紫陽花2
さて、これは一体どう言うことだろうか?
COZZIE主催水着コンテストと書かれてある看板が巨大な舞台に取り付けられていて、その舞台の上には一人の女性がスポットライトを浴びていた。
『通りすがりのレディース&ジェントルマン! ただ今から、このデパートの三階にあるCOZZIEが主催する水着コンテストをおこないまーす!!!』
パチパチパチパチと結構なお客さんが一斉に拍手した。
『なお、審査員には出場者の友人の想真さまと、まさかまさかの仮想世界のレジェンド、歩さまにお越しいただきました! そしてそして、進行を勤めさせていただいていますこの私、COZZIEの店主、MINAOも審査員として審査させて頂きます』
パチパチパチパチとさらに拍手が巻き起こる。
仮想レジェンドってなんだよ……。
『きゃー仮想世界のレジェンドの歩さまよー!』
『あれ、ほんとに本物? ヤバイ早く写真に撮らないと』
『あれは~……ぬおっ! 歩さまじゃ、歩さまじゃぞ! こりゃおがまにゃならん。はは~、歩さま。どうかこのババアどもに孫に買ってやるオモチャのお金をお授けください』
明らかにおかしいだろ。いや、俺の頭がおかしくなっているのか? というか歩は一体何者なんだよ?
『なかなか、いい盛り上がりですよ~。でもまずは、ルール説明といきましょう!
今回の水着コンテストは50点満点で一番高い出場者が優勝となります。審査員には一人10点満点で点数をつけてもらい、残りの20点は通りすがりの皆様につけて頂きます。
やり方は簡単、投票箱に水着が似合ってると思う人の番号を書いて入れるだけ。ね、簡単でしょ?
さてさて、ルールも理解してもらえたことだし、それでは最初の一人目いってみましょうか! エントリーナンバー1番、宮本 詩織さんです! どうぞ!』
掛け声とともに舞台の真ん中にあるカーテンが開き、水着姿の詩織が現れた。
~*****~
それは数時間前──。
俺達が以前、小宵達を追いかけて来たことのあるデパートの三階、一定の幅に小分けされた店の一つ、水着専門店COZZIEに到着したときの事だ。
「皆さんいらしゃいましたね~。ということで、デパートの前にある大会場で水着勝負が出来るようになりました~。はい拍手!」
白い制服姿の美人店主ミナオさんがそう拍手を求めたが、パチパチパチパチと実際に手を叩いているのは歩だけだった。
当たり前だ。ついて早々『ということで』と言われて、誰がついていけるだろうか?
「つまり、どういうこと? ミナオさん?」
一応、友達らしい詩織が尋ねる。
「簡単に言えば、大会場で水着勝負が出来るようになって、水着の売り上げアップが謀れてるということでーす」
「おーそれはとてもいいメリットだね~」
「そ~なので~す♪」
喜び合うように手を合わせて笑っている。なるほど、確かに意気投合している。ってそうじゃない。
「ミナオさん、そういうことじゃなくて、ということでの前が聞きたいんですけど?」
一歩前に進んでミナオさんに強めに聞くと、なぜか喜んで手を合わせる。
「あなたが、想真くんですねー。詩織からたくさん話は聞いてますよー。フムフム、なかなかのイケメンさんだ。どうぞヨロシクです!」
「ああ、よろしく……」
なんだろうこの外人のような日本語は……。おかげで、話のリズムが完全に狂った。
「それで、どうして大会場で出来る、いや、そこの場所を借りてする話になったんですか?」
言い直したのは何かが引っ掛かったからだ。誰かが裏で引っ張ってるような……。
「それはですね~」
「あ、それは俺だ、想真」
「お前か!」
手を挙げて自白したのは歩。やはり、歩だった。
「普通に俺らでやるのはつまらんと思ったからな」
「だろうな……」
歩が大体の何かを起こすときは何かに納得がいっていないときだ。こういう点を見ると学園思い出作成クラブと理念は同じな気がする。
「ひっ、人前でとか無理よっ!」
声を裏返しながらも叫んだのは小宵だ。
「あれれ? 一番やる気出してたの小宵ちゃんじゃなかった?」
「うぅ、そうだけど……。でも……」
「小宵ちゃんはかわいいからきっと大丈夫。私も頑張るから一緒に頑張ろう? ね?」
「う、ん……」
煮えたぎらない返答。しかし、いきなり外で水着を見せてきてくださいと言われれば誰もがそうなるだろう。
「出場者の同意を得られたことですし、一度、一階にある会場にいってみましょうか」
そして、一階の大会場……。
「これは……」
「想真くん……、私、想像以上だよ~。この上で、水着で、一人で、みんなに注目されちゃうの? 私、怖い。怖いよ~」
腕にしがみつきぶるぶると震えだすリュアナ。その気持ちはわからないでもない。
立派な飾りや看板が取り付けられ、華やかに彩られている舞台を見るとやはりその本気度が伺えるし、それ加え人通りが一番多い入場口正面のイベント会場だ。これでは緊張するのも無理はない。
「落ち着けリュアナ。大丈夫、大丈夫だから、ほら深呼吸」
「すーは~すーは~……。やっぱりダメ、落ちつかないよ~」
その様子をじっと見ていた小宵は、
「なっ、情けないわね。さっきまで敵だった相手を励ましていたくせに今は想真に抱きついちゃったりして……」
「そういうお前も、足が震えてるだろ」
「うっ……! ふっ、ふんっ。そんなの、み、見間違いじゃないかしら」
「どう見ても見間違いじゃない」
がくがく震えている足はまるで生まれたばかりの小鹿のようだ。
「ふんっ、全然緊張なんかしてないんだから。見てなさいリュアナ、絶対に勝ってやるんだから」
かくかくした動きで小宵は舞台袖へと消えていく。
素直すぎるリュアナに対して素直じゃない小宵。こういうところを見るとはっきりとわかるな……。
「リュアナ、もう大丈夫か?」
「うんん、まだダメ……」
腕にしがみつくリュアナ。こんな魅力的な甘えん坊のお世話は大変だ。
「もう、わかった。力を使って心を繋げておいてやるから。それで、ここに立つのは一人じゃないだろ?」
「うん、そうだけど……」
「大丈夫。それぐらいなら、力に囚われることはないから」
「うん、ありがとう。私頑張ってみる」
「ああ……」
「それじゃあ、私も行ってくるね」
「ああ、いってこい」
リュアナは腕から離れると、小宵が消えていった舞台袖に走っていった。
さて、と……。
「想真、ここの座り心地最高だぞ!」
「女の子達が大変だって言ってるところなのにお前は気楽だな」
「まあまあ、あれは女の子達が始めたことだから仕方がないよ。ほら座れって、そこお前の席だからさ」
「わかったが、こうなった原因はお前にもあるだろ?」
「俺はちょっと盛り上げただけだ」
「どこがちょっとだよ……」
歩に言われるまま審査員の席に座る。なるほど、確かに座り心地はいい。
「さてと、あと十分ぐらいかな。想真、サングラスは?」
「ちゃんとある」
サングラスを見せると歩は頷いた。
観客が、わ~と騒ぎ始めた。どうやら始まったようだった。
そして、現在……。
『エントリーナンバー1番、宮本 詩織さんです! どうぞ!』
~*****~
スポットライトを浴びながら出てくる詩織。しかし、そこにいる詩織は俺達が知っている詩織とは違っていた。
『おーっと、これは一般的なビキニにだぁー!!!』
そうミナオさんが言うように黒い布にに赤いラインで縁取っただのビキニなのだ。しかし、詩織が着るとただのビキニにはみえなかった。
詩織は楽しむように色々なポーズをして笑っていた。
お客さんもポーズに合わせて歓声の声をあげている。
『なかなかの好評価! 詩織さんのセクシーポーズがさらに観客の目を奪います!』
『ポニーテールが揺れたときに見えるうなじがいいですね~。また、それをプラスするように黒のビキニが体を引き締めてセクシーに、今にも飛び出しそうな胸がエロくて大人っぽいですね~』
『なるほど~。歩さまコメントありがとうございました。想真さまは何かありますか?』
『あ、はい。そうですね~。先程、歩がいったのと被ってしまいますが、本当に大人っぽいですね~。普段から想像ができないほどですよ』
『そうでしたね。想真さまは詩織さんの幼馴染みということで、普段から詩織さんのことをよく見ていらっしゃると思うのですが、普段の詩織さんとはどういった方なのでしょうか?』
『はい、詩織は普段、活発な女の子というイメージがありますね~。いつもにこやかなのですが、ちょっといたずら好きであったり、興味を引くものは必ず飛び付いてしまったりと、まあちょっと活発過ぎるところもありますが、そういったことも愛嬌にしてしまう女の子です』
『なるほどなるほど、そうなんですね~。だとすると、今回の詩織さんの水着はイメージは大分変わったものになりましたね』
『確かにそうですね~。元気な女の子というよりはおしとやかで魅力的な大人って感じですね』
『うんうん、そうですねそうですね~。では、そろそろ得点を発表していきたいと思います。それでは順にどうぞ』
座った席にある表示画面に数字を打ち込む。
『8点、10点、8点、合計26点! これは最初からなかなか高得点ですよ~』
詩織は舞台上でガッツポーズをして胸を揺らしていた。その様子を見ていた男達は興奮した歓声をあげる。
『詩織さんには、一度舞台裏へと戻ってもらいます。最終結果発表時にもう一度呼ばしてもらいますのでよろしくお願いします。では詩織さんありがとうございましたー! はい、みんな拍手!』
パチパチと祝福されながら詩織はお客さんに手を振りながら舞台袖へと歩いて退場した。
『さあ、続きましてエントリーナンバー2番、夜来 小宵ちゃんです。どうぞ!』
がちゃ、がちゃ、がちゃ、がちゃとオモチャのロボットのようにかくかくしながら前に出てくる小宵。髪型はいつも通りツインテールだが、水着が少し変わっていた。
『おっーと! これは珍しい競泳用の水着だぁっ!』
ブーと観客から不満の声が上がるものの、小宵は堂々と仁王立ちしていた。
『小宵ちゃんはブーイングの嵐か!? ってちょっと待ってくださいよ! 皆様! 今、小宵ちゃんが着ている競泳水着ですが、実は……透け透け水着なのですよー!』
先程のブーイングとは一転、興奮した歓喜の声が巻きあがる。
『ではその証拠として実演してもらいましょう♪ どうぞ!』
えっ? とガチガチで固まっていた小宵が呟いた気がした。しかし、次の瞬間、プシュッーっと勢いよく小宵の足元から水が吹きだし、小宵はきゃあっと悲鳴があげた。
マジかよ、あれって大丈夫なのか……?
水圧が高く設定されていて、水の柱は小宵の姿をすべて隠してしまう。
審査員の俺でさえ驚いているのだから、当然、観客からもざわめきが巻き起こっていた。
『皆様、これは演出なのでご安心を! それよりも、ですよ~その中から現れた小宵ちゃんは……どん! どうぞ!』
水が止まり尻餅をついた小宵の姿が現れる。すると、わぁーっと観客が一気に盛り上がった。それもそのはず、小宵の水着は着ていないのでは? と思ってしまうほどに透明に透けて、布がある部分といえば肩紐から恥部を通る細いV字の線だった。
「うぅ……えっ、うそっ!? な、なによこれ……」
『いかがでしょうか、皆様! これが近年、我々が開発した95%透け透け競泳水着です! いや~、この水着を選んで着てくださり本当、涙、涙ですよ……グスッン』
ミナオさんが涙を拭き取っていると、カメラのシャッター音が鳴った。それをきっかけに次々とシャッター音が響き渡った。
「やめて、撮らないでぇ、撮らないでよぉ……」
局部を隠そうと手で隠し、もじもじと太股を擦り合わせる。しかし、その姿がまた水着によってエロさを引き出されてしまい、カメラのシャッターがさらに切られる。
「うぅうぅ……」
『おーっとこれは皆様、ご満悦のご様子です。水に濡れてたほぼ全裸に近い小宵ちゃんにあの表情、あの言動、そして、恥ずかしがってもじもじするあの仕草! これはもう負けはないでしょう! いかがですか、歩さまって……ちょっと歩さま!?』
歩はマイクをもったまま舞台へ歩いていき、涙を浮かべて力なく舞台に座り込む小宵の前へと立った。
『えーと……皆様には申し訳無いのですが、写真撮影などは禁止させてもらいます。それと、今撮った写真は今すぐ消してください。お願いします本当に。あっ、でももし消せていない人がいれば、私が勝手に消させていただきますのでそのつもりで』
にこやかな笑顔で歩はそう宣言した。
歩の言葉に会場が騒然とする。
『人の携帯を勝手にいじくるとかできるわけがないだろ』
『消す必要はないかな……』
『どうせ、虚仮おどしだ。消す必要はねぇよ』
そんな様子の観客。しかし、歩は気にすることなく時計を見て、顔を上げた。
『大変、申し訳無いのですが、時間切れです。先ほど言った通り、消す意思がない人達はこちらで消さしてもらいますよっ!』
歩がそう言った瞬間、バチっと特定のスマホや携帯、カメラに静電気が起こり、そして──。
『嘘だろ……マジで消えやがった……」
『ほ、本当だ! 俺のも消えて……』
『うわぁっ、なんだよこれ! なんなんだよおまえは!』
観客は動揺し、ちょっとした混乱が生まれる。
この観客の様子からして本当に小宵の写真は本当に消えたようだ……。あの時、歩は一体、何をしたんだ……。
後ろにいた小宵も何が起こったのかわからないとキョトンとした表情を浮かべている。
『当然の結果だろ……。女の子を恥ずかしめて、写真に納めようとするなんて言語道断だッ! 次に写真を撮ってみろ、テメーらのデータすべて抹消してやる!』
きゃーと黄色い声援が飛んだ。
いやいや、お前も似たようなことをしようとしてただろ。
『さすが、仮想世界のレジェンド歩さま! 見事、小さな女の子を苛める悪党から女の子を守りきりました! きゃー、歩さまかっこいい! よっ、女のみかた!』
「いやいや、あー見えて、あいつの本性は悪党ですよ!」
きゃーきゃー!
『どっちかって言えばその子を恥ずかしめたのはお前らの方じゃねぇか!』
『そうだそうだ!』
きゃーきゃー!
聞こえない! 届かない!
歩を英雄に称える声援は、矛盾を正す俺達のヤジを呑み込んでしまっていた。
そんな中、歩は後ろで縮こまっていた小宵に何かを伝えていた。小宵はそれを真剣な表情でうんうんと頷いている。
歩はポンポンと小宵の頭を優しく叩くと、こう言った。
『皆さん静粛に! まだ、水着大会は終わってません! さあ点数発表といきましょう! いきますよミナオさん!』
『はい!』
はい! ってそれでいいのかよ。小宵はどうするんだ……歩。
帰ってきた歩を見つめるが、心配するなと言うように微笑んでいた。
あいつは、小宵に何を言ったんだ……?
『10点 10点 6点 合計26点 小宵ちゃん、体格差のある詩織さんに対してエロエロ水着で同点です! いやーいい勝負ですね~』
『本当にですね~、しかし、まだ最後に学園のアイドルが残っているので、これからどうなっていくか楽しみです』
『それはとても楽しみですね~。さて、小宵ちゃんには詩織さんと同じように退場してもらいます。勇気ある小宵ちゃんに皆さん拍手を!』
座り込んでいた小宵はゆらゆらと立ち上がると、拍手のなか危ない足取りで舞台裏へと消えていく。
本当に小宵は大丈夫なんだろうか……。
「はい、大丈夫ですよ! 私もそのつもりでいましたし」
「では、お願いします」
歩はミナオさんと何かの話をつけると、席を立った。
「おい、歩……」
「想真、小宵のことは任せてくれ……」
「だけど……」
キーン。マイクの接続音。
『はーい、続いて最後の出場者は……と言いたいところなんですが、ここで少し休憩を挟みたいと思います。休憩時間は……』
そういうことか……。
ミナオさんの放送に気を取られ、気付けば歩はもうそこにはいなかった。




