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四季の思い出  作者: 川澄 成一
春の夢
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桜~Dream of Beginning~

 四季の木の私は思う。

 春、それはお話が始まる始まりの季節。

 始まり、それはどれだけ深いかわからない沼に足をつけるような、誰もが不安に感じる時であると。だからこそ、桜は、桜達は、その不安に負けないようと強く咲き誇り美しく舞い散る。そして、舞い散る桜は風に乗り、君たちの背中を押していくんだ。それはね、桜達が君たちのことを応援しているんだよ。がんばれ、ってね♪

 私ももちろん応援しているよ。自然の桜達と共に木に桜の花を咲かせて、たとえ、それが見えなかったとしても、この声が聞こえなかったとしても、私は君たちを応援している。だから頑張るんだよ。

 さあ、不思議な不思議な物語の始まりだよ♪


~*****~


 4月15日


 空が赤く染まる頃、小さな俺は身長の変わらない女の子と肩を並ばせながら、桜が舞う丘の公園で夕日を眺めていた。


 「あのね、約束してほしいことがあるの……」

 「うん、なに……?」


 女の子は覚悟を決めたような目をして小さな俺に言った。

 幼く弱弱しい少女から放たれたそれは、暖かさを感じさせる春から肌寒さを感じる春へと時間を巻き戻したかように季節を狂わせる。

 しかし、そんな変化に気づけるのも今になってからだ。当時の俺はそんな雰囲気に気づくこともなく無邪気に尋ねていた。


 「……これからね、きっと怖いことが起こる……。だから……だからね、その時はお願い。私を守って」


 掠れた声、怯えたような表情を浮かべる少女。あの時どんな想いで言ったのだろうか? 事が終わってしまった今ではそれを考えるだけで胸がずきりと痛んだ。


 「……うん、わかった、わかったよ。どんなことがあっても君を必ず守る。約束するよ」


 照れた表情をする小さな俺はそう約束した。

 この約束が俺にとって重く、忘れることの出来ない約束になってしまうのはもう少し後の話になる。


 ああ、またか、またなのか……。どうしてこうも思い出したくない思い出が夢になるんだ。そう思った瞬間、パッと周りの景色が一変した。

 まるでお城のような豪奢で広い部屋。けれどその部屋に扉はなく、バラバラになった扉の残骸が部屋の奥に放り出されて、部屋の中心あたりには男が二人うつ伏せで倒れていた。

 部屋の端、小さな俺はうずくまり、約束を交わしたあの女の子を胸に抱きしめながら泣いていた。

 女の子の胸からは赤黒い血が服に染みを作り、もう助からないことを酷にも暗示させている。


 「仕方がないよ。やっぱりそうなる運命だったんだから………だからねお願い、私のことを引きずらないで……前を……向いて……生きて……想真、くん…………」


 彼女は終始笑顔のままで、最後にそう言い残して息を引き取った。

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