雨…ときどき虹
ピシャン、ピシャン。
チャバチャバ……ザバー……。
雨はどうして突然降るのだろうか。いや、曇りになってから降るのだから、突然も何もないのか。
でも、わたしは雨が嫌い。鬱になるから。
ここ15年、特記することない平坦な人生を送ってきたわたし。
夢はない。やりたいことも、趣味さえも見付からないまま。
楽しいと思えることも少ないし、むしろつまらないと思えることの方が多いくらい。
何かにすがることも、求めることもできない退屈でつまらない日常に、毎日鬱屈している。
「……はぁ、なのに、雨の音を聴いてると落ち着くのはなんでだろう…」
何もすることなく、ただ茫然と聴く雨音は、鬱にさせるのと同時に心を落ち着かせる。
それは心地の良いものではなかったけれど。
ベッドの上に転がり、雨の音をBGMに目を瞑る。
ザラザラと屋根に落ちて音を立てる雨は、心の内側をゆっくりと撫でて刺激する。
「…………」
室内の温度が下がり、湿気でジメーっとする気配を感じながらも、躰を丸くして力を抜く。
明日死ぬかも知れない。そんな突拍子のないことを思った。
今にも死んでしまいたい。そんな自分勝手なことを思った。
明日なんて喪くなればいいのに。そんな妄想を吐き捨てる。
泣いてしまいたい。そんな心に秘める自分の淋しさを呟く。
――ザザザザー……
まだ雨は鳴り止まない。
わたしの心はまるで溶け始めた氷のようにチクチクと痛みが増す。
「…………あぅ」
みっともない声が喘ぎ出た。
恥ずかしい。誰が見てるわけでもないのに、とてつもなく恥ずかしい。
踞った躰をさらに丸くさせて宛らボールのように躰を密着させる。
このまま消え去りたい……。
鬱な心はマイナスな感情をムラムラと涌き上がらせる。まるで湧き水を通しているかのように。
どうでもいい思い出。投げ棄てたい過去。切り捨てたい今。何も見えない未来。どれも自分が作り出したエゴ。
平凡でそれ以下でも以上でもない取り柄がないわたしは、存在していても意味の無い隔たり。
生きる希望も、絶望することすら出来ない不完全で不安定な存在。
生きる価値が見出だせない。有るとすら思えない。
自分なんて存在するだけ無駄、どれだけ無駄だろう。
家畜の豚より、その豚が食べる草より、どこかに生える雑草より、雑草を生やす土より、土を寝床にする虫より、どれだけちいさな虫より、ごみよりちりくずより空気より廃棄物より排泄物より何よりも無駄で生きる意味のない存在価値が有ることすらわからない知らないわたしは、未熟で貧弱で軟弱で弱くて弱くて限りなく無知で無能で、もう何もする気が起きない。
……。
…………。
………………。
静寂。
ただそれだけが空間を支配していた。
雨が止んだ。それだけのことなのに、なんでこんなにも不可解なのだろうか。さっきまで悩んでいたのがバカみたいに思える。
わたしはベッドから降りて窓を開ける。
瞬間、ふわっと風が肌を触り吹き抜ける。
晴れではない。曇っていた。
けど、隙間から見えるそれは、まるで別世界のような不思議な存在感を放っていた。
赤青、緑黄色……何種類あるのか遠目ではわからない。
それは何種類の色で重ねられてまるで自分の人生のような彩りの、虹だった。