桜~Last spring Ⅳ ~
それから、俺達は水族館のあれやこれを満喫して、隣にあるモールで食事をとった。その後もウィンドウショッピングやゲームセンターに行ったりしたけれど、リュアナの表情は一向に変わらなかった。
「……なあ……リュアナ……そろそろ日が暮れてきたし、最後はあれに乗らないか?」
「観覧車……?」
巨大な赤い観覧車。この水族館ではとても大きな存在感を放っていて、デートスポットの最後を飾る鳳として定番になっていた。
「うん、いいよ……」
そう言って微笑むリュアナだか、やはり元気がない。
自分のせいだと思ってるんだよな、きっと……。
「……だって想真くんは! 私のせいで怪我を……」
この言葉を聞いた時、俺はリュアナと似ている気がした。
あの時、美羽ちゃんを助けられなかったのは、俺のせい。そう思っている俺と、規模は違えど、自ら罪を背負いにいっているのところはほんと似た者同士だった。
これが同じ物を持った同士なら傷の舐め合いもできるかもしれない、だが今回は俺が罪を作ってしまった側だ。
これは確かに嫌だな。
死の寸前、美羽ちゃんが言った言葉がよくわかる。罪を勝手に背負い込まれた揚げ句にこんな俯いた顔ばかりされたら、嬉しくもなければ楽しくもない、罪を背負った意味が全くないのだ。
はやくなんとかしてやらないとな。じゃないとこっちが持ちそうにない。
〜*****〜
「綺麗だな……」
「うん、そうだね……」
向かいの椅子に座ったリュアナが悲しげな表情をしながら夕日に燃えた町を眺めて言った。
本当に綺麗な景色だった。屋根やビルの壁に反射してキラキラと輝く。一人ならこれで満足だったかもしれない、しかし、今は二人だ。だから、物足りないのだ。
「あのさ、リュアナ。リュアナがそんな顔してたらさ。やっぱり俺は楽しくないよ」
「えっ、ご、ごめんね。すぐに──」
急いで笑顔を取り繕うとするリュアナを俺は手を掴んで止めていた。
「そうじゃないんだ。上っ面だけじゃ、駄目なんだよリュアナ」
「…………」
そう言われてリュアナ黙り混むと俯いた。
さて、ここからだ。
今までなにも考えていなかった訳ではない、必死に考えていた。そして、ようやくだした答えが、
「なあ、リュアナ。ちょっと、ほんの少し話をしてもいいか? 罪かぶりな少年っていう話なんだけど」
「それって……」
俺の過去の話だった。
自分であの過去を語るのは正直、苦しい。しかし、今のリュアナを見て、それはいってられなかった。
感ずいたようすのリュアナは顔をあげて俺を見ていた。
「想真くんの過去の話なの……? でも、どうして?」
「まてまて、俺の過去の話って、そう断定……」
せっかくカモフラージュしたというのにこれじゃあ……。
「違うの?」
そう聞かれてあわてて誤魔化した。
「え~と違う……ような、違わくないような……」
「でも、どうして……」
「それは……」
これを言ってしまえば、これから話すことは過去の話に限定されるだろう。だけど、ええい、ままよ!
「……もういいと思ったんだ……。リュアナがどんな人でどんなこと思ってくれてるのか、それがわかったから。それにこの話で立ち直ってくれると信じてるから」
「……立ち直る……?」
「そう……俺を引っ張ってくれるような笑顔を取り戻してくれる。そう思って」
「うん、わかったよ……」
「えっ?」
あっさりした答えに驚いてリュアナを見た。笑っていた。しかも少し元気を取り戻して。
「お話しして想真くん」
「あ、ああ……」
背がるリュアナに驚きを隠しきれず、どこから話そうか、頭のなかであわてて探すはめになった。
~*****~
「そして、病床で少年は泣きました。もう会えない、もう謝れないと知って」
「グスッ……うぅ……うぅ……」
「あ、あのー……リュアナさん……?」
リュアナがあまりに泣くものだから、話している間、苦しさよりも心配が勝って俺はいつもの俺でいれた。グスグスになるのは俺だと思ってたのでちょっと拍子抜けだ。
「想真くんっ……!」
「はい!」
思わず勢いよく返事をすると、頭を華奢腕に絡まれ、そのままリュアナ胸に押し当てられた。
柔らかくて暖かい。そんな所に押し当てられていると、グスグス嗚咽を漏らして泣いていたリュアナが話しかけてくる。
「……ごめんね……私なにも知らなくて……」
いやいや、リュアナが知らなくて当然だ。
だって言ってなかったのだから。
「星真さんのおうちに行ったときなんて……ほんとは想真くん、無理してたはずなのになにもしてあげれなくて……」
それも仕方の無いことだ。そもそも、リュアナはそこにいるだけで俺の救いになっていた。なにもしてあげれないというのはそう思っているだけで……。
「ごめんね、私のせいで……」
おいおい! それじゃあこの話した意味が逆効果だ。
それだけは伝えないといけない。
「おい、リュアナそれは違うぞ! 俺が言いたかったのは、こんな俺みたいになるなって、自分を許していつもの笑顔で笑っていてほしいって言ってるんだよ! だからさ、泣くのをやめて笑ってくれよリュアナ!」
抱き締めていた力が緩み、顔をあげるとグスグスになったリュアナがそこにいた。
「そんなの無理にきまってるでしょ! こんな話されて、自分がやってきた不甲斐なさを思い知らされて、そんな、笑えだとか無理に決まってる!」
なかなかに泣き止まないリュアナ。いまなら、わかってくれるだろうか? 過去を話して、思いを告げたいまなら、共有することができるだろうか?
違う、わかってもらうんだ。わかってもらって、やっと共有することができるんんだ。
ごそごそと俺は頭を動かし、リュアナの拘束から逃れ、そしてリュアナの唇を奪った。
「んっ……んくっ……んくっ……はぁはぁ、うぅっ……」
唇が離れ、また泣き出そうとするリュアナを抱き締める。
「俺は大丈夫だから……」
背中に手を這わせてとんとんとんと背中をやさしく叩く。
「確かに辛いことも、悲しいことも沢山あった。だけど、それをリュアナのせいだと思ったことなんて一度もない。むしろ、笑顔でそばにいてくれて助かったくらいだ。だからさ、自分のせいだってそんなにも自分を責めないでくれ、俺が助けられたその笑顔を消さないでくれよ……」
声がかすれた。俺も泣いているのだろうか? 込み上げて来る思いは強く、言葉が出ていく。
「俺はいつもの笑顔がみたいんだ……」
ひくひくと泣きかけて、リュアナが嗚咽に堪えて言う。
「うん、わかったよ……っ。想真くんの気持ち、ちゃんと、わかったよ……。もう、大丈夫だからね……」
「ああ……」
~*****~
「イヤ~、一事はどうなるかと思いましたがよかったですね。さすが俺の想真だ」
観覧車乗り場より少し離れたベンチ。双眼鏡を持った怪しげな四人組が座っていた。
「ええ……ほんとに、感謝だわ。なんて言って抱き締めてキスをしたのか気になるところだけれど」
双眼鏡を放したアウラは目の端についた涙を振り払う。
「む~、ちょっと焼きもち妬いちゃうな~」
「そうかしら、ただ想真が不潔なキスをして抱き締めたとしか考えられないわ」
「うわ~、お前、あれを不潔と見るのか。よっほど、心が腐ってんだな」
「なんですって!」
小宵は立ち上がると歩を鬼の形相で見下ろす。しかし、歩は引くことはなく、じっと小宵を見つめていた。
「はいはい、ケンカはなしよ~。あ、キスをするならべつだけど♪」
「す、するわけないでしょ! こんなやつと……それこそ不潔よ!」
ふんっと、顔を背ける小宵。少し赤くなった顔を詩織は見逃さなかった。
「またそんな強がり言って~、本当はしてほしいんでしょ~。それはもうドロドロであっついキスを」
「そっ、そんなのしてほしくないわよ~」
「いだぁい、いだぁいよぉ~小宵ちゃ~ん」
「ふぅ~んだ」
小宵にほっぺたを引っ張られて泣いたふりをする詩織。アウラはそんな楽しそうにする生徒たちを見据えながら歩に問いかける。
「混ざってこなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ……」
歩はアウラを見ることなく、すこしぶっきらぼうに答えた。
「あら、そう?」
不思議そうに歩を見て──。
「べつにこれは仕事じゃないんだし、遊んで来ればいいのに……」
そう口をとがらせて呟いたのだった。




