表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/82

紫陽花8

 ──甘い、甘い夢があったような気がする……。

 それは、現実のように体が動き、会話が成立していた。それは本当の現実のようで、しかし、意識は夢心地で、それが本当にあった事実とはわからない。

 ただ、抑えていたものをすべて吐き散らかした気がする。

 その後、どうなったのかは記憶にない……。

 ただ、次に目を覚めたとき、妙に心地が良かった。


 「まったく……。どうして今年の一年生はこんなにも不純なのかしら……?」

 「まあまあ、セリア。こんなに幸せそうに寝ているんだ。それにこれは二人が愛し、求めた結果なんだろう。ならば、それを不純といってしまうのは、ちょっと可愛そうと思うんだが?」

 「だけど、静華……」


 不純? 愛し合った? よく意味が理解できない言葉を耳に、俺は目を覚ます。


 「あ……起きたようね」

 「……ええ……おはようございます。セリアさん、静華さん」

 「……ええ、おはよう想真くん」

 「おはよう、想真くん」


 柔らかく微笑みを浮かべながら挨拶してくれる静華さん。それと反対にセリアさんは突き放されたような挨拶を返し、鋭い眼差しで俺を見ていた。

 俺は何か悪いことをしたのだろうか? 思い出そうとするが頭が疼いて、どうにも思い出せない。

 さっきの不純だとか、愛し合ったとかの話だろうか?

 冴えない頭を降りながら、上半身だけを起き上がらした。


 「昨晩は、そ、その……楽しめたかしら? リュアナとのエッチを……」


 セリアさんがそっぽを向きながらそう訊ねた。その頬は少し朱色を帯びていて……リュアナとの……エッチ……?

 

 「…………はっ! ちょっとなにいってるんですか? セリアさん!」

 「えっ……なにって、その……昨日の夜、やったんでしょ……?」


 どこでどう間違えたら、そんな誤解を招くことになるんだ?


 「そんなわけないじゃないですか! まったくどうして、そんなことに…………」


 疑われることはなにもないはずなのに……と首を落とした目線の先に、まるで少女のような寝顔をしたリュアナがそこにいた。


 「……なりますよね、これじゃあ……」


 俺は納得して言い黙る。

 これじゃあ誰が見てもそう思ってしまうしまうだろう。そう思ってしまうほどに、リュアナの浴衣ははだけ、そして、幸福を感じながら寝たような、幸せそうな顔をして寝ていた。

 俺は静華さんとセリアさんを苦笑いで見つめた。静華さんは相変わらず微笑んだまま、セリアさんは嘘じゃないと冷たい目で見返していた。

 今朝、妙に心地がよかったのって……。いやいやいやいや、ないない、絶対にない。


 「あり得ないですよ。俺がリュアナに手を出すなんて……」

 「想真くん……君はそう言っても、これじゃあ説得力が足りていないんじゃないかね」

 「そうね……」

 「だとしても、俺はしてませんし、リュアナは昨日、ちゃんとそっちの部屋に寝かしましたし」

 「そっちの部屋に寝かした……?」


 セリアさんの眉がピクッと動く。

 しまった、墓穴を掘った……。


 「ねぇー想真くん。昨日、開けちゃダメっていったよね?」

 「えーと……それは緊急事態だったので……」

 「緊急事態……ねぇ~……」


 にやにやと本当に楽しそうに静華さんが微笑む。なんて意地が悪い微笑みだ。


 「もしよければ教えてくれないだろうか? ああ、済まない。少し言い忘れていたが拒否権はないぞ」

 「拒否権がないのなら最初の一言要りませんよね!? 怖いだけなのでやめてください!」

 「想真くん、教えなさい」

 「ひひっ……」


 セリアさんの鋭い目線に体が震え上がってしまう。


 「えーと……昨日はですね……」

 「ううっ……ん、……ふぁ~あ、おはよう想真くん。昨日はありがとね……トイレ……連れってくれて……」


 リュアナは寝起きで、まだボーとしているように途切れ途切れの言葉で俺にそう言ってくれた。

 ああ、神だ。なんとちょうどいいタイミングに起きてくれたんだろうか……。ありがとうリュアナ。


 「こういうわけです。その帰りの途中で……」


 あれ? どうして俺はリュアナを運んだんだ? どうして運ばない状況になった? いや、帰りの途中じゃない。待っているときに誰かが来て……。


 「……想真くん、想真くん」

 「……あ、はいっ!」

 「それでどうしたの?」


 理由ははっきりとまでは覚えていないが、記憶に残っていることで話そう。


 「帰る途中でリュアナが眠ってしまったんで、部屋に運んだんですよ。それでこっちに寝かすわけにもいかずそちらのお部屋にお邪魔したんです」

 「ふーん、本当なの? リュアナ?」


 やっぱり俺だけでは信用はないようで、セリアさんが寝ぼけてボーとするリュアナに訊いた。


 「うん、たぶん間違いないと思う。トイレから出てきてからの記憶がないけど、きっと寝ちゃってたんだね……」


 ふぁ~とあくびをして答えるリュアナ。セリアさんは、渋々納得したように目を閉じた。


 「でもだとしたら、どうしてリュアナは想真くんの布団に寝てたのかしら? この子、別に寝相が悪くはないはずなんだけど……」

 「ぁ…………」


 それは確かに気になる。俺が無実を証明したことで、いったい誰がリュアナを移動させたのか……。


 「アウラさんですかね……」

 「あの~………」


 今、一番怪しい人物といったらあの人しかいない。


 「確かにあの人ならやりそうだ」

 「そうね~」


 なんせ高校生に子作りを推奨する人だ。舞の時もそうだったが、そういう状況や状態にさせることはきっと得意なはずだ。

 セリアさんも静香さんも納得したように黙っていると、リュアナが一際、大きな声を出した。


 「あのっ!」


 その声に俺もセリアさん達もリュアナを見た。しかし、当のリュアナは俺らの注目を煽っておきながら、もじもじと顔を赤くして恥ずかしそうにしている。


 「リュアナ、どうしたんだ? まさか、アウラさんの名前をいったことで昨日のことを思い出したとか……?」

 「そうなのか?」

 「ちっ、違うよ。そうじゃなくて……」

 「どう違うのよ?」


 セリアさんはふぅ~と息を吐きながらリュアナを見た。


 「そ、その……昨日、寂しくて…………」

 「まさか、それで自分から入りに来たって言うんじゃ…………」

 

 ばつ悪そうに頷くリュアナ。俺は、はぁ~と呆れた息をついたり。

 寝起きの体にどっと疲れがのし掛かったが、寂しくて入ってきたと聞けば、仕方ないな~と許していた。しかし、セリアさんからすれば……。


 「どうして……寂しかったのなら私のところに来てくれればよかったのに……」

 「ごめんなさいセリア姉……」


 それ以上なにも言わないリュアナにセリアさんどうしてを連呼している。


 「きっとセリアは焼きもちを焼いているんだろう……。まあ、精一杯愛情を注いでいる妹が自分を頼らず、他の、それも男の子にとられたんだ。悲しくもなるかな」


 静香さんに見つめられ、あははっと苦笑いで目をそらす。セリアさんは自棄になったように馬鹿馬鹿とリュアナにあたっていた。


~*****~


 歩と小宵が抱き合って寝ていたり、詩織が部屋のトイレで寝ていたり、といろいろとあった後の朝食。

 さすがに朝からいろいろとあったせいか、みんながみんな、私語ない食事を送っていた。

 黙々とした食事も終わり、これからの話を始めた。


 「それで、今日は天気も良好なので、昨日の話を実証しにいきたいと思いまーす」


 現時点のまとめ役、頬の腫れた歩はうきうきとした陽気な声で言った。ちなみに頬が腫れているのは小宵に叩かれた跡だ。


 「ふむふむ……それで、場所は、どこにあるんだ?」


 腹ごなしに、いや違うな。幽霊との喧嘩に備えてアキレス腱を伸ばす静香さん。

 今のうちから体を暖めておくのか……。

 これであの幽霊なら……と考えると、当たらないとはいえ、やはり可哀想でならない。


 「えーと……たしか、さっき女将さんに聞いた話だと……」


 セリアさんの指がテーブルに広げられた天音島の地図の上を無駄にさまよう。


 「たしかこの辺でしたよね?」

 「……あー……そこだったわね……」


 歩の指差した場所を見て、セリアさんは残念そうに棒読みで言った。


 「……それで、どうやっていくのかしら?」


 小宵は諦めたのか拗ねたように歩に訊ねた。


 「そうだな~……」


 歩が指した場所は、8分音符のようなこの島の中心にある向日葵畑、紫陽花の木と書かれた場所を指していた。


 「ここの旅館、たしか南西の端にある旅館だから……ここからだと車が必要だな」

 「それなら、私が言って出してもらうわ」


 おーさすがはここのお嬢様だ。


 「あっ静香姉さん、セリアさんをよろしく」

 「ああ、わかった。悪いがセリア、私もついていくからな」

 「くっ……」


 手回しがいい歩に苦い顔をするセリアさん。そんなにも行きたくないんだろうか?

 悔しそうな表情を浮かべたセリアさんは静華さんと部屋を出ていく。


 「それにしても、変わった形の島だよね~。まるで音符みたい……」


 リュアナが言うように、島は音符のような形をしており、浜、町、山と大地の色を変えて、三つずれて重なったように描かれていた。


 「こうして意識して、飛行機から見たらきれいだったのにな……」


 あの時は、浮かれていて島の形なんてちゃんと見ていなかった。


 「帰りの時に見ればいいのよ」

 「そうそう」


 あっけらかんと言う二人はいそしそ、と出かける準備を始めていた。

 『それもそうか』と準備を始めようとすると、入り口の襖が開き、セリアさんと静華さんが現れた。


 「よし車は手配できたぞ!」

 「んぅ~……」


 嬉しそうにポキポキ手を鳴らす静華さん。それに対しセリアさんは今にも泣きそうな表情で、すねたように唸っていた。


 「あのさ……歩、やっぱりセリアさんだけでも置いていくほうが──」

 「いくぞー!」

 「「おおーーー!」」

 「うぇーーーん!」

 「最後まで聞けよ! この野郎!」


 かくして、俺たちの幽霊に出会うための遠征が始まった……。


~*****~


 天気は快晴、雲一つない。しかし──。


 「まじか……」


 長い長い階段の先、青空とは対象的にも見える黒色の雲がとどまっていた。

 東に広がる山と町の境にそびえ立つ紫陽花の木。その木には本当に雨を降らす力があるのかもしれない。


 「それじゃ、行ってみますか」


 一ヶ所に降る不可思議な雨の存在を見て、固まる俺達に歩が先頭を切った。


 「だな……」


 止まりかけた思考を動かし、足を動かす。


 「さぁ、私たちも行こうかセリア」

 「いやっ、ぁん──ん~ん~」


 静華さんはさすがに付き合うことが面倒になったのか、往生際が悪いセリアさんを縄で縛りあげると肩にせよって階段を上ってくる。

 縛りあげる速さからみて、あれは常習犯だ……。


 「私たちも行こうよ」


 詩織に誘われるように恐る恐る小宵とリュアナはその手を取った。

 

 「これでみんなで行けるね」

 「────っ!」


 笑顔で微笑む詩織だが、怯える二人は違うように聞こえたのだろう。表情が固く顔色が悪い。


 「おっと、そろそろ降ってくるぞ」


 歩の掛け声と重なるように雨がポツポツと降りだす。

 俺達は事前に用意していた折り畳み傘を取りだし、傘をさした。

 雨が振りだしたということはもう少しで……。

 階段の終わりが見える。


 「とうちゃー……く……」


 一番最初にたどり着いた歩が声を張り上げたが、その声はしだいに小さくなる。

 後からたどり着いた俺達も、登りきったその先にある光景に息を飲んだ。

 

 「すごい……」


 誰だかわからないが呟いた。

 そう、なにもかもが凄かった。

 黒い雲から射し込む日射し。降り落ちる雨が輝き、辺り一面に咲き誇り向日葵を照らす。

 草の匂い、雨の匂い、そして日光の匂い。

 そこには生きる全てを感じた気がした。

 そして、その中心に聳え立った紫陽花の木。

 青々と咲く小さな花達は、まるでブーケのようにひとつの花束を作り出していた。


 ガサガサ、ガサガサ……。


 小宵の身長と変わらない向日葵が揺れ動く。


 ガサガサ、ガサガサ……。


 その距離は少しずつ近づいて……。


 「ひっ──」


 リュアナが声にならない小さな悲鳴をあげる。

 ばさり、一番最前列に並ぶ向日葵が左右に倒れたのだ。そこから現れた青い髪の少女。

 前髪が顔を隠して、まるでホラー映画のように現れた。


 「……あーそぼっ♪」


 「きゃぁーー!」

 「いゃぁぁっー!」


 少女の一言にリュアナと小宵が叫び、逃げようと階段へ──。

 ──させないっ!

 瞬時に俺は空いたリュアナの手を取り、逃げようとするリュアナを引き留める。リュアナは必死に手を振り払おうともがいたが、俺は絶対に離さなかった。

 その手は絶対に離さない。離してはいけない。

 その手を離せばきっとリュアナを失うはめになるから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ