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1 - 錬金術師と目覚め

僕は、まだヒトにもなっていない状態で漂っていた。

そこはまるで懐かしい様な、初めてな様な、怖い様な、ワクワクするような、そんな空間だった。

ここで僕は様々な情報が自身の意識に流れ込んで来ては消えていく、常にそんな感覚に襲われていた。最初こそは、自分の意思に関係なく流れ込んで来る膨大な情報にただ気持ちが悪かった。

まあ、今では新しい知識として取り入れるという意味ではこの娯楽も何もない空間の中での唯一の楽しみとなっている。


そして今、"僕"という意識が出来てからどの位の月日が経ったかは分からないけれど、無条件に、不条理に、横暴なまでに流れ込んで来ていた情報が、僕の知識の源が途絶えた。

この空間での僕も、僕の意識が見ていた0と1の世界も消えた。



「ほう、これはこれは」


意識が形として構成されていく途中で聞こえた声は愉快さを含んだ、深く、鼓膜をくすぐられるような男性の声だった。


「あ、…ぁ?」


声を言葉にすることは出来ない。僕の身体はまだ出来上がっていなかったからだ。

まだ、小さな情報の粒子が淡い蒼い光を放ち集まり、形が人間ということが分かる程度しか完成していない。


「ふふ、無理して話さなくて大丈夫ですよ。今は自身の事だけを感じていれば良いのです」


幼い子供に聞かせるような優しく穏やかな声だった。だからなのだろうか、僕は彼の言葉に何の疑いも持たずに意識を全て自身の身体、情報へと向けていた。


時間にして数分、淡い光を発していた粒子はしだいにその輝きを増し、弾けた。そして辺りに光を撒き散らしながら消えていった。

そこで僕は自身の身体の情報が直接、意識へと流れ込んでくる感覚を感じ、そっと目を開いた。


「…ここは」


最初に視界に入ってきた景色はどこか寂れた研究室の様な薄暗い場所だった。

すぐ後ろには人の気配を感じる。ただ、その正体が彼であることは明確であったため驚くことも、警戒することも、ましてや恐怖を感じることもなかった。


「おはよう、そして始めまして新しい参加者君」


僕は後ろを振り向いた。そしてまず驚いたことがある。それは彼の姿が思っていたよりも若かったことだ。まあ、若いとは言っても彼の姿は三十代後半辺りなのだが


「おはようございます。そしてこちらこそ始めまして、先輩」


「先輩、かい?」


その言葉は疑問という形であったが、けっして返事を求めている疑問ではない。人に聞かせる独り言のようなものだった。

僕が彼を先輩と呼んだのは深い意味はなく何となくだ。あえて言葉として表すのならばフィーリングというものなのだろう。


「ふむ」


彼は一息おくと僕の胸辺りに手を伸ばした。僕はその唐突な行動に驚いたが、彼にも、そしてその行為自体にも敵意は感じなかったので抵抗はしなかった。

そして、彼は何時の間にかかけられていたネックレスに触れた。


「君はどうやら錬金術師のようだね。しかも目覚めと同時の覚醒だ」


「覚醒?」


「おや?覚醒の意味を知らないのかな?」


僕はその質問に首を縦にも横にも振ることが出来なかった。

勿論、単語の意味としては知っている。だが、人間に使う言葉としてはあまり一般的ではないものだったので疑問を感じた。

そして、その僕の様子に彼は何かに気がついたようだ。


「なるほど、なら自分の名前は言えるかい?」


「な、まえ?」


名前を聞かれただけなのに何故か身体に衝撃が走った。


「僕の名前は、ない?」


この身体に押し込められた情報を意識が駆け巡り探すが、ヒットしたものは一つもなかった。


「やはりか」


彼と視線が合う


「どうやら半覚醒状態だね。自身以外の情報だけが目覚めた状態か」


「自分以外の情報とはどう言うことですか?」


「ふむ、なら調べてみなさい。いや、先程名前を探す時にその身体に蓄積された情報を全て調べたでしょう?」


「…確かに貴方の「おや、先輩じゃないんですか?」…先輩の言う通りです。僕には僕の情報がない。それと、どうやらこの世界の情報も持っていないようです」


先輩と呼ばれるのが気に入ったのだろうか?


「それはまた…面倒なことになりましたね」


先輩はこちらを見るとオブラートに包む気もないのか、そのまま言葉をぶつけ溜め息をついた。それに対して僕は苦笑いを浮かべる。


「案外酷い人だったんですね」


「誰も優しいなんて言ってはいませんよ。…それよりも早くこの空間を離れましょうか」


なぜ?と理由を聞く前に、身体中に響くような破壊音が答えと共にやって来た。


「そうですね、離れましょう」


音の正体は分からないけれど、先輩の雰囲気からして良いものではないだろう。


そして、僕たちは破壊音を背にこのどこか寂れた研究室・研究所を後にした。



場所は雲一つない青空が広がる草原


「扉一つ抜けただけでこうも景色が変わるんですね」


それは比喩でも何でもない。あの研究所の中に居た時は僕は今が夜だと思っていた。別に薄暗いから夜だと勘違いしたのではない。

実際に研究室の窓から見た景色は夜だったのだ。


「それがこの世界ですからね」


それがこの世界、か


「…僕の情報は偏り過ぎているようです。自分のことも、この世界のことも、何も知らない」


その時、自分の無力さをはっきりと感じた。まるで、知識だけを詰め込みそのチカラの使い方が分からない子供のようだと思った。


「だから、教えて下さい。こも世界のことを」


だが、たとえ無力であっても僕は子供ではない。チカラの使い方を知る方法を知っている。

先輩はゆっくりとした動作で、硬くなっている僕に何でもないかの様に微笑んだ。


「勿論ですよ。そのために私が来たのですから」


その言葉に僕は一つの事実に気がついた。


「つまりは分かっていたのですか?僕が何時・何処で産まれるのかを」


『知っていたのですか?』と言いかけた時だった、僕達の背後で再びあの破壊音が響き渡った。

距離は、そう遠くはない。


「っ!?」


あまりにも突然のことだったので、情けないことに対応どころか声も出すことが出来なかった。


「空間別追跡可能型ですか。これはまた、面倒ですね」


一瞬にして自身の冷静な部分が飛びそうになったが、先輩の落ち着いた様子に何とか平常心を保つことが出来た。

本当に情けないと心の中で自身を叱責して、刹那にだが一息をついた。


「先程の敵ですか?」


「そうですよ。…ちょうど良い、ついでにこの世界の戦い方を教えましょうか」


何故だろう。先輩が今良い意味とは思えない笑みを浮かべた気がする。


「敵との距離はまだ余裕がありますね。では早速ですが、一般的な錬金術師の戦い方を教えますよ。一度で覚えて下さいね」


「…え」


「大丈夫です。私は君になら出来ると確信しています」


先輩は敵が徐々にだが確実に迫っているこの状況の中でかなり良い笑顔を向けて来た。

それに対して僕は引きつった出来損ないの笑顔でしか返すことが出来なかった。

僕も確信しましたよ。先輩の性格は癖が強いということが


「分かりました。元々、教えてくれと頼んだのは僕ですしね」


「宜しい。では、錬金術師ですが彼等にとって最も重要なのは集中力と創造力です。そして情報もそうですが、これは全ての職業において共通のものなので省きます」


「錬金術師ですか、僕の情報にあるかもしれません」


錬金術師・錬金というワードは僕の蓄積された情報の中にある。

だが、はたしてこの情報はこの世界でも通用するのだろうか?


「なら話は早いですね。錬金術師とはこの世界でもきっと君の情報と同じものです。ただ、彼等が錬金する時に対価として使用するモノがこの世界では違います。それは、この世界、私達が見ている木や花などの植物から建物などの無機物そして空気、それ等を構築している粒子、様々な情報が細かく小さくされた粒子を対価としています」


「情報の粒子…」


「そうです。その情報の粒子の中から己が創造しようとしている情報を探し、取り出して形にする、それが錬金術師です。そして今から君にソレをやって貰うのですが、準備は大丈夫ですか?」


一般的に考えて準備なんて出来るはずがない。敵の攻撃範囲を見てもタイムリミットはもう間近だ。そんな短い中で、先輩の説明通りにするならば常人の倍以上の集中力・創造力を必要とする。一般的に考えて無理だ。

だけど、僕には何故か出来ると言う確信があった。

そこで気がついたのだ。先輩は確かに"この世界を構築している粒子"と言ったが、それは"外"にだけ存在するものとは一言も言っていない。僕の中にある情報、"内"にある情報も粒子の一つなのだ。


「大丈夫です。…始めます」


NEXT.

視点とか色々とアレですが気にしないでください。

真面目なようでそうではない文章なので、どうか暖かい目で見てやってください。

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