仮面の尾行
第27話更新!
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坂上に引きずられること数十分。俺と坂上は、とある商店街にいた。
「なぁ」
「なんだい?雷斗君」
俺は数分前から疑問に思っていたことを、坂上に問いかける。
「こんなところに来て、当てはあるのか?」
「あるわけない!!」
だよね…。さも当然と言った顔でふんぞり返る坂上。あぁ、やっぱりさっきの家で出した紅茶にタバスコ入れてやれば良かったと後悔する。
「でも、何となくこの辺にいると思うよ!」
自信満々にそう言いきる坂上。
「…根拠は?」
「ない!!」
聞いた俺がバカだった。
本日、何度目になるか分からないため息をつく。
当の坂上は、商店街を初めて見るような反応で見回して、時折感嘆の声を漏らしていた。そんな坂上の様子を、俺は何気なく見ていた。
小さい頃から令嬢として育てられ、何一つ子供らしい事をさせてもらえなかった。中学で折角出来た友人の何人かは、坂上の後ろに見える財力が目当てで、坂上自身には上辺だけの付き合いだったとも聞いた。
もちろん坂上自身が、自分の財力を鼻にかけるような事はしていないと思う。だが周りの人間からすれば、それが余計に癪にさわる部分もあるのだろう。目の前の少女はそのせいで人知れず傷付いてきたのだ。そして、それを隠すためにお調子者のただの少女という『仮面』をつけるようになった。きっと想像以上に本人は苦しかったのだと思う。
坂上だけじゃない。西条や南島も同じように苦しかったはずだ。
「雷斗君!」
「うぉ?」
考え事から帰還すると、坂上の顔が目の前にあった。わざとらしく頬を膨らませている。その仕草は幼い面影の坂上にとてもハマっている。
「ボーッとしてどうしたのさ?」
「いや、何でもない」
「まあ良いや!それよりお腹が空いたよ。何か食べよう!」
そう言って坂上は少し先のファミレスめがけて歩き出した。この際、俺の意見は何一つ通らない状況について深く考えるのはやめた。考えれば巡り巡って俺の存在意義についてまで考えてしまいそうだ。
店内に入ると、女の店員さんに笑顔で「ただいまカップルフェアを開催中です」と言われた。坂上の方を伺うと、少しだけ顔が朱色に染まっていた。そんな反応をされるとこっちまで意識してしまう。
そんな意識を振り払うため、俺はわざと大きな声で「大丈夫です」と伝えた。
席についた坂上は、メニューを見て少し興奮していた。そして、気に入ったものがあったのか満面の笑みを浮かべて涎を垂らしている。
「もしかして初めて来たのか?」
「ふぇ?」
どんな妄想をしていたのか、間の抜けた返事をしてくる。そして、数秒くらい考えてから坂上は答えてきた。
「あぁ。ファミレスのことか。うん!私こういう所で外食したことなかったんだ!」
「そうか」
別にもうこれしきの事では驚かない。坂上ほどのお金持ちともなれば、こういった庶民的な場所は全てが新鮮なのだろう。
そこまで考えて、ふと普段の坂上がどんなことをしているのか少し興味がわいた。
「いつもはどんなところで食べるんだ?」
「んー…あんまり外食はないけど、するとなったら高層ビルにあるレストランとかかな。普段は家でシェフ達が作ってくれるし、滅多に行かないけど」
そう言って屈託のない笑顔を見せる坂上。やはり想像以上に坂上はいいとこのお嬢様らしい。
「雷斗君はどうなの?」
「ん?」
「いつもご飯はどうしてるの?」
「あぁ…。まあたまに自分で作るぐらいだな。それ以外は大概弁当を買って食べてる」
「雷斗君ご飯作れるの!?」
心底意外と言った表情をする坂上。
「失礼だな。料理くらい出来るぞ」
実質独り暮らしも二年目に突入している。周りの事ぐらいある程度こなせなければやってられない。
「じゃあ今度、雷斗君の手料理を食べに行くよ!……みんなでさ!」
何が「じゃあ」なのかさっぱり分からないが、それよりも先程の妙な間と坂上の一瞬見せた困惑にも見えた表情が気になった。
「坂上…?」
どうかしたのか?そう訊ねようよとした時だった。
「ああーーーーっ!」
ファミレスにいる客の全員が振り返るほど大きな声が坂上から発せられた。思わず耳を塞いでしまう。
「一体どうしたんだよ…」
「雷斗君!あれ!ほらあそこ!」
大袈裟に身ぶり手振りをしながら坂上は外を指差す。坂上の指差した方向を見ると、そこには謎の多き人物である真下 任がいた。
「やっぱり私の勘は正しかったんだよ!行くぞ雷斗君!」
言いながら坂上は、俺の事など構わず走り出していた。今思えば、このファミレスには一体何しに来たんだろうか。
ファミレスの店員さんに謝罪をしてから、外へと出る。すると坂上はその場でずっと足踏みをしながら待ち構えていた。
「遅いよ雷斗君!早くしないと見失っちゃうよ」
なんだか泣きそうな顔になりながら必死に真下の姿を捉えようとしている。その真下自身は、約五十メートル先辺りの路地に入ろうとしていた。
「早く!」
「ああ」
坂上に言われるがまま、俺は走り出した。二人で角を曲がったところで、真下の姿を確認することが出来た。どうやら向こうはまだ俺達には気づいてないらしい。
ばれないように距離を保ちつつ、俺と坂上は真下の姿を追う。坂上は途中から変なテンションになっていた。
その真下は先ほどからパチンコ屋に入っては、すぐにあからさまにガッカリとしながら出てきたり、道行く女性に声をかけて張り手を食らわされたり、散歩中の飼い犬に噛まれたりと散々な目に遭っていた。
「……なんかあの人の事をろくでもない大人って世間では呼ぶのかな?」
冷めた目付きで呆れながら坂上は呟く。それには大いに同感だった。
これ以上尾行しても、ろくでもない大人の部分を見せられるだけだと思い、坂上に帰ろうかと声をかけようとした時。ふと坂上の表情が、呆れ顔から驚き、そして絶望のような表情に変わっていった。
「……サチ」
坂上の目線の先には、真下とサチさんの姿があった。
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