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20**年 7月

6月の話は元からないので、7月に飛んでるのはバグじゃないですよ。


 始業式の後にまだ特編が続くのは、本当にどうかしていると思う。


 暑さとセミの鳴き声が鬱陶しくてイライラする中、ついポロリと出てきた私の本音に、隣に座っていた彼は苦笑した。

 そんな彼を横目に、動かしていた手を止めてシャーペンをプリントの上に転がす。


「だってそうじゃない?いい加減休ませてほしい」

「単位が取れなくなるよ」

「え?特編って単位関係あったっけ?」

「うーん。わたしはいつもそういうことを気にしていないからね。答えられないなあ」

「えー。さっき単位がどうこう言ったじゃん」

「それはほら、一応便宜として」

「あなたの口から便宜っていう言葉が出てくるとは思わなかった」


 汗ばむ体にもイライラして、どうしても出てくる言葉が好戦的になってしまう。


 タオルで首元の汗をとる私とは対照的に、彼は随分と涼しげな顔をしていた。

 そういえば、彼の顔には汗一つ浮かんでいない。


「なんでそんなに汗かかないの?」

「まさか。わたしだって人並みに汗はかくよ。わたしからしてみれば、今は汗をかく程暑くないというだけさ」

「うっそだあ」


 ああ、もう、何もかもが嫌になってきた。


 椅子の背もたれに上半身をあずけて、天井を仰ぎ見た。暑い。心なしか、視界がぼんやりしているような。



 今は放課後だけれど、日が高い夏真っ盛りの7月現在では、そんなことは関係ない。

 加えて、最近では地球温暖化が叫ばれていて、やれ異常気象だの、やれ海面上昇だの、色々問題になっている。

 今年の夏も猛暑になるでしょう、とつい数日前に朝のニュースの中でいい笑顔でそう言った女性キャスターを、今年もか、と諦め半分に薄目で見ていたことは今でもかなり鮮明に思い出せるくらいだ。



 あー、と言いながら動く気配のない私に、彼がうちわらしいもので風を送ってくれているのが視界の端に見えた。涼しくて気持ちいいけれど、焼け石に水な感じがする。


 ・・・・・・あれ、そういえば、なんで彼はここにいるんだろう。自分のクラスじゃない教室に。



 身体を起こして彼の方を見れば、彼は笑いながら首をかしげていた。手にはやっぱりうちわがあって、私の視力も捨てたものじゃないと意識を別の方向に持っていきそうになった。危ない。これは暑さのせいだ。そうに違いない。


「うん?なに?」


 首をかしげながらそう言った彼に、私は思っていたことをぶつける。


「なんでいるの?」

「なんでって、わたしが居たいからだけれど」

「そういうのじゃなくて。私に何か用?」

「わたしがいつ来たのか気付きもしなかったのによく言うね」

「今関係ないでしょ」


「本当にそう言い切れる?」


 その彼の言葉に、うっ、とつまった。疑問形は嫌いだ。自分の言葉に自信が持てなくなる。

 私は何も言えなくなった。



 彼は私をしばらく笑顔で見つめていたけれど、やがて肩をすくめて首を振った。


「そんなに困らせるつもりはなかったんだよ。だから、深く考えないでって何度も言っているじゃないか」



 無理な注文だ。誰だって、問いかけられたら自信なんか持てなくなる。揺らいでしまう。


 私がそう言うと、彼はそれはそれは良い笑みを浮かべながら言った。



「それでも自信を持って言えるものがあるなら、それは誇ってもいいと思うよ。それが見つかるかどうかは置いておくとして、ね」


 ガタン、と音を立てながら彼が椅子から立ち上がった。


「帰るの?」


「ちょっとね」


 彼は私にそう言って、私のクラスから出て行った。あとに残されたのは私一人。


 時計を何気なしに見てみると、針はもうすぐ下校時刻を指しそうだった。



 ・・・・・・私、いつの間にこんな時間まで残っていたんだろう。彼が来る前はまだ下校時刻まで二時間ほどあったはずなのに。




 狐につままれたような感覚がして、少し気味が悪くなった。暑さが引いていくのがわかった。

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