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5話 訓練場

 ここは、魔族の兵士達が鍛えている鍛錬広場。

 人間の鍛錬と違って、辺りの壁が黒一色の為に不気味である。

 俺が今回に訪れた理由は、只の視察である。

 新く王妃になってしまった俺を使って士気を高める為だとさ。


 みんな訓練に必死だ。

 人間の兵士よりも明らかに身体能力、魔力が別格に強い

 それに対して人間側は、一部の使徒を覗いたら、下っ端の魔族と互角に渡り合うのがやっとの状態だ。

 唯一の救いは、魔族が本気で攻め込む気が全くない事である。

 現に勇者である俺が魔王を暗殺しようとしたのに、全く報復攻撃をしてきてない。

 うす暗い空が広がる魔の領域から離れた土地では、魔族が住み着く事も稀なのだ。

 殆どは人間の土地に適応した魔物が繁殖してしまったり

 魔物の群れが人間の領域に侵入してくるぐらいである。


 そんな訓練の様子を眺めているうちに、俺もだんだんとウズウズしてきてしまう。


「ねえ、私も訓練をしてもいい?」

「魔王様もよく訓練にご参加しておりました。ですので、王妃様が訓練をして頂いてもまったく問題ありません。」


 なるほどね。

 なら俺が訓練に参加しても問題ないって事か

 今回だけは魔王ジルスに感謝してやるよ。


「よし! そこのお前! 私と勝負しろ!」

「えっ? 俺とですか?」


 ゴブリンらしき兵士は、かなりの驚いた様子だ。

 魔王の王妃である俺が戦いに挑む事なんて、全く想像すらしていなかったのだろう。

 俺はこの肉体をなれる為にある程度は慣らしておきたい。

 人間の領地で絶滅してしまった程に弱いゴブリンが相手なら、俺でも安全に戦闘が出来る。


「そうだ。 私が直々に鍛えてやる! 」


 そう言って、俺は驚いていたゴブリンの元へと飛び出した。

 うむ、身体能力は問題ない。

 むしろ、こっちのほうが身軽に動けるぐらいだ。

 無事に、広場へと辿りついた俺は、動揺しているゴブリンの兵士を見つめる。


「では、私から仕掛けてもらうぞ!」

「えっ! いきなりっすか!」


 こっちは、人間に使えた魔法を試したい。

 まずは俺の得意魔法である光属性を使ってみよう。


「シャイニングボール!」


 一つの光輝く球体を出現させる。

 手加減させた俺の魔法だ。

 無事に俺の得意魔法が発動してくれて助かった。

 ……だがおかしい。

 なんか身体がやけどを浴びるかのように熱い。

 いかん、ヒリヒリしてきたぞ。

 原因を確かめる為に俺はシャイニングボールを発動させた、ヒリヒリする手に顔を横に振り向けながら見つめる。

 そこには煙を立ちこめている俺の右手であった。

 ……って俺の体に煙が湧いてきているじゃないか!

 光に照らされた頭が特に熱い。

 原因は明白である。

 俺は、慌てながら光る球体を消滅させた。

 すると、今までのヒリヒリとした感じが嘘のように無くなっていた。



「……イルビア王妃様。吸血鬼で光の魔法を唱えられる人物は初めて見ましたが……誰も唱えなかったのは、光属性が弱点だからですよ。光の魔法が使えるようになったのを自慢するのはいいですが、少しは自分の相性を考えましょうよ」

「そ、そうだな」


 残念そうな顔をしているゴブリンに説教されてしまった。

 堂々と名乗り上げて、見事に俺のデビューが失敗してしまうとは……

 穴があったら入りたいよ……


「では、今度は俺から仕掛けますよ!」


 ゴブリンは、そう言って剣で俺に攻撃を仕掛ける。

 ふむ、ゴブリンは雑魚かと思っていたが、普通に中級ハンターくらいのレベルはありそうだな。

 素早い動きとこの身のこなし。

 流石は魔王城で訓練されているだけの事はある。

 だが、俺の敵ではない。

 ゴブリンが振り下ろす剣を見つめながら、俺は大きな氷の壁を出現させる。

 剣は、その氷に弾き飛ばされ、さらに氷がゴブリンへと襲い掛かる。

 ……まあ、寸止めで止めてやったけどね。


「ま、参りました」

「お前もなかなか鍛えられているじゃないか。これから期待しているぞ」


 そう言って俺は調子に乗った。

 その後は、ゴブリン以外にも俺に戦いを挑みたい兵士が続出するが

 問題なく兵士達を返り討ちにした。

 力は勇者の頃よりも衰えてしまったが、今まで使えていた魔法は問題なく使える。そして、明らかに魔力が勇者クリスだった頃よりも増大していて、魔法を扱いやすくなっていた。

 故に俺はさらに調子に乗ってしまった。


「ふはははは! 私に勝てる魔族はいないのか!」


 所詮は下っ端の兵士である魔族。

 今まで激戦を繰り広げた勇者の敵ではない。

 肉体が変わっても、これほどまでに戦闘力が落ちていないのは、嬉しい誤算である。

 まあ、嬉しかったものの、さっさと元の肉体に帰りたいのが俺の本音であるが……


「じゃあ今度は僕がお相手をして差し上げましょう」

「ふふ、次の犠牲者はきさ……ま!?」


 名乗りを上げた兵士に視線を向けた俺は、その対戦相手の姿に驚愕してしまう。

 その姿は漆黒のコートを着ていて、圧倒的なプレッシャーが放たれるほどの強者。

 そう……俺との戦いに名乗りを挙げたのは……魔王ジルスでした。

 そうだった……兵士の視察の時間はとっくに予定時間をオーバしてしまっている。

 多分その事についてだろう……

 ヤバイな。

 調子に乗った罰が当たってしまった。

 憎たらしくほほ笑んでいる表情から察するに、俺をお仕置きする気なのだろう。

 その予想が外れてくれるのを願うしかない……


「なかなか僕の部屋に戻ってこないと思っていたら、随分と楽しい事をしているんだね」

「……ま、まあね」


 動揺を隠しながら、俺は平然とした顔で魔王を睨みつける。

 だが、その睨みは魔王には効かない。

 逆にニヤニヤと視線を返されてしまう始末である……

 おのれぇ……っ!!!


「もちろん、僕が参加しても構わないよね?」

「望むところだ! 今までのうっ憤を晴らさせてもらうぞ!」

「うっ憤なら、寝室で晴らさせてあげたじゃないか」


 確かに身体は今までに感じたことも無い快感を浴びられてしまいまったよ。

 だけど、あれは俺の精神力をガリガリ減らすほどに男としてのプライドがズタボロとなってしまった。

 明らかにうっ憤が溜まってしまった原因の一つである。

 

「魔王は満足しただろうが、私は逆だったぞ」

「ならば、もっと満足させないといけないね。この戦いが終わったら……覚悟を決めたほうがいいよ」

「い、嫌だぞ! あの続きはもうこりごりだ!」


 慌てながら、俺は魔王の要求を拒否する。

 ヤバイ……火に油を注いでしまったのかもしれない。

 このままでは、俺はまたしても魔王に食われてしまう。

 それだけは何としても阻止したい!


「ならば僕に傷を負わす事が出来れば……一つだけ願いを叶えてあげるよ」

「その話は本当か!」


 魔王め、ついに墓穴を掘ったな!

 傷を付ける程度の事ならば、俺には朝飯前なのよ。

 魔王との激戦で敗北してしまうが、俺は何度も傷を負わせる事に成功させていた。

 故に戦闘の行動パターンもお見通しなのだ。

 俺が勝てば軟禁されてしまったこの城から魔王と別れ、正式に脱出する事ができる。


「けど……僕が勝ったら、イルビアは永遠に僕のモノだ!」

「ちょ……!?」

「ヒューヒュー! 魔王様の愛の告白はお熱いですなあ 」


 恥ずかしい。

 顔が赤くなっているのを感じる。

 俺を恐怖させるほどの絶大なる力を持つ魔王が

 こんなもデレデレになってしまうなんて想像すらしていなかった。

 ……頼むから別の女魔族に惚れてくれ。

 このままでは本当に俺は魔王から逃れる事が出来ない。


 そして、辺りはすっかりとお熱いエールが送られていた。

 さっきの口論も、まわりからは痴話ケンカをしている様子だったのだろうな……

 もはやこの戦いを止める事は誰にもできない。


「私は魔王のモノではない! 今日こそお前を倒して、自由になってみせる!」

「はたしてそれは出来るかな? 残念だけど、もう勝負はついてるけどね」

「えっ!?」


 既に決着がついただと!?

 奴のハッタリに乗せられてたまるか!

 だが、気が付けば俺の身動きが完全に取れなくなってしまっていた。

 ……あれ?

 このパターンは昨日もあったような……


「で、出たー! 魔王様だけが扱う事が出来る『絶対服従』だ! これは魔族と魔物の動きを封じる事が出来る能力……まさに魔王様に相応しいスキルだー!」


 素直に解説をしてくれる魔族の兵士。

 なんてインチキなスキルだ……呪文の詠唱すら必要ないとか酷過ぎる!


「ま、待て! いくらなんでも……これは反則すぎないか!?」

「ふふ、駄目だよ。僕はイルビアを傷つけたくない。だから穏便に済ませてあげる」


 そう言い放った魔王がゆっくりと歩きながら、身動きが取れない俺へ近寄る。

 このままではマズイ

 動け! 動いてくれ!

 例え肉体は魔族になったとしても

 俺の心は人間のままだ。

 このような呪縛なんて俺には通用しない!






 …………まあ、駄目でしたけどね。


「さて、チェックメイトだ」

「こ、こんな戦いなんて認め……ん!」


 身動きできない俺は、そのまま口づけをされてしまう。

 今回はたった数秒ほどだったが、こんな観衆が見ている場所でキスされてしまった。

 お蔭で俺の顔が真っ赤に染まっているのを感じ取れる。

 そんな姿を眺めている魔王は相変わらずにニッコリとほほ笑む。


「周りが見ている場所で、き、キスはやめろ!恥ずかしいだろ!」

「恥ずかしくなる事なんてない。僕達が愛し合っている事実には変わりないのだから……」


「流石は魔王様! こんな激熱な愛の告白を堂々とするなんて、流石は俺たちの陛下だ!」


 魔王の恥ずかしくなるような告白をした後、兵士達の士気はさらに高まっていた。

 士気を上げる為に訪れたのだから、もはやここに留まる理由はない。

 しかし、未だに俺は身動きが取れないままだ。


「じゃあ用は済ませたし、このまま部屋へ戻ろうか」

「えっ……? って、えええ!」


 抵抗出来ないまま俺は魔王に抱き上げられ、そのまま担がれたまま、俺は魔王の寝室へと無理やり移動させられてしまった。

 もちろん、俺を担いだまま移動した現場はバッチリと他の魔族達に見られてしまった。

 どうしてこうなったのさ……


 その後、魔王の寝室に連れ込まれた俺がなにをされたのかは言うまでもない。




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