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紫陽花~Last summer Ⅲ~

 「「「はぁー……」」」


 第二回梅雨会議。その始まりは全員のため息がきっかけだった。

 誰一人として話はしないものの、その苦労は顔が物語っている。もちろん、それは俺達も例外ではなく、今もだるい疲れたオーラを散々と表に出していた。

 思い返すと、あの商店街のおっちゃんがきっかけだった。

 おっちゃんに連れられ、あっちの店こっちの店へと顔を出しては、おばちゃんおっちゃんに囲まれて、てんやわんやに揉みくちゃにされて、最初のおっちゃんと別れるころには野菜やら魚やらを持たされていた。そして、宿に帰りついた頃には疲労がピークに達していた。

 ある意味、喋ることすらままならない。

 そんな空気の中、この会議初めてとなる声が上がる。


 「セリアさん、これ、人選ミスですよね……? 想真達は別として、小宵がチラチラと見て仕事どころじゃなかったんですけど……」


 なるほど、歩の苦労は小宵か……。確かに、小宵の様子を考えると今回の仕事はセリアさんの人選ミスなのかも知れない……。ん?


 「……ちょっと待てよ、歩。なんで俺たちだけ例、外…………」


 ちらりと見た隣、リュアナがとてもいい笑顔で笑っていた。俺は言いかけた言葉の意味を悟る。


 「なっ、なんでもないです! なんでもないですよ~……あはは」


 つい、いつもの癖が出てしまった。苦笑いのついで、もう一度チラリと隣を見ると、リュアナにそうだよね~と笑っていた。その時、かすかに感じた殺気は……気のせいであってほしい。

 

 「うーん、確かに歩くん言う通りかもしれないわね。私もまさか、詩織ちゃんが静華を収めてしまう力があるなんて知らなかったわ」


 フフ~ンとなぜか誇らしげに胸を張る詩織。セリアさんを見ている限りとてもいいことをしたとは思えない。

 だとすれば……と思いを巡らせて、セリアさんの隣を見た。

 セリアさんの隣には、座布団に収まった騒次がにまにまとした表情を浮かべてちょこんと座っている。

 間違いなくこっちだな。


 「またまた、セリアさんは照れちゃってー。そんなこと言って──」

 「騒次は黙ってなさいッ!」

 「ふぎゅ……」


 凄まじい剣幕でテンションの高い騒次を怒鳴ると両頬をムギュッとつまみ、黙らせた。

 セリアさんの顔は赤く、荒れた呼吸を整えようとしている。俺もそれに合わせるように大声に飛び上がった心臓を整えていた。すると、こそこそとした話し声が聞こえてくる。


 「セリアお姉さん、顔真っ赤……くすくす。うまくいったみたいだよ」

 「二人っきりにさせて正解だったみたいだね~。もしかして、あの後押し倒しちゃったりなんかして……」


 ビクッと内緒話に反応するようにセリアさんの肩が縦に振れた。


 「「うそっ!?」」


 大きな声で驚く詩織と梅雨。なるほど、そういうことか……。

 ポンと手を叩くと、ちょうど歩と重なった。


 「そっ、それよりも、紫陽花の木について会議したいのだけど……いいかしら」


 辺りを威圧するような目に反論どころか言葉すら出ない。しかし、だからだろうか? このタイミングでリュアナがアイコンタクトを送ってきた。

 今なのか……?


 「あーあー、あのー……セリアさん?」

 「はいっ!?」


 いきなり声をかけてしまったせいなのか、セリアさんは変に抑揚が掛かった返事をした。


 「えーと、まぁ、こんな状況で状態なんで、まあ、鍋でも囲んで話しませんか? きっと、落ち着いて話せると思ので……」


 「鍋……?」とセリアさんは呆気に取られている。

 俺も俺で自分で言ってて何を言ってるのかわからなくなる。こんな状況で状態ってなんだ?


 「で、でも鍋なんて、どこにもないわよ?」


 俺よりも先に復帰したセリアさんが俺に尋ねた。


 「ああ、それなら心配要りません。さっきリュアナと一緒に厨房の方へ行って頼んできたんで、そろそろ……」


 と、言ったところでちょうど女将さんの声が部屋に届いた。


~*****~


 「でも、どうして鍋だったの?」


 美味しいね~と楽しそうに梅雨と食べていた詩織が俺に聞いてきた。


 「商店街のおっちゃんやおばちゃん達にもらったんだ。これ美味しいからって……な?」

 「うん……そしたら、おじさん達がとても安くしてくれて……」


 善意に負けてたくさん買っちゃったんだよな……。ほんと商売上手だよ。


 「それにしても美味しいわね~。このお野菜どこで作ってるのかしら」

 「それも、すべてこの島で作られたものらしいですよ。なんでも商店街とショッピングモール天野で争っているらしいです」

 「ヘ~」


 ちなみにこの情報の提供はすべておじさんたちからだ。ってそんな話じゃなくて。


 「それよりも、セリアさん。紫陽花の木の話を……」

 「ああ、そうね。美味しすぎて忘れちゃってたわ」


 ふふ、と笑ったセリアさん。どうやら鍋もいい役割をしてくれたようだ。

 セリアさんは箸を置くと、それぞれを見渡した。


 「まず、誰から発表してもらおうかしら?」

 「なら、僕らから言いますよ。この中じゃ、きっと少ないだろうし」

 「それじゃあお願いするわ歩くん。静華お願いね」


 はいはい、と鍋をつついていた静華さんがポケットからメモ帳とペンを用意した。さすがは生徒会の書記だ。


 「それじゃあ……。と、俺達はこの島の図書館で新聞と書籍を使って調べたんですが……はむ……」


 もぐもぐ、もぐもぐ。

 おい、このタイミングで食べるのか……。


 「紫陽花の木は、私たちの四季の木と同じように願いを叶える力があったそうです」


 そこで小宵に代わるのね……。


 「書籍には、とある夏、日照りによって干ばつの被害に遭っていたこの島を紫陽花の木の力によって大地に雨を降らした。と、書かれてありました。また、この島の大地が肥えているのもこのせいだとも」

 「それじゃあ、あの場所にだけ降り続けているのは、雨を降らしてほしいって願ったからかしら……?」

 「いえ、違うみたいですよ。新聞によると、雨がやまなくなったのはここ最近だとか……たしか、二、三年前だったはず」

 「つまり、想真くんを信じるなら、この二、三年の間で呪われたということね」

 「呪われた? それはどういうこと?」


 騒次が年相応に首を捻る。どこから見ても子供にしか見えない。


 「あなたはでしゃばらなくていいのに……」

 「でも、僕も一応は情報を持ってますから」


 笑顔を浮かべる騒次にセリアさんはため息をついて、騒次に説明した。


 「なるほど、そういうことなんだ」


 騒次はなにか納得したように頷いた。


 「はい、これで説明はおしまいね」

 「うん」

 「あのー。私、ひとつ気になってることがあるんですが、なんで紫陽花の木を呪ったんでしょうか?」

 「それは、あの場所で死んでいった人達の家族とかじゃないか?」


 セリアさんと騒次の説明でペンを箸に持ちかえていた静華さんが鍋をつつきながら軽く答えた。


 「でも、それって梅雨ちゃんに恨みを持っているってことじゃないですか? 紫陽花の木とは別なんじゃ……」


 詩織の鋭い疑問に俺とリュアナ、そして梅雨は完全に箸を止めていた。


 「それが、そうでもなさそうだぞ。亡くなった人の中で、梅雨ちゃんを見てないって人が何人かいたらしいし、階段から転落して亡くなったって人もいたから。雨を降らせるようにした紫陽花の木に恨みがあってもおかしくはない」


 歩の説明に梅雨が紫陽花の木だと気づかれる危険がないとひと安心して鍋をつつく。


 「じゃあ、どうして呪ったら雨がやまなくなったのかな?」


 詩織の疑問を聞いて、ふと俺も改めて疑問に思った。

 どうして呪うと雨が降るのだろうか? なんなら、梅雨を呪い殺してしまってもおかしくはないはずだ。なのにどうして雨なのだ? なにがそんなにも恐ろしくしているのだろうか? 


 「…………」


 静まり返る室内。気がつけば、すべての目が梅雨に向けられた。敵に囲まれて怯える兎のようにキョロキョロと辺りを見回す梅雨。


 「紫陽花の木にとって雨は害になるのかもしれないけど、時間がかかる。結果をいち早く見たいと思う呪術者がそれを望むとはあまり思えないな」

 「だとすれば、自ずと答えは見えてくるかしら」


 つまり、この呪いは紫陽花の木ではなく、梅雨に対する呪いということ。しかし、あの場所にだけ雨がやまないことで梅雨は苦しめることに繋がるのだろうか?

 これは本人に…………。


 「梅雨………?」


 明らかにその様子はおかしかった。なぜ、この状況でこんなにも顔を赤くしているんだ?


 「ぜ……絶対に言えない。言えないよ!」


 その言動は舞に似て、なにかを隠しているのは間違いなかった。


 「梅雨ちゃん……?」


 リュアナが教えてという眼差しで梅雨を眺めたが、梅雨は手で口を塞ぎ、頑なに喋ろうとはしない。


 「そうよね。好きな男の子のことだもん。誰だって隠したくなるわよね」


 好きな……男の子……?

 セリアさんのその一言で、梅雨の顔は真っ赤な紫陽花のように色づき、目を見開いた。


 「ど、どうして………」

 「ごめんね。それは僕です」


 と、子供のように頭をてへへと頭をかく騒次。梅雨の大きな目は騒次へと向けられる。


 「僕の方でも色々調べててね。仲良しのお友だちがいたって情報と君が最初に掛ける言葉「あそぼ」って言葉、それと紫陽花の木が願いを叶えるってことで推理したんだけど、どうかな?」


 梅雨はこれ以上耐えれないといった様子で逃げ出すように立ち上がり、あろうことか俺に飛び付くと泣きはじめた。


 「だから、追い詰めるような言い方は言っちゃダメだって言ったのに……」

 「でも、この話をしだしたのはセリアさんだよ?」

 「それはそうだけど、私にも考えがあったのよ」


 わんわん泣く梅雨を少しでも慰めになるように頭を撫でてやる。梅雨がこの様子じゃ、聞きたいことも聞けないだろう。

 しかし、本当、騒次は一体何者なんだ? 

 梅雨の様子から完璧じゃないとしても的は射てている。もしかして、本当に探偵なんじゃ……。

 俺の視線に気づいた騒次がニッコリと笑顔を見せた。

 本当にわからない奴だ。


 「うぅうぅ……。聞かして……あなたの推理を……」


 抱きついた梅雨が震えた細い声で言った。


 「いいのか……?」


 顔を胸に押さえつけたまま、コクりと頭が動いた。


 「うん、わかったよ。まず、僕が調べてわかったのはその場所の雨が降り続ける前のこと。梅雨ちゃんが男の子と楽しそうに話している姿がよく見れたそうだよ。でも、雨が降るようになってからはあまり見なくなったって聞いたんだ。

 だからだよね『あそぼ』って言って出てくるのは……。寂しかった。雨が降ってあの子が遊びに来てくれないから、だから、誰でもいいから声をかけた」


 なにも言わない梅雨を肯定と捉えて、騒次は言葉を続ける。


 「そして、今日、歩くんから紫陽花の木に願いを叶える力があることを聞いて、繋がった。きっと、誰かが二人のことを見てたんだね。そして、呪いを願った。ずっと雨が降りますようにって。梅雨ちゃんとその男の子を引き剥がすためにね。

 どうして、それを紫陽花の木は叶えてしまったのかはわからないけど、叶ってしまった。だから、今もこうして雨が降っているんだよね」


 騒次がふぅーと息をつき、天を仰ぐ。


 「……これが僕の推理だよ」


 騒次の話を聞いて、俺はやはりこいつはヤバイ奴だということを再認識させられた。

 やっぱり、あいつ探偵なんじゃ……。


 「もし、そうだとしたら……」

 「合ってるよ」

 「……梅雨?」


 目を擦り顔を赤くしていた梅雨がそう言った。


 「その推理、合ってるよっ!」


 やけくそに梅雨が言い捨て、またわんわんと泣きはじめた。

 今日はもう、これまでだな……。


 「セリアさん、ちょうど鍋もなくなってきたんで終わりにしましょう」

 「ええ、そうね。今日の会議はここまで、梅雨ちゃんごめんなさいね。想真くん、お願い……」

 「わかりました」


 気まずそうにその場を後にするセリアさん。と、引きづられて出ていく騒次。

 さて、この後はどうしたものか……。

 ぐずぐずと泣く梅雨を見る。


 ──まぁ、話は終わったんだし、ちょっとだけ、どこかに行かない?


 (リュアナ?)


 ──気を紛らわせば、きっと梅雨ちゃんも泣き止んでくれると思うんだけど……。どうかな?


 それもそうか。


 (いや、いいと思う)


 ──ありがとう。それじゃあ、夜の散歩と言うことでしゅっぱーつ。


 まったくリュアナは……。

 すぐに行こうとするリュアナに呆れながら、リュアナの掛け声に合わせて、抱きつく梅雨を抱き上げた。


 「……そ、想真お兄さん……?」

 「今からどっか行こう? こんな気分じゃ嫌だろ?」

 「……う、ん」

 「それじゃあ決定だね。レッツゴー!」


 梅雨よりも夜の散歩に興奮しているリュアナは、颯爽と立ち上がると襖を開けた。


 「ありがとう……でもどこに行く?」

 「どこにいこっかな~? 梅雨ちゃん希望は?」

 「……わかんない」

 「だよね~」


 他愛無い会話にリュアナは笑い、俺も笑った。この散歩に目的はないのだ、ただ俺たちはこの静かな夜を歩きたかっただけだった。

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