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20**年 11月

予約投稿を忘れていたことを、すっかり忘れておりました。慌てて投稿しましたが。

すみませんでした。



 期末考査の中休み、昼ごろ。

 私の携帯が鳴った。画面上に映った文字に少なからず驚く。


 『彼』


 その一文字だけが映っていた。名前も知らないのに友達であるあの男の子から、メールが届いたのだ。初めてのことだった。いつも通話だったから。だから、その突然のメールは衝撃だった。

 心のどこかで、これが彼からの最初で最後のメールになるような気がした。

 そう不思議に思いながらもそれを開くと、無題・絵文字なし・一文のみという随分とシンプルなメールだった。


――明後日、海に行こう。


 その一文だけだった。

 明後日は、丁度テスト最終日だ。更に偶然にもその日、私の部活は休み。


 少しむず痒いながらも、彼のメールの奇妙さにため息をつきたくなる。

 海って。この真冬に海って。

 私は寒いのは苦手だ。


 よし、断ろう。


 そう思って返信を押し、メール作成画面を立ち上げてはたと思いとどまった。

 そのまま、画面を消して電話帳を開く。カ行のはじめくらいに、一文字だけでいるそれは不思議な存在感がある。私は、それを迷いなく押した。


 数回のコール音の後、向こうからいつも通り気の抜けた声が聞こえてきた。



「おはよう。その様子じゃ、メール見たんだね」

「だからかけたの」

「意外だなあ。メールで返してくると思ってた」

「意外で悪かったわね」

「ぜーんぜん!むしろ嬉しいよ。そうやって期待を裏切られると、やっぱり自分たちは他人なんだなってわかるからね」

「ふうん」


「それで、明後日のお昼なんだけど、一緒に海に行こう」

「・・・・・・なんで?」



 本題に入ることは、なんとなくわかっていた。来るであろう誘いにも身構えていた。なんと言われても断ろうと思っていた。

 のに。

 携帯電話越しの彼の声が聞いたこともないくらい真剣だったから、その気持ちが削がれてしまった。プロテクターに身を包んでさらに武器まで構えていた私に対して、彼は着の身着のまま素手でやってきて、声だけで私に武器を捨てさせた。自分でもどうして武器を捨ててしまったのかわからなかったから、つい疑問の言葉が口をついて出た。


 彼は私の気の抜けた調子に少し笑ったようで、クスリ、と電話の向こうから小さく音が聞こえてきた。


「なんでって、わたしが君と一緒に海に行きたいからだよ。それじゃあ不満?」

「不満っていうか、その、わからないから」

「じゃあ知りたいの?」


「そりゃあ、」


 そこまで言って、言葉に詰まった。

 考えたのだ。


 私は、知りたいのだろうか。彼が私と海に行きたい理由を。彼の考えを。彼自身を。



 彼がまたクスリと笑った。


「ほら。前にも言ったけれど、特に相手のことを知りたいとは思っていないんだよ。ただ条件反射で言ってるだけ。それはなんとなく、知らないと気持ち悪いから。自分が知らない世界は怖いから」


「・・・・・・もうそれでいいよ」


 私がわからないと思った彼の言葉に、もう何を考えても無駄なのは知っていた。これでも半年以上の付き合いだから、なんとなく彼のペースに慣れてはいる。それに崩されずにいれるかと聞かれると首を横に振るけれど。

 だから、今回も私は考えることを諦めた。


 息を吐いて、吸って、吐いて、また吸って。そうやって一度考えを整えた。

 すると、自然と言いたいことが浮かんできた。



「でも、私にも言いたいことはあるからね?」

「なあに?」

「私たちはさ、彼氏彼女の関係じゃないよね。それなのに男女で海とか、そういうところに出かけるのって、そんなのただのデートじゃん。私はごめんだよ」

「なんで?」



 遠まわしに断ろうと思って言ったのに、それをわかっているのかいないのか、逆に返されてしまった。言葉が跳ね返ってくる。


 “なんで?”


 それは数分前に私が彼にあてた言葉。


 なんで、なんでって。だって。



 答える前に、彼の言葉が私に降ってくる。


「わたしたちは友達だろう?わたしは、男女というもの以前に、友達である君と海に行きたいんだ。友達同士で出かけることは別に不思議なことではないし、むしろ自然であるはずだよ。それなのに、友達であるはずのわたしたちは一緒に出かけることができないの?」


 降ってくる降ってくる。容赦なく彼の言葉が私の心をうつ。合羽も着てないし傘もさしてないのに、止まることないように降ってくる言葉という名前をした雨。だから私はずぶ濡れだ。今更濡れないようにするのもバカらしくて、でも雨にうたれたくなくて、濡れたまま雨宿りする場所を探してしまう。


 悪あがき。


 足掻いたっていいだろう。



「私は、そういうのは気にするの」

「わたしは気にしないんだけれど」

「そういうことを言ってるんじゃないよ」

「知っているよ」

「じゃあ、行かないってわかってくれた?そんなわけないでしょうに」

「うん」



 彼は嬉しそうに言った。声が弾んでいた。


 やっぱり、悪あがきだった。

 わかっていたけれど落ち込む。


 そんな私の心を察したのか、彼がいつもどおりのふわふわした口調で言った。



「いいじゃないか。一度も君と遊んだり出かけたり、ましてや一緒に帰ったりしたことなんかなかったんだし、この機会に遊ぼうよ」

「・・・・・・考えとく」



 それはもう、ほとんど了解の返事だった。


 彼は向こうで、アハハ、とまるで漫画のように笑った。



「どこからそういう結論になったのかなあ」

「・・・・・・ズルイ。最初から私が断るなんて考えてなかったんだ」

「まさか。考えてはいたけれど、それでも最後には一緒に行ってくれると思ってた」

「だからそれがズルイ。言い方がズルイ」

「そうかなあ?」


「・・・・・・もう知らないッ!」


 向こうから聞こえる笑い声をバックグラウンドミュージックに、私は少々投げやりに通話を切った。通話時間は10分もいっていない。

 あの短い時間にやけに濃い会話をしたなあと画面を見て思う。


 ああ、でも。



 いつものことかもしれない。





 もうすぐ来る12月。

 私は彼と、友達として初めて出かける。


期末考査と作中で出ていますが、まだ11月です。

作中において、11月終盤から12月の序盤にかけて、が期末考査日程となっております。中休みを含め全5日間、具体的には 11月28・29・30(中休み)・12月1・2 となっております。



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