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四季の思い出  作者: 川澄 成一
夏の夢
37/82

紫陽花~Dream of Beginning~

 四季の木である私は思う。

 夏、それは思い出の季節。

 そして思い出とは人の記憶に残り、人と人との繋がりをより一層強くしてくれるもの。

 友達と笑ったあの日あの時の時間は、一瞬のうちに過ぎていく。だけど、その日の光景は終わってしまった後も、いつまでもその人の胸に残るんだ。幸せな思い出としてね。

 だから、なんだよね……。

 紫陽花あじさいはね、待っているんだよ。いつか、あの日の光景が戻ってくると信じて、いくつもの蕾を花を咲かせて、雨の中いつまでもね。

 少し寂しいけど、私も紫陽花のようになって、君たちの帰りを待ってるよ。あの楽しい日々が戻ってくることを信じて。

 だからね、行けない私の分まで一生懸命遊んできて、そしていい思い出を作ってきてね。


 この夏、君と君の友達で作った思い出が君から聞けることを楽しみに待っているよ……。

 

~*****~


 朦朧とした意識の中。俺は小さな手にしっかりと手を握られ、引っ張られるように走っていた。


 「想真様、しっかりしてくださいませっ! まだ気を失ってはなりません!」

 

 甲高い女性の声は、その声色から明らかに焦燥に刈られていた。どこかで聞き覚えのある声。しかし、どこで聞いたのかはわからない。


 「想真くん、頑張って!」

 「お嬢様……」

 

 ああ、この声は知っている。

 場違いにも関わらず陽気な声をしているんだ間違いないだろう。


 そう確信すると急に意識が鮮明になってきた。ぼやけていた視界もピントが合ったようにはっきりと見える。

 俺の手を引いて走る茶髪の少女は。

 

 「美羽ちゃん……」

 「うん、そうだよ」


 走りながらも振り返り、ニコッと笑ってくれる美羽ちゃん。

 その数歩先、家政婦さんもちらりと俺の方を振り向き、俺の様子を確認するとほっと安心したような表情をした。

 この光景は覚えがある。たしか、家政婦さんが俺と美海ちゃんをあの部屋に連れていった時のことだ。


 「すいません、ボーとしていたみたいで……」

 「いいえ、大丈夫です。それに本来、謝らなければいけないのは私達です。こんな失態を犯して、美羽様だけでなく想真様まで危険に晒してしまいました。本当に申し訳ありません……」

 「夏穂さん……」

 「ありがとうござますお嬢様。ですが、大丈夫です。命をかけて必ず、お守りいたしますので安心してください」


 家政婦さんは向き直ると様子を探るようにキョロキョロしながら、ある目的の場所へと俺達を案内する。

 このまま、あの部屋に行ってしまえば、また美海ちゃんが殺される一部始終を見せられることになるだろう。

 

 もう見たくない。このまま行ったら……ダメだ。


 しかしそうは思っても、これは追憶のようなものでいち傍観者にすぎない俺は口にすることは、


 「ダメだ。このまま行くとみんな死んでしまう」


 いっ、言えた!?

 でもどうしてだ? この夢では、俺は傍観者じゃないのか?

 

 何か重要なことに気づきそうになったとき、前を走っていた美羽ちゃんと家政婦さんが足を止めて振り返っていた。


 「それは、どういうことですか?」

 「想真くん……?」


 心配そうな目を向けてくる美羽ちゃん。家政婦さんも真剣な面持ちで見ていた。

 

 「ダメなんです。いまから、行こうとしている場所はすぐにバレてしまって僕たちは」

 「想真様、心配なのはわかりますが、大丈夫。これから行くお部屋はとても見つかりにくい部屋ですから、どうか信じてついてきてください」

 「でも……!」

 

 家政婦さんが目線を合わせるように膝を折って、頭を撫でてくれる。


 「あと少しだけ、頑張ってください」

 「想真くん、頑張ろうよ。ね?」


 そう励ますように笑う美羽ちゃん。本当は自分も心配で押し潰されそうなのにあんなに笑顔を浮かべて。


 「それでは、行きますよ」


 家政婦さんに言い返すタイミングを逃してしまった俺は、何も言えないまま、黙ってそのままついていくしか出来なかった。


 部屋についた。もちろん、美羽ちゃんが殺されたあの部屋だ。


 「さあ、早くこの部屋に」


 部屋の中に入れられ、俺と美海ちゃんは部屋の端で固まった。


 「怖いね……」

 「うん、そうだね……」


 「想真くん……?」


 ああ、と俺は自分の手を見ながら一つの確信をもった。

 今回の夢は俺が俺だった。つまりは主役ということだ。しかも、俺の言動で美海ちゃんたちの反応が変わっていくという、現実と言われてもなんの遜色はない夢だった。


 「想真くん?」

 「あっ、ああ」


 美羽ちゃんの二度目の呼び掛けで、俺はいま置かれている状況を思い出す。

 この状況を脱しない限りはあの光景を見てこの夢は終わってしまうだけなんだろう。でもだからといって、このまま素直にあの光景を見せられ何事もなかったように朝を迎えるというのは、なんというか腹立たしい。

 なら、たった数分でも足掻けるだけ足掻いてみるか。


 「ねぇ、美羽ちゃん。この部屋、さっきから嫌な予感がするんだ。だから一緒に出てほしいんだけど……」

 「えっ、でも……」

 

 戸惑った様子の美羽ちゃん。しかし、そんな美羽ちゃんを構っている余裕はなかった。

 部屋を見渡すと大きな白いガラスの窓があった。

 急いでつま先立ちになってガチャガチャとカギをいじくるも、錆びているのか開いてはくれなかった。


 「くそっ……」


 窓から外に出ることは諦め、思い付く次の考えへと移行する。


 「家政婦さん、やっぱりここは危ない気がします。どうか開けてくれないでしょうか?」

 「想真様……!?」

 

 やっぱり、まだ居てくれた。あいつらが来る時間はまだ少しあるが刻一刻と過ぎている。早くこの場から逃げないと。


 「申し訳ありませんが、それはダメです」


 きっぱりと扉の向こうから反対された。


 「どうしてなんですか!」

 「この部屋はセーフルームといって一時的に避難する場所なのです。また、そういうことに備えているのでこの部屋が屋敷のなかで一番安全な場所。ここから出てしまわれると、私は命の保障ができなくなります。なので、息苦しいかもしれませんがこの騒動が収まるまで、どうかこのままで……」


 これもダメなのか……。あと残る方法は……。


 『君には力がある』


 舞……?

 

 『君はあの時、自分の力を使って君の友達に助けを求めればよかった。君の力は人と人とを繋げる力なんだから。今もそう、君が辛い時は一人で頑張ろうとする必要はないんだよ。誰かに手を貸してもらってもいいんだよ』


 そうか……。そうだったな舞。

 深く深く深呼吸する。いま持てるすべての力を親友ともいえる友達に飛ばす。

 (繋がれ、繋がってくれ! だれか助けてくれ……)


 ひたすら願う。

 (誰でもいい。俺に手を貸してくれ!)


 廊下に荒々しい足音が響き、銃声がなった。バタリと人が倒れた音がする。

 (お願いだ。誰か……誰か返事をしてくれ……!)

 

 誰からの返事が無いまま、ドアが吹き飛びあいつらが入ってくる。


 ……どうして……どうして誰も助けてくれないんだ……。


 美羽ちゃんはあの時と変わらず殺された。

 俺もあの時と変わらず太股を撃たれ気を失った。


 舞……こんな俺を助けてくれる友達なんていなかったよ……。

 

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