③
カラリコロリとアスファルトを鳴らし、ガサリゴソリと落ち葉を踏み、ザラリゾロリと砂利道を転がってたどり着いたソコは、山を削るための重機が立ち並ぶ工事現場だ。
「あの重機たちに踏みつぶされて、毎日俺たちは砕けている。朝は一人っ子だったのが、夕方には五人兄弟なんてのも、ここじゃ珍しくない話さ。」
砕けた石から飛び散った欠片が、ここには無数に転がっている。ゴロゴロは足元から、適当な欠片をいくつか拾って、俺の欠けた所にあてがった。
「そんな傷、こうやって埋めちまえばいいのさ。」
「でも、これは俺のものじゃない。『誰か』だったものだろ?」
「細かい事を気にするなよ。これなんか、ほら、いい感じじゃないか?」
大きさは確かにちょうどいい。だが、重機に踏み砕かれた断面はギザギザしていて、ぱっくりと割れ落ちた俺の断面になじむことは無い。カタカタと不安定な音を立てて俺を拒絶した。
「仮に、この傷にぴったり合う欠片が見つかったとしても、せいぜい『欠けていない石ころ』にしかなれないだろ?俺はただの石ころじゃない。もっと大きな何かになるんだ。」
「何かって、何になるつもりだよ。」
「それを見つけに行くんだよ。」
「……お前、やっぱり変わってるな。」
ころり、コツンと、俺は転がり出した。
「じゃあ、行くよ。いろいろとありがとな、ゴロゴロ。」
ゴツン、ゴロリと不規則な音が後ろで聞こえた。
「なに、お別れみたいなこと言ってんだよ。」
ゴロゴロが転がり出した音だ。
「お前がいなかったら、誰がオレの名前を呼んでくれるんだよ。」
「そうだな。俺もお前がいなかったら、名前の無いただの小石だもんな。」
俺たちは転がり出した。コロリ、コツと軽快なビートに、ガタゴト、ゴロンと重たいリズムを重ねて。俺たちのセッションが世界に響き始めた。
高い山へも登った。山からはがれおちたばかりの石達はどれも大きくて、ごつごつと尖っていた。
彼らはちっぽけな俺たちをバカにして、俺たちが転がる音をあざ笑ったが、山頂から二人で奇声を上げながら転がり落ちる爽快感が、俺の落胆を吹き飛ばしてくれた。
河原で数多の欠片に埋もれたこともある。小さすぎる欠片たちは大きな俺を歓迎してくれた。
欠片たちは俺の欠けた部分になりたがったけど、ポロポロとこぼれ落ちるばかりで、お話にならなかった。
ゴロゴロはどんなところへでもついて来てくれた。いつでも隣から聞こえる不規則なリズムが、俺を奮い立たせ、時には慰めてくれる。二人でなら、どんなところへも転がって行ける。




