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A


 告白。美咲みさきは、たしかにその言葉を聞いた気がした。


 ペンを走らせる手を止め、ノートから視線だけを上げる。放課後の教室には、まだ何人かのクラスメートが残っていた。談笑をしている生徒がほとんどだ。絶賛なかだるみ中の高校二年生としては、美咲のように自習に励んでいる生徒の方が珍しい。


 季節は十二月上旬。つい先日、せっかちな初雪が降ってからというもの、気温はぐっと下がった。今も、暖房設備の前を男子生徒たちが陣取っている。美咲はそちらの方へ、視線をそっと向けた。


「そろそろクリスマスだろ? やっぱさー、今年こそは女の子と一緒に過ごしたいと思うわけよ?」


 集団のうちの一人が、無邪気に笑っていた。

 いかにも好青年といった感じのこの男子の名前は、修一しゅういち。美咲の古い幼馴染みであるが、彼女から言わせてみれば、腐れ縁以外のなにものでもなかった。


 本能の赴くまま突っ走る修一に、これまで何度振り回されたことか。散々な目に遭ったことも少なくない。閻魔帳よろしく、日記の隅でこっそりカウントしてみたこともあったが、一週間も経たないうちに百を超えたので、それっきりやめてしまった。無性に腹が立ったことだけは、よく覚えている。


「でもさぁ、この時期に告白とか、下心丸見えじゃね?」


 他の男子の声に、美咲はピクリと反応した。やはり、「告白」と言った。そしてどうやら、その話題の中心にいるのは修一らしい。彼は呆れたように、白々しく首を振っていた。


「わかってねぇなぁ。そんなもん、女の子も承知の上だって。まぁ、言ってみれば、クリスマスだのバレンタインだのってイベントは、お付き合いを始めるための口実なんだよ」


 それは穿ち過ぎだろ、と美咲は心の中でツッコミを入れた。もちろん、彼女のそんな胸中など知る由もない修一は、得意げに持論を語っている。

 また別の男子が茶々を入れた。


「ところで、告るアテはあんの?」

「まぁ、そうだな。一応は」

「マジか! 誰、だれ?」

「なんでおまえに教えないといけないんだよ」

「いいじゃーん? ケチくさいこと言わずに教えろよー」

「やだね」


 やいのやいのと騒ぎ始める男子たち。教室の空気がにわかに騒がしくなった。


(ふーん……。あの修一が告白、ねぇ……)


 美咲は視線をノートに戻した。解きかけの数式がつらつらと並んでいる。


(……まっ、あいつの恋人になる子は苦労するだろうなぁ。あっ、その前に、修一がフられるか……)


 解を導いて、次の問題へ。三問目に移る頃には、美咲の意識は手元の方程式に注がれていた。

 日頃の自習の成果か、美咲の成績は学年内でもそこそこ優秀な方だ。程なくして、数学の宿題は一通り終わってしまった。


(英語もやっとこうかな……。いや、今日はもういっか)


 結局、その日の自習はそこまで。

 美咲は荷物をまとめて、教室を後にした。


 リノリウムの廊下を進み、昇降口で靴を履き替え、外へ。玄関を出ると、肌に感じる空気は一気に冷たさを増した。


「さっぶぅ!?」


 思わず声が漏れてしまう。頬を撫でる風は痛いくらいだ。美咲はオレンジ色のマフラーをきつく巻き直した。


 美咲の家は、学校から徒歩十分ほどのところにある。途中に繁華街もあるが、今日に限って寄り道する気は起こらなかった。暖房の効いた店内に一度入ってしまったら、出るのが億劫になる気がしたのだ。


(さっさと帰ろ……。お? あれは……)


 横断歩道の信号を待つ人の中にあったのは、見慣れた男子の後ろ姿。手提げの鞄を無理矢理背負った背中を丸め、両手をポケットに突っ込んで震えている。

 美咲はこっそり歩み寄り、彼の鞄を無遠慮に叩いた。


「凍えてるわねぇー、修一……って、ちょっと」

「おう!? おお、なんだ、美咲か……」

「なんだじゃないわよ。なにこの鞄、中身入ってんの?」

「置き勉上等」

「あのさぁ……鞄の重さは頭の重さに比例するらしいわよ?」

「頭空っぽの方が夢詰め込めるらしいぜ?」

「……『NALUTO』の主題歌だっけ?」

「ぶっぶー!『ドラゴンホール』でした。漫画全巻貸してやるから、読め」

「はぁ!? 嫌なんですけど。だいたい、そんな暇ないし。修一、忘れてるでしょ? 今週、実力テストだよ?」

「あっ! 漫画だと主題歌聴けねぇじゃん! 美咲、TSUTATA行ってDVD借りてこい」

「聞けよ!」


 信号が青に変わった。美咲と修一は揃って歩き始める。ご近所同士なので、二人の通学路はほとんど同じだ。美咲同様、修一も寄り道をするつもりはないらしい。自然と、横に並んで歩く格好になった。


「ふ~ふん♪ ふっふふ~ん♪」


 話題に上った主題歌の鼻歌を始める修一。鼻歌のはずなのになぜか全力の熱唱で、拳さえ握りしめる始末。隣を歩く美咲としては、恥ずかしくてしょうがない。妨害するために咄嗟に振った話題は、放課後の教室で耳にしたことだった。


「そいえばさ、告白するって?」

「ふん!? ちょっ……なんで美咲が知ってんの!?」

「放課後、修一が喋ってたんじゃん」

「んだよー。盗み聞きは感心しませんなぁー」

「人聞き悪いなぁ。勝手に聞こえてきたの」

「さいですか」

「さいですよ。……で?」

「で?」

「マジで告白するの?」


 美咲は一歩詰め寄る。あからさまに困惑した表情を浮かべた修一。顔を逸らされてしまう。


「おー……まぁ……そうだな。する予定、かな」

「マジで!? 修一が? 告白? ウケるんだけど!」

「うっせー」

「っていうか想像できない」

「想像すんな」

「……で?」

「で?」

「誰にコクるの?」


 顔を覗き込む美咲。今度は修一に肩を押し返された。


「……誰でもいいだろ」

「そうだねぇ。結果は同じだしねぇ」

「想像してるじゃん! っていうか、おい、それどういう意味だよ!?」

「えっ、言っていいの?」

「すいませんごめんなさいへこむからやめてください」


 平身低頭して謝られた。普段は自由奔放で図太い性格なのに、毛が生えているハートはガラス製らしい。長い付き合いの美咲でさえ、少し驚いた。彼のこんな一面を見たのは初めてかも知れない。

 すると突然、修一が手を叩いた。


「あ、そうだ! いいこと思いついた!」


(うわっ、ヤバ……)

 美咲はほとんど条件反射で顔をしかめ、身を引いていた。修一が言う「いいこと」とは、大抵の場合、ろくでもないことだと経験的に知っていた。幼馴染みは伊達じゃない。

 そして告げられた修一の提案は、案の定、美咲にとってろくでもないことだった。


「美咲が俺の告白をプロデュースしてくれよ」



「現実の女の子」っぽい言葉遣いって、ムズい、神経使う、めんどくさー(ヽ'ω`)

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