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桜15“*****”

 さっきまでとは打って変わって、張り詰めた空間に俺は正座させられていた。多分、これから俺は説教されるんだなと思いつつ、机の向かい。お風呂上がりで艶なまめかしい肢体をしたリュアナを見る。


 「……えーと……リュアナは、全部、見てたんだよな……?」

 「ええ、全部見てました。舞ちゃんが飛びついて、イチャイチャしだしたところから、ずっとです」


 リュアナは眉をひそめて、他人行儀にそう言うと、若干、頬を膨らませていた。

 これは、ものすごく不機嫌だ。いや、不機嫌になるのは普通なのかもしれないが、リュアナの場合、気持ちが表に出やすい分、今、どれぐらい不機嫌なのかすごくにわかる。


 「想真くん。私は想真くんが舞ちゃんのことをどう思っているのかを知りたいです」

 「それは力を使ってもわからないのか?」

 「わかりません。私が見えるのは心と考えだけで、そこに想いは入りませんから」

 「そうか……」


 想いは入りませんから……それってつまり、胸に秘めた気持ちとか無意識に頭に浮かんだことだろうか? いろいろと曖昧で難しい。駄目だ。今の俺にはこれぐらいまでしか頭が回らない。

 ただ、リュアナは力を使って真実を得ることが出来ない、という事実はわかっていた。

 どうやら、今の俺にとって分が悪いことみたいだ。

 確証がないということは、嘘をつける利点と信じてもらいづらいという欠点が存在している。

 だからこそ、そこで信じてもらえるかはその人次第。その人の信用が試されるのだ。

 俺はリュアナに信用されていると思いたいのだけど、さっきのこともあり、今のリュアナに真実を言っても、素直に信じてくれるとはあまり思え──。


 「想真くん、それは違うよ……」


 小さな声だったけど、俺にはちゃんと聞こえていた。


 「私は想真くんを信じてる。たとえ、私が不機嫌だったとしても、想真くんと喧嘩したとしても、私は想真くんのことを絶っ対に信じてる!」


 俺は唖然としていた。

 いや、言われたことは素直に嬉しい。本当、ものすごく。

 だけど、あまりにわがままな子供のように宣言したもんだから、どう反応すればいいのか困ったのだ。


 「……えーと……」


 困っている俺にリュアナはキリッとした顔で問い詰めてくる。


 「だから舞ちゃんのことをどう思っているのか教えて下さいっ!」


 なんだろう、さっきの姿を見てしまったせいか、今のリュアナが可愛く見える。これがギャップというやつなのか?


 「はぁ~……本当に可愛いよなリュアナは……」

 「えっ? え〜〜〜」


 リュアナの顔がどんどん朱色に染まっていく。


 「ななな、なんで、なんで想真くんはそれをいま言っちゃうのっ!? 今、わたし怒ってるんだよ、超不機嫌なんだよ。それなのになんで想真くんは言っちゃったのっ!? 想真くんはからかっているのっ!? もう、私どうしていいかわけがわからないよ〜〜〜〜!!!」


 顔を真っ赤にして慌てるリュアナ。もう、わけもわからず手をパタパタと羽のように羽ばたかせている。

 素直に吐いた一言が全ての雰囲気を壊し、リュアナをパニックにさせた。

 これはこれで、あまり追求されず済むので良かったのかもしれないが、流石にこれはちょっと落ち着かせないといけないかな……。


 「リュアナ、落ち着け。まずはその手を止めるんだ」

 「む、無理だよ〜〜〜」


 真っ赤な顔を横に振って答える。

 やばいな、これはかなり重症だ。どうしよう……。

 そこで俺が思いついたのは実力行使だ。あの手さえ止まればなんとかなるだろうと考え、俺はテーブルに身を乗り出してリュアナの手を無理矢理止める。そこまではよかった。

 リュアナを見ようと上を見るとちょうど目線が合う。   

 リュアナはさらに顔を真っ赤にさせて──。


 「ふにゃぁ~」


 という理解不明な言葉を放ち、力が抜けて体が後に倒れる。

 まさか恥ずかしさでエンストした!?

 俺は慌てて、リュアナの手を抑えていた手を背中に回して頭を打たないように倒れるの防ぐ。

 しかし、この体勢はなかなかにしんどいものだ。

 先程より身を乗り出し、体はほぼテーブルの上だ。そのうえ、俺はリュアナの胸に顔を押し当てていた。こうしないと支えることが出来ないのだ。リュアナには悪いが今の間だけは我慢してもらいたい。

 ゆっくりとおろしていき、ベットにもたれかかったところで背中にまわした手を放す。

 やれやれだ。まさか、つい出てしまった言葉がこんなことになるとは思いもしなかった。

 最後にリュアナを布団の中に寝かせ、終了だ。時期に目が覚めるだろう。俺はそれまで休憩だ。

 リュアナに背を向けるようにしてベットにもたれた。

 舞ちゃんのことどう思っているの? ふいにリュアナが質問してきたことを思い出す。

 そういえば、さっきのリュアナの質問答えてなかったな。


 「舞は妹だよ。少なくとも、今の俺はそう思っている」


 そう言って、聞こえてないはずのリュアナに向かって伝える。我ながら卑怯な手だ。でも──。


 「……うん……わかったよ……」 


 そんなリュアナの返事が返ってきて、思わず振り返った。だけど、リュアナは目をつむり、小さな可愛い寝息をしながら眠っていた。

 寝言だろうか? でも、信じてくれている、わかってくれているのだと思えて、少し嬉しさを感じる。

 この少しの嬉しさを何か形にしたくて冷蔵庫を開けた。


 「やっぱりないか……よし、それなら……」 


 俺はスマホを耳にあて電話をかけた。


〜*****〜


 あれから少し経って、目が覚めたリュアナとお茶を飲みながらまったりしていると、こんこんとリュアナの部屋の扉が叩かれた。


 「おっ……来たみたいだ……」

 「えーと……想真くんは結局、誰を呼んだの?」


 まったりしていた時に誰かを呼ぶという話はしていたのだけど、誰が来るのかはまだ秘密にしている。 

 今回もまた、「秘密だ」と言って誤魔化す。

 すこし不安そうな顔をするリュアナ。当然といえば当然か。

 鍵を開けて扉を開くと、買い物袋を持った歩と小宵、そして、詩織が立っていた。


 「ちゃんと買ってきたぜ」


 歩があからさまに頼んでいた物が入った買い物袋を持ち上げる。


 「ありがとう、まあ入れよ」

 「なんで想真が勝手に部屋に入れてるのよ! ここはリュアナの部屋なんでしょ?」

 「小宵ちゃん、まあまあいいじゃない。ここが二人の愛の巣なんだから」

 「違うわっ!!」


 相変わらず鋭いツッコミをする小宵にそれをなだめてボケる詩織。詩織の変なボケは誤解を生みそうで急いでツッコまないとこわい……。


 「いいから……早く入れ……」

 「きっと、普段からリュアナちゃんとあんなことやこんなことをしてるから、こんなことに慣れているだよ」


 詩織の変なボケ、第二波がやって来た。また、誤解を生む前に──。


 「あんなことや……こんなこと………」


 顔を赤くして、頭から湯気を出す小宵。

 遅かった……。くそっ、マジで誤解された……。


 「だぁーっ! 詩織、お前なんて嘘を言ってんだよ!」

 「えっ、想真くん。嘘じゃないでしょ。下にまでベッドがきしむ音が聞こえたんだから」 

 「ベッドが軋む音……」 

 「だから、そんなわけ無いだろ! まず、お前は下に居ないだろ」

 「なあ、どうでもいいから早く作ってくれ」


 歩が玄関でお腹を押さえ言ってくる。


 「お前は相当、腹減ってるんだな!」

 「あれ? みんな?」


 とうとう待ちきれなくなったのか、リュアナが玄関にやってきた。


 「あ、朝霧さん。おじゃまするね」

 「やっほー、リュアナちゃん」

 「ベッドの上で……あんなことやこんなこと……」

 「うん。みんな、こんにちはだね。それでみんなはどうしてここに?」


 いつもは優しいリュアナもぶつぶつ言っている小宵はスルーだ。その方が俺もありがたいのだが、ここで立ち話をするにはすこし場所が悪い。


 「リュアナその前に、中に入ってもらった方がいいんじゃないか。ここ、一応、女子寮なわけだし」

 「確かにそうだね。みんな、入ってくれる?」


 それぞれ適当な返事を返して、中に入っていく。

 こういう時、俺が言っても聞かないくせにリュアナが言うとすぐだもんな〜。まあ、リュアナの部屋なんだから当然なのかも知れないけど。

 リビングに入ると、詩織達がいろいろと感想を述べていく。


 「リュアナちゃんの部屋。とっても綺麗だよね〜。もう、洗礼されている感じがするよ」

 「そんなことないよ〜」


 嬉しそうに頬を赤らめるリュアナの隣、ベッドを見てまたもやぶつくさと小宵が呟いている。


 「ここであんなことやこんなこと……」 

 「そうだよ〜。あそこだけはこの部屋で唯一穢れた場所なんだよ〜」


 赤くなった小宵をさらに追い打ちをかけるように詩織が小宵の耳元で囁く。


 「もうあいつはなにを考えているんだ……」


 正直、あいつが何も考え、何を企んでいるのかなんてわかったもんじゃない。


 「それでみんなはどうして来たの?」

 「想真がデザート作ってくれるって言ったから来たんだ。それになんか激辛激旨カレーを食べさせてくれるってことも聞いたしな〜」

 「そうそう、想真くんってこういうデザートはものすごく美味しいから」

 「そんなに美味しいの? 想真のデザートは?」

 「もう、美味しいとかそんなレベルじゃないよ! 死んじゃうぐらいのレベルなんだよ!」


 雷が背中に落ちたような衝撃さを鮮明に伝えようとする詩織。

 なんか俺、その言い方、嫌だな……。


 「ねぇ、それって美味しいってことだよね……?」


 リュアナもその言い方に疑問を思ったのか聞き直す。


 「それは、もう、死ぬぐらいは当然のデザートだ!」


 その言い方も嫌だ……。なぜ美味しいと言ってくれないんだろうか……。


 「……想真くん、本当に大丈夫なの……」


 リュアナが涙目になって俺に聞いてくる。


 「心配する必要はないから! 毒なんていれてないし、普通に美味しいだけから!」


 そう言い張る俺に小宵は疑いの目を向けてくる。


 「どうだか……」

 「小宵。お前だけは食べて死んでも知らないからな……」


 そう告げて、俺はキッチンの方へ向かう。

 あれ? 舞はどうした?

 ふと、お風呂に入っていったきり出てこない舞を思い出し、


 「リュアナ、舞をお風呂から出してきてくれ!

のぼせてるかもしれない!」

 「あっ!」


 リュアナも思い出したような顔になり、リビングを出ていく。


 「舞ちゃんも、来てたの?」

 「ああ、でも、いまお風呂でのぼせてるかもしれないから、リュアナを手伝ってくれるか?」

 「うん、いいよ」

 「私も行くわ」

 「ありがとう」


 小宵と詩織がリビングを出ていく。


 「歩、掛け布団を畳んで足の方に固めておいといてくれるか?」

 「了解了解~」


 歩はそそくさと掛け布団を折りたたみ始める。

 リュアナの掛け布団だったので少し心配したところがあったが、今のところ普通に畳んでまとめている。

 安心して任すことはできないが、歩を信じて俺は舞を運びに行くか……。


 「想真くん来てー」


 予想通りのタイミングだ。


 「はいはーい」


 すぐさまお風呂場に向かうと、バスタオルを巻いた舞がリュアナ達に掴まりながら、必死にふらふら立っていた。


 「無茶しすぎだ。舞……」

 「だっ、だって〜」


 俺はスイっと舞をお姫様だっこをして持ち上げて、リビングに運んでいく。


 「はいはい、待ってたよ」

 「そういえばタオルあるか?」

 「それなら、持ってきたわ」


 小宵がひょっこりと姿を表してタオルを見せた。


 「助かる。枕のところに敷いてくれ」

 「わかったわ……」


 小宵が枕元にタオルを敷いたのを見計らって舞を下ろす。

 足を掛け布団の上に乗っけてってとこれでよし。

 後は、


 「詩織、あれ」

 「ほい、想真くん」


 手渡されたのは濡れたタオルだ。

 これを首と脇を冷やすように置いて、終わりだ。


 「これで大丈夫だね〜」

 「そうだな。まさかここに来て静香さんの言われたことが必要になるなんて思わなかったよ」

 「全くだな……」


 歩もうんうんと頷いている。


 「ねぇ、想真くん。それってどういうこと?」

 「昔、似たようなことがあったんだよ。そのときは詩織がのぼせて……」

 「駄目だよ〜想真くん。その話しちゃ〜」


 あの詩織が焦ってる。まあ、確かに詩織にとってはいろいろと恥ずかしい思い出なのかもしれない。


 「珍しいわね。詩織が慌てるなんて」

 「そ〜でしょう。後で何があったか教えるわ」

 「歩く〜ん」


 詩織の頭には怒りマークだ。これもなかなか珍しい。


 「まあ、そんなこんなで静華さんに助けてもらって、その時のことを思い出して、やってみたってことだ」

 「そうだったんだ〜」

 「ごめんね。想真にぃ迷惑かけて……」


 沈んだような弱々しい声に俺はベットにしゃがみ込む。


 「大丈夫、誰も迷惑だと思ってないから。舞は子供なんだし、それぐらい仕方のないことそう思ってる。だから、心配せず、今は休んどけ」

 「うん……」


 俺は舞の頭をポンポンと優しく叩き。キッチンへ向かう。

 さて、あれを作りますか。

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