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2 - 錬金術師と戦闘

なんだが長いような気がしたので2つに分けました。

「大丈夫です。…始めます」


それに気がついた時に心の中にあったモヤ、まるでブラックボックスの中を理解出来たかのように気分がスッキリとし、妙な達成感を覚えた。

そして集中する。探し出すのは身近な情報とちょっとした遊び、難しくは考えない。使い方と効率は今考えなくても大丈夫だと、世界の情報が教えてくれた。


「(流石に希少の錬金術師ですか。情報の扱い方が上手い…悔しい程に羨ましい。今なら彼の気持ちが少しは理解出来る気がします)」


そんな初めての錬金を既に成功という前提を持って行う青年の姿を、眩しそうに目を細めながら複雑な心境を表に出さないように心の内に封じ込め、彼はただ見守っていた。


青年が錬金を始めてから数秒、既に変化は起きていた。青年の身体からは蒼い光が薄らと滲み出し、周りの空間も青年に向かって風となり蒼い光へと変わり取り組まれていく。

そして、その光はしだいに肉眼と言う情報でも確認出来る程の大きさの粒子となり青年の首回りに集まり形を成した。


「はい?まさかそれは…」


形は長方形で長く、柔らかく首を包み込むソレはとても暖かい。


「はい、見ての通りマフラーです」


僕の返答に先輩は呆れたような顔をした。確かに僕自身もこのマフラーがただの普通の防寒具ならば同じような表情をしていただろう。


「まあ、錬金術師として産まれた君のことですから何か仕掛けでもあるのでしょう」


「もちろんです。と言うより、錬金術師というのは皆何かを仕組んでいると断言されるようなことばかりしているのですか?」


先輩は先程の呆れた表情のままだったが、呆れの種類が違う様に感じた。


「ふふ、それに関してはまた後で話しましょう。敵も来たことですし、ねえ?」


何か含みのある言い方だった。本当に何か含んでいたならば、敵が来た事実を使って上手くはぐらかされたのだろう。


「後でちゃんと話してくださいよ」


僕は首元にまわっているマフラーを軽く掴んだ。これは最後の錬金だ。僕の創造力を現実のモノとして埋め込む。

敵は既に数秒で届く位置にまで近づいている。ここまで近くなると敵の姿もはっきりととらえることが出来た。

その姿は人間の様だが、頭は大きく身体はとても細い、手足と指は細長く、その瞳は赤一色の大きな楕円形(だえんけい)をしている。一言で表すのならばまるで宇宙人のようだった。それが数十匹いる。


「動け!」


あまりにも異形な姿に一種の恐怖を感じたが、僕は叫んだ。声量はそれほど大きくはない叫びだ。

最後にイメージしたのはとても単純で意思を持ったマフラーである。そして、そのマフラーは僕の創造通りに動きはじめた。それと同時に、僕の背後に居る先輩の空気が変わったのを感じた。

空気が変わったことに一瞬意識が向きそうになるが、今は一応戦闘中である。敵は此方の都合に合わせてくれるはずもないし、僕の方も敵以外のことを考えながら戦闘をするほど慣れてもいない。というより、初めての戦闘だ。

そんなことを考えていると先輩から叱咤が入った。


「何を余計なことを考えているのですか!いくら敵が弱いと言っても君にとっては初めての戦闘なんですからしっかりしなさい!」


もっともである。どうもマフラーが完成してから気が抜けてしまったようだ。

その抜けた気を引き締める為にもパシンっと頬を叩いた。


「よしっ」


気休め程度だが気合いも入った気がする。そしてそんなことをしている間にも敵は攻撃をしていた。命名『眼からビーム』である。

ちなみに、この攻撃を僕は一度も避けていない。何故ならば全ての攻撃をマフラーが受けているからだ。これがマフラーに意思を付けた理由でもある。僕が気が付かない攻撃を勝手に防いでくれるのだ。

そして勿論、マフラーに付けた機能はこれだけではない。一見普通に見えるマフラーだが、その先端の終わりには紅い石を五個付けている。これの機能は目の前に居る敵の技から貰った。


「いけ、レーザー光線だ!」


どういう原理で行っているのかは解らないが『眼からビーム』を光のエネルギーを使って僕なりに改良したものである。

そしてその光はどんなに頑丈な盾であろうとも一部を除いて意味がなくなる。

そう、今、身体のあらゆる所に穴を開けられた敵の様になるのだ。けれど考えていたものよりも些か強力過ぎたらしく、これを戦闘と呼んで良いのか分からなくなってしまった。


「なかなか、えげつないモノを創造しましたね」


「そんなことは、あるんですかねぇ」


敵が蜂の巣となっていく姿に先輩の言葉に対して否定することが出来なかった。

敵の原型が分からなくなるまで紅い石から放たれる光線はマシンガンの如く連射されていた。それを抵抗なく受ける敵達は赤色の血も、緑色の血も流すことなく僕がマフラーを錬金した時と同じ粒子を辺りに撒き散らしながら消えていった。蒼い光が辺りに飛び散る景色は場違いな程綺麗だった。


暫く戦闘が"作業"になってきた時だった。僕の隣には何時の間にか先輩が立っていた。


「彼等は敵ですが、元は私達と同じなのですよ」


「粒子が同じモノだったのが関係しているのですか?」


「その通りです。彼等は私達と同じモノで出来ています。ただ違うのは個としての意識の情報が存在しているかどうかだけです」


例え同じ粒子(モノ)で出来ていることを知ったとしても僕が敵を攻撃するのに躊躇(ちゅうちょ)することはない。


「でも、敵ですよね」


「はい、敵です。倒さなければ私達が消されます。君がちゃんと理解している人で良かったですよ。私の面倒がまた一つ減りました」


その発言に、先輩はその優しげな顔つきに反して一言が多い人なのだと確信した。

穏やかな色合いのきっちりと七三に分けられ纏めらた金髪に落ち着いたレッドブラウンのダブルコートを着こなす姿は気品を感じさせる。だというのに、性格の癖が中々に強いのはどこか残念に感じた。


「そういう人間だったのでしょうね。そして、これで終わりです」


話している間に敵は最後の一体となっていた。蒼い光を撒き散らし、その一体も呆気なく消えていった。


「辺りに敵情報の反応もありません。終わりましたね」


先輩は何かに集中する様に目を閉じて言った。僕の錬金術師の能力と同じ様なものだと思われる。


「先輩の能力ですか?」


「そうですよ、後輩くん」


この会話で僕は大事なことを忘れていることに気が付いた。


「そういえばなのですが、僕達はまだ自己紹介などをしていなかったですね」


「ああ、確かにそうですね。では改めまして、私の名前はカルロイ、職業は医者(ドクター)をやっております」


軽く微笑んでから胸に手を置いて礼をする姿は優雅だった。


「そうそう、一言君に言っておきたいことがありました。君とはこれから長い付き合いになるので自然な話し方で良いですよ」


それが地ではないでしょう、とまたあの良い笑顔で言われた。この時、正直この人にはかなわないだろうと予感した。


「はは、分かったよ。僕は知っての通り錬金術師で、名前は、とりあえず『ナナシ』っていうことで」


「ふふ、『ナナシ』ですか。君は面白いことを言いますね」


一応だけれど名前も決まった。自分なりには真面目に考えたつもりなのだか先輩にとっては笑いを誘うものだったらしい。僕にはネーミングセンスがないのだろうかと、元々持ってもいなかった自信がなくなった気がした。

そして、先輩が差し出した手を握る。


「これから宜しく、カルロイ先輩」


僕はこの握手の意味が信頼となれるように頑張ろうと一つの目標を立てた。


NEXT.

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