果的に見ればそうなった。


 「意図的ではなかったけどな……」


 呟くと、歩がいつも通りの表情、声色で前のめりで聞いてくる。

 

 「まあ、いいや。それでどこまで知っているんだ? 俺のスーパーパワーを」

 「えーと、心身の速度を変化させる力、だったか?」


 うろ覚えの夢を思い出し言葉を紡ぎ出していると、歩が頭を伏せて黙っているのに気づいた。


 「はぁ~。全部か……」


 つまらなそうに歩はまた体を椅子に放り出す。


 「俺の中では機密事項のひとつだったんだけどなぁー。まったく、どこで知ったんだか……」


 軽く俺を睨むと今度は体を戻して顔を近づけた。


 「他言無用だぞ?」

 「ああ、もちろん」


 俺と歩の声色は明るく、言葉を交わした後は広角は上がっていた。まるでそれは少年時代に交わした親友との秘密の約束のようで……。

 

 「それで聞きたいことはそんなもんか?」

 「ああ……まあ、そんなもんだ」


 確認してどうこうするつもりはなかった。ただ、今は確認しておきたかった。


 「それじゃ、帰りますか」

 「だな」


 鞄を取り、教室を出る。先生の言い付け通りに俺は鍵を閉めて──。


 「歩……?」


 呆然と廊下の先を見つめている歩に気になって呼んでみる。しかし、その返事は変声期を迎えていない少し高めの声が代わりに俺たちを呼んだ。


 「こんにちは想真くん、歩くん」


 身長百五十センチ、見た目は小学生。この学校でこの姿をしているのは一人ぐらいしか思いつかない。

 若竹 騒次。

 学園思い出作成クラブの会長にして、一番油断のできない人物。


 「……俺達に何かようですか?」

 「うん、君たちに紹介しておきたい人達がいてね。ちょっと部室まで付いてきてほしいんだ」


 あやしい。裏があるとは思えないその笑顔がさらに疑いを生じさせる。


 「歩、帰るぞ」


 こういうことは関わらない方がいい。後で生徒会に知られたら、静華さんに何て言われるかわかったもんじゃない。


 「ま、いいんじゃないか?」

 「おい、歩!? お前、静華さんにでもばれたりしたら……」

 「潜入調査と言っておけば何とかなる」

 「そうそう。ああ見えて静華さんは弟思いだからきっと許してくれると思うよ。だから、行こうよ」


 潜入調査という大義名分があるなら……。

 俺だって学園思い出作成クラブに興味がないわけではない。それどころかうずくようなものすらある。


 「わかった行こう」

 「さすが、想真くん」


 こうして、俺たちは学園思い出作成クラブの部室へと行くことになった。

 

~*****~


 薬品や床の古い木の匂いが漂う理科室。黒板の隣にある準備室と書かれた扉を騒次は鍵も開けずに容易く押した。

 ぎぎぎと年代物の扉は開き、中からは光が漏れる。

 さて、この先にどんな奴がいるのか。事前情報ではまずろくでもない奴らのはずだ…………。

 そう考えていた俺は部室を見て絶句する。

 何もかもが、白い……っ!? それも目を瞑ってしまうほど眩しいほどに輝いてる。


 「どうしたの? 早くおいでよ」


 薬品の入ったタンス、壁に床にすべてが真っ白。これが学園思い出作成クラブの部室なのか? あまりにも綺麗過ぎるだろ……。 


 「お帰りなさい。騒次さん」


 部室へ入ると中央に置かれたテーブルを拭く執事風さわやかイケメンが出迎えた。


 「清くん、ただいま~」


 疲れた様子でよなよな~と騒次が綺麗な椅子に腰を掛けると、そのイケメンはなにも言わずお茶を出す。それどころか、どうぞと俺達にお茶を出して、椅子まで引いてくれた。

 本当、執事かよ……と胸の内でツッコミながら勧められるがままに座ると、奥に座っていた活発そうな女の子が騒次に声をかけた。


 「騒次、遅かったじゃないか! 結構、待ってたぞ!」


 きれいに装飾された椅子に胡座をかくように座った女の子は胸の前で腕を組ませながらふんっと結った髪を揺らした。


 「ごめん、ごめん。想真くん達を探すのにちょっと時間かかっちゃって……」

 「嘘だな、騒次。この部室からでる前、ユキユキから位置の情報を教えてもらってただろ? なぁ、ユキユキ?」

 「…………うん」


 小声でそう言ったのは奥にあるパソコンと向き合ったメガネをかけた小柄な女の子だった。


 「あはは……。ごめんね、ちょっとジュースを買ってたんだ喉が乾いちゃって……」

 「私達には?」

 「もちろん、ちゃんとあるよ」


 どこから出してきたのか、騒次はジュースを五本取り出しテーブルの上に置いた。


 「よし、なら許そう」


 スポーツ系の女の子はテーブルに身を乗り出してスポーツドリンクをかっさらう。


 「ちょっと綾さん、行儀が悪いですよ。女の子なんですから自重してください」

 「こんなあたしでも静也は女の子扱いしてくれるんだな。このイケメンめ~! こうしてやる、このこの~」

 「ちょっ!? ヘッドロックで胸を押し付けるのはやめてくださいって!」


 いいなぁーと呟く歩のシャツを掴む。歩ならヘッドロックをかけられに学園思い出作成クラブに入りかねない。


 「歩、ダメだからな……」

 「わかってるって、坂上さかがみあやさんの胸に抱かれるのとこのクラブに入るのとでは割に合わないからな」


 「あたしの名前を知ってるんだ」


 イケメンを解放した女の子がそう言った。


 「そりゃ、静華姉さんと渡り合える唯一の有名人ですから」 

 「それは光栄だね。でも、次からは逆になると覚えているといいよ」

 「記憶に残っていればですけどね」


 そうやって笑ってはぐらかす歩に綾さんと言った女の子はスポーツ選手ならではの闘志の宿った笑顔を浮かべていた。


 「面白くなってきたね。でもその前に、みんな紹介してあげて」


 楽しそうに笑う騒次についで、一歩前に出たのはイケメンの男子だった。


 「はじめまして、想真さん、歩さん。話は騒次さんからよく伺っております。私は高槻たかつき清也せいやというものです。同じ一年生なのでよろしくお願いします」


 その浮かべる笑顔もまたイケメンで、黄色い声援が聞こえてきてもおかしくはない。


 「わ……たしは、若草わかくさ……ゆき。同じ、一年生だから、よろしく……」


 眼鏡の女の子は怯え怯えにお辞儀した。これで一年生は二人、後は……。


 「あたしは坂上さかがみあや。二年生だよ」


 やはり二年生だった。歩の発言からなんとなくわかってはいたけど、静華さんとは似て非なる人だな……。


 「さて、あたし達は自己紹介したんだし、今度はそっちの番かな~」


 にやにやと俺たちを眺める綾さん。ここでの情報漏洩は命を落とすのと同意だと悟った。

 綾さんのように最低限で済ますべきか。


 「一年の四季想真です。どうぞ、よろしくお願いします」

 「ありゃりゃ、それだけかな? ちょーべっぴんさんと付き合って毎日イチャイチャしていますってことは言わなくてもいいの?」

 「ちょっ──」

 「……イチャイチャ」


 反射的に言い返そうとして、口を押さえグッと飲み込んだ。まったく、油断できない。

 そんな俺を見て楽しそうに綾さんが笑っていた。


 「俺は大空歩だ。よろしくな」

 「よろしくお願いします」

 「よろしく……です……」


 歩は顔が割れているせいか、歩についてはあまり言及されない。理不尽だと思いながら見ていると騒次が立ち上がった。


 「さて、自己紹介も終わったことだし、早速、本題に入ろっか」


 やっぱり本題は別だったか。


 「単刀直入に想真くん、歩くん、僕たちと手を組まない?」

 「どういうことですか?」


 慎重に、かつ不自然にならないように話を聞き出す。


 「うーん、つまり今年の体育祭文化祭は僕たちと一緒に思い出を作らない? っていうお誘いかな」

 「確か……来月の初めの週でしたっけ?」


 歩がおぼろげにそう言う。

 歩が言う通り、この学校の体育祭と文化祭は来月の初めに行われ、学園祭ウィークと銘打って一週間で体育祭と文化祭を終わらせる予定らしい。


 「そうそう。それでね、いろんなことをする計画を立てているんだけど、想真くん達も入ってくれれば楽しくなると思ったんだよね~」

 「楽しそう……」


 ぼそりと、案外本気で歩が呟いた。


 「おい、歩……」

 「まあまあ。内容を少し聞かせてもらえませんか? 俺は興味があるんで」

 「うーん、まぁ、少しだけなら……」


 五分後。内容を聞かされた俺たちは……。


 「やります! 俺!」

 「ちょっと待て、歩」

 「悪いな、想真。やっぱ俺にはこっちが向いてるんだ」


 それは最初からなんとなくわかってたよ。


 「だけど、静華さんはどうするんだ?」

 「大丈夫。俺が何とかして見せる」

 「さすが歩くん!」

 「いや、調子に乗せないでください」


 その後、歩と話し合い交渉するも、歩は聞かず俺は諦めた。


 「それで想真くんはどうするの?」


 生き生きとする歩を横目に疲れはてていると騒次が聞いてきた。


 「今のところ、保留でお願いします」

 「うん、わかった。と言っても想真くんは参加決定なんだけどね」


 「え?」と思った頃には騒次はもう違う場所で騒いでいた。


~*****~


 「あ~疲れたー」


 理科室を出た俺は、このまま家に直行しようと門までの最短距離の廊下を歩いていたのだが……。

 ガラッと扉が開き見知った顔が現れた。疲れはてながらもその教室の上を見るとそこには生徒会室と書かれてある。

 ああ……これは……。


 「おや、想真くんじゃないか。ちょうどいいところに」


 俺は今、一番出会いたくない人と出会ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ