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 店の外で、俺はブラックオニキスたちに執拗に小突きまわされた。取り囲まれ、コツコツとぶつかられ、みじめに縮こまる俺の姿に宝石達は歓喜の声をあげながらアチラで見ている。コチラで俺を見ている石ころたちは、身の程知らずな俺に冷たい視線をくれるだけだ。


    俺の価値なんて、この程度……


 道端に転がり出され、起き上がる気力もなく、俺は星を見上げてわめいた。

「あいつらだって石じゃねえのかよ!俺と何が違うって言うんだ!」

「違うじゃねえか? 随分とよぉ。」

 俺のすぐ近くで、ひどく不規則に転がる音がした。

「人間は金を出してまであいつらを欲しがる。逆にオレたちを欲しがる人間なんかいないだろう?」

 ごろり、カロリと俺に近づく彼は、体中のあちこちが欠けている。その不規則な形が、転がるたびにリズムの狂った音を立てた。

「そうだな。人間はあいつらのことはちゃんとした名前で呼ぶぐらいお気に入りなんだよな。」

 涙越しに見上げる夜空は、まるで水の底から見上げているように揺らめいている。

「俺の名前なんか、誰も呼んじゃくれない。」

「なんだよ、お前は名前を呼んで欲しいのか?」

 そいつはコツリと親しげな音を立てて、軽く体をぶつけてきた。

「ああ、でも、人間がつけてくれた名前を、俺は知らないし……」

「誰かがつけた名前なんかに、何の意味があるんだよ。お前が俺に何て呼ばれたいか、それが名前だ。」

「じゃあ、お前には名前があるのか?」

「ああ、そういえば、無かったな……よし、オレのことは『ゴロゴロ』と呼べ! それがオレの名前だ。」

 あまりにひどいネーミングセンスに、俺は微かに苦笑した。

「笑ってんじゃねえよ。お前は? 何て呼べばいい?」

「じゃあ……『カツリ』」

「ひっでえネーミングセンスだな。」

 ゴロゴロは無遠慮に声をあげて笑った。

 俺が見上げる星は、もう揺らいではいない。

「なぁ、カツリ。」

 初めて呼ばれる名前が、不確かだった自分を『カツリ』という存在に変えてくれた。

「名前はついたぜ。次は? どうするつもりだよ」

「そうだなあ、人間が磨いてくれないなら、自分で自分を磨くかな。」

「解んねえな。そんなことして、何の意味があるんだよ。宝石にでもなるつもりか?」

「そんなものになれないのはよく知っているさ。ただ、今のままのちっぽけで、おまけにこんな欠け傷のあるただの石ころで終わりたくないだけさ。」

「ますます解んねえな。お前、変わったやつだってよく言われるだろ?」

「ゴロゴロこそ、おせっかいな奴だって言われているんじゃない?」

「ま、言われてるな。」

 ゴロゴロはゴロリと転がり、自分の欠けにゴツンとつまづきながら振り向いた。

「付いてきなよ。その傷を埋める、とっておきのアイデアがあるぜ。」

 俺はコロコロ、コツンと軽く跳ねながらゴロゴロの後を追った。


 幾度かは新聞配達のバイクとすれ違ったが、人間は俺たちにこれっぽっちも気づきもしない。俺たちは調子っぱずれなセッションを朝焼けの道に響かせながら転がった。


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