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プロローグ 

 絶望的な状況だった。


 騎士になって2回目の戦場。敵は、我がリゼンテール王国と国境を接するガスタード公国。

 始めは優勢だった。数はこちらが若干少なかったが、歴戦のバルドラ将軍率いる王国軍は、士気が高く、公国軍を押していた。                                                 だが、戦況を決定づけるために投入されたはずのランド辺境伯を中心とする地方軍が本陣を強襲したことで、風向きが変わった。

 突然の裏切りに王国軍は大混乱。それでもしばらくは持ったが、バルドラ将軍が討ち取られたことで、ついに敗色が濃厚になった。

 私の所属する近衛騎士団第3大隊は、味方の殿をつとめた。

 王国軍が撤収し終わった頃には、部隊はほぼ壊滅。戦場からの脱出をはかったが、仲間たちは次々に討ち取られていった。

 

 何とか私は森の奥まで逃げ込めたが、追手の兵の代わりに私の前にあらわれたのは飢えたオオカミ達だった。


 ここに来るまでの過程で満身創痍。

 

 私の握っている、シンプルだが美しい装飾がなされていた騎士用の長剣は、度重なる戦闘でただの赤黒い棒になっている。

 視線を走らせる。

 オオカミ達の数は、1、2、3、4・・・。

  

「多いな、しかも囲まれている。」


 勝算は薄い。


「グルアァァァーーーー!!」


 一番近くにいたオオカミが咆哮しながら跳びかかってくる。それを合図に、前後左右から一斉に他のオオカミも襲いかかってくる。


「少しくらい休憩させてくれてもいいと思うがな!!」


 しかし、あきらめてやるわけにはいかない。簡単に死んでやるわけにはいかないのだ。


 タイミングを合わせて、一番最初に動いたオオカミに長剣を叩き込む。切れ味が落ちすぎて打撃になっているが、隊長に神速と言われた斬撃は、疲労がすさまじい今もオオカミを一撃で絶命させた。1匹目。

 だが、安心はしていられない。すぐさましゃがみこむと、私の首があった位置にかみつきが放たれているのが見える。

 それをひとまず無視して、すぐ目の前に迫っているオオカミに右で握った長剣の突きを放つ。大きく開かれた口に突きこまれた長剣は、柄までズップリとささる。これで2匹目だ。が、


「ぐっ、くぅ」


 左から襲いかかってきていたオオカミに左腕に噛み付かれる。咄嗟に長剣を放すと、懐から短剣を取り出して、噛み付いてきたオオカミの喉元を搔き切る。3匹目。

 力の抜けたその体を何とか振り払うと、左腕がダランとたれる。

 痛みに顔をしかめながらも、足を動かし、若干怯んだオオカミ達に跳びかかる。

 爪による攻撃をかわしながら、首に短剣の斬撃をはしらせる。致命傷にはならなかったが、追撃をかけて止めを刺す。4匹目。

 

「があぁぁっ!!」


 追撃をかけている隙に右ふとももと左ふくらはぎに噛み付かれるが、力を込めて耐え、牙が抜けないようにすると、脳天を叩き割る。5、6匹目。

 



「若いやつらを死なせてたまるか!!いくぞ、おめぇらぁ!!」「「「「「おう!!」」」」」

 脳裏に浮かぶのは殿を務め終わり、包囲された私たちを逃がすために突撃したガイエス隊長、古参の先輩たち。




 さっきしゃがんでかわしたオオカミが、またとびかかってきた。足の痛みを無視して、飛び退く。が、かわしきれずわき腹をきりさかれる。出血がそろそろ危険域でクラクラするが、短剣で何とか突き、絶命させる。7匹目。




「アリアは、いつも不機嫌そうな顔だよな。笑えばかわいいのと思うのに、もったいない。」

「おいおい、何言ってやがる。アリアは笑顔がなくても、特大のがあるじゃねえか。」「ちげぇねぇ。」

「いやいや、アリアはいつも美人だけど、笑ったらもっといいのにって言う健全な話だよ!?だから、剣抜くのやめてくださいっ、ひいぃぃぃーーー!!」

 馬鹿な話ばかりしていた同僚のアッシュ、ロイド、カイル。

「「「女を守るのは男の仕事だぜっ」」」

 森の入り口で足止めのために残った。敵の規模は一個中隊。



 右腕に噛み付かれる。激痛で、短剣を取り落としそうになる。これでは腕をふれない。だったらっ。

 根性でオオカミに噛み付かせたまま短剣を口元に持っていくと、そのままくわえ、首を振りぬく。威力が弱い。なかなか死なない。ならば、何回でもやる。                                              ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザクッ

 なんとか死んだ。8匹目。

 顔を上げる。体はほとんど動かない。血がなくなりすぎて吐きそうだ。それに、倒した倍以上のオオカミが残っている。だが、あきらめない。


「死ねない!!私は!!絶対に!!」


 多くの犠牲の上で生き残った。この、私が、死ぬわけにはいかない!!


「かかってこい!!犬どもが!!」


 その目にはまだ、闘志の炎がやどっていた。





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