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桜9〝****

 木曜日の放課後。

 俺はいつものように授業を受け、何事もなく平和に放課後を迎えた。

 今日は特にやることも無ければ、バイトも入ってはいない、たまには真っ直ぐ家に帰ってゴロゴロするのもいいか〜、なんて思うけど、家に舞がいる以上は家でゴロゴロすることはできないだろう。まあ、舞と遊んでやることもゴロゴロの一つと考えれば、今日はゴロゴロできるだろうけど。

 俺は椅子から立ち上がり、教材が入った重いかばんを持ち上げながら、そのまま家に帰ろうと足を踏み出そうとした時だった。


 「ちょっと待って想真くん、少し私に付き合ってくれないかな〜?」


 聞き覚えのある声に呼び止められ、俺は踏み出すことをやめた。

 嫌な予感がする……。

 いっそうのこと、このまま聞こえないふりをして家に帰るという選択肢が頭を過ぎった。

 いや、ダメだ。このまま帰ってしまうと明日の俺がどうなっているかわからない。

 俺は渋々覚悟を決め、恐る恐るゆっくりと振り返って見ると、案の定、そこには明らかに怪しい笑みを浮かべている詩織が立っていた。

 詩織がこの表情をしている時は間違いなく何かをしようとしている顔だ。それも、いい事ではなく悪いことを。

 今、詩織に関わるとろくでもない事に巻き込まれるだろう。いますぐ、理由をつけて帰るべきだな。


 「ごめん、今日ちょっと急いでるんだ! それじゃあ!」


 そう早口で詩織に言って、手をさっと振りながら逃げるように教室を去ろうとしたのだが……あっさりと詩織に肩を掴まれてしまい、俺は簡単に捕まってしまった。


 「想真くん、私に付き合ってくれるよね?」


 掴まれた肩に力を込められる。それほど痛くはないがこれは詩織なりの次に断ったらどうなるかわかってるよね〜、といった俺に対しての注意が込められている。


 「あははっ……はぁ〜、はい……………」


 冗談ですよね〜といった苦笑いは徐々に消え、諦めのため息と了承の返事して詩織の勝利に終わった。降伏した俺を見て詩織は満足そうに、うんうんと頷いている。

 俺は今日の予定であった“ゴロゴロをする”ということを諦め、詩織になにをするのか尋ねる。


 「それで何をするんだ? 先に言っとくが危ないことはしないからな」

 「もちろん、そんなことはしないよ〜」


 そうは言っているものの、詩織は子供の頃から歩や俺の破天荒な遊びについてきていた思い出がある。詩織のことだから多少の危険なことならやりそうな気がするが……。


 「それじゃあ、何するんだ?」

 「想真くん、あれを見て」


 詩織が小さく指を指す方向を見るとそこには、珍しく楽しそに話している小宵と歩の姿があった。

 他にめぼしい物は見つからないので、多分、その事ことだろう。


 「歩と小宵が楽しそうに話しているけど、それのことか?」

 「そうそう、なぜか今日だけは二人とも仲良くしてるんだよね〜。いつもなら、歩くんが近くによるだけで蹴り飛ばしたりしてるんだけど……」


 確かに言われてみると、今日はあの二人が暴れていない気がする。なるほど、通りで平和な日だったわけだ。でも、なぜ今日に限って暴れてないんだ?

 詩織が俺の顔から悟ったようにニヤニヤした表情を見せた。そう、まるで変なことを話す時の歩のように。


 「実はね〜。小宵ちゃんにちょろっとだけ聞いたんだけど、この後どうも二人だけでどこかに行くらしいのよね〜。場所までは教えてくれなかったんだけど、想真くんは気にならない?」


 俺を誘うように甘く言い寄ってくる詩織。そんな詩織に俺はなによりも最初に言いたいことがあった。


 「その顔やめた方がいいぞ……」

 「……えっ?」


 予想外のことだったようで詩織はキョトンとしている。


 「いや、さっきの顔。歩のその……気持ち悪い? いや、気色が悪い? まあ、もうどっちでもいいけど、その顔に似てたからやめておいた方がいいっていうことだ」

 「えっー! 嘘でしょ? ほんとに、ほんとに私、歩くんみたいに変な顔してた?」

 「ざんねんながらな……」


 詩織は嘘でしょ〜を連発しながら自分の顔を手でこねていた。

 ここまで嫌がられると歩も可愛そうだなと思ったが、俺もそう言われれば今の詩織みたいになっているだろう。


 「あっ、それよりも本題本題。想真くん、あの二人のこと気にならない?」

 「気になる」


 俺は素直に即座に答えた。二人がケンカした日からずっと気になっていたことだったからだ。

 そうだよね〜と単純に嬉しそうに笑顔を浮かべ同情してくる詩織。何かを含んでいる感じはしないので、詩織も思っていたのだと考えたい……。


 「それで想真くん、一緒にあの二人を尾行してみない?」


 まあ、予想はついていたことだった。いつもならば行かないと言うだろう、しかし、気になると言った以上は行くのが当然だ。


 「ああ、いいよ。リュアナは呼ばなくていいのか?」

 「あっ、リュアナちゃんはダメだよ。終わった後、絶対にボロが出るから」


 間違いない。リュアナを連れていけば、終わった後につい口に出してしまうのは目に見えている。ここは二人で行くのが妥当だ。


 「あっ、動き出したよ。想真くん……」


 詩織がボソッと呟くように俺に伝えると、詩織は二人を追いかけるように、しかし、怪しまれないように教室をゆっくりと出た。俺も詩織に遅れずついていく。


~*****~


 尾行を始めてからまもなくして、俺達は学校の校舎を出て桜坂をくだっていた。

 一定の距離を保ちながら平然とつけていると案外、気づかれないものだった。しかし、学校を出て数分が経っているが、二人はまだ楽しそうに会話をしていた。普段なら、数分経てば必ず1回は小宵が歩を蹴り飛ばしているはずなんだが一体、どこへなにしに行くのやら。


 「なあ……詩織。本当にあいつらがどこに行くとか聞いてないのか?」

 「それがわかってたら私達は先回りしてるよ〜」


 詩織が振り返ることも無く、疲れた声で答えると、急に詩織は立ち止まった。

 張り詰めた雰囲気に俺も声の音量を下げて尋ねる。


 「どうした?」

 「想真くん、お金持ってきてる……?」


 真剣な表情に、少し戸惑いながら答える。


 「まあ、三、四千ぐらいは……」


 それを聞いて安心したような表情を俺に向けた。


 「それなら大丈夫だね。想真くん、ちょっとお金貸してくれる」


 明るい詩織の声を聞いて、一気に張り詰めた空気は消えていった。


 「は? なんでお金が必要になってくるんだ?」

 「まあ、見ていたらわかるよ」


 二人がたどり着いた場所はちょうど坂から降りたところにある日高駅だった。

 なるほど、今から都会の方へ出るのか。

 二人は切符売り場で切符を買うと、改札を通りホームに入っていく。

 それを見て、急いで切符売り場で二人が行こうとしている駅の切符を買おうとしたのだが、


 「詩織、あいつらどこまでの切符買ったんだ?」

 「三尾駅だよ。早く!」


 詩織も切羽詰ったように改札で二人の行く先を目で追っていた。

 俺は三尾駅の切符を二枚購入して、一枚を詩織に渡し、ホームへと駆け込んだ。


 「こっちだよ! 想真くん!」


 詩織に手を引かれながら、俺は小宵と歩を探す。そして──。


 「見つけた……!」


 幸い電車はまだ来てなく、小宵と歩にも気づかれた様子もない。

 俺達は見つからないような帰宅する人混みの中で息を整え、一旦、小宵と歩からは距離を置いた。


 「これから一緒の車両に乗るから、変装しないとね」


 詩織はそう言うと、長い後ろ髪を持ち上げてゴムで止め始めた。どうやら、髪型を変えるらしい。

 ここは俺も変装しないとダメなんだろうが、そんなものは一切ない。どうしょうかと迷っていると詩織が俺の手に何かを持たせてきた。


 「想真くんはこれ」

 「ああ」


 渡されたのは度の入っていないメガネと青と緑の落ち着いたネクタイだった。

 どうやらこれで、変装しろということらしい。

 俺はメガネをかけ、制服のネクタイを付け替える。


 「よし、出来た。想真くんも……うん、バッチリだね」


 そう言う詩織は後ろ髪を一つにまとめ上げてシュシュでくくり、鍔のついた帽子を軽くかぶっていた。俺は一瞬、誰だかわからなくて二度見してしまった。いつもは落ち着いた様子の詩織だが、髪を上げて明るく感じ印象が大きく変わっていたからだ。


 「どうしたの……?」

 「いや、なんでもない……」


 なんだか二度見してしまったほど見惚れていたことに恥ずかしさを感じ、俺は顔を逸らした。

 そうやってまともに詩織の顔を見れず、時間が過ぎていくと電車がやって来る。


 「電車がきたね〜。それじゃあ、小宵ちゃん達が入る隣のドアから入るよ」


 顔を近づけて、そっと耳元で呟かれ胸がドキドキと動機が早くなった。

 いつも、一緒にいるはずの詩織にここまでドキドキさせられたのは初めてかもしれない。

 俺達は電車のドアの前で並んでいると、詩織が俺の腕に腕を組ませて、体を密着させてきた。

 今こんなことをされると、トドメを刺されたように思考が停止してしまう。 


 「なっ、なな、何するんだ詩織!?」

 「もう、動揺しすぎたよ〜。でも、それってちゃんと女の子として見てくれてるってことだから、私うれしな〜」


 詩織は俺を見上げながら本当に嬉しそうに笑う。その笑顔に危うく引き込まれそうに、っていやいや、そうじゃなくて。


 「どうして、こんなことをするんだ?」 

 「それは〜私と想真くんがくっついていることで恋人に見えるかな〜、って思ったんだけど……嫌だった?」


 断りづらい、つぶらな瞳で俺を上目遣いで見てくる詩織。これは演技だ、これは俺を断れないようにするための演技だ。そう思い続け、嫌だと言おうとしたが、


 「嫌じゃ……ない……」


 結局、断ることはできなかった。


 「なら、こうしてもいいよね〜」


 さらにぎゅっと体を密着させてきて膨らんだ胸が押し当てられる。そんなことをされて男の俺が慌てないわけがない。


 「ちょっ……詩織!?」

 「どうしたのかな〜? 想真くんは〜?」


 俺の慌てる様子にいつもより楽しそうに笑う詩織。

 電車に乗っても、その状況は変わらなかった。


~*****~


 詩織にドキドキさせられながらも、小宵と歩を見張っていると、突然、小宵が俺たちの方を見るとじーっと眺めてきた。最初はバレたかと思ったが、一向に声をかけてこないので多分気づいないのだろう。しかし、悪いことに小宵は見てというように歩を誘い、俺達を見てきたのだ。

 一体、なんなのかと思っていると、詩織が小さく呟いてきた。


 「……多分、私達のことについて話してるんだと思う……そう恋人の話……」


 詩織は甘く最後の言葉を呟くと、組んでいた腕を外し胸にストンと体を預けてきた。


 「……なっ!?」


 あまりの唐突のことにつり革を持っていない手がどうしたらいいのかわかず、ふらふらとしながら宙を彷徨った。


 「ほら、早く早く、私を抱くように手を肩に回してきて……」


 小宵と歩に背を向けた詩織がさぞ、嬉しそうに俺を焦らせる。仕方ない、ここは小宵と歩に不自然と思われないように詩織の思う通りにされてやるか。

 俺は詩織の肩に抱くようにして肩に手を置く。

 緊迫した状況の中、詩織が顔を下に向けて俺の胸にうずくまっていた。


 「どうかしたのか?」

 「なんでもないよ〜……想真くん……」


 そう言っていはいるものの顔は赤く染まっていた。もしかして、自分で作り出したこの状況に恥ずかしがっているのか? 

 その真偽を確かめようとした時、タイミングがいいのか、悪いのか、わからないが三尾駅にたどり着いた。

 駅に着いたのにもかかわらず、まだ赤い顔で俺の胸にうずくまらせていた詩織を引っ張って電車から引きずり降ろした。


 「わわわ……ごめん、ボーッとしてたよ〜……」


 電車からよろけるように出た詩織はまだ赤い顔をして、頭を冷やすように手で顔を仰いでいた。


 「詩織、早く行くぞ! 歩達が改札出て行った」

 「えっ、ほんとに?」


 驚いた様子を見せた詩織だが、顔がさっきより赤くなっている。


 「詩織? 顔が赤いぞ?」

 「大丈夫大丈夫、心配しなくてもいいから」


 そうは言っても、病気じゃないのかと少し心配になってしまう。


 「本当に大丈夫なのか? しんどいならここで少し休んでもいいけど……」

 「……ううん。せっかくここまで付いてきたんだし、ここで見失うのはもったいないよ〜。だから、大丈夫。行こ!」


 詩織はそう言って、はやくはやくと改札前ではしゃぐ姿を見せいたがどこかで無理をしているようにその笑顔には陰りが見え隠れしていた気がする。


 「わかったけど、無理はするなよ」


 俺は詩織の肩を軽く叩き改札を出た。


~*****~


 三尾駅の改札を出るとそこは大きなデパートと隣接してできた通路になっていて道が四方八方へと延びていた。


 「……まいったな〜」

 「これは……大変だね〜」


 駅の改札付近で一度足を止めた俺達はそう呟いた。

 道も去ることながら、平日なのに人が思ったより多いのだ。

 ちょうど帰宅時間なのか、下校時間なのか、制服やスーツを着ている人が多く見られ、視界を遮られた。

 幸いにも、改札を出る時に詩織が歩達の行き先を目で追っていたので、なんとかこれで二人を追うことが出来る。


 「それじゃあ、行きますか」


 俺は何気なく詩織の手を取る。


 「うん……」


 沈んだような返事をした詩織はなぜか寂しそうな顔をしていたが、その表情はすぐに消え、俺を引っ張るようにして雑踏の中に足を進めた。 

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