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桜7〝**

 脱水所で少女が可愛らしく首をかしげてから数分。

 俺は一足先に着替え、片っ端からタンスを開き少女が着れそうな服を探していた。しかし……。


 「……やっぱりない。なんにもない……」


 俺は肩を落とし落胆した。

 少女が着れそうな服は一つもない。

 俺のTシャツを見つけたが、膨らみ始めている少女の胸には、下着がない状態では酷なものだ。母のものがあるのではないかと母のタンスをあさってはみるもやはりサイズが合わない。

 ああ、どうしたらいい……。

 頭を抱えていると、玄関のドアの開く音が聞こえた。


 「ただいま〜想真」


 疲れた声で帰ってきたのは母だった。両手に袋をいっぱい持っいる。


 「……お帰り、お母さん。そんなにもなに買ってきたんだ?」

 「ちょっと遠くまで出かけてきただけよ〜。あっ、これ持って入ってくれる?」


 手に渡してきたのは、両手に持っていた袋の数々だ。


 「なにをこんなに買ってきたんだ……?」

 「……服よ。想真のじゃなくてあの子のね」


 それを聞いて、本当かと耳を疑った。しかし、袋の中を覗いてみると女の子が着そうな服ばかりで、あの子ぐらいのおおきさばかりだった。

 なんともちょうどいいタイミングだ。


 「助かった~」

 「ん~? それはどういうこと?」


 母は玄関にすわり俺に背を向けながら靴を脱ぎながら、なにかあったことを悟ったように楽しそうな声色で尋ねた。


 「いや、お風呂に入れて、着替え探していたから、ちょうどいいと……」

 「お風呂に入れてあげたんだ〜」


 振り返る母はニヤつきながら顔を近づけると、急に真剣な顔になり、小声で囁いた。


 「想真、ちゃんと彼女のおっぱい揉んであげた?」


 なっ、なに言ってるんだ俺の母は!!!

 真剣な表情からの話の続きとはまさに不意打ちだ。

 衝撃的な一撃に俺は少し母から離れるようにおどけた。


 「そっ、そんなわけ無いだろ!」

 「えっ、揉んで無いの!?」


 今度は母が不意をつかれたように驚きの表情を見せる。


 「いや、揉んでる方が驚きだよ!」


 自分の息子に愛想を尽かしたような顔をして母は首を振った。


 「ダメよ〜想真。ちゃんと揉んであげないとダメダメ。あの子の胸、おっきくならないわよ~。次、一緒に入るときにはちゃんと揉んであげてよね、わかった?」

 「はい……って、なんで怒られてんだよ! というか、異性に揉んでもらったら大きくなるって迷信じゃないのか?」

 「迷信じゃないわ、私がそうだもの。あなたの父親に揉まれて、あなたが生まれた時にいっきに大きくなったわ」

 「それ、俺が生まれたからだろ! もういい、これ以上話してたら時間がなくなる」

 「そう?」


 母は俺を通り越してスタスタとキッチンへ歩いていく。

 脱水所はキッチンの隣なので、母の後ろを追うようについていく。

 すると突然、母は止まり俺を見た。


 「今からあの子を着替えさせるのよね?」

 「そうだけど?」

 「家事のことならだいたい出来る想真でも、女の子の着替えはちょっとわからないと思うのよね〜」


 なにかあるような言い方に俺は探りを入れる。


 「それで、お母さんはなにが言いたいの?」

 「えっ、なにって、あの子を着替えさせるところを間近で想真に見せるのよ。そして、欲情させて襲わせ──うんん、覚えさせるのよ」

 「もろに本音がで出るよ……。というか、お母さんは俺に襲わせようとするんだよ」

 「決まっているでしょ。私が若いうちから孫を見るためよ」

 「個人的な野望かっ!?」

 「それにあの子はちょうどいいわ。記憶喪失で、身元不明なら無理に犯しても、想真、逃さなければ捕まることはないわ」

 「捕まらなくてもアウトだよ。それを考えてるお母さんこそ、捕まるべきだと俺は思う……」


 呆れた目で母を見続けると、冗談冗談、ちょっと待っててと言って服の入った袋を持って脱水所に入っていった。

 心配な気持ちもあったが、少女が着替えている間、俺は歩のスマホに、もうすぐ行けるという連絡を送っておいた。

 予定より時間は遅れていた。これじゃあ、リュアナに怒られるなぁ~と頭を悩ませつつ、財布などの貴重品をかばんに入れて支度を整えていた。

 リビングで少女の着替えを待っていると、キッチンから待っていた妖精のような少女が現れた。


 「どうかな……?」


 頬を朱色に染めながら少女が恥ずかしそうに服を見せてくれた。

 薄手の黒いパーカーを羽織った少女は中に白いチュニックを着ていた。


 「ん……?」


 首を傾げて疑問に思ったのは下だった。裾の長いチュニックからすらりと伸びた足はハイソックスを穿いていたが、疑問に思ったのは白い太股がさらけ出ている部分だ。

 ……ん? これ、はいてるよな? 


 「……ちょっとお願いなんだけど、一周くるりと回ってよく見てくれないか?」

 「うん、いいよ……」


 少女が俺が頼んだ通りにくるりと一周まわると、チュニックの裾が少女の回転に合わせるようにヒラヒラと揺れた。その時、ちらりと裾に隠れたショートパンツが見えた。

 よかった~……。ほっと安堵して、心配そうに俺を見てくる少女にちゃんと感想を伝える。


 「似合ってるよ」


 素直にそういうと少女は嬉しそうにもう一周クルリと回った。


 「よかったわね。想真からそう言ってもらえて」


 そう言って脱水所から出てきたのは母だ。

 母も嬉しそうに笑いながら、少女の頭を撫でた。


 「それで想真、この子を襲いたくならない?」

 「ならないよ!」


 何度も母から言われているうちにいつしか俺は、母の強烈な不意打ちにもだいぶ対応できるようになっていた。


 「むぅ〜〜」


 少女は悔しそうに唸り、頬を膨らまして俺を見ていた。


 「お前はなんでそんなに悔しそうなんだよ」

 「だって……私を襲わないっていったから」

 「襲われたいのか?」

 「想真にぃだったら……いいよ」


 恥ずかしさから逃れるために俺から目を逸らし、目線を少し落として呟くように小さく言う。


 「いや、ダメだから……」


 さらっとツッコミ、話を流しそうとした。まあ、それにも少女は「む〜〜」とか唸って頬を膨らましていたけど。


 「それよりも、ちょっとお前を待ってる人がいるんだ。悪いけどまったりしている暇がない」

 「想真、二股してるの?」

 「違うから!」


 ツッコミをいれて、少女の目線に合わせ頼む。


 「一緒に来てくれるか?」


 少し、一緒に来てくれない時のことを心配していたが杞憂だった。


 「うん、もちろんだよ」


 少女はニッコリと笑い、頷いてくれた。


 「ありがとう……」


〜*****〜


 母の了承も得て、俺と少女は急いでアットホームへと向かった。

 カランとベルの鳴る戸を押し開けて、中へと入る。


 「おっ、来たね少年。話は朝霧さんから聞いているよ。なんでも……ああ、その子が例の……」


 カウンターでコップを拭いている白い髪をしたマスターの女性は俺が来たことに気づくと笑顔で話しかけてくれた。

 後ろをついて入ってきた少女を見て、女性はなぜか可哀想な目で少女を見る。なにか事実でもないような疑惑を言われてそうな気がするのは、気のせいだろうか……。しかし、その前に言わなくてはならないことはある。


 「す、すいません、初日から遅れてしまい」

 「いいさ、その分働いてもらうしね。それじゃあまずは──」


 あれ、意外と軽く流された。ということは俺の気負いすぎかなのか?

 女性はそのままの軽快な口調で仕事のことについて話をしようとした。その時、


 「あっ、想真くん、やっと来たんだね遅いよ〜」


 カウンターの奥から深い緑のエプロンをしたリュアナが姿を表した。

 マスターはリュアナが出てきたことで話に区切りをつけて目を閉じた。


 「仕事の話はまた後でいい。その代わり、その子のことを一段落させてくるんだ」


 そう、マスターがさらっと言うと、わかりましたと返す暇もなく、マスターはカウンターの裏へと消えていった。

 リュアナが不思議そうにマスターを見送り、近づいて来ると不機嫌そうな顔で俺を見た。


 「ごめん、遅くなった……」

 「ホントだよもう〜。後は全部想真くんにやってもらうんだからね」


 リュアナは怒ったようにプイッと顔を背ける。しかし、ある程度こうなることを予測していた俺は機嫌を取りにいく。


 「本当にごめんリュアナ。あっ、そのエプロンってここの制服? とても似合ってると思うよ」

 「……えっ? ほんと? 似合ってるかな?」

 「ああ、似合ってる」

 「そっかーよかったー」


 褒められて嬉しそうにするリュアナ。素直なリュアナの表情を見ればさっきまでの不機嫌さは忘れていることを覗えれる。


 「ってそうじゃない! もう〜、怒ろうと思ってたのに〜怒れないじゃない」


 誤魔化されて、起こるタイミングを失ったリュアナは悔しそうに頬を膨らましていると、俺が連れてきた少女に気づいた。


 「あっ、その子このまえ想真くんの家にいた」

 「ああ……言った通り、連れてきたよ」


 リュアナはカウンターを出てると少女の目線に身長を合わせて優しく話しかける。


 「はじめまして、私は朝霧 リュアナ。私のことはリュアナって呼んでいいからね。あなたの名前は?」


 ぐっと瞬間的に俺と手を繋いでいた少女の手に力が入った。


 「…………」


 なにも答えてくれない少女に戸惑ったようにリュアナは俺を助けを求めた。


 「悪いなリュアナ、こいつは名前も忘れているんだ。だから──」


 リュアナは俺の話を途中まで聞くと胸を痛めたような、苦しそうな表情を見せて、何かを押し殺すように胸に拳を押し当てていた。


 「ごめんね……」


 細く小さな声。そして、その小さな体を抱き締めた。


 「えっ?」


 少女は驚いたような声を漏らした。

 まあ、少女が驚くのも無理ないと思う。まだ会って間もない人から、急に抱きしめられたら俺もそういう反応をとるだろうし。

 リュアナ、我慢できなかったんだろうな……。

 その姿は、俺が知っている、いつも優しくて純粋で嘘をつくことが苦手なリュアナという少女の姿。


 「……ごめんね……本当にごめんね……。私、あなたのこと、なんにも考えてあげてなかった……。つらかったよね。悔しかったよね。本当にごめんね。次からはあなたのことを考えるから、あなたのことを受け止めてあげるから……」


 こんどは少女がきょとんとした顔でどうしたらいいの? と言うように顔を向けてきた。俺は笑って答える。


 「リュアナはこういう人なんだ。だから、仲良くしてやってくれな」

 「うん……わかった……」


 少女はリュアナを素直に受け入れようにその温かさに顔を埋める。

 リュアナからは見えていないのでわからないと思うが少女は幸せそうだった。目を閉じながらも嬉しそうに口をほころばせていた。


 「ありがとう……」


 リュアナもまた、その声色からして笑顔だったのだろう。

 リュアナは抱擁をやめると、少女とすぐに打ち解けたように、空いている片方の手を握った。


 「それじゃあ、みんなのいる向こうの席に行こっか」

 「みんな?」

 「俺の友達だよ」

 「そうなんだ……」


 少女は心配そうな表情を浮かべ、俺の手をまたぎゅっと握った。

 少女が心配するのもわかる気がする。さっきのリュアナのようにみんなとすぐに心を開くことは出来ないのかもしれない。どんな、人なのかわからない以上、心配するのもわかる。だけど──。

 俺は空いた手で少女の頭を優しく触れて、安心させるようにゆっくりと撫でた。


 「大丈夫、お前が心配する必要はないから。みんな変わってるところがあるけどいいやつばっかりだ。俺が保証する」


 少女は俺に頭を撫でられたまま顔をあげて嬉しそうに俺を見た。


 「ありがと。想真にぃ、もう大丈夫だよ」

 「そうか」


 少女の表情はいつも通りの明るさを取り戻している。本当に大丈夫なんだろう、リュアナの方を見るとにこやかに微笑んでいる。


 「リュアナ、なにか変かな?」

 「うんん、違うよ。想真くんとその子の会話を聞いてたら、とても胸が暖かくなって、つい微笑んじゃった。やっぱり想真くんて優しいね」


 誉められることに慣れてない俺はつい顔を背けてしまう。


 「照れてる照れてる」

 「リュアナ、うるさい」

 「はいはい」


 皮肉のつもりで言った言葉もリュアナには軽くあしらわれた。

 リュアナは膝を降り、少女と目を合わせる。


 「私にも頼ってきてもいいからね」

 「うん、リュアナお姉ちゃん」


 少女はさっきまでとは違い、戸惑うことなく素直に答えた。

 その姿を見て、俺は何かの衝動に駆られ口を動かしていた。


 「リュアナ、それって俺も頼ってもいいのかな?」

 「えっ?」


 あれ、今なんでこんなことを聞いたんだ? 

 今のは間違いなく少女に言った言葉だ。なのに俺はその言葉を聞いたとたん、俺は反射的にリュアナに聞いていた。頼っていいかと……。

 リュアナは驚きで数秒止まっていたが、段々と俺が聞いた意味を理解していき、それと共にリュアナの表情が嬉しそうな顔へと変わる。


 「もちろんだよ想真くん。私は君の力になりたいの、だからいつでも頼って来てもいいんだよ」

 「あ……ああ……」


 まだ、自分の言動にもあたふたしているのにリュアナの勢いが加わって、俺は呆然と返事を返すことしかできなくなってしまう。


 「あっ、ごめんね想真くん。つい嬉しくて興奮しちゃった。でも、何かあるなら言ってほしい。私はいつでも待っているからね」


 俺はリュアナに圧倒されて、逃げるように少女を見た。

 少女はほらね、とでも言うように満足げに笑うと今度は微笑みかけたてきた。まるでさっき少女にかけた言葉をそっくり返されてるような、そんな微笑み。

 この子の言う通りなんだと思う。今はもうリュアナのことを信用もしているし、どんな人なのかもわかっている。だから、話してもいいと考えていた。だけど、それを言う勇気はいまはどうしても出なかった。


 「ほら、みんな待ってるよ」


 リュアナに呼びかけられると、少女の手を伝って引っ張られていくように奥のテーブルへと進んだ。 

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