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僕らの仮面生活  作者: あるあーる
第三章
32/38

仮面の夏

お久しぶりです。お待たせしました!!

第三章はこれにて完結です。ではどうぞ(*^^*)

「その手を放せよ」

 言うが早いか、俺は西条の手を掴んでいた男を突き飛ばす。男はよろめき、もう一人の不良に支えられる形になった。


「てめぇ!」

「女の手前だからって調子こいてんじゃねぇぞ!」

 今度は違うやつが、怒号を発しながら殴りかかってきた。俺はそれをかわして、腹部に拳を突き入れる。


「ぐふっ!?」

 殴りかかってきた男は、殴られた痛みでそのまま屈み込む。


「この野郎!!」

 今度はその様子を見ていたもう一人の不良が突っ込んできた。狭い場所では相手の行動も限られてくるのだ。不用意に突っ込んでくる相手の一番の対処法は、初撃をかわすことだ。

 勢いよく空振った不良は、体勢を崩しテーブルに体をぶつけて転がる。そのうちにもう一人の不良の顔面に拳を入れる。


「がっ?!」

 これで終わり。そう思い気を抜いてしまった。テーブルに突っ伏した不良が思いの外早くに立ち上がっていたのだ。


「おらぁ!!」

 そいつは再び殴りかかってくる。間に合わない。そう思い、打撃を覚悟して目を閉じたときだった。


「きゃ!?」

 女性の悲鳴が聞こえたかと思うと、次に目を開けたときには目の前に頬を抑えて倒れている西条がいた。


「っ? 西条?!」


「東川さん…。ごめんなさい。私、余計なことを…」

 頬に拳を直撃で食らったのか、西条の頬は赤く腫れている。


「お前、なんで…」


「だって…。いつも東川さんに守ってもらってばかりで。何か恩返しがしたいって思ってたら、体が勝手に動いてました」

 おかしいですよね。そう付け加えて、痛みに顔を歪ませながらも笑みを浮かべる。

 殴った不良は、女性を思いきり殴ってしまったことがショックなのか戸惑っている。


「そ、その女が勝手に割り込んで来たんだぜ? 俺は別に悪くねえ!」


「良いから黙って寝てろ!!」

 怒りに任せてそいつを蹴り飛ばす。


「ぐへ!」

 そのまま動かなくなったのを確認して、俺は西条に向き直る。優香里もようやく恐怖から解放されたのか、西条のもとへ駆け寄ってきた。


「西条さん! 大丈夫!?」


「大丈夫か?」


「はい…。っつ!」

 そう言って、顔を歪める。見れば、先程よりさらに頬が腫れている気がする。


「病院に連れてくぞ」


「うん」

 俺は優香里に宣言するように言い、そのまま西条を担いで店を出た。


 病院に着いた俺達は西条の診察をお願いして、そのまま待合室で待っていた。


「西条さん…大丈夫かな?」


「どうだろうな…」

 大丈夫だ。そう言って優香里を安心させてやりたいが、それが俺には出来なかった。命に別状があるほどの事ではない。だが女性の、しかも顔の怪我となると話は違ってくる。

 女性にとっての顔の傷は、女としての生命に関わるほどの問題であることはさすがに俺でも分かる。優香里もそれが分かっているからこそ、俺が曖昧な返事をしても何も言わなかった。


 西条が診察を受けている間、俺と優香里はただじっと黙っていた。優香里は神妙な面持ちで、一点を見つめて何かを考えてるように見えた。

 俺は俺で、今までの俺の生活のせいで西条をこんな目に合わせてしまったことを悔やんでいた。ケンカばかりしてきた俺への罰なのだと感じていた。南島の家の騒動の時に、危険な目に合わせないようにすると言ったのにこの様だ。

 仮面生活を続けてきて、今まで人を傷付けたことなんてないと思ってた。でもそれは俺の勘違いで、ほんとは他にも色んな人間を傷付けてきたのかもしれない。元々一緒に過ごすべきじゃなかったのかもしれない。西条も、南島も、坂上も、そして優香里も。そんなことを考えて、俺は苛立ちを募らせていた。ほんとにこのままで良いのだろうか…。そんな考えが俺を責めるように頭にこびりついていた。


「お待たせしました~」

 そんな間延びした声に俺はふと現実に戻される。顔をあげると、診察を終えた西条が立っていた。右頬には湿布が貼られていて、しかし本人は大丈夫といった笑顔を浮かべている。それが逆に見ていてとても痛々しかった。


「西条……」

「西条さん……」

 俺達二人は、西条にかける言葉が見つからなかった。優香里はともかく俺は何て言えば良いんだろう。西条は俺のせいで…。


「もう! 二人とも顔が暗いですよ? 私は大丈夫ですよ!お医者さんが言うには別にこのまま安静にしてれば痕も残らないって言ってくれましたから!」

 そう言って西条は、明るく振る舞う。痕は残らない。しかし、しばらくは出歩くこともままならないだろう。人目がそれを許してくれないのではないだろうか。そう考えるとやはり何も言えなかった。


「それに今日はちょっと怖い目に合っちゃいましたけど、すごく楽しかったですよ?! お友達とこうして遊ぶのはすごく久し振りでしたし、カラオケって初めてでしたし…。優香里さん、東川さん本当にありがとうございます!」


「西条さん…」

 優香里は心が痛いのか、とても苦い顔で西条を見る。俺も未だに何も言えずにただ立ち尽くしかなかった。


「……それに、二人が笑ってくれなきゃ私も寂しいですよ」

 そう言いながら寂しそうな笑みを溢す。せっかく西条自身が俺達の事を思って、無理に明るく振る舞ってくれてるのだ。俺達もそれに答えなきゃならない。そう思い立ち、優香里の方を見るとどうやら優香里も同じ考えだったらしく、俺達は目を合わせて小さく頷いた。


「……西条さん! ほんとごめんね。それでありがとう! 私も誘ってよかったよ」


「っはい! またカラオケ行きたいです!」

 優香里と西条はそのままどちらからともなく笑い合う。


「西条。その、悪かった。俺のせいで…」


「東川さん!」


「は、はい」


「助けてくれてありがとうございます。また遊びましょうね! 絶対ですよ!?」


「お、おう」

 俺も意を決して西条に謝ろうと思ったのだが、西条に遮られさらには約束までさせられてしまった。今の俺には西条の強さに甘えるしか出来なかった。


 一通り話を終えて、俺達は病院を出た。そしていつもの別れ道で、西条はもう一度俺達に振り返り

「また遊びましょうね! また!」

 そう言い残して帰っていった。優香里ともそこで別れ、別れ際に「また今度」と言葉を交わして俺は帰路に着いた。


『また』

 この言葉が夏休み中に叶うことは遂に無かった。そして、この夏の終わりが俺達の関係を大きく変えるきっかけになるとは、この時の俺達は知らなかった。





如何でしたか? お気に入り登録誠にありがとうございます(*^^*)


そしてもう一度。お待たせして誠に申し訳ありませんでしたm(__)m


次回から間章に入ります。よろしくお願いします!!

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