東川雷斗の仮面生活~謎の生徒~
突如として学園の校庭に現れた暴走族。十数人あまりの厄介者に、学園の教師たちも困惑するばかりである。
どうしてこの学園を突き止められたのかは分からないが、十中八九、昨日の夜が原因だろう。
「やっぱり昨日の夜の事がバレたのでしょうか?」
隣にいた不良の『仮面』をもつ少女、西条 伶以子が呟く。
「まぁ仮にバレてないとしても、噂が流れているんだろうな。」
「噂ですか?」
「あぁ。昨日の特攻服を着た男はこの学園の生徒かもって噂だ。」
どこの誰が流したのかも分からないし、どうやって奴等に伝わったのかも分からない。しかし、きっとそんな感じの噂が流れているのは、奴等がこの学園にいることから恐らく間違いない。
俺は、今までしてきた仮面生活にヒビが入るのを確かに感じた。 いつからか覚えていないが、この仮面生活は決してバレることはなかったのにだ。
俺はイラつきながらも、この事態を何とかしなければと思い屋上を後にしようとする。
すると、西条 伶以子が呼び止めた。
「待ってください!どこに行くんですか?」
「どこって…校庭に行くに決まってんだろ」
「行ってもどうにもならないんじゃないですか? それよりここで隠れてた方が…それに先生方がなんとか…」
「待っててもどうにもなんねえだろ。それに売られたケンカは買わなきゃ損だ。なぁに、バレたと決まった訳じゃねぇしバラすつもりもねぇ。」
そうだ。バラすつもりなんか更々ない。それに、ここでこの問題を解決したとなれば、俺の『仮面』の株はさらに上がる。そうすれば仮面生活はさらに薔薇色になるわけだ。
俺はそんなことを思いながら、校庭を目指す。ふと横を見れば西条 伶以子がついてきていた。
「おい、別にお前はついてこなくても…」
「私は、この学園での名目上は不良です。それに東川さんが心配ですので。」
「…好きにしろ。」
髪をくくり直し、不良の『仮面』をつける西条 伶以子。
俺は決意の固そうな西条 伶以子を諭す事はしなかった。
学園の玄関先に近づくと、バイクのマフラー音がさらに酷くなった。俺には、バイクのマフラーをいじるだのどうだのするやつの気が知れないと改めて感じた。周りを見れば、他の生徒たちがざわついていた。怯えて泣き出しそうな女生徒もいる。
俺は周りの関係のない生徒たちに、教室に逃げるように伝えた。暴走族の奴等も教室には入っていかないだろう。
大体の生徒たちが避難したのを確認すると、俺は意を決して校庭に出る。西条 伶以子にここで待つように伝え、生徒会長の『仮面』をつけて暴走族に近づいていく。
「うちの学園に何かご用でしょうか?」
「なんだテメー?」
「僕はこの学園の生徒会長です。 何かご用件があれば伺いますが」
「ここによぉ、何か特攻服着るような奴いるか?うちの下のもんがやられたらしくてよぉ」
ホラッといって、リーダー格の男は二人を指差す。そこには昨日のケンカで俺が倒した二人がバイクに跨がって、不満そうな顔をしていた。そいつらと目が合う…が、二人とも特に何も言ってこなかった。どうやらバレてはいないらしい。
「僕の把握している範囲では、そんな生徒はいないですね。」
「そうかい、悪いな兄ちゃん」
そう言ってリーダー格の男は、引き上げようとする。その時
「待ってくださいアニキ!!」
「あん?」
バレたか…!?そう思い、額を汗がつたう。しかし、二人が見ている先は違っていた。
「あの女っす!!あの女に絡んでたら、特攻服野郎が来たんす!!」
暴走族たちが一斉に俺の後ろの方に目をやる。釣られて俺も後ろを振り返る。そこには西条 伶以子が仁王立ちしていた。
「お前ッ!?」
「誰かと思えば、昨日の雑魚共じゃないか。アタシに何か用か?」
あからさまな挑発を言い放ち、暴走族たちを見据える西条 伶以子。こいつ何で出てきたんだよ…バカ
「おぅ嬢ちゃん。嬢ちゃん自身には用はねえんだけどよ、嬢ちゃんに何かあったら本当に用があるやつに会えるかも知れねんだ。 ちょっと付き合ってくんねえかな?」
リーダー格の男はそう言って西条 伶以子に近付いてくる。無論こいつが連れ去られれても、特攻服野郎は現れない。何故なら今ここにいるからだ。しかし、連れ去られればこいつが無事でいる保証はない。
「ちょっと待ってください!!」
俺は反射的に、西条 伶以子の手をとろうとするリーダー格の男に言った。
「あぁ?」
邪魔されたリーダー格の男は、俺を睨み付けてくる。
「彼女もうちの学園の生徒です。無闇に連れていかれると困ります。」
俺は生徒会長として、なるべく相手を刺激しないように言った。 西条 伶以子の方を見ると驚いたような、しかし安心したような、そんな表情をしていた。こっちの気も知らねぇでこいつは…
しかし、リーダー格の男を刺激するには充分だったようだ。
「おい、兄ちゃん。」
バキッ!
「ぐはっ」
呼びかけられ、視線を戻した瞬間に俺は頬を殴られた。反動でかけていた眼鏡が吹き飛ぶ。
「邪魔しねぇでくれよ。こいつを餌に特攻服野郎を呼び出すんだからよ。それに」
リーダー格の男は、なめ回すような視線を西条 伶以子に向け
「もし、特攻服野郎が来なくても楽しめそうだぁ。」
そう言って下品な微笑みを浮かべる。
俺は殴られた頬を抑えつつ、起き上がる。今ここでコイツらを倒すことも不可能ではない。リーダー格の男はなかなか強いが、他は大したこと無さそうだ。 しかし、今の俺は生徒会長という『仮面』をつけている。この場に他の生徒がいないと言えども、教室の窓から見られている。少し離れたところには教師たちもいる。そんな中でケンカをしたら、俺の素顔を見られてしまう。それは避けなければならない。
しかし、そんなことを考えている間にも暴走族たちは西条 伶以子を連れ去ろうとする。
くそッ!どうすりゃいいんだ!
俺が拳を握りしめ、悔しさに震えていると後ろから声がした。
「やめとけよ」
その言葉に、暴走族たちはまた一斉に振り返る。
「あぁ?」
「なんだコラ!?」
口々に罵声を浴びせる暴走族たち。しかし、声の主はそんなことお構いなしに俺の横を通り過ぎ暴走族たちに近づいていく。
「お、おい君…」
くすんだ金髪に、耳にはピアス。制服をだらしなく気崩した俺と同じくらいの身長のその生徒は、俺の呼び掛けに反応することなく、暴走族の一人を殴り飛ばした。
「ぶへっ!!」
それを皮切りに、暴走族たちはその生徒めがけて、罵詈雑言を浴びせながら飛びかかる。
しかし、その生徒は飛びかかってきた暴走族たちを息一つ乱すことなくまさに一蹴した。 気付けば残るはリーダー格の男のみとなっていた。
「チッ!覚えてやがれ!」
そう言ってリーダー格の男は、西条 伶以子を突き放し逃げようとする。が、その生徒はリーダー格の男に飛びつきマウントをとったのだ。
戦意を喪失している相手に、その生徒は容赦なく殴りかかる。マウントを取られているリーダー格の男はそれを甘んじて受けるしかなかった。みるみるうちにリーダー格の男の顔は腫れ上がっていく。
「お、おい…もうやめといた方が…」
俺は堪らずその生徒に声をかけた。
するとようやく殴る手を止め、こちらを振り返る。その顔は、思ったよりも無表情で冷たい顔をしていた。こちらの背筋が寒くなるほどに。
その生徒はようやく立ち上がり、リーダー格の男を最後に蹴りながら校門に向かって去っていこうとした。そして戸惑う俺と、西条 伶以子に意味深な発言を投げかけた。
「これで二回目だな…」
その生徒はその日から一週間停学となった。そいつが既に俺と知り合っていたとは、この時まだ知るよしもなかった。
時間があいて、若干見にくくなったかも(-_-;)
ひとまず伶以子の影が薄くなってしまった(-o-;)
誤字、脱字などありましたらご指摘よろしくお願いいたします♪
感想なども待ってます~(;´д`)