蛍の飛ぶ夜
「うぅ……痛いよ……」
蛍の多く飛ぶ川の辺で5歳ほどの少女が膝を抑えながら泣くのを抑えている。
隣には同学年の男の子もいるがその子は彼女の方を見て立っているだけだ。
あたりはもう暗くなり、小さい子どもが外をうろつくには危ない時間帯になっている。
「どうしよ……。もう帰れないのかなぁ……」
弱音を吐く少女を少年は引っ張り上げ手を引く。
その姿を少女は呆然と手を引っ張られながら後ろから見つめていた。
すると前に二人、少女の両親らしき人影がこちらに走ってくる。
少女は少年の腕を逆に引っ張り両親の下へ走っていった。
※
「うーん……このアパートであってるよなぁ……」
僕は今日のために下ろした新品の気に入っている服を整え呟く。
なぜ僕がこの二階建てのアパートの前で立ち止まっているかと言うと、幼なじみに勉強を教えて欲しいから一人暮らしをしてるアパートまできて欲しいと言われたからだ。
正直なところ面倒くさいと思ったのだが、散らかっている自分の部屋に呼ぶわけにもいかず、渋々OKと返事を出したわけだが……。
「部屋番号聞き忘れた……」
ちなみに携帯は自分の部屋に置き忘れてきた。
肝心な時に必要な物がないことは多々あるが、今回は一段と困る。
「あーっ!ごめんー部屋番号教えてなかったねー」
そう言いながらアパートの二階から駆け下りてくるのは紛れもなくドジな僕の幼なじみだ。
今日は夏の始めで梅雨の終わり頃、気温が少し高めなので半袖を着ているようだ。
いつもの短髪に前髪を横に分けるためにヘアピンをしている。
「お前……部屋番号くらい教えろよ……」
「いやー電話してくると思ったのよー」
「俺が電話して部屋番号聞くことわかってたのなら最初から教えろよ……」
そんなたわいもない会話をしながら彼女が俺を部屋に案内する。
何しろ、幼なじみなので何回もこいつの部屋には行ったことはあるが、それも子供の頃以来で久しぶりだ。
ましてや彼女は今一人ぐらしなわけで、そしてもう二人とも高校生なわけで……。
「上がって上がって~。ちゃんと掃除したから」
そんなことも彼女は全く気にしてないないらしい。
そこも昔から変わってないところだ。
「おじゃましまーす」
そう言い僕は部屋の中に靴を脱ぎ足を踏み入れる。
「ってか久しぶりだねぇ君とこうして話をするのも。高校入ってから話かけてくれないんだもん……同じ学校なのに」
「まぁ、別に話すことないだろ?」
僕は苦笑しながら返す。
「それより、教えて欲しい勉強ってなんだ?」
少し暗い雰囲気になったので、ずれていた話を本題に戻し雰囲気を変える。
「あぁ、これだよこれ……」
そう言いながら彼女は赤色のカバンの中から数学の教材を取り出す。
「ここなのよ、ここ」
そう言って彼女が指をさしたところは応用問題の中の一番簡単な問題だった。
正直教えるところなどあまりないのだが一応聞いてみなければわからないので話を聞いてみる。
「で、どこがわからないんだ?」
「うーんっと…………全部かな……?」
言葉を失う。
「はぁ……基本分かるだけバカよりましか……」
僕はそう呟き、ため息をつく。
「えー、なにそれー」
「要するにだな……勉強しろってことだ」
「だから、君呼んだんじゃんー」
もう一度ため息をつく。
そして、このやり取りが無駄だと悟り、彼女に一つ一つ徹底的に教えることにした。
※
「終わったぁ…………」
彼女の声と共に時計に目をやると、もう午後6時だった。
僕がここに来たの12時過ぎだよ?
少しかかり過ぎだと思う方もいるだろう。
俺も恨んだよ。自分の幼なじみの理解力のなさに。
「さぁてと、俺そろそろ帰らなきゃいけねぇわ」
「ホントだねーもうこんな時間かぁ……」
そう言って彼女は立ち上がる。
それに続き僕も立ち上がり帰る支度を始める。
帰る支度と言っても、眼鏡を外して筆記具をカバンに詰めるだけなのだが。
「えぇー久しぶりなのにもっと話そうよぉ……」
「そう言われてもなぁ……」
僕は頭を書きながら困った顔を彼女に見せる。
それを気づかないかのように彼女は笑顔をこちらに向ける。
「はぁ……」
僕はそうため息を付き、彼女に向かってわかったよ。と返事を返した。
「それで何時までだ?」
「うーん明日の朝まで?」
呆然とする。
「正気か?」
僕は本気で疑いの目を向けながら言う。
「うんー」
彼女はまたなんの悪気もないような笑顔をこちらに向ける。
今、ここで泊まるとまずいような予感はするが、そんな予感も吹き飛ばすほどの輝きがこいつの笑顔にあった訳で……。
「わかったわかった。朝までだからな、風呂だけ貸せよ」
「えぇー、どうしよっかなぁ?」
「貸してくれなきゃ帰るぞ」
「すいませんでした。お貸しさせていただきます」
そして、僕は彼女の家に朝までいることになった。
「少し、外の自動販売機に飲み物買って買ってくるわ」
「わかったぁ、私のもよろしくー。その間にご飯作っとくね」
「了解、行ってくる」
そう言ってアパートを出る。
彼女が見送りに来た瞬間に嫁ができたらこんなのなのかな?と思ったのは言うまでもあるまい。
まぁ、出かけると言っても100mほど先の自動販売機にお金を入れて飲み物を返してもらう楽な作業だ。
ここのアパートの近辺は田んぼが多くあまり都会化はしていない。
どちらかと言うと余裕で田舎の分類だ。
なので夏は涼しい、その涼しさを風で身に感じながら自動販売機に向かって歩いていると一つ、二つと光るものが見えた。
最初は人魂かと演技でもないことを考えたが、そんなオカルトチックなものではなかった。
蛍が川のそばに多く飛んでいるのだ。
気づいた時にはなぜがアパートへ引き返していた。
アパートに付き、ドアを開けると晩飯を作っている彼女が見えた。
僕は彼女の手を引いてアパートをでた、鍵だけは閉めさせてと言われたので、鍵だけは閉めた。
そして、川のそばに二人で立ち、呆然と蛍を見つめていた。
「ねぇ……覚えてる?あの時のこと……」
「忘れるわけ無いだろ……」
おそらく5歳の時のことを言っているのだろうと推測して返事をする。
「あの時から……私の中であなたはヒーローだった……。だけど、歳をとるにつれてどんどん距離が空いて……私寂しかったんだよ……」
顔をこちらに向けた彼女の目には涙が浮かびかけていた。
身長差があるので、彼女が下から覗き込む形になっている。
「わ、悪かったな……気まずかったんだよ……」
僕は素直に謝り理由を述べる。
「いいよ……だから言わせて……」
そう言い彼女は息を吸い込む。
「あの時から好きでした」
蛍の数は更に増え、あたりを輝きで包んだ。
お久しぶりですヽ(・∀・)ノ
天狐です。
一応今年受験ということでなかなか上げれないのですが、恋愛の要望が友達からあったので少し……。
誤字脱字確認はしましたが、やはり至らないところがあると思いますので、お教えください