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20**年 12月(前)

原稿の都合上、わけました。

(後)は通常通り次の奇数日、25日の23時に投稿いたします。




 ぼんやりと、自分の前にある窓の流れていく景色を眺める。乗客は少ないながらも確かにいるはずなのに、私の前のシートには誰も座っていない。


 ガタン、と一度大きく揺れた。


 視線を窓から右隣に移せば、私の肩に頭を預けながら眠る彼の姿が見えた。顔はうつむいているのか、うまく伺うことはできないけれど、微かに聞こえる呼吸音から寝ていることがわかる。

 そんな彼の姿からまた視線を移して、窓を見た。相変わらず景色が流れていた。ゆっくりと。



 今日も今この時という瞬間が流れていく。





***





 今日はテスト最終日。

 HRも掃除も終わったあと、約束していた通り駐輪場のほうに行くと、一年生の場所の前に彼はいた。

 今日は朝からすごく寒かった。だからか、彼はマフラーに手袋と防寒具をつけていて、スクバを肩にかけて私を待っていた。


 歩いてくる私に気づいた彼は開口一番、寒いね、と言って笑った。


「もしかして、待たせた?」

「そんなことはないよ」

「ならいいんだけど・・・・・・」

「じゃあ、行こうか。電車の時刻もあるし」


 そう言って、彼は歩き出した。私は慌てて彼を追いかけた。



 初めて彼と一緒に駅までの道を歩いた。


 その時に会話したことは特に話題性もなくて、いつもどおりの不思議なものだった。


 ただ、彼が一度私に向かって、テストお疲れ様、と言った。


 その言葉は喉に詰まった小骨のように私を少し不愉快にするものだった。同じことをしているはずなのに、こう一人だけねぎらわれるのはどうも居心地が悪い。


 そんな私の気持ちが顔に出ていたのか、彼はふと私の顔を見て、一瞬目を見開いたあと破顔した。

 それがなんだか照れくさくて、思わず彼の肩を少し強く叩いて距離をとろうと早足になった。



「おーい!そんなに照れることもないじゃないか」

「うーるーさーいーっ!!」

「そんなに急ぐと危ないよー!」


「なにがよ!」


 そう振り返って叫んだ瞬間、隣をすごい勢いで何かが通り過ぎた。びっくりして、そのまま腰が抜けたのか道に座り込んでしまった。


 追いついた彼が、目線を私に合わせるようにしゃがみこんで顔を覗き込んでくる。彼の真っ暗な瞳に、顔がこわばっている私がみえた。



 ゆっくりと、その瞳が閉じられて、ほほ笑みかけられたんだと気づいた。


「ね、言っただろう」


 彼の口調や声色は、至っていつもどおりののんびりとしたものだった。



「・・・・・・ごめん」


 すごく長い時間、言葉が出てこなかったように感じた。本当はどうだったのかわからない。

 ただ、私が彼に対してやっと絞り出した言葉はこれだった。


 彼はただ頷いて、私の腕を掴んで引き起こしてくれた。いつもの彼から想像できない強い力に、内心驚く。彼が男の子だったということ思い出す。忘れていた。



「時間もなんとかなりそうだし、行こうか」


 手を離して、そう私に言った彼の顔をまともに見ることができなかったのは不可抗力というものだろうか。





***





 電車を下りて、彼が進むまま知らない道を行く。彼は道を知っているようで、その足取りは迷いがなかった。私は、ただ前に進む彼にただついていくことで精一杯だった。


 彼は足が早い。私に足並みをそろえるなんてことはしてくれない。


 それは今日、一緒に帰っている時に気づいた。だから自然と私は早足になる。



 暫くお互い無言で歩き続けて、もう10分くらい経っただろうって頃だった。


 何か匂いがしたような気がした。


 それは懐かしいような不思議な気持ちにさせるもので、でも私にはその匂いに思い当たるものが記憶になかった。



「着いたよ」


 いつの間にか、彼の足は止まっていた。彼の足だけじゃない、私の足も止まっていた。


 彼が電車を降りてからようやくこちらを向く。





「ここに来たかったんだ」



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