東川雷斗の仮面生活~仮面崩壊?~
前回の続き♪
翌日、いつもより早めに目が覚めた俺は、学校に行く準備をしつつ昨日の出来事を何となく思い出していた。
結局昨日は、あの連中としかケンカしていない。ケンカ好きの人間としては、やはり多少の物足りなさを感じざるを得ない。 しかもあの後、オカマに自宅付近まで付きまとわれるという思い出しただけで寒気がする出来事があった。
一体なんなんだ、あのオカマ…
「にしても…」
昨日の助けた女の子は、なかなか可愛かった。 今どき黒髪の清楚な感じで、おしとやかな雰囲気漂う少女だった。
幼馴染みの優香里とは、また一味違う。 優香里はどちらかと言えば自分一人で何でも出来てしまう、謂わばオールマイティーな少女だ。 それに比べ、昨日の少女はか弱く儚い、守ってあげたくなるような存在だった。
出来ることならあの子とまた会ってみたいもんだ。 まぁ会ったところで、俺みたいなヤンキーには振り向いてくれないだろうな。今から学校に付けていく『仮面』の姿なら、もしかするとうまくいくのかも知れないが、果たしてそれは本当の付き合いと言えるのだろうか?
かといって『仮面』を外せば幻滅する人間も多いだろう。俺はこの仮面生活を止めるつもりは毛頭ない。 本当の自分をさらけ出して傷付くぐらいなら、仮面をつけたままで人と付き合っていった方が良い。 そうすれば傷付く事もないのだ。
そう言えばいつからこんな『仮面生活』を演じるようになったのだろう?
そんなことを考えている間に、そろそろ良い具合の時間となった。いつもの朝のニュースや占いを適当にチェックしつつ、朝食をとる。
「今日の天秤座の運勢は最悪!秘密がバレちゃうかも!?」
「縁起でもねぇこと言うなよ…」
ついても仕方ない悪態をアナウンサーにつき、俺は鞄を手に取り玄関に向かう。 眼鏡良し、制服良し、髪型良し。しっかりと『仮面』を装着し、俺は家を出た。
キーンコーンカーンコーン…
学校に着き、俺は何時ものように授業の準備を始める。すると転校生で不良少女な西条 伶以子が俺に近付いてきた。
「おい」
「え?」
不意に話し掛けられ、俺は気の抜けた返しをしてしまう。 周囲の生徒は、転校生が俺に話し掛けたことを不思議に思いざわつく。
「話がある。ちょっと顔を貸せ」
そういって教室から出ていこうとする。ついてこいと言うことだろう。俺はクラスの皆が注目する中、席をたつ。中には心配そうに見つめてくる人間もいた。
俺は、大丈夫だよと言いつつ西条 伶以子の後を追う。
後をついていくと屋上にたどり着いた。ちなみにこの学園の屋上は、朝と昼間は解放されているのだ。しかし、わざわざこんなとこに連れてきて一体なんなんだろう。
「昨日の夜、お前はどこにいた?」
屋上につくなり、唐突に西条 伶以子が尋ねてくる。まさか昨日の事を見られていたのだろうか? 俺はなるべく顔に焦りが出ないように、無難に答える。
「夜って…普通に家にいたよ。」
「ほぅ?」
全くといって良いほど、納得していない顔で相槌をうつ西条 伶以子。いやいや待て待て、昨日はしっかりと変装していたし、着替える前も誰にも見られていなかったはずだ。普通に考えればバレるはずがない。
「ほんとは昨日の夜、風俗街にいたんじゃないのか?」
ドキッ!?
「い、嫌だなぁ西条さん。だから昨日は家にいたって…」
「しかも、特攻服を着ていた。違うか?」
ギクギクッ!?
「とと、特攻服なんて、一体何の事かなぁ?アハハ…」
おいおいマジでか?おかしいぞ?確かに着替える前も誰にもつけられてはなかったし、帰る最中にも西条 伶以子らしき人物はいなかった。
なのに、なんでこいつにバレてるんだ!?
「昨日はその格好で不良二人とケンカしてたろう?」
ギクギクッドッキーン!?
「ケケケケケ、ケンカなんてそんなこと…僕は第一そんな人間じゃないし…」
ヤバイぞ!?実にヤバイ! もしかして昨日倒したやつらってこいつの舎弟とかか?どっかのレディースとかって噂だし。いや、待て落ち着け!レディースは女しかいねぇだろうが! そうじゃないなら何で…
「ふん、まあ良い。そう言えば昨日助けた女の下着は黒色でセクシーだったよな?」
「何言ってるんだよ。西条さん。彼女の下着は今時珍しい純白だったじゃ……あ」
終わったな。俺、終わったな。うっかりお約束な感じに口滑らしちゃうとか終わったな。どうせこれを機にこいつに卒業までの間、弱味を握られたままパシられたりするんだ。
西条 伶以子の方を見れば、少しばかり顔を赤らめている。 なんて事だ、パシられたりするだけでなく性的な事もされちまうのか?縛られて、シバかれて、踏まれてしまうのか?
こうなったら俺が出来る最後の手段はこれしかない。そう思いたつと、俺は勢いよく頭を下げながら叫ぶように言った。
「「この事は誰にも言わないでくれ!」」
ハモった。
「「え?」」
ハモった。
顔をあげてみると、西条 伶以子は狐につままれたような顔で俺を見ている。きっと俺の顔もそんな感じだったんだろう。 不意に西条が言う。
「もしかして気づいてなかったの?」
俺は何の事だかさっぱり分からなかった。 首をかしげて訊ねる。
「何が?」
すると西条は、「もう隠しても意味ないか」と、ため息をつきながらくくっていた髪をほどく。顔を赤らめながら、上目遣いでこちらを見てくる。
あれ、この子どこかで…
「あーーーーーー!?」
俺は目の前にいる少女を見て叫んだ。 肩まである綺麗な黒髪。そしてこの赤らめた顔。そう、昨日不良に絡まれていたか弱く儚い少女だった。
「何で…?」
未だにこの出来事が信じられずに、俺は西条に大雑把に問いかける。 すると西条はうつ向きながら
「あたしほんとは不良じゃないんです。 でも、自分を守るにはナメられたら終わりだって思って、それであんな格好と喋り方ならきっとナメられたりしないと思ってそれで…」
どうやら聞くところによると、西条 伶以子は不良少女なんかではなく普通のお嬢様だった。 何故、お嬢様がそんな不良少女みたいな格好をしているかと言うと、西条 伶以子は極度の男性恐怖症らしい。この学園に転校してきたのも、前の学校で男子生徒に言い寄られまくった結果で、こっちに逃げるようにして転校してきたんだそうだ。そして、今度はこの学校で男子生徒に言い寄られないために、あんな不良の格好をしていたらしい。
「にしたって、何で不良の格好する必要があんだよ?」
「だって、不良の格好してれば誰も寄り付かないだろうって…」
「それ女も寄り付かねぇだろ…」
「はい…、お陰で女友達が出来ません…グス」
あぁ、こいつちょっと抜けてるんだな。さすがお嬢様だ。
そんなことを考えていると
「でも、東川さんも何で真面目なふりをしてるんですか?」
「そりゃ…楽だからだよ」
「楽だから?」
「そう。皆が望む姿を演じてれば、過ごしやすいからだ。」
「なるほど…でも、虚しくありませんか?」
虚しい。そう言われて、俺は少しイラついた。 この『仮面』を侮辱されたように感じたからだ。イラついた勢いで強めに返す。
「お前に言われたくないね」
「確かにそうですよね…」
そう言いながら、西条 伶以子は少し悲しそうに微笑んだ。
しまったと思い、なにかフォローの言葉を考えていると校庭の方から爆音が聞こえてきた。
気になって見てみると、数十人はいるだろうか。暴走族がバイクに股がったまま校庭を滑走していたのだ。よく見れば、昨日の二人組もいる。しかし、何故この学園だと分かったのだろうか。
「ど、どうしましょう?東川さん」
西条 伶以子は見るからに怯えてしまっている。教師たちもあの暴走族には、対処しかねているようだ。
俺は深いため息をついた。どうやら本当に今日の運勢は最悪らしい。
やっと物語が動いてくれた気がする…(笑)
感想等、気軽にどうぞ(*^^*)
でもあんまり厳しい言葉はご勘弁を(-_-;)