第二話 魔法使い2
「なるほど、そしてこの森の奥にたどり着いた、というわけね。」
事情を聞き終えると、ライドウは呆れたような顔をした。
ここ、そんな簡単にこれる場所じゃないのに、と。
「しかし、なんらかの任務でここにきたと思ってたのに、戦場から離脱してきたからとはね。」
そして、大きく溜め息を吐く。
「すまない。面倒なことに巻き込ませた。」
アリアが謝罪すると、ライドウは手を顔の前で振った。
「気にすんな。さすがに、血溜まりに沈んでる人間がいたら助けようとは思う。」
それより、と、ライドウは、難しい顔をしてたずねる。
「君、仲間がみんな死んだんでしょ?あんまり悲しんで見えないけど。」
すると、その問いかけに、アリアは苦笑した。
「隊長の教えでな、仲間が死んだら泣くな、前を向け、そして笑え、と言われているんだ。戦場じゃ人は簡単に死ぬ。だから、仲間との記憶は、楽しいことだけ覚えてろ、それ以外は余分だ、だとさ。」
無茶苦茶だな、とライドウも苦笑する。
そして、残った紅茶を一気に飲み干すと、からかうように言った。
「まあ、君、あんまり笑わないけどね、今始めて笑い顔、見たよ。」
「こればっかりは性分だ。気にしないでくれ。」
むくれたように言うアリアに、ライドウはそうか、と薄く笑うと、紅茶をつぎなおす。
椅子に座りなおし、紅茶に口をつけると、ライドウは、アリアの目を見つめながら、問いかける。
「じゃあ、これからどうするんだい?とりあえず、傷が完全に癒えるまではここに置いておいてあげるつもりだけど。部隊はもう無いんだろ?おまけに森を出ても、公国の領域になってるんじゃないか?」
俯き、少し考え込んだアリアだったが、すぐに顔を上げる。
「いや、すぐにここから立ち去ろう。ライドウに迷惑がかかる。私への追手は相当しつこかった。追手は裏切った地方軍なのだが、私たちが殿を務めて、予想以上に王国軍に損害が少なかったせいだろう、かなり苛立っている。手柄を求めてしつこく食い下がるだろう。ここを出てからの事はことはまあ、なんとかするさ。」
ライドウは、アリアのその話を面白そうに聞いていた。
ふむふむと何度か頷くと、腕を組んで、目をつむる。それっきり、黙りこんでしまった。
「ライドウ?」
アリアは訝しげに問いかける。ライドウは聞いているのかいないのか、答えない。
ライドウはしばらくすると目を開け、ゆっくりと立ち上がる。外に出るドアを見ながら、言った。
「残念ながら、それは無理だな。」
なぜ?と聞く前に、アリアは気づいた。
外にある森の気配に、異物が混じっている。
鉄と血の戦場の香りと、戦士の匂いが。
「もう、囲まれちゃってるよ?この家。」