桜16〝*
「よし、完成だ……」
あれから1時間ぐらいが経ち、やっと完成した。
イチゴを中心的に使ったパフェだが、アットホームのおかげで前に作った時よりも一段と上手く出来上がり、俺も満足がいった一品だった。
「おっ、ついに出来たか想真スペシャルパフェ」
「ああ、運ぶの手伝ってくれ」
歩に手伝ってもらい運んで行くと、女性陣から感性の声が聞こえてくる。
「これ、ほんとに想真くんが作ったの?」
目をパフェに奪われていたリュアナが俺の方を見ずに聞いてくる。
「……ん? そうだけど……? ほら、溶ける前に早く食べてみ」
俺はキッチンをいじりまくって、やっと見つけたスプーンを渡す。
「でも、これを食べたら死んじゃうんだよね……」
リュアナがそう小さく呟いて、チョコレートシロップがかかったバニラアイスを不安そうに口に入れる。
「───っ!?」
リュアナが食べた瞬間だった。雷が落ちたような、そんな強烈な衝撃に襲われたみたいにリュアナは背筋をピーンと伸ばして、そのまま横に倒れた。
「だっ、大丈夫!? リュアナねぇ?」
元気になってリュアナの隣に座っていた舞がリュアナを抱きとめ、自分の太ももにゆっくりとおろした。
「一体、どうしたっていうの!?」
「すごいでしょ、小宵ちゃん。あれが死んじゃうってことだよ」
「す、すごいのかも知れないけど、なんで詩織が自慢するのよ」
「いや、なんとなく想真くんを自慢したかったから……なのかな?」
詩織があれ? といった様子で首を傾げる。
「それよりも、リュアナは大丈夫なの?」
「えーと……。大丈夫みたいだよ。なんかリュアナねぇ、幸せそうな顔をしている」
舞の太ももの上では、幸せそうな表情を浮かべたリュアナがスプーンをくわえながら違う世界に行っていた。
「結局、これって一体どういう食べ物なの……」
「これを食べれば、みーんな幸せな場所に行ける。とーても素晴らしい食べ物だよ〜。さあ、小宵ちゃんも……」
「いやよ!」
詩織がセールスマンのような口調で、小宵にスプーンですくい取ったアイスの部分を口に運ぼうとするが、小宵がそれをかわして拒否する。
俺が作ったパフェはそんなに危険な物じゃないのに……。
「舞は食べてくれるよな?」
小宵の姿を見て胸を痛めた俺は、最近、親しくなった少女に助けを投げかける。
「えっ!? えーとえーと……別に想真にぃが信じられないんじゃないよ? このパフェ、すごく美味しそうだし、食べたいと思う……よ……? でも……でもね……」
俺を見ていた視線は声とともにどんどん落ちていき、涙ぐんでいる。もう、いい。こんなの見てられない。
「そうか、わかった。無理にとは言わない」
寂しくはあるが無理に食べさせるわけにはいかない。舞のパフェを取り下げようとしたところで、舞に手で止められた。
「ああ……! でも、待って! 私は食べるよ。だって前に私の料理食べてくれたもん。それが想真にぃのためなら……」
「本当か!?」
舞がそう言ってくれて、俺に笑顔が戻ってくる。
「うん、私、頑張る!」
「頑張る? なんか必要ない気がするけど、まあ頑張れ!」
「うん!」
俺に心配させないためか、舞はスプーンでイチゴとアイスをすくい取ると口いっぱいに入れ込んだ。
「ん〜〜〜〜っ!?」
言葉にならない叫び声をあげて舞も倒れる。すかさず、俺は舞のフォローに入り、倒れてくる舞をキャッチした。
「二人目の犠牲者だわ……」
「さあ、小宵ちゃんも……さあ、さあ」
小宵を部屋の端まで追い詰めた悪の押し売り業者詩織はイチゴとアイスの乗ったスプーンを小宵にどんどん近づけていき……。
「ちょっ、ちょっと……嘘よね…………嘘だよね詩織! ウソなんでしょう? ウソって言ってよ! いや! いやっ! いやぁああああっ!!!!」
部屋の片隅から聞こえる小宵の叫び声。
ああ、ここまでしなくてもいいんじゃなかっただろうか……。
胸の痛みを抑えてそう思う。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ想真。また作ってくれよな」
完食した空のの容器をテーブルに置きながら、歩が明るく笑っていた。
ああ、親友よ。俺の作ったものを全部食べてくれたんだな。このパフェを作った者として今は俺はすごい救われている。今までの事が癒やされていくようだ。
「ありがとう。歩……」
「なに言ってんだお礼を言うのはこっちだろ。ありがとよ」
歩が笑顔で返してくれる。こういう時、親友が居てくれてよかったと本当思う。
「それにしても、すごいねー想真くんのパフェ。女の子三人を美味しさでノックダウンしちゃうんだから」
詩織が片手にパフェを持ちながらやってくる。
「あいつらは耐性がなかったからだろ?」
「そうかな? 今回のは私も少し衝撃を食らったんだけど、それって、アットホームのおかげでレベルが上がったってことだよね」
そんなこと言いながら詩織はパフェをパクつく。
リュアナ達のように衝撃を食らったようには見えない。さすが、甘い物好きの詩織だ。
「それはそうと想真。パフェの材料費そろそろ返却してくれ、こういうことは早いほうがいい。もし無いのなら、そこの三人を全裸にして写真を取らせてくれるだけでもいいぞ」
「そんなことしなくてもちゃんと払うから」
俺がお金を歩に渡すと、歩はつまらなそうな顔をした。
「ちぇー、写真を取るほうがお金取れたのにな〜。小宵で我慢するか……」
おいおい、するのかよ……。
「詩織ー撮影会だ」
「はーい、準備は出来てるよー」
再び部屋の片隅に戻っていた詩織を見ると、視界に幸せそうに倒れている小宵の姿が入る。
小宵は詩織に服を脱がされてか下着姿に。
おいおい……。
「よ〜し、下着も脱がしていこうか」
「上から? 下から?」
「う〜ん、じゃあ俺が手伝うから両方で」
「了解!」
「了解じゃねぇよ!」
そんな俺の制止も聞かず、歩がスマホ片手に小宵にジリジリと近づいていく。
「やめろ、それ以上は犯罪になるぞ! いや、それどころか、もっと…………おい、歩!」
しかし、歩は止まってくれず。ついに小宵の純白のパンツに手をかけた。
「想真! これが、これが俺の仕事なんだぁあああっ!!!!」
小宵のパンツがずれて白い肌が──。
ドッゴーン!!!
何かの爆発音のように、響き渡り。辺は煙一色になった。
俺はあまりの出来事に何の言葉も出なかった。ただ、あまりの怖さに、もたれかかるように倒れてかかっていた舞とリュアナをひしひしと抱きしめて、その恐怖に耐えていた。
灰色の煙は次第に落ち着き、やがて視界がはっきりとしてくる。
見えてくる小さな少女は下着のずれを直していた。
「本当っ、ありえないわね。まったく油断も隙もあったもんじゃないわ」
凛とした声が聞こえて、俺はさらに二人を寄せて肌を触れ合わせた。
小さな少女の下、仰向きで詩織がのびている。親友を探したが、もちろんその姿は見当たらない。
そして、俺はあることに気づいてしまった。部屋からベランダへと繋がるガラス戸が壊されていたのだ。
だ、だから、止めたんだ……。
「想真、そんなに怯えなくても何もしないわよ。あんたは何もしてないんだから」
「でっ、でも、俺は今お前の下着姿を見てしまっているわけで……」
なんで、俺は自らの罪を語ってるんだ! 馬鹿だろ俺、死にたいのか? 小宵に蹴られて死にたいのか俺は!!!
「それぐらい、想真が作ったパフェでお咎とがめなしよ」
「…………え?」
「だ〜か〜ら、このパフェが美味しかったから、許してあげるって言ってるの」
そう言ってテーブルの上、奇跡的に立っているパフェを一口食べる。
「ん〜やっぱり美味しい〜。これはもう、神のデザートだわ」
俺は助かったのか……このパフェのおかげで……。
その時、俺は今日初めてパフェを作って本当に良かったと思った。
「うぅ……ん? あれ、想真くん? それに小宵ちゃんも……。なんで、小宵ちゃん、下着姿なの……?」
異常すぎるその状況にリュアナは目を点にしていた。
「いろいろ、あったのよ……」
その意味をよく汲み取れてなかったリュアナは、俺にわからないといった困った表情を向けてくる。
さて、俺はどういった説明をすればいいのだろうか……。
「えーと……うん、一から全部話すよ」
~*****~
「「す、すいませんでした!!!」」
詩織と歩が深々と土下座する。
「大丈夫だって、だから、顔を上げて」
謝っているのは小宵ではなく、リュアナだ。
「でも、窓を割ってしまったのは悪いと思っているんだ。だから、本当に、本当にごめん」
「私もごめんなさい、リュアナちゃん」
「もういいから、頭を上げて。お願い、じゃないと私が困るよぉ〜」
「ほら、お前も謝りなさい」
「うっ、うん……って、何で私が頭下げさせられているのよっ!」
小宵の頭を掴んでいた歩の手を小宵は払いのける。やはり、こういうノリに小宵は慣れている。
「だいたい、リュアナには土下座までして私には1つも謝りもしないってどういうことよ!」
小宵が少し怒り気味……というより、完全に怒りながら二人を詰め寄る。
「むしろ、謝るなら小宵の方だろ。いくらなんでもこれはやり過ぎる。二階から落ちて死にかけたんだぞ!」
と、まあ、やっぱり二人はぶつかるわけで……。
「なに言ってんのよ! もともと、あんた達が私の服を脱がせようとしたのが原因でしょう」
「だからって、ベランダの窓ガラス突き破る威力で蹴らなくてもいいのだろう!」
「それはあんたが変なことをするからでしょう」
なんてことを繰り返して、結局、答えがでないまま、永遠に言い合いを続けるだろう。
それをわかっているため、残された俺を含めた四人は二人とは別に言語についての会話が始まる。
「なぁ、リュアナ。これだと、今日ここで寝るのは厳しいんじゃないのか?」
「確かに、そうかも知れないね……」
応急処置としてダンボールで壁を作っているものの、さすがにこれで寝泊まりする訳にはいかない。
「だったら、リュアナねぇ。私の家に来ない? たぶん香さんも事情を知ったら泊めてくれると思うんだけど……」
あれ? なんで、舞が俺の家を勧めてるんだ?
「でも……想真くんはいいの?」
「俺は別に構わないけど……」
「そうなんだ……。でも、うーん……」
まだ少し迷っている様子のリュアナに舞がとんでもない提案を持ちかける。
「そんなに想真にぃで迷うなら、今日一晩、想真にぃを外に出せばいいんだよ」
「え?」
「ちょっ、ちょっと待て、それじゃ俺は一体どこで寝ればいいんだ?」
「……公園?」
なんてひもじいんだ。まだ、高校一年だぞ。確かに世間では中学生もいたそうだけど、それでもひどすぎる。
「なんで、家があるのに公園なんかで寝なきゃいけないんだよ」
「じゃあ、想真にぃはリュアナねぇをこんなところで寝かしても、いいと思ってるの? こんな美少女を窓が開いた野獣の住む館で寝かしてもいいって思うの? 野獣達に手込にされてもいいと思っているの?」
これでもか、というぐらいに舞に責め立てられ、今晩ぐらいならと柔らかい布団を諦める。
「もういい、わかった。それ以上言うな。俺が一晩出ていけばいいんだろ……」
「うん、そうだよ」
舞が、舞が本当に無邪気に頷く。
「そ、そんなの想真くんに悪いよ……」
「でもリュアナねぇ……それだと……」
他に代案はないのか困ったような顔をする舞。リュアナに我慢してもらうという考えは舞には無いのだろうか。ある意味それが一番いいのかも知れない。
「ねぇ、リュアナちゃん。もしよければなんだけど、私のところに来ない? これについては私も悪い部分があるから、このぐらいの責任は取らせてほしい。それに私、一人っ子だから、その……友達が来てくれるとすごく嬉しいんだけど。ダメ……かな?」
不安そうにする詩織にリュアナは笑顔で答えた。
「え?……うん! それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「ありがとう。リュアナちゃん」
「それじゃ、決まりだな」
「むぅ〜」
それが一番いいと納得していた俺とは反対に舞は頬を膨らまして不服そうにしていた。
「今回は諦めろ、舞。また今度だ」
「じゃあ、今日は想真にぃと寝る」
拗ねたようにそう言うと、俺のあぐらの上に乗ってくる。そして、そのまますやすやと寝息を立て始め──。
「寝た……」
「あらら、舞ちゃんは寝ちゃったんだ〜。きっと疲れちゃったんだね〜。そういえば、もう夜なんだ〜」
詩織の発言に気になり、時計を見ると、もう六時を回ろうとしていた。
「マジか……ダンボールのせいでわからなかった」
確かにダンボールのところどころに出来た隙間は暗くなっている。
「時間って、本当にあっという間に過ぎちゃうものなんだねぇ~……」
「同感だ。リュアナ、俺らはそろそろ帰るよ。舞が寝ちゃったし、お腹も減ってきたからさ」
「あっ、うん」
「リュアナちゃん、私達も行こ! さっき家に連絡して、晩ご飯リュアナちゃんの分も用意してもらっているから」
「本当に? ありがとう詩織ちゃん」
そう言って笑う二人は本当に楽しそうにしている。この二人は一人でいることが多いからだろうか? そういう意味では二人とも似ているところは多い。だから、今まで以上に仲良くできるとは思うんだけど……問題はこっちだな。
「いい加減に謝りなさいよ! この変態野郎!」
「誰がお前なんかに謝るか! この怪力小娘が!」
掴み合う手と手、付き合わされるおでことおでこ。少し動けばキスしてしまいそうな二人だがその目はお互いを睨みつけている。
喧嘩するほど仲が良いとはよく言ったものだと思う。まさにこいつらのことだろう。
なんだかんだ言い合ってはいるが、こいつら同士が一番信頼しているんだと思う。でも、二人とも素直じゃないから、こうして言い合っているんだとも思う。まあ、それも二人にとっては楽しいことなんだろうけど。
だから、時たまこうして俺達が素直になれるように手を貸してやる。
俺は背中に舞がちゃんと乗れていることを確認して、
「詩織!」
「了解!」
という合図とともに、歩の背中を押した。それと同時に、詩織も同じように小宵の背中を押して──ぶちゅっ、と。
「「──っ!?」」
よし、成功だ。このままトンズラだ。
「詩織、リュアナ、逃げるぞ!」
「おー!」
「えっ!?」
楽しそうに詩織が腕を上げている中、一人置いていかれた様子のリュアナはどうしたらいいのかとおどおどしていた。
「リュアナ逃げるんだよ! 詩織!」
「ラジャー! リュアナちゃん行くよ!」
詩織はリュアナの手を引き部屋の出口に走る。
「ちょっと待って詩織ちゃん!」
「待たないよぉ〜!」
そして、そのまま部屋を出ていく。靴は履く時間がないことを知ってか、持ち出して出ていっている。
「それじゃあお二人さん、どうぞ今夜は仲良く……」
まだ状況を飲み込めず見つめ合う二人にそう言い残し、俺も出口へと逃げる。
靴のかかとを踏みながら、舞の靴を拾い、ドアを開けて、フィニッシュだ。
廊下に出てからも、ダッシュし、学生寮のロビーに出た。
「よし、ここまでくれば大丈夫だろう」
安心しながら階段をおりて、靴を履いていた詩織達と合流する。
「大丈夫だった〜想真くん?」
「ああ、もちろんだ……」
いま俺は、もちろんという言葉を使ったが小宵に襲われることなく、無事に部屋を脱出することができたのは奇跡だったのかもしれない。
ふと、冷静になりそう思った。
「……ふ、二人はなんで、あんなことをしたの?」
なにか戸惑うようにリュアナは、不思議そうに俺達を眺めた。
「二人の仲を良くするためだよ。後は単なる……日頃の仕返しだ」
「うんうん。なんかさ〜、二人の仲がいいのは知ってるんだけどなかなか進展がないから押してあげたってことだよ~……後は最近、コキばっかり使ってくる小宵ちゃんに仕返しかな〜」
たまにはこうして、一矢報いてやらねば俺達もやってられない、そう思う時がやってくるのだ。
「そ、そうなんだ……」
ちょっと引き気味にリュアナが言う。
「リュアナちゃんだってあるでしょ? セリアさんにベタベタされたりして、反抗したことぐらい」
「あるには……あるんだけど……でも、想真くん達がやったのって……そういうものなのかな……」
「そういうものだ」
「うん、そういうものなんだよ〜」
確かに姉妹の中でのケンカや反抗とは違うのかもしれないが、俺たちにとってはさっきやったことはそれと同じことなのだ。
「それじゃあ、そろそろ帰るか……。このまま残って、小宵と鬼ごっこにでもなったら、正直逃げれる気がしないし。それに捕まったら、俺はこの世界からさよならしないといけなくなるからな」
「そうだね〜。私もそうなっちゃうから、出来るだけ早く帰りたいな〜」
詩織がお願いっという視線をリュアナに向けて発射している。
「そ、そうだね……。それじゃあ、詩織ちゃんの家に行こっか」
部屋の方を心配していたが、防御力の少ないリュアナは詩織の放つ視線にやられ、すぐに了承した。
寮の外に出ると、夜空に綺麗な星が光っていた。
「そろそろじゃないか? 詩織?」
「かも知れないね。まだ、聞こえていないし」
そんな会話を不思議に思ったのかリュアナは首を傾げていた。
「二人ともそれってどういう──」
ドッゴーン!!!!!
リュアナの声を遮ってしまうほどの音が鳴り、夜空にはまだ早い夏の人型花火が花を咲かせていった。




