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20**年 3月

この話だけでなくこれ以降も、よくわからないような、言い回しが独特でめんどくさい表現(台詞)が高確率で出てきます。真面目に受け取らず、流すように読んでくだされば幸いです。これを念頭に置いて読んでください。

以降の話はこの表記を致しません。


初投稿で至らぬ点もあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

「おはよう」


 のんびりとした調子で話しかけられ、それにつられるように顔を上げると、知らない男の子が私の机の前に立っていた。思わず辺りを見回すけれど、今は放課後。クラスメイトはみんな部活に行ってしまったのか荷物はあっても姿が見えず、教室には私と話しかけてきた男の子しかいなかった。


 間違いなく、彼は私自身に話しかけてきたようだ。


「・・・・・・今、放課後だよね?」


 おそるおそる聞き返すと、そうだねえと間延びした返事。ふと、彼の足元を見れば靴のさし色は私のものと同じ色で、同じ学年だとわかる。一年生だった。こんな子、同級生にいるんだ。そう思った。


「でも、わたしは今登校してきたからおはようなんだよ」


 気が抜けたように笑う彼から出た言葉は、わけがわからなかった。一瞬、私の思考が止まる。


「え、と・・・・・・ごめん、ちょっと待って」

「うん?なあに?」


「あなた、男だよね?」

「そうだよ?」


 何言ってるの、と笑われた。いや、そっちこそ何言ってるの。


「別に、男だからって一人称が僕や俺というわけじゃないよ。そんな縛りはないはずだ。だから、わたしはわたし」


 わけがわからない。私の口から出た言葉に、彼は怒ったりせず、むしろ、そうだねえとまで返してきた。


「他人のことがわかる人間なんていないさ」


「何が言いたいのよ」

「言ったじゃないか」

「だから何を」


 彼は何も答えない。代わりに、私が机の上に広げていたノートや問題集を反対側から眺めていた。その様子を見るに、やっぱりあれ以上答える気はないようだった。



 彼は私の問題集を手にとり、パラパラと中を見た。


「数学かあ。理系志望なんだね」


「・・・・・・そうだけど、なんでわかったの」


「勘」

「はあ?」


 間を置かず、するりと彼の口から滑りでてきた言葉に、呆気にとられた。


 それ以上何も言えないでいる私を置いて、彼は、突然ある問題を説明してきた。それは私がさっきまで詰まっていた問題で、でもそうだと理解したのは彼が全てを言い終えたときだった。

 彼の解説は、私の耳をすり抜けただけで。ただの風となってあとには何も残らなかった。残っていなかった。


「わかった?」


 笑いかけてくる彼に、申し訳なさが込み上げる。同時に羞恥心。自然と目線が下がった。


 せっかくの解説を聞いていなかったというのもあるけれど、それよりも、自分ができないということを思い知らされたようで恥ずかしくなったからだった。


 私は自分の実力がわかるのが嫌いなタイプで、成績などが人の目にさらされるのが嫌で仕方が無かった。順位が張り出されるのも、提出状況が張り出されるのも嫌だった。そうやって、自分がどれくらいできるのかが公にさらされるのが嫌いだ。

 嫌い、嫌、というよりも恥ずかしいといったほうがいいかもしれない。


 だから、私は彼の顔を見ることができなかった。


「何か反応をくれないとわからないよ。そうしないとわたしは君を食い殺しかねない」


 くいころすって何よ。


 その言葉を飲み込んで、代わりに小さく左右に首を振った。先ほどの彼の問いかけへの返事のつもりで。振ったあとで、意図を汲み取ってくれるかどうかわからないということに気づいたけれど。

 でも、それは杞憂だったようで、彼は会話をしてくれた。


「そっか。恥じることは何もないのに。君は数学なんていう数字の海に浮かんでいるだけなんだから」


 私には、彼の言葉が呪文にしか聞こえなかった。何が言いたいのかまったくわからない。この男が考えていることを理解できない。考えることができない。


 ぐるぐるぐる、私の思考が回転する。


「他人のことを理解しようとするから駄目なんだよ。どうせそれは自己の解釈にしかならないからね」


 彼はゆったりとした口調のまま続けた。


「わたしと話すときは、難しく考えたりしちゃ駄目だよ。勿論、額面通りに受け止めるのもいけない」


「じゃあどうすればいいのよ」

 言葉が勝手に口から出た。吐き捨てるように出てきたその言葉に対して、彼は目を細めて微笑んで、言った。


「感じたまま、でいいよ」



 それが彼と私の出会いだった。


 まだ少し肌寒い、3月の始めのこと。 

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