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桜3〝***

 みんな食べ終わるとハンバーガーの余韻に浸りながら、コーヒーやカフェオレを手にしてゆったりとした時間になる。


 「あー美味しかった~」


 リュアナが幸せそうな顔を浮かべていた。食べる前のむくれ顔は想像もつかない。


 「ほんと美味しかったわね」

 「うんうん」


 詩織も満足に頷いていた。


 「小宵、口にソースついてるぞ」


 とんとんと、歩が口を指でさしソースの場所を伝えた。


 「えっどこ? ん~~~?」


 小宵が指で拭き取ろうとする前に、歩が小宵の口を紙ナフキンで少々荒く拭き取った。


 「ありがと」


 恥ずかしそうに小宵は少し顔を反らした。


 「どういたしまして」


 恋人か、あいつらは。  


 「ああ、そういえば来週って中間テストですよね?」


 俺達よりも一年早くに入った二人の先輩に訊ねると、少し思い出すような素振りを見せ答えた。


 「ええ、そういえばそうね」


 そういいながら、セリアさんはチョコレートケーキを頬張った。


 「そうか、もうそんな時期か」


 静香さんも落ち着いてコーヒーを啜っている。 

 どうやらこの先輩たちはテストに関して、気にする必要ないほど余裕な人達のようだ。

 それに対して俺達は、


 「やっぱりそうなのか……」

 「うあぁぁぁ、もうそんな時期なのか……!」


 頭を抱え盛大に落ち込んだ。


 「想真くんと歩くんは勉強苦手だもんね~」


 詩織が驚いて見ていた二人に理解できるように補足した。


 「歩はできなくて当然だが、想真が出来ないとは意外だ」

 「なんで俺は出来なくて当然なんだよ!」


 歩が勢いよく立ち上がった。


 「歩はバカだからよ。はい、座る」


 小宵が歩の上着の裾を引っ張っり、席に座らした。


 「勉強が苦手ならこのぐらいの時期から始めないと行けないな。よし、勉強会のようなものをやろうか」

 「いいですね。静香さん」


 でも、場所はどうするかと悩み始める。この人数だと結構大きな場所が必要になってくるだろう。


 「セリア姉の家でやったらどうかな?」

 「えっ? 私の家で?」


 セリアさんの家? 広いんだろうか?


 「うん。出来ればセリアの家がいいな。広いから」 

 「そんなに広いんですか?」


 詩織が興味津々でセリアさんに尋ねる。


 「まあ、そうなのかな?」


 横にいる静香さんに振るように顔を向けた。


 「ああ、無茶苦茶広いぞ。そうだな~セリアの部屋だけでこの店ぐらいかな」


 セリアさんの部屋、いくらなんでも大きすぎるだろ。この店でも1LDK は裕にあるのに……。


 「セリアさんの家に一度でもいいからお邪魔してみたいです」


 詩織がセリアさんの目を見つめて言った。あの詩織の目からはきっと行きたいって思いが痛いほど出ていたはずだ。

 それに負けたように、セリアさんはそれじゃあとセリアの家に決まった。


 「日時は、今週の日曜日の朝からでいいかしら?」

 「はい」

 「集合場所はどうするんだ? 静香姉?」

 「それなら、スマホのマップで検索すれば出てくる」


 そんなに有名な場所なのか!? 念のためスマホでマップ検索してみる。同じように思った四人がスマホを操作している。

 そして、その検索結果は──あった。それも大きい、いや、大きすぎる。桜坂の中間の横道を曲がったところにあったのだが、その上にある高校と同じぐらいの敷地が示されているのだ。ここまで広いと、もう言うことがない。


 「実物を見ればきっともっと驚くぞ」


 俺達がセリアさんの家を見てビックリする姿を想像したように、面白そうに静香さんはクスクスと笑った。


 「では、そろそろお開きとしましょうか」


 セリアさんの一言でみんながスマホの時計を見た。もう、六時を回っていた。


 「そうですね。そろそろ帰りましょうか……」


 会計を支払うためにみんな席を立つ。

 よし、それじゃあさっさと払おうと考えて立ち上がると、リュアナが手を引っ張った。


 「忘れてないよね想真くん♪」


 楽しそうに言うリュアナ。ああ、そっか、今日の代金は俺が払うことになってたんだっけ。でも、そんなに楽しそうに笑っているところを見ると少しいじわるしてみたくなった。


 「ああ、覚えてるよ。あの感触はとても柔らかったな」


 そう言うとリュアナの顔が一気に赤くなる。


 「もー、そっちじゃないよ。想真くんのエッチ。変態」


 怒ったように言うとそっぽを向いてしまった。


 「わかってるよ。奢る話だろ」

 「うん、そうだよ」


 機嫌の悪そうな声でリュアナは返事を返した。まだ、そっぽを向いている。

 これじゃあ、いつまで経っても帰えれないな。

 俺はリュアナの手を取り、引っ張りながら歩く。


 「えっ? ちょっと待って想真くん」

 「待たないよ。またそっぽを向かれるからな」

 「それは想真くんが悪いんでしょ」


 リュアナを見るとクスクスと笑っていた。


 「そうかもしれないな」


 会計を済ませ、外に出ると薄暗くなっていた。


 「さて、それじゃあ帰りますか。下に家がある人はいる?」


 静香さんは全員に尋ねた。


 はーいと、小宵、詩織、歩が手を挙げた。俺も手を挙げようとした時だった。


 「ごめん想真くん、ちょっといいかな」


 リュアナに声をかけられ、手を上げるタイミングを失ってしまった。


 「三人か?」

 「あれ? 想真、家は下だろ」


 歩が不思議そうに首をかしげていた。


 「ああ、そうだけど。ちょっと用があるみたいだから、さきに帰っておいて」

 「ああ、わかった。でも、気をつけて帰れよ」

 「ああ、わかってるよ」


 じゃあなと歩達が坂をくだっていった。


 「それで、リュアナどうかしたの?」

 「えーとね、あの……」


 リュアナが恥ずかしいそうにもじもじしている。何かを言いたいのはわかるのだけどどうかしたのだろうか?


 「それじゃあリュアナ、暗くなったし私達もに帰りましょ」


 リュアナが伝える前にセリアさんが手を取って帰ろうとしたが、リュアナは動かなかった。


 「リュアナ?」

 「ごめんセリア姉、先に帰っていてくれないかな」

 「でも、女の子一人で夜に帰るのはちょっと心配なんだけど……」


 うーんと、セリアさんは少し困ったような顔をした。

 妹思いのセリアさんなら、リュアナを一人で帰らせたくないのもよくわかる。

 この桜坂は夜になると外灯が点々とあるだけで光が少ない。女の子にすれば一番警戒する場所だろう。

 リュアナは助けを求めるように俺の方を向いた。

 よっぽど俺に伝えたいことがあるのだろう。よし、と思い、セリアさんに俺の考えた提案を伝えた。


 「セリアさん、俺がリュアナを家まで送るっていうのはどうですか?」

 「えっ、でもリュアナの家は上だから、想真くんの家は反対側じゃないの? それに遅くなってしまうだろうし……」

 「それぐらい大丈夫ですよ。それにリュアナは俺に話しがあるそうなんで」

 「ふ~ん、そうなんだリュアナ」


 セリアさんはニヤニヤとしながらリュアナの横目で見た。


 「ち、違うよセリア姉!!」


 慌てて手を振り、顔を振り否定する。いったい何が違うのだろうか?


 「……まあ、いいわ。明日聞かしてもらうから」

 「そんな~」


 セリアさんは、落ち込んでいるリュアナから俺へと視線を変えた。


 「それじゃあ、想真くん。リュアナをお願いするわ」

 「えっ、いいんですか?」

 「ええ、想真くんなら信頼してるから大丈夫よ」


 信頼してると言われて少し嬉しく感じる。


 「でも、セリアさんはどうするんですか?」 

 「私? 私なら大丈夫よ」


 そう言うと、スカートのポケットからスマホを取りだしどこかへ電話を掛けた。


 「──あ、もしもし。前に言ってたファーストフードのお店までお願いね」


 そう電話をして数分後。

 小さな喫茶店の店の前に見たことのないような高級車が止まっていた。


 「さて、私はさっさと帰らないと頑張ってねリュアナ」


 セリアさんは高級車に乗り込むと窓から手を振りながら帰っていった……。

 あの人、この町のお嬢様かなんかじゃないのか?


 「あのっ、想真くん」


 ああ、そうだった。リュアナの話だった。


 「ごめん、話って何?」

 「あっ──うん、最近ねいっぱい想真くんに助けてくれたでしょ」

 「そうかな?」


 人にされる優しさはわかっても自分のやっている親切はあまり助けているという自覚はないものだ。


 「そうだよ! 食堂の時も私を慰めてくれたじゃない」


 曖昧に答えた俺にリュアナは、はっきりと肯定してくれた。

 食道のことを、そんなことあったなぁと思い出しつつも、リュアナのように自分を肯定してくれる人がいて、幸せだなぁ~と心の底から思っていた。


 「ありがとう、リュアナ。俺を肯定してくれて」

 「えっ……あ、うん。ってそうじゃないの。お礼が言いたいのは私の方。だからそのお礼として来週の日曜私と一緒に水族館に行きませんか?」


 リュアナは顔を真っ赤にして、頭を下げた。

 最後のほう、リュアナがテンパりすぎて聞き取りにくかったがつまりは一緒に水族館に行きませんか? という、いわゆるデートの誘いだ。


 「……って、え!?」


 突然リュアナにデートに誘われて頭が真っ白になって言葉が出て来なかった。


 「ダメかな……?」


 頭をさげていた、少し顔をあげリュアナが無垢な眼差で上目遣いに俺を見つめてきた。

 こんな、目で見つめられたら、断ることは出来ない。いや、その前に目がこのかわいさに潰れてしまう。


 「いや、いいよ」


 手で目を覆いながら、オッケーを答えた。


 「よかった」


 安心したような表情を見せるリュアナ。

 素直さが特徴的な彼女のことだから本当に不安だったのだろうと思う。でも、そのあとに見せてくれた笑顔は嬉しさが俺にも伝わって来るほどだった。


 「あれ? なんで想真くんは手で目を隠してるの?」


 そう言われて咄嗟に手を払う。 


 「いや、これはなんでもないよ。それより、本当に俺でよかったのか?」


 夢のように思え、俺の幸せの中に生まれた心配が呟く。そんな俺の気持ちがわかったのか、リュアナは小躍りを止めて真剣な目で肯定してくれた。


 「うん、そうだよ、想真じゃないとダメなんだよ!」

 「そ、そうか……」


 リュアナが言った言葉はスッーと俺の心にあった心配を掻き消していった。そして、それと同時に嬉しさが込み上げてきた。


 「ありがとう、嬉しいよリュアナ」

 「うん、喜んでもらえてよかった……」


 そう言って、リュアナが安心したように笑顔で微笑んだ。


 「リュアナそろそろ帰ろうか? セリアさんも心配していることだろうし」

 「うん、そうだね。セリア姉のことだから、今頃、家の電話に留守電をいっぱい入れてそうだもんね」

 「絶対やってると思うよ。セリアさん、リュアナのことが心配で、心配で仕方がない人だから」


 そう二人で笑って、桜並木の坂を登り始める。


 「そう言えば、リュアナの家ってどこにあるんだ?」

 「私の家はこの学校の療だよ? 言ってなかった?」


 ぼんやりとだが、この学校にも療があった覚えがある。ぼんやりしてるのは、俺のまわりで療で生活している人が居なかったからだろう。でも、リュアナが療で生活しているなら、一度、療がどんなところなのか見てみたい。


 「言ってなかったと思う……。それで療ってどこにあるんだ?」

 「え~とね、この桜並木の坂を登って学校の前の十字路を左に行った道を進んだところにあるよ」


 場所を整理すれば、桜並木の十字路を中心に右上に学校、左に療と言うところか……。


 「わかったかな?」


 ちゃんと伝わっているか不安そうに俺を見ていた。


 「大丈夫、ちゃんと理解できたから」

 「それならよかった。そこを左だよ」 


 気づけば、十字路に差し掛かっていたようだ。

 俺は言われた通り、左に曲がった。

 入ったことのない道に自然と辺りを見回していると、すぐに三階建て横に広い立派なマンションを見つけた。


 「リュアナ、マンションってあれなのか?」

 「うん、そうだよ」


 療の前までたどり着くと、さっき見た以上大きくて驚いた。


 「この学校の療って、こんなに大きかったのか……」

 「海外の人も受け入れているからね~」


 海外からも受け入れてる、ってそこまでこの学校は有名じゃないと思うんだけど……。


 「どうしたの想真くん?」


 リュアナは数歩、歩いた所で止まって振り返って不思議そうに俺を見ていた。


 「なにが?」


 一体、リュアナは何を不思議に思っているのだろうか?


 「なんで、想真くんは立ち止まっているのかってことだよ」

 「ああ……」


 俺はすでにリュアナの送り届けれたと思っていたので、療の前から立ち止まっていたのだ。それをリュアナは不思議そうに思っていたのか。


 「いや、療まで着いたし、大丈夫だと思ったからだけど?」

 「そっか、もうお別れなんだ……」


 寂しそうに俯くリュアナ。

 こんなとき、なんて声をかければいいのだろうか……。あまり、そういった経験がない俺にはわからない。


 「それじゃあ──」


 そう言って、家に帰るために振り返ろうとした。


 「大丈夫じゃない……」


 そう小さな声が聞こえた気がした。いや、ただの空耳だろう。

 そして、一歩踏み出す。


 「大丈夫じゃないっ!」


 今度は、はっきりと背中の方から聞こえた。

 振り返るとリュアナが俺の手を握っていた。そして、見上げるように俺を見ていたリュアナは本当に泣きそうなぐらいに寂しそうな顔をしていた。

 近くにはセリアさんもいるはずなのに、どうしてこんなにリュアナは寂しそうなんだろうか?


 「大丈夫じゃない。だから、想真くん……。部屋まで来て」

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