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四季の思い出  作者: 川澄 成一
四季のプロローグ
2/82

四季の始まり1

 夢が終わり、浮上する感覚と共に目が覚める。


 「……今日もあの子の──あの事件の夢か……」


 あの事件があって以来、俺は事件の記憶を夢で見るようになっていた。だけど、それは毎日夢を見るわけでは無い。せいぜい多くても数日に一度か二度、あるかないかだ。なのに、ここ最近では、なぜか毎日のようにあの子の夢を繰り返し見ていた。何かが起きる予兆なのか、そう何度か考えたことがあるが、結局、考えるだけ無駄だと簡単に切り捨てていた。

 そして、今日もまた、今見た夢に疑問は抱かない。

 所詮は夢で、終わった過去なのだ。考えるほど精神は擦り減って、いいことはない。

 夢のせいで気だるくなった重たい体を起き上がらす。


 「──想真、起きなさいよー」


 ちょうど、母の声と起き上がるタイミングと重なった。


 「起きてるよー!」


 聞こえたか聞こえてないかはわからないが、大きな声で下にいる母に伝えて、俺は部屋を出て一階へとおりた。

 この家は階段を降りるとすぐに玄関があるのだが、二階からおりと、そこでは母が慌てながら靴を履いていた。


 「おはよう想真、弁当はテーブルの上に置いてあるから忘れず持って行くのよっ!」


 仕事に遅れそうなのか、早口で言い終えると母は玄関を飛び出して行った。

 この家は俺と母の二人暮し。母は一人で俺を補うためにいつも朝から晩まで仕事に追われていた。そんな母を見て、少しでも負担を軽減出来るようにバイト探しているのだが、なかなか見つかっていないのが今の現状だった。

 ここ、日高町は山の麓の町で店が少ない。ここから近い店でも20分はかかる場所だった。

 どこか、近くに店が出来ればいいんだが……。そんなことを思いながら、イチゴジャムの乗ったパンを口に運んでいると、家のベルが響いた。

 小さな庭が見渡せる窓から外を覗いて見ると、茶髪の髪をツンツンと立てた大空おおぞら あゆむが手を振っていた。

 歩とは子供の時からの幼馴染で、問題行動が多い割には中身はまともというなんとも不思議なやつだった。

 俺は慌てて残ったパンを口に押し込み、かばんを持って玄関へ向う。

 それにしても、今日の歩はいつもより早い気がする。普段なら遅刻ぎりぎりに学校に到着しているのに、何かあったのだろうか?

 玄関のドアを開くと、歩が眠たそうに口を開けてあくびをしていた。


 「おはよう想真〜」

 「ああ……おはよう。今日はいつもより大分早いけど……なにかあるのか?」

 「いや、ただ早く起きただけ──あっ、いや、ちょっと待てよ。大事ななにかが……あったような〜、無かったような〜」


 歩がこんな感じにボケているのは朝だからだろうか? 学校ではあまりこういう風にボケたりする姿はあまり見たことはない。


 「お前にしては珍しいこともあるんだな……」

 「ん? それはどういう意味だ? まあ、別にいいけどさ、それより早く行こうぜ!」


 歩は自分で自分の質問を素早く蹴ると、歩は学校に向けて走り出した。

 今日の歩は、なぜか朝から元気がいい。夢で寝不足の俺にその元気を分けて欲しいぐらいだ。


 「早く来ないと置いていくぞー!」

 「はいはい、いま行くから」


 そう答えて、歩の元へ走り出す。

 まったく、今日は朝から慌ただしい日だ。


~*****~


 桜舞い散る、通学路の桜並木を通りながら歩が呟いた。


 「もう、日高高校に入学して一ヶ月を過ぎようとしているんだよなぁ~」


 そう、俺達は日高高校にギリギリで合格して、気がつけば一ヶ月を過ぎようとしている。


 「ああ……そうだな……」

 「でさぁ〜……なんで俺には彼女が出来ないんだ?」

 「突然、なに言ってんだ? お前……」


 さっきまで、ゆったりしていた登校時間を一言でぶち壊しだ。こいつのことをまともだと思った俺はバカだった。


 「だってよー。俺、イケメンだろ?」


 ポーズを決める歩は客観的に見れば格好いいのだろう。しかし、彼女が出来ないのはほぼ間違いなく中身の問題だろう。


 「自分でイケメン言ってどうする。そんな考え方だから出来ないんじゃないのか?」


 素直に思ったことを口に出すと、そんな言葉に嫌な顔をせず満遍な笑みで歩は振り返った。


 「そんなことはないと思うぜ、きっとこんな考え方でも受け入れてくれる人がいるはずだ。だから、俺はこの考え方を変えるつもりは微塵もないぜ! 相棒!」


 どこか確信を持っているようにはっきりとした言葉で言う。それがどこか俺の癇に触り、ついぶっきらぼうに流してしまう。


 「そうか、それなら受け入れてくれる人が現れるまで待っておけ」

 「え~」


 否定的な声を上げているもののその考え方は曲げる気はさらさらないようだ。まあ、それが歩なんだけど。

 それから間もなくして、通学路の難関に差し掛かる。

 俺は一つトーンを下げた声で言う。


 「なぁ、歩……。いつも通っているから普通だけと思ってたけどさ。この坂は、いったいどれだけ急なんだ?」

 「俺も詳しくは知らないけど、日本の中ではトップ3には入っているとは思うぞ」


 俺達が通う日高高校は山の中腹辺りに立っている。というわけで坂を登らなければ、けして学校に辿り着くことは出来ないわけなのだが……その坂は、それはもう自転車で登ろうとすると後ろに倒れるぐらいのマジで急な斜面なのである。

 ふと違和感を感じ立ち止まり後ろを向くと、歩が身を屈ませながらゆっくりと歩いてきた。


 「……なんでお前、そんな身を屈ませる必要があるんだ?」


 歩は体制を崩すことなく答えた。


 「……ん? なんでってそりゃ、毎日朝早くから学校に来ている真面目で純粋な女の子のパンツを見ることが出来るうえに金儲けまでできるだから。やらなきゃ損だろ」


 グヘヘと変な笑い声で気持ち悪い顔を俺に見せると、ポケットからスマホを取りだし前を歩いている女子生徒のスカートの中に向けて構えると連写した。


 「ってそれは犯罪だ!!!」


 歩の腹部に回し蹴りを入れ、手から空中に手放されたスマホをキャッチそしてすぐさま──消去だ。

 回し蹴りをきめられた歩は転げ落ちていき桜の木にぶつかり止まった。


 「いてて……。全く俺の親友は容赦ねぇな~」


 近づいていくと頭を掻かきながら笑っていた。


 「当たり前だ。お前がやったことは犯罪だ。もしばれたりでもしたら……」

 「ああ、そりゃねぇよ」


 歩はその先を読んではっきりと言い切った。


 「は? なんでだよ?」

 「なんでかって? それはな~……いや、これはやっぱりやめておこう」


 歩は少し思案した結果、教えないということを決心したみたいだ。しかし、そこまで言われたら気になってしまう。仕方ない奥の手だ。


 「……なんだよ。教えてくれないなら言いつけるぞ」


 歩の弱みを晒して情報を聞き出そうと考えたが、


 「残念ながら、もう証拠はないぜ」


 と、へへっと笑い、歩は全く恐れていなかった。


 「証拠なら、そこの桜の木につけられた防犯カメラに録られているはずだが?」


 一本とったと思ったが、歩は余裕な表情を浮かべながら答える。


 「ここのカメラは俺がハッキングしておいた。といっても俺の管理から外れているけど──」

 「計画的犯行!? それにお前、何処でそんな技術を……」

 「秘密だ。それより、バレないんだからさ──」 


 立ち上がり、笑顔で俺の肩に手を置くと共犯を求めるように手を差し出した。


 「一緒にやろうぜ♪」

 「やらねぇよっ!!!」


 差し伸ばされたその手を握り、上手投げで投げ飛ばした。


~*****~


 俺達は坂を登り切り教室へと足を進める。

 ここまでくるのにどれだけ大変だっただろうか……。

 扉を開けて教室へ入ると、宮本みやもと 詩織しおりが待ってましたとばかりに近づいて来た。


 「おはよー。想真くん、歩くん」

 「オッスー詩織ちゃん」

 「おはよう、詩織」


 詩織は歩と同じく幼なじみで、今でもよく遊びに行ったり、しゃべったりしてとても仲がいい。


 「詩織ちゃん、やっぱり来るのが早いね~」

 「いや~そんなことないよ~、いつものことだし。それより想真くん達こそ、今日いつもより早いけど、何かあったの?」

 「いや、なんにもないよ。ただ、歩のやつが、今日起きるのが早かったから学校に着くのが早くなっただけだよ」

 「そうなんだ~。でも、歩くんが早起きなんて珍しいこともあるもんだね~。もしかしたら、今日、なにかが起こっちゃうとか?」


 何か、か……。考えて思いつくものと言えば大雨とか落雷とか地震とか津波とか……。


 「……うん。起こってもおかしくないな」

 「何も起こらねぇよ! というか二人ともそんなに俺が早起きするのがおかしいことか?」


 「「うん、絶対おかしい」」


 俺と詩織の声が重なった。

 相当効いたのだろう、歩が今にも泣きそうな顔をして、俺の腰にしがみついた。


 「そんなに、そんなに全力否定しなくてもいいじゃないか〜」


 そうは言っても、こちらには証明となる事実を知っている。


 「だってお前、いつも俺の家に行くからとか言っておきながらまったく来ないじゃないか。つか、気持ち悪いから離れろ」


 歩は腰から手を放し溶けるように崩れ落ちて座り込む。


 「確かに、そうだね~。歩くんは、遅刻寸前に入って来ることが日課になりかけているぐらいだから」

 「日課って……俺は別に寝坊したくてしているわけじゃないんだ!」

 「じゃあ、なんでそんなに寝坊するんだよ?」

 「それは、ほら……。夜に集めた情報とかを整理していと……な?」

 「一体、そんな夜中まで、何の情報をかき集めてるんだ? お前……」


 座り込んで顔を伏せた歩は突然、顔をにやけ顔に変えて、立ち上がり、気持ち悪いその顔を近づけて来る。


 「聞きたいか、俺の情報を……」


 それの言葉を聞いて、なんとなくだが歩が集めている情報が何かを掴んだ気がした。


 「……女の子か……?」


 と、俺は呆れながらも歩の耳にボソッと尋ねる。


 「おや? わかっているじゃあーりませんか旦那、一ついかがです? お安くしておきますよー」


 わざとらしく不気味に笑う歩。こんな嘘くさい奴から情報を買いたがる奴なんているのだろうか? ちなみに俺なら絶対に買わない。

 俺が否定しようとしかけた、その時だ。


 「ちょっと、男同士で集まって何を話しているのかな〜?」


 後ろを振り返ると、不気味に笑う小さい女の子がいた。


 「あれ? いつからいたんだ小宵? 残念だけど今はお前のようなお子様が入ってきていい話しじゃないから、ほらどこか行った行った」


 そう言って、歩はしっしと虫を払うように手を振った。

 彼女の名前は夜来やらい 小宵こよい。小宵は高校からの友達で、成績優秀、運動神経も良く、黒髪のツインテールでかわいらしい容姿のほぼ完璧美少女と称されているが、体がいろいろと小さいのでよくお子様扱いされてからかわれていた。


 「なっ!? お前達が来た時にはもういたわよ! って言うかお前また、私をお子様扱いしたわね! 今日という今日は子供じゃないってこと認めさせてやるんだから!」


 今宵はそう言うと歩を捕まえようと手を伸ばし追いかけ始める。


 「誰がお子様に捕まるか──よっと……」

 「今度こそ絶対、逃さないんだから」


 歩は小宵の手と机を華麗に避けながら、勢いよく教室を駆け回る。

 本当に、朝から元気だなあいつら……。

 廊下へと出ていく歩を小宵は追いかけようとして詩織の前を横切る。


 「あ、小宵ちゃん来てたんだ~。おはよー」


 どうやら詩織も小宵が来ていたことを知らなかったようだ。なんとも、小さいことが災難に思えてくる。


 「なっ、なんで詩織まで私が来たことをしらなかったのよー!」


 小宵は泣いたような声で廊下に逃げた歩を追って走って行った。


〜*****〜


 あれから、10分ほど時間が経ち、教室には生徒が集まり席に着きはじめていた。

 詩織は教室のドアから顔を出していた。どうやら、未だ飛び出して帰ってこない二人を心配しているようだ。


 「まだ、帰って来ないのか?」

 「そうだね~」


 時計の針は朝の朝礼が始まる8時半に差し掛かろうとしている。


 「このままだと、二人とも遅刻扱いだな……」

 「そうだね~。せっかく歩くんが早起きしてきたのにね~」

 「まったくだな……」


 詩織が廊下に顔を出して眺めていると、急に振り返りかえって俺の顔を見た。


 「帰って来たよ~」

 「残り、二分ってところだな」


 教室にある時計を見ながらそう言うと、


 「んーそれじゃあ、間に合わないかもね~」


 と詩織は廊下に顔を向けながら言う。


 「どうしてだ?」


 二人の姿が見えているなら、十分、間に合う余裕はあるはずだ。


 「見ればわかるよ」


 詩織に促され詩織と同じように顔を廊下に出す。そこで見えたのは廊下の真ん中で小宵が歩の腰に手を回しへばり付いてじゃれあっている二人の姿だった。


 「やっ、やるじゃねぇかお子様……。でも、そろそろ離してもらおうか……」

 「私をお子様と言ったことを撤回しなさい! じゃないと離さないから!」


 そんな二人の様子を見ていると、どうしても親とその子供に見えてしまう。


 「それにしても、あいつらは本当に仲がいいなー」

 「そうだね~」


 時計の針は8時半になり学校のチャイムが教室に響びいた。それと同時に待っていたかのように担任の奥野先生が入ってくる。


 「朝から、騒がしいな……」


 廊下を見ながら呟くと歩と小宵が入ってきた。


 「「……遅れてすいません」」

 「お前達は遅刻だ。朝礼を始めるから席に座りなさい」

 「え~」


 歩が不満そうな声をあげる。


 「いいから座れ……。今日の朝礼を始めるぞ、号令」

 「はい、起立──礼!」


 自分の席へと戻った小宵が号令をかける。


 「えー、今日の6時間目に生徒会の紹介と募集についての話しがあるみたいだから、5時間目終了次第、全員体育館に集まってくれ、以上だ」


 そう言って奥野先生が教室を出て行った。


 「いやー、6時間目は楽しみだなー」


 隣の席の歩がこっちを向いてニヤニヤしている。


 「6時間目がなんで楽しみなんだよ? まさかお前、何かやらかすんじゃないだろうな?」

 「そんな恐ろしいことは絶対しねぇよ!」


 顔を真っ青にして勢いよく立ち上がった。


 「お……おう、そうか……それならいいんだ。まあ……落ち着けよ……」


 いきなりのことで、こっちも動揺してしまった。こんなにも青ざめた顔をした歩を始めてみた。長年の付き合いだがここまで動揺するには何か理由でもあるのだろうか? 


 「……悪い、いきなり立ち上がったりして……」


 ゆっくりと座り落ち着いたようだが、顔色はまだ青ざめている。


 「いや、いいんだけどさ……お前があそこまで動揺するには何か理由があるのか?」

 「まあ、後々わかるさ……」


 奥野先生が閉めて行ったドアが再び開き、別の先生が表れて1時間目が始まる。歩のことは気になるが今は6時間目になるまで待とう。

 

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