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西条伶以子の仮面生活~その2~

遅れて大変申し訳ありません。

第16話です。

 放課後。特に挨拶する相手もいないので、私はそそくさと教室を出た。転校してきて一週間、不良という『仮面生活』も徐々に板につきつつある。全くもって不本意ですけど。


「ハァ…」

 本日何度目になるだろう。私は深い溜め息をつく。このまま『仮面生活』をしていくと決めた手前、弱音ばかりは言えないと分かってはいるが、どうも心が追い付かない。だれか同じ境遇の人間がいれば別なのかもしれないけど。



「まあそんな特殊な人間なんてそうそういないか…」

 私は半ば自虐的にひとりごちる。自分を隠して生きるというのは、中々に覚悟がいると思う。無論、その方が楽な場合もあるかもしれないが、いざというときに人に頼れなくなってしまう可能性もある。



 それを踏まえた上でもう一人の自分を演じるというのは、覚悟がなければ出来ることじゃない。それほどの事なのだと思う。同じ境遇の人間がホイホイいるようには思えない。




 しかし、私は前の学校のような事になるのはもう御免だ。自分を偽ってでも、何の波風もなく過ごせるならこのまま……。



 そんなことを考えていると、家に着いた。もう自分を偽る必要もない。こんな暗い顔してたらお母さんが心配しちゃう。私は家のドアを開け、明るく発声する。


「ただいま!」


「あら伶以子。お帰りなさい」

 台所から柔和な声を出しながら、玄関の方に母が出迎えてくれる。


「早かったのねぇ。折角で悪いんだけど、スーパーでお醤油買ってきてくれないかしら?」

 お母さんは申し訳なさそうに訊ねてくる。


「分かりました。着替えてから行ってきますね」

 そういって私は一度、自分の部屋に向かう。扉を開ければ、部屋はピンクと白を基調としたいかにもという感じの部屋だ。ぬいぐるみも沢山ある。



 そう。私、西条 伶以子は可愛いものに目がないのだ。ほんとの私は、生まれてこのかた喧嘩なんてしたこともないし、きつい言い合いなどもしたことがない。不良のイメージは全くといっていいほど皆無なのである。



「でも、ちょっと面白いかもしれませんね。不良役って」

 そんな独り言を言いつつ、ひとしきりぬいぐるみ達を愛でながら、くくっていた髪をほどき、白のワンピースに着替える。最近買ったお気に入りの服なのです。



 準備が出来たので、私はお母さんに一声かけて玄関を出た。ここから都内の方面に行くとスーパーがある。しかし、謎なことにこのスーパーの近所にはいかがわしい風俗店が軒並ぶ筋がある。何でそんなところにスーパーがあるのでしょうか…。



 しばらくして無事にスーパーへとたどり着いた。滞りもなく買い物を済ませ、私は帰路を目指す。


 そんな時、なんとなく路地裏の方に目を移した。そこには煙草をふかし、ヤンキー座りをしながら談笑するいかにも不良といった二人組がいた。耳にはジャラジャラと沢山のピアス、腕には何かの刺青が入っている。


 私はその二人に見付からないように、なるべく早く通りすぎようとする。その時に持っていた買い物袋を落としてしまった。


「あっ…」

 落とした音で、その二人組は私に目を向ける。そして目があってしまった。


「よぉねえちゃん。おつかいか?」

 そう言いつつ一人が私に近寄ってくる。落としていた買い物袋を拾い上げて、私に渡そうとする。


「おい。よく見りゃすっげえ可愛いじゃん♪」

 いつの間にかもう一人もそばに寄ってきていた。その人の発言により私は二人にまじまじと見つめられる。


「おほっ!ほんとだ!なあねえちゃん、一緒に遊ぼうぜ♪」


「あ、あの、返してください」

 私は買い物袋を取り返そうと手を伸ばす。その人は私をかわして買い物袋を、頭より上に持ち上げてしまった。


「良いじゃんか♪ ちょっとお茶に付き合ってくれるだけで良いからさ!」


「私は……その…」

 ダメだ。恐怖でうまく言葉が出てこない。私が言葉につまっていると、一人が私の手を掴んで路地裏の方へ引きずる。


「良いから良いから。ほら来いよ!」


「や、やめてくださっ…」

 どうしよう。誰か、誰か助けて!



「おい」

 私が連れ去られようとしていたとき、どこからか呼び止める声が聞こえた。その声に不良二人も振り返る。


 そこには特攻服を身にまとい、髪型をオールバックにした不良がいた。また怖い人が来ちゃったよう…。


 呼び止められて腹立ったのか、二人組の不良は私の手を

離して、特攻服の人に罵声を浴びせる。


「あぁん!?なんだテメーは?」

「今どき特攻服とか、何時の時代だよ(笑)」

 その人は、二人の罵声に怯むことなく言い返す。


「一般人に手ぇ出してるクズに言われたくねぇな」


「んだとコラァ!!」

 あれ?この人、私を助けてくれるのかな。私がキョトンとしていると、二人組の不良の一人は怒りが頂点に達したのか、特攻服の彼めがけて飛びかかっていった。


 特攻服の人は殴りかかった不良をひらりとかわして、顔にパンチを繰り出した。そして続けざまにキックをお腹に。うわぁ、痛そう…。


 すぐに逃げ出せばよかったものを、私はその場で立ち尽くしていた。


「キャッ!?」

「動くんじゃねえ!」

 もう一人の不良が私を羽交い締めにする。人質となってしまった。


 不良は特攻服の人に対して脅しをかける。すると特攻服の人は、攻撃の手を止めてしまった。全然知らない私のために。


 不良は、そのままズルズルと私を引きずって行こうとする。あぁ…折角助けてもらったのに、このままじゃ。


「ねぇ、あんた」

「あぁ!? ふげっ!!」

 一瞬何が起きたのか分からなかった。気付くと私は解放されており、尻餅をついてしまっていた。


 周りを見渡して状況を確認する。すると二人組の不良はのびきっており、先ほどの特攻服の人とキレイな女性(?)が立っていた。どうやら羽交い締めをから逃れれたのは、この人のお陰らしい。


 特攻服の人とキレイな女性(?)に、お礼を言うべく私は立ち上がる。


「あ、あの、その…」

 二人の前に行くと、緊張でうまく喋れないでいた。しかし、私の危機を二人は救ってくれたのだ。ここでちゃんと言わなきゃ!


 顔を上げ、二人を見据え、意を決して私は感謝の気持ちを述べる。


「助けてくれてありが……あっ」

 そこまで発声して私は気が付いた。このキレイな人、男の人だ。オカマさんだったのかぁ。ううん!それよりもこの特攻服の人……。眼鏡もかけてないし制服でもないけど、間違いない!この特攻服の人、生徒会長さんだ!




─────


 その時は、驚きと焦りで何がなんだか分からなかった。でも日を重ねる毎に、彼は私にとって気になる存在へと変わっていったのだ。


 ふふっ。まさか次の日に、会って話しても気づいてなかったなんて思いもよらなかったですけど。



 これからも彼とその周りの人達との仮面生活は続く。そんな彼が私を過去のトラウマから救ってくれたり、私の彼に対する心が恋心だと気付くのはまだちょっと先のお話。



やっと更新出来ました(*^^*)

いやぁ難しかった!変な感じになったかもですね(-_-;)


前の15話も少しだけ編集したので、良かったら前のやつも見てください。


ご感想や評価心よりお待ちしております♪

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