坂上一の仮面生活
お待たせ(待ってない?)しました♪
元気っ子はじめちゃんのサブストーリーです(*^^*)
ではどうぞ
あるアーティストの曲の一小節にこんな歌詞がある。
『他人を見ては、歩幅を合わせるだけで楽しい自分を演じてた』
私のこれまでの生活はまさにこれだ。
最初からではない。最初は本気で仲良しと思っていたし、お互い本気で仲間だと想い合ってると思ってた。
一緒に遊んだことも、家に呼んで一緒にご飯を食べたりしたことも、お泊まり会とかしたのも友達だから。
でも、そう思ってたのは私だけ。誰も私を見てはいなかった。見ていたのは私の後ろだ。
坂上財閥の娘。私に関わってきた人間は私の事なんてそれ以上でもそれ以下でもなかったのだ。
その事を知ってしまってから、私は作り笑いや建前ばかり並べてしまうようになった。
こうしていれば、もう傷付かなくて済む。もう誰も信じれない。私はずっと独りだ。そう思っていた。サチに会うまでは。
サチに出会ったのは、私が十歳の頃。小学四年生のあたりだ。
当時のサチは金髪で、この世の全てを恨んでるような冷たい目をしていた。そんなサチが家に来た理由は、お父さんが道端で途方に暮れているサチに声をかけたのが始まりだ。
「お父さん。その人誰?」
「ああ。今日から家の執事をしてもらおうと思ってる。名前は……」
「サチ…」
父が名前を紹介しようとすると、サチはぼそっと自己紹介してきた。
「サチさんか。よろしくね!」
「……」
私の言葉と差し出した右手を無視して、サチは父に連れられて家の中に入っていった。何だこの礼儀知らずの若者は。
宙をさ迷った自分の右手を見つめながら私は、何故か無性に腹が立ったのを覚えている。
サチが家に来てからというもの、私の生活はこれまでと何ら変わりはなかった。
朝には別の執事に起こされて朝食をとる。それから着替えて準備ができたら車に乗って学校へ。学校に着けば、すぐさま私と仲良しを演じたい人間が集まってきて一緒に門をくぐる。
そして、上辺だけの笑顔と言葉を用いて学校生活を時間一杯まで過ごし、夕方にはまた律儀に待っている車に乗って家に帰る。なんの面白味もない生活だ。
まあ強いて変化したところを挙げるなら、私を起こしたり、送り迎えしたりするときにサチが付き添うようになったことだ。まだサチが直接私の世話を焼くわけではなく、ただそこに付き添っているだけ。
たぶんその内サチが私の付き人として、本格的に世話を焼くための準備なのだろうとそんな風に思っていた。
そして、サチが家に来てから一ヶ月がたった頃。
「あ、そうだ。はじめ、お前の世話係は明日からサチさんにしてもらうからな」
夕食時に父がふと思い付いたように言う。
「え? 前の人は?」
正直、私はサチに世話係をして欲しくなかった。無愛想だし、私はサチが嫌いだったから。だから父に遠回しに嫌だと言うことを伝えるつもりで訊ねた。
「ああ。神宮寺さんはもう実家でのんびりと暮らすつもりらしい。あの人にも我が儘を聞いてもらっていたしな」
「えー…」
ちなみに前の人は神宮寺さんと言って、物腰の柔らかいおじいちゃんだった。ニコニコと話を聞いてくれたり、色んな事を教えてくれたりと凄く優しくて大好きだった。
「まあサチさんも仕事はしっかりとこなしてくれているし、安心なさい。はじめ」
透き通るような声で、母が会話に入ってくる。家の最大権力は、実は母である。怒ると父が泣いて土下座するレベルだ。
「むぅ…」
私は渋々承諾と言う意思を示す。別に仕事の出来る出来ないを心配してるんじゃない。とにかくいけ好かないのだ。
どれだけ嫌がっていても、時間は進む。時は刻まれる。つまり朝は来る。
この日もお日様は燦々(さんさん)と輝いていて、清々しい朝が来た。今の私の気分の正反対だ。
今の私の気分は、さしずめ雷雨か豪雨か。とにかく荒れていた。
「朝ですよ」
そんなとき無機質な声色が私にかけられ、トントンと肩を叩かれる。いつもならやんわりとした声で、まるで癒しを与えてくれるような、そんな風に起こしてもらっていたのに。
私はちょっとした反抗のつもりで、あえてその言葉を無視する。前の仕返しだこんにゃろめ。
「朝ですよ、ほら」
声色は先程と変わらず無機質なものだが、布団をガバッと取り上げられた。太陽の光を直に浴びて目をシパシパさせる。
「っもう! 分かってるよ! うるさいなー!」
眩しすぎる光に、もう今までとは違う環境にイラついて思わず声を荒げてしまう。思えば他の執事さんは私が怒ると大抵はおろおろしていた。
当然だろう。自分の首は私の気分に委ねられているんだから。私が一言両親に言えば、すぐに路頭に迷うことになると思っているのが普通だ。まあ実際は余程のことがない限り告げ口もしないし、クビにならないんだけどね。
しかし、サチは他の執事とは全く違う反応を見せてきた。
「だったら一回で起きろよな…」
「へっ?」
サチの言葉に思わず変な声をあげてしまう。サチはそんなことお構い無しに、もう一度ご丁寧に復唱する。
「だから、一回で起きろよっつったの」
ため息混じりに吐き捨てるサチ。そんなサチの態度にようやく私も頭が働いて、反論に出る。
「そんな言い方無いんじゃないの!? お父さんに言いつけるよ!?」
脅しも含めての反論。財閥の娘という立場をフル活用した言葉だ。小学生をなめるなよ。
「勝手にすれば? 別にここにいなきゃいけない理由もないし」
おっと、これは予想外。勝手にすればなんて言われたらもう何も出来ない。先程の脅し文句はどうやら通用しないらしい。
「ほ、ほんとに言いつけちゃうよ? 仕事なくなったら困るでしょ!?」
それでも向こうが一瞬でも戸惑いを見せることに一縷の望みをかけて、更なる脅しをかけてみる。
「別に? まだ私は若いし、幾らでも働き口はあるしね」
ダメだ。はじめちゃん大敗北。口喧嘩での勝敗は、相手の非を攻めれなくなった時点で決着がつく。捨て身である人間には脅しなんか通用しないのだ。
そして、口喧嘩での敗北者は惨めにもこの台詞を吐かずにはいられない。
「ふ、ふんだ! もう知らない!」
目の端に涙を浮かべながら、サチを置いて自分の部屋を出る。ちくしょう、覚えてやがれ。
悪役さながら名台詞を心の中で唱えながら、私はリビングへと向かった。手早く朝食を済ませて、学校へ行く準備のため部屋に戻る。その間にも頭の中は先程のやり取りで悔しさマックスだ。
部屋に戻ると、サチが着替えを準備して待っていた。見れば布団もシーツも綺麗に取り替えられている。それでいて今日の服も何気に良いものを用意している。くそぅ。これじゃ姑さながらの嫌味も言えやしない。
それでも負けを認めたくなくて、感謝の言葉は絶対に言わなかった。思えば凄くちっぽけな自尊心である。
サチの持っていた服を、奪うようにして取り上げ黙々と着替える。サチはその私を黙って待っている。余計なことなど一切口にせず、ただひたすら黙って。
着替えを終え、ランドセルを背負い玄関へと歩き出す。するとサチも黙って付いてくる。
玄関を出ると、いつものように車が停車している。スッと私の前に出てドアを開けるサチ。その優秀すぎる行動が余計に私を苛立たせていた。まるであんたなんか足元にも及ばないなんて言われているようで。
私は車に乗り込んで、家に向かって見送りに来ている執事たちに挨拶をする。サチはそのまま運転席に乗り込んだ。どうやら運転もサチがするらしい。
そのまま車で揺られること約十数分。車内では一切会話がない。少々重苦しすぎる空気を変えようと、私はサチに話しかけてみることにした。決して認めた訳じゃないんだからね!
「……サチさんはその、ここに来るまでに何してたの?」
口喧嘩をした相手にも、優しく話しかける。なんて器量のある人間なんだ私。
「高校生…」
「へぇ…」
会話終わり。何これ? そんなのあんたも人間なんだから学生時代があることぐらい分かるよ!
やっぱりこの人嫌いだ。なんて思っていたら、学校に着いていた。車を停めて、しばらくしてサチが後部座席のドアを開ける。普段なら送り迎えしてくれる人間にも挨拶をするのだが、私は黙って学校へと向かう。
背中に「いってらっしゃい。頑張ってね」という言葉を聞きながら、今日も私は苦痛な学校生活を送るのだ。
お気に入り登録ありがとうございます♪
感想等もいつでもお待ちしております。




