仮面の生死
お待たせしました♪第9話です(*^^*)
結局あれから優香里に対して話す機会なく、土曜日を迎えてしまった。
土曜日。義務教育が週休二日制になり、部活のない生徒にとってはゆっくり羽を伸ばすことのできる休日。そんな休日がこんなにも憂鬱に感じたのは生まれてはじめてだった。このまま目を閉じて、もう一度目を開けたときに日曜日になってたりしないだろうか。
そんな現実逃避をしていると、玄関先からチャイムをならす音がした。重たい足取りで玄関へ向かう。
「はーい…」
ドアをゆっくり開けると
「来ちゃった!」
……バタン
オカマがいた。長い髪をなびかせ、細身のジーンズに細身のTシャツというボーイッシュな女性の格好をしたオカマがいた。 どうやら幻覚まで見てしまうほど憂鬱な気分らしい。
さっきのは幻覚だ。絶対に。
そう自分に言い聞かせリビングへと戻ろうとすると、けたたましい程のチャイムとドアを叩く音が聞こえてきた。
「………はぁ」
俺は深い溜め息をはき、もう一度ドアを開ける。
「ちょっともう!何で閉めるのよー」
「…何でお前が来るんだよ。」
「だって面白そうじゃない?」
面白そうって…。どうもこいつは、俺が優香里に対して話が出来てないのを知っているらしい。性格悪いなこいつ。
そう思っていると、南島 十夜の後ろからひょっこりと西条 伶以子が顔を出してきた。
「こんにちは。東川さん」
「お、おう…」
純白のワンピースを身に纏い、髪をおろしている西条 伶以子はまるで天使のようだった。
「どうかしたんですか?」
「あ、いや…まあ上がってくれ」
きょとんとした顔で訊ねてくる西条 伶以子。まさか見とれていたなんて言えない。俺は冷静を装い、二人を家に招き入れた。
「…ずいぶんアタシと態度が違うじゃない?」
「…なら帰るか?」
「ひっどーーい!!」
そんなやり取りをしつつ、二人を部屋に案内する。
「麦茶でいいか?」
「はい!」
「アタシもそれで」
ひとまず二人を部屋に通した俺は、飲み物を用意するべく冷蔵庫に向かう。
思えば人を家に招くことなんて今までなかった。幼馴染みの優香里は勝手に来たりしていたが、それでもこんな風に他人が自分の家に来るのは初めてだ。
たまには良いもんなのかもしれないな。俺はふとそんなことを思いながら部屋に向かう。
「………で、お前らは人の部屋で何をしている?」
飲み物を持って自分の部屋のドアを開けると、そこは泥棒に入られたような惨状になっていた。
「あ、お帰り~。あんた中学の時サッカー部だったのね~」
「お、おお帰りなさい東川さん。ありがとうございます。」
南島 十夜は俺の中学のアルバムを広げており、西条 伶以子は後ろでそのアルバムを、チラチラと落ち着かない様子で覗いていた。
こいつホントに追い返してやろうか。 俺は怒りを抑えるべく深呼吸をして、とりあえず椅子に腰掛ける。そして、先程から我が物顔の南島 十夜に対して俺はもの申した。
「おい、オカマ。今すぐ出ていくか、アルバムを閉じて出ていくか選んでくれ」
「どっちも出ていくんじゃない!? 分かったわよ。勝手に見ちゃって悪かったわね」
フンッと鼻をならし、アルバムを閉じる南島 十夜。
「すみませんでした東川さん…つい、好奇心に刈られて」
うつ向きながら気まずそうにする西条 伶以子。
まあ二人とも少し反省したようなのでよしとしよう。俺は気持ちを切り替え、二人に勉強を教えることにした。
いざ勉強を教えていくと、西条 伶以子は元々頭が良いのだろう。すぐに応用的な問題も解けるようになった。 こいつの場合、勉強は出来ない訳ではなく、しなかっただけと言うことか。
一方、南島 十夜の方は
「ねぇ、なんで数学なのに英語の文字が出てくるの? エックスとかワイとか…訳が分からないんだけど」
「……俺はお前が高校生になれたのが訳が分からないよ。」
そうこうしているうちに、時間は昼過ぎになっていた。そろそろ昼飯でも用意するかと思い立ち上がると、玄関先からチャイムと共に声が聞こえてきた。
「雷斗~~、来たよ~」
優香里だった。そうだった、忘れていた。優香里の声で、俺はようやく状況を思い出し慌てふためく。
西条の方を見ると、少し不安そうにしていた。とにかくどうにかせねばと、俺は二人に声を出さないようにと伝え玄関に急ぐ。
「お、おう優香里、いらっしゃい。」
「どうもー♪どうしたの?なんか雷斗変だよ?」
「そ、そんなことないぞ!」
「ふーん、まあ上がらせてもらうね。」
「ああー!ちょっと待ってくれ」
今入られるのはまずい。明日にしてもらうと俺は優香里に言い訳をしようとする。
「どしたの?誰かいるの?」
「いやいや!!誰もいないよ!? 今日はちょっと体調が悪くてだな…」
「そうなの!?大変! じゃあ私が看病してあげる!!」
そう言って優香里は、俺を押し退けるようにして家に入ってきてしまった。うん、俺はこういう言い訳は苦手みたいだ。
「あれ?この靴…」
玄関にある俺以外の靴を見て、優香里は戸惑う。そして、俺が何かを言おうとする前に、優香里は急いで俺の部屋にいってしまった。
俺はこれから何が起こるのか、俺の生活はどうなるのか、不安を抱きながら優香里を追いかけ部屋へと向かう。
部屋に入ると、幼馴染みがオカマとお嬢様を見て、唖然と口を開けているという光景が目に入ってきた。優香里は状況が飲み込めず、涙目で俺の方を見てくる。大丈夫だ優香里、俺も泣きたい。
ここらが潮時なのかも知れないなと俺は溜め息を吐き、俺たちの事を優香里に話すことを決意した。一度優香里に部屋の外へ出てもらい、二人に俺の今の気持ちを話す。
いくら俺が諦めて話そうと決意しても、こいつらはそうじゃない。同じ『仮面生活』者として、秘密をバラすというのは自分の生活の死を意味する。 もし優香里が、他人に俺たちの事を話せば、俺達は異端とされ学校生活に支障を来すだろう。そうなれば俺達にとっては、死と同義なのだ。
だが、優香里ならばきっと分かってくれる。そう勝手に俺は信じていた。優香里は秘密をバラすような人間じゃないと、そう信じたい自分がいた。
二人に俺の気持ちを伝えると、二人とも少し戸惑いながらも納得してくれた。どうやら話しても大丈夫なようだ。
俺は優香里を部屋に呼び戻し、俺達の本当の姿を伝えた。
「じゃあ、こちらのお嬢様が、あの西条 伶以子さんで、こちらのオカマさんがあの南島 十夜君なの!? しかも雷斗は実は不良だったの!?」
「あ、ああ。」
優香里は今伝えた事実を、自分に言い聞かせるように復唱した。そして
「あっはははははは!!」
「ッ!?」
優香里の突然の大笑いに、俺達は顔を見合わせる。
「や、ゴメンゴメン。だってあんまりにも複雑過ぎて…フフフ」
優香里の反応は俺の想像していたそれとは違っていた。
「ねえねえ、南島君はそれカツラ?」
「そうよ。」
「スゴーイ!綺麗~」
「あら、ありがとう~」
いつも俺に話し掛けてるように、優香里は南島 十夜に話し掛ける。
「ねえねえ、西条さんは普段そんな服着てるの?」
「え、ええ。大体は…」
「可愛い~!!」
「か、可愛いだなんて、そんな…」
かと思えば、今度は西条 伶以子に対して女の子の会話を楽しむ。そうして優香里はあっという間に二人と打ち解けて、色んな話に終始、花を咲かせていた。
俺は優香里の順応性の高さに、ただただ舌を巻くしかなかった。
こうして時間はいつの間にか過ぎていき、夕方過ぎ。西条 伶以子と南島 十夜は帰ると言うことになった。俺は優香里と一緒に二人を見送った後、意を決して優香里に訊ねる。
「なぁ優香里」
「んー?」
「その…怒ってないのか?」
「んー…怒ってる」
やはりか。今まで優等生の仮面をつけて優香里に接していたのだ。優香里にしてみればそれは裏切りというものだろう。しかも幼馴染みの裏切りなんてきっと辛いだろう。そう思い、俺は優香里に謝ろうとする。
「あの、悪かっ…」
「面白そうなこと隠してたから怒ってる」
「へ?」
俺は優香里の言った言葉が、意外な言葉で思わず声が裏返ってしまう。優香里の顔を見ると、全然怒ってる雰囲気はなくいつもの笑顔だった。
「これからは私も混ぜてね!!」
「あ、おう…」
「なら良し!」
そう言うと優香里は、優しい笑顔で俺に向き直り言った。
「どんなことがあっても私が知ってる雷斗は、優しくてカッコいい雷斗だもん。幻滅なんてしないよ」
「…そっか。ありがとう優香里」
「えへへ」
俺は改めて幼馴染みの偉大さに気付かされた。俺はこれからも仮面生活は続けていくだろう。しかし、これからは同じ仮面生活をしているものだけの集まりではなく、良き理解者も一緒に。
「にしても、雷斗が一番普通だね」
「ん?」
「だって、不良と思いきやお嬢様!不良と思いきやオカマさん!それに比べると雷斗はインパクトに欠けるよね」
「んなっ!?」
こうして一度は崩れた仮面生活が、基盤を新たに蘇っていく感じを心のなかで味わいながら、俺は憂鬱な土曜日を終えたのだった。
時間がかかった(-_-;)
なるべくドタバタな感じを表現してみたつもりです。
感想などお待ちしております♪